20歳のシンガーNazが、新曲「7-Knif
e(切)」を通して伝えるもの【SPIC
E×SONAR TRAXコラム vol.10】

ふわりと儚く漂っているようでいて、芯の強い存在感の余韻を残してゆくソウルフルなハスキーボイス。沖縄出身の若きシンガー・Nazによる新曲「7-Knife(切)」(読み:セブンナイフ)が、7月22日にデジタルリリースされる。この7月後半には、J-WAVEがセレクトする“いま聴くべき”NEXT BREAKアーティストの楽曲『SONAR TRACKS』にピックアップされ、オンエアされているところだ。彼女の作品として約1年ぶりとなる、待望のニューリリースである。
2019年夏にリリースされた彼女の1st EP『JUQCY』は、印象深い歌声と高度なポップセンスが融合し、早耳な音楽ファンの間でも語り草になっていた。そもそも、Nazは小学5年生でシンガーの道を志し、13歳のときにリアリティオーディション番組『X FACTOR OKINAWA JAPAN』でクリスティーナ・アギレラの「Something’ s Got a Hold On Me」(オリジナルはエタ・ジェイムス)などを熱唱、独学で培ったというその類稀な表現力で、審査員や観覧者を驚愕させたという経歴を持っている。
ソロデビュー前の2018年、彼女が高校生のときに、Nobowa「My Heatbeat(Belongs To You)」や冨田ラボ「OCEAN feat. Naz」といった作品にゲストボーカルとして招かれ、その後冨田ラボ(冨田恵一)はWONKのメンバーらと並びNazのソロ作にも深く携わることになる。今回の新曲「7-Knife(切)」も、作詞・作曲はNaz、プロデュースは冨田ラボ(冨田恵一)による作品だ。家族の影響もあって幼い頃から洋楽に親しんできたというNazは、現在ではR&Bやエレクトロポップ、オルタナティブまでを見渡す、幅広い音楽性でその歌声を届けている。
全編英語詞で綴られ、ベースミュージック/トラップ以降の深くエモーショナルなポップサウンドを基調にした“7-Knife(切)”の中で、Nazは(いつの日に今が変わるのか分からない/分からない/どこに行ったらいいんだろう/もうすぐに行かないと)と歌っている。このコーラスパートに入るや否や重いベースラインやビートが一瞬かき消され、Nazの歌が宙に舞うアレンジも秀逸だ。楽曲の後半では、キラキラとしたシンセのリフレインと共にビートが強さを増し、歌声を遥か彼方へと連れ去ってゆく。
それは、可能性に満ち、だからこそ未来に迷う、若者らしい心象の描写である。宙ぶらりんなNazの歌声は、不安定だからこその美しさを感じさせるものだ。一方でこの曲は、ただ若者らしい心の痛みを描くだけでなく、例えばウィズコロナ時代を生きる人々の、先行きの見えない不安や焦燥感とも重なって聴こえる。Nazはリリースにあたって「今の切ない日々はいつか思い出となり、誇れる武器となって、必ず幸運がついて来るのだと私は信じています」という言葉を寄せているが、これはミステリアスな楽曲タイトルを裏付ける思いなのかもしれない。
優れた表現には、長い時間をかけて培われた経験も必要だろう。しかし若い感性は、ときに時代に立ち込める感情を敏感に察知し、それを自身の声として放つことがある。幼い頃から称賛されてきた歌声ばかりではなく、20歳のNazが描いた赤裸々な思いは、今を生きる多くの人々の思いとシンクロするだろう。これからの活躍も楽しみなアーティストである。

文=小池宏和

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