星野源 ソロデビュー10年記念配信ラ
イブの完成度、音楽は想像できない未
来に手を伸ばす

Gen Hoshino’ s 10th Anniversary Concert “Gratitude”

2020.7.12 渋谷CLUB QUATTRO
ライブ配信はリアルライブの代替物ではない。ならば、逆手にとって普段、オーディエンスが見られない細部と仕掛けでもって新たな表現/エンターテインメントを作り上げようじゃないか、しかもとびきり面白く――勝手な想像だが、星野源、ソロデビュー10周年を記念した『Gen Hoshino’ s 10th Anniversary Concert “Gratitude”』にはそんな気概が溢れていたように思う。
会場は10年前の同日、ソロとして初のワンマンライブを開催した渋谷CLUB QUATTRO。開場BGMにはバンドメンバー(長岡亮介:Gt、河村“カースケ”智康:Dr、ハマ・オカモト:Ba、石橋英子:Key/Fl、櫻田泰啓:Key、STUTS:MPC、武嶋聡:Sax/Fl)が選曲した星野のレパートリーが流る。定刻になり、映し出されたのはQUATTROのエントランスから楽屋への入り口に折れたところで、後ろ姿の星野が映し出される。ステージに上るアーティスト目線もレアだ。そこでフルアコースティックギターを手にし、マイクに向かって歌い出したのは「Pop Virus」。バンドサウンドが鳴り響くとともに、カメラがメンバーのいるフロアを映す。円形の陣形は昨年のドームライブのいわゆる“2ndステージ”じゃないか! 輪になってお互いの表情を見ながら合奏するバンド、それ自体が表現であることを冒頭から証明。膨大な数のカメラが普段は見られない演奏者の手元まで捉え、効果的なスイッチングで映像作品としての完成度に期待が膨らむ。
星野源 撮影=西槇太一
歓声や拍手の代わりにSTUTSがレゲエホーンを鳴らすのだが、長岡に「レゲエホーン出し係」といじられたり、トークはいつも通り。が、演奏に入るといきなりタイトで息の合ったところを見せるギャップもこのバンドの魅力だ。ブレイクの多い「湯気」や後ろ乗りの「ステップ」での河村のリズムを瓦解させない構築力、情景を広げる武嶋のサックス。時とともに変化するアレンジの妙を味わい尽くす。星野、長岡二人でカッティングを聴かせた「桜の森」に至っては、ライブ音源を購入したい程のクオリティ。
星野源 撮影=西槇太一
中盤にはトム・ミッシュとの共同プロデュース曲「Ain’ t Nobody Know」。洒脱なナンバーだが、例えば《夜が壊れるほど 二人踊った》というフレーズはあらゆる理不尽や怒りすらも超える個人のパワーと二人の絶頂を想起させる。アウトロのギターソロとエフェクティブなキーボードのサウンドのライブアレンジが凄みを増幅していた。さらに最新曲でライブ初披露の「折り合い」はAORテイストのレゲエ調のバンドアレンジが、2020年の世界の潮流ともさりげなくリンクする。
星野源 撮影=西槇太一
最新の楽曲から一転、ソロの超初期の作品「老夫婦」を弾き語りするにあたって、ずっと曲を書き続けていることに驚き、大変さとともにある面白さを語る。この曲の言葉少ない中にある他者と生きていくことや、日々の積み重ねの中にしかない愛おしさ、つまり人生と言っていいだろうこんな曲を、歌うことを始めたばかりの彼が作っていたこと。そこに稀有な表現者としての星野源を見た。そして、世界中にそのムーブメントが広がり、自分自身が最も元気付けられたんじゃないかと語った、「うちで踊ろう」のバンドバージョンを初披露。ポップなバンドサウンドにアレンジされ、《それぞれの場所で重なり合おう》と歌うこのナンバーは2020年を象徴するとともに、まだまだ不安や矛盾を抱えて生きていく私たちの日常に必要だ。
星野源 撮影=西槇太一
さらっと演奏されるどの曲にもそれなりの重みがあるのだが、無邪気に笑える場面も。曲間でのお喋りが定番の「プリン」で、自粛期間にどう過ごしていたのかを喋り合うのだが、河村の初孫誕生トークが止まらない。「かわいくて天使みたいで、この時期に最高のプレゼント」という本心にこちらも感情移入してしまうが、彼が再び演奏をスタートさせる役割なのに再開しなくて大爆笑。最高のバンドメンバーであり、仲間の姿が、オーディエンスである自分にとっても愛しくてたまらない。星野のライブでは毎回、爆笑するけれど、この日、久々に心から笑ったようにも思う。
続けて様々なターニングポイントの中でも、自身のギアが変わったと実感した3曲「SUN」、「恋」、「Same Thing」を続けて披露。「恋」の二胡のフレーズをフルートに置き換えたり、間奏のリフをギター&ベースのユニゾンで盛り上げたり、面白がってアレンジを変えていくメンバーのプレイも一つ一つが見逃せない。特に「Same Thing」は世界の全世代に届いて欲しいと改めて感じた。
星野源 撮影=西槇太一
抜群のカメラワークでライブドキュメントを見ているような満足感と脱線もアリなトークを交えて、あっという間に2時間が経とうとしている時、星野はこの10年について語る。
「世の中は変わって行って、同じ気持ちでいるのは難しいと思うんですけど、違ったなと思ったら変えていくのがいいと思います。中学時代は人間関係よくなくて、吐き出すような曲ばかり作ってましたけど、日々音楽をガッツリ聴いて、自分の中にあって表に出せなかった歌っていうのを10年前ここで出して、そのなかでいい人にもよくない人にも出会ったことも大事で。その中で戦って。ここだとみんなに直接言えるんで、ありがとう」
それは今まで支えたり、関わってくれた人だけでなく、自分を動かす全てに対してなのだろう。バンドでのラストナンバーは、まさに《いつかあなたに出会う未来》を希求する「Hello Song」。8人態勢でもビッグバンド級の迫力とカラフルさを描いたメンバーの力量に感嘆する。曲中、星野は「いつかまた笑顔で会いましょう! 画面でも別にいいじゃん!」とカメラに向かって言った。そう。同じ時代に生きていることを実感することの意義がそこにはあった。
星野源 撮影=西槇太一
メンバーを送り出して、ラストはシングルのカップリング恒例の弾き語りで最新曲「私」。《あの人を殺すより 面白いことをしよう》――今の時期、どうとでも解釈できる歌詞だけれど、静かな怒りすら感じる声色に思いは込められていたのではないだろうか。歌い終わり、カメラのレンズを掌で覆って暗転。その瞬間、ライブ後の高揚というより一編のドキュメント映画を見終えたような重みを感じた。何気なく見えて非常に手の込んだ映像作品。それが星野源なりの感謝の表明だったということだろう。
取材・文=石角友香
撮影=西槇太一
星野源 撮影=西槇太一

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