京都市交響楽団が再始動~活動再開は
メンバーが街のホールを廻る「アウト
リーチコンサート」から

満を持して、京都市交響楽団が動き出した。
京都市のオーケストラらしく、活動再開は地域に根ざした街のホールから市民と共に。
少人数の室内楽コンサートだが、メンバー構成もプログラムも一切妥協がなく、西日本オーケストラの雄に相応しい圧巻の熱演に、聴衆の笑顔が弾けた。
しかし、それ以上に嬉しそうだったのは京響のメンバーたち。終演後、客席に向かって投げかけた笑顔がすべてを物語っていた。
演奏終了後、奏者の満足気な笑顔が印象的。 (c)H.isojima
ソーシャルディスタンスを意識した十分な間隔を取り、マスクの着用はなし。指揮者は置かず、互いのアイコンタクトで演奏は流れていく。
始まりを祝うデュカス作曲「ラ・ペリ」のファンファーレから始まり、シャイト作曲「戦いの組曲」は、名手揃いの金管五重奏による演奏。
金管五重奏による「ラ・ペリ」のファンファーレで開幕! (c)H.isojima
アリュー作曲「木管五重奏曲」は、これまた練達の木管奏者たちによる見事なアンサンブル。
木管奏者は、アリューの木管五重奏曲を演奏。 (c)H.isojima
最後の曲は弦楽五重奏にハープ、フルート、クラリネットが加わり、ラヴェル作曲「序奏とアレグロ」。コンサートマスターの泉原隆志が率いる京響の主要弦楽器奏者たちによる弦楽五重奏は、さすがの安定感。すべての楽器を一人の奏者が演奏しているので緊張感も伝わって来るが、それぞれの楽器の魅力が手に取るようにわかる。
最後は京響主要メンバーで、ラヴェルの「序奏とアレグロ」を演奏。 (c)H.isojima
京響メンバーが街のホールを廻るアウトリーチコンサートと聞いていたので、てっきり「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」のイメージでいたのだが、楽団は本気だった。誰もが知っている馴染みの曲を演奏して喜んでもらおうという安易な発想ではなく、知らない曲でも音楽のチカラを信じ、心を込めて演奏すれば、音楽の魅力は必ず伝わるはずと自信を持って聴衆と向き合う姿勢に、このオーケストラと市民の関係が、一朝一夕に出来たものではない事が見て取れた。
この日の演奏会、客席には常任指揮者兼芸術顧問の広上淳一の姿があった。
広上淳一と言えば、無観客で実施した京響3月定期演奏会を指揮し、その模様が無料で動画配信されたので見た人も多かったのではないか。
観客の入っていない京都コンサートホールに鳴り響いたマーラーの交響曲第4番が実に素晴らしく、「さすが京響!これでまた定期会員増えるだろうな!」と思ったものの、それ以来オーケストラの活動はストップしてしまった。
歓喜に満ちたオーケストラ演奏を聴ける日は近い!(19年3月 第632回定期演奏会)
多くのクラシックファンが一番楽しみにしていたであろう、広上淳一が日本で初めて指揮するブルックナーの交響曲第8番は、延期ではなく中止。
この日の演奏終了後、広上淳一はステージ上からコンマスの泉原隆志と一緒に、聴衆に元気なメッセージを送った。
「皆さま、コロナに屈せず頑張りましょう!」
終演後ステージに上がった広上淳一。彼の人気が衰える事はない。
終演後会見があり、広上淳一とコンマス泉原隆志、そして演奏事業部長の上野喜浩に話を聞いた。
―― 今日の演奏会をお聴きになられていかがでしたか。
広上淳一 いいですね。こういうスタイルの演奏会を企画して、市民の生活の中に私たちがどんどん入り込んで行けばいいんです。どこでも出来る。改まった大きな会場など必要ない。私たちが出前のような形で出向いて行き、皆さんと喜びを共有していけば、いつか必ず大きなコミュニティとなって帰って来ると思います。今日は感動しました。
我々が市民の生活の中にどんどん入り込んで行けばいい! (c)H.isojima
―― 非常事態宣言発令中はどうしておられたのですか?
広上 ちょうどそのタイミングで母親の調子が悪くなって、色々と家の事に追われていました。普段なら絶対に出来なかったと思うので、そういう意味では良かったです。
―― しばらくはソーシャルディスタンスを意識した楽器配置や、小編成のオーケストラとしてやって行くことになるかもしれませんが、その事はいかがですか。
広上 全く問題ありません。音が出せて、演奏する喜びを実感できる。その上、お客様にも喜んで頂けて。これはもう感謝しかありません。
「命が有って良かった!」と同じレベルで、「音楽が有って良かった!」「演奏出来て良かった!」を実感する事が出来ました。原点に戻れたと言うのでしょうか、変な言い方ですが、コロナに学ばせてもらっている。そこに気付けたことを感謝します。
―― 泉原さん、アウトリーチコンサートは5回予定されていて今日は2回目でした。どんな感想をお持ちですか。
泉原隆志 一昨日は、とにかく久し振りに仲間と生で演奏出来たことが幸せでした。今日は演奏会の感覚が戻って来るというか、適度に緊張感も感じ、「ああこうだったな!」というような気持ちで弾いていました。オーケストラは室内楽の形が大きくなったものだと私は思っているので、オーケストラのコンサートマスターとしては、今日はオーケストラ演奏のトレーニングにも繋がりました。コロナの感染や豪雨災害など、悩ましい世の中ですが、会場が癒しの場になればいいなと思っています。
会場が癒しの場になればいいなと思っています。 (c)H.isojima
―― 演奏会は再開出来たとしても、客席数の1/3~半分位までと入場制限が有って、チケット収入には多きな影響が予想されます。演奏出来る喜びの次には、たちまち経済の問題がやって来る訳で。今、オーケストラは何をすべきでしょうか? 最近流行りの動画配信は新たなビジネスになると思われますか。
上野喜浩 演奏事業部長 今日はアウトリーチコンサートでした。普通なら、今日のコンサートで感動されたお客様がコンサートホールにお越しになり、定期会員になっていただきたい。そういう事を考えるのですが、今、やるべき事はどんなカタチでも、とにかく市民の皆さまに京響の音楽に触れて頂ける機会を多く作る事だと思います。その上で新たに動画配信がビジネスになるのだったら、やれば良いと思います。
市民が京響の音楽と触れ合う場を沢山作って行きたい! (c)H.isojima
広上 京響は京都市のオーケストラという事も有って、経済的にはある程度恵まれていますが、私達の仲間は多くの飲食店などと同じで、ギリギリの状態でやっている楽団も多いです。私は、もちろん京響のシェフですから京響ファーストですが、音楽家として日本のオーケストラは絶対に守らないといけないと思っています。一つでもオーケストラが潰れるような事があれば、日本の文化の危機だと思います。もちろんこれは、歌舞伎でも演劇でも同じ。文化を軽んじる国家は洋の東西を問わず、必ず歴史的にも滅びる。それは、なにも文化だけを何とかして欲しいと言っているのではなく、困っている人達を、垣根を越えて助け合っていく気持ちをどれだけ国家がメンタリティとして持てるか。ここは勝負になって来ると思います。
文化を軽んじる国は必ず亡びるのです! (c)H.isojima
―― 京響の定期演奏会ですが入場制限の関係でしょうか、7月定期は2公演が3公演に、8月定期は1公演が3公演になると発表されました。
上野 京都コンサートホールは現状、客席数の1/3にあたる600人しか入場できません。7月の定期演奏会に来場予定の定期会員は1400人おられます。2回では1200人しか入れず、200人溢れてしまいます。また、座席の振り替え問題も出て来るので、余裕を持って3公演行うことにしました。京響ではS席の方はS席で、A席の方はA席のエリア内で新たに席決めをさせて頂いています。同時にいろんな問題を考慮して、最良と考えるプログラムに変更させて頂きました。
―― 1回の定期演奏会を3公演やるとなると、会場使用料や人件費、手間暇なども大変ですね。奏者としても1日2公演をこなさないといけなくなりますが、泉原さん、大変じゃないですか。
泉原 私達は演奏したくても出来ない状態を知っているので、お客様が喜んで頂けるのなら何だってやりますよ。1日2公演でも全然大丈夫です(笑)。
音楽が有って良かった!と云う事を、コロナが学ばせてくれた(笑)。 (c)H.isojima
―― 次回、広上さんの指揮する京響の本番は、7月末の「みんなのコンサート」の “親子で一緒にオーケストラ” です。
広上 今日のように、皆さんの元に出向いて行く演奏会です。子供たちの笑顔に出会えるのが楽しみです。感染者はここに来てまた増えているようですが、どんな形になっても音楽を続ける、活動を続けていく事が大事だと思います。オーケストラはいつか必ず合体しますから、それまではお客様も色々なスタイルを楽しんで頂ければ良いんじゃないでしょうか。一つ言えるのは、コロナがいくら私達を止めようとしても、私達は止まらないという事。決してコロナに屈することなく、頑張って行きましょう。
―― 今シーズンのラインナップの中でも、ファンの皆さまが特に楽しみにされていたのが、広上さんの指揮するブルックナー交響曲第8番だと思います。残念ながら延期ではなく中止となってしまいました。
広上 ゆっくりやりましょう(笑)。またやりますから。
ブルックナーの8番はいずれ必ずやりますから! (c)H.isojima

京都市民と “共に響き合う” 事を掲げて活動して来た京響が活動再開に選んだのは、京響メンバーが京都市内の5つの文化会館を廻る「アウトリーチコンサート」という名の少人数の室内楽コンサート。
オーケストラとしての活動は7月25日と26日に開催する第647回定期演奏会だ。指揮者パスカル・ロフェを秋山和慶に、曲目もフランス音楽を秋山の得意とするロシア音楽に替えて、80分の休憩なしプログラムとして開催。
京響の快進撃が始まる予感がする。
音楽できる喜びをコロナに教えて貰ったと語る広上淳一。同時にコロナが私達を止めようとしても、私達は止まらないとも語る。
演奏出来る事が当たり前ではない事に気付き、感謝の気持ちが強く芽生えた京響の今後の活動に注目したい。
これからも京都市交響楽団をよろしくお願いします! (C)井上写真事務所 井上嘉和
取材・文=磯島浩彰

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