劇団赤鬼、挑戦と感謝に溢れた初の配
信公演『EDIH CU AHINO』ーー「楽し
い」を25年間発信し続けてきた劇団の
底力

劇団赤鬼無観客配信公演『EDIH CU AHINO(エディチュアヒーノ)』2020.07.10(FRI)〜12(SUN)神戸ライブハウス・チキンジョージ
7月10日(金)〜12日(日)、神戸の劇団赤鬼が、ライブハウス・チキンジョージにて無観客配信公演『EDIH CU AHINO (エディ チュ アヒーノ)』を行った。
本公演は、神戸でエンタメを発信し続け、40周年を迎えたチキンジョージと、25周年を迎えた劇団赤鬼がタッグを組み、ライブハウスと演劇の垣根を超え「急激に変化せざるを得ない今だからこそできる新しい取り組み」として行われたもの。元々通常の公演をチキンジョージで行う予定であったが、コロナ禍でやむを得ず通常公演の中止を決定。しかし、劇団赤鬼は会場をキャンセルせず、この場所で配信公演を行うと決断し開催した。舞台美術もチキンジョージにあるものを組み合わせてセッティングするなど、まさにここでしか出来ない演出がふんだんに盛り込まれた公演となった。
この公演に際し、SPICEではインタビューと対談という形で取材を敢行したが、話を訊いたすべての人に共通していたのは「ライブにしても演劇にしても生で行う公演が一番」という想い。その想いを強く持つ人間が集まり本気で行った「配信公演」という領域。結果として「生は超えられないが生の魅力、人同士の”血の通い”を少しでも感じてもらえたら」という言葉通り、今回の配信公演は、生に負けず劣らず観劇後の充実感や、感動や笑いで胸が躍る瞬間は多分にあった。そんな公演の千秋楽の模様をレポートしよう。
撮影:堀川高志(kutowansstudio)
朝、目覚める一人の男・高本春太郎(岡本拓朗)。どうやら寝坊し会社に遅刻してしまった様子。言い訳を考えながら、急いで支度を済ませ、外に出ようとするが、扉が開かない。窓ガラスを割って出ようとするも割れない。電話も繋がらず、テレビもラジオも付かない。しかし、Wi-Fiを使った電子機器だけは使用できるため、パソコンやLINEを使用しての通話は使用可能。さらに、飲食宅配サービスが来るタイミングだけ扉が開くという不思議な状況が、高本の自宅だけでなく、全国的に発生していることをネットニュースで知る。強制的に全国の住人が監禁状態となってしまっているようなのだ。
撮影:堀川高志(kutowansstudio)
当初は途方にくれていたが、開き直り監禁状態を満喫する高本の前に、突然、ジョージと名乗る赤鬼(行澤孝)と、チキンと名乗るニワトリ(上西絵莉奈)が現れ「人間が人間らしさを失うとき、世の中は滅びていく」と告げる。そして「鬼の姿が見えると言うことは、あなたの滅びも近いのかも知れない」と衝撃の事実を伝えられる高本。自宅から出られない事態を受け入れ始めた途端、世界が滅ぶという話を聞かされパニックに陥るなか、いつか同僚が話していた「かつてニワトリに乗った赤鬼が世界を救った」という話を思い出す。果たして本当に世界は滅んでしまうのか、そして高本は自宅から出ることはできるのかーー。というのがこの物語のあらすじである。
登場人物は全員が個性豊か。岡本拓朗扮する主人公の高本は、ひとり暮らしの中年サラリーマン。満員電車に揺られ通勤し、仕事終わりに趣味の音楽を聴き、終電までお酒を飲むという日々を送る。ふとした瞬間にごく自然に発するオヤジギャグも相まって、どこにでも居るような平凡で等身大な人物。
強烈なインパクトを放つ行澤扮する赤鬼・ジョージは、鬼でありながら飄々とした人間味溢れるキャラクター。おどけるシーンでは全力で舞台上を賑やかにし、シリアスなシーンでは物語をグッと引き締める緩急をつける役割を担う。また、ジョージの相方とも言える上西扮するニワトリ・チキンは、底抜けに明るくハイテンションで、声のトーンやキュートな仕草込みで舞台上を明るくするムードメーカー。
撮影:堀川高志(kutowansstudio)
山口尋美が扮する世の中を監禁状態に貶めた今作の悪役である黒鬼・エバは、悪の風格もさることながら、登場シーンで魅せる独壇場では「これなんのシーンだっけ?」と考えさせられるほどの暴れっぷりを堪能出来る。
他にも、高本の恋人で会社の同僚でもある久保晴美(橋爪未萠里)、出張先(?)で監禁状態になってしまった部長の原田(原敏一)、考古学を元に現状を分析する同僚の志村保(竹田聡支)、宅配サービスが機能していることを発見した、食事が大好きな後輩の太田智子(大月菜々)など会社メンバーに、なぜか外を出歩ける宅配サービスの配達員(下村和寿)など、物語が進むうちに、すべての人物が物語の中心に関わってくる。
撮影:堀川高志(kutowansstudio)
このオンライン公演、登場人物や物語の入りやすさはもちろんのこと、特筆すべきは、オンライン公演ならではの演出。まるでリモート会議のような画角の映像を事前収録し、それをテレビ番組のワイプのように重ねて、舞台上の役者と会話を行う。収録映像には、限られた画角であることを活用した遊びが仕込まれているうえに、配信画面上に重ねることによって、隠れてしまう部分を巧みに活用しており、生の舞台では実現が難しいようなテンポやスピード感を生みだしているのだ。
撮影:堀川高志(kutowansstudio)
また、舞台上で物語が進むうちに、様々なアングルで舞台が捉えられるよう、数台のカメラが用意されていることにも気づく。舞台の上下中央はもちろん、真横から捉えるカメラもあり、普段の公演では絶対に観ることが出来ないアングルで視聴することが出来る。また、ズームアップ、フェードイン、フェードアウトなどもリアルタイムで行われ、計算されたカメラワークを実感する場面も。しかし計算されているからといって映画を観ているような感覚があるわけではなく、生の舞台を観ている時に感じる熱量や緊張感は確実にそこにあり、感情が昂ぶるシーンでは心を掴まれる。
今作のテーマとしてあげられるのは、「外出自粛、リモート通話、飲食宅配サービス」など、コロナ禍の情勢を反映させたものをはじめ、「欲望」という人間の闇の部分も大きく関わってくる。冒頭でジョージが話していた「人間が人間らしさを失う」とは、そういった人の闇や欲に負けてしまうことで、人間は鬼と化してしまうということを意味しているのだった。
撮影:堀川高志(kutowansstudio)
どこかで耳にしたことのあるような、身近な「人間の闇」がテーマとして取り上げられていることで、どこか別の世界の出来事とは思えなくなってきた終盤。同僚たちが隠していた闇や欲の部分に漬けこまれ、次々に鬼と化してしまうなか、窮地に立った高本が心情を叫ぶ。平凡なサラリーマンである彼が、涙ながらに「人間は誰しも自分勝手、だけど醜いところをさらけ出して、それをお互い認め合い、助け合うことで人らしさを得る」と、自分のこれまでの行いを省みつつ全体に訴えかけるシーンは、セリフを通じて観ているこちらにまで問いかけられている気がして、胸を打たれる。
高本の心からの叫びによって「人間の変化」を目の当たりにし、黒鬼はどこか期待を込めた表情で退散する。世界の混乱は無事収まったのだ。そうして日常に戻ったラストシーン、冒頭のように遅刻ギリギリで目覚める高本の足元には、同僚のシムラにいつか話してもらった、世界を救う古代の呪文「EDIH CU AHINO」と書かれたメモが。そのメモを見て、呪文を反対から読むと「鬼は内で(ONI HA UCHIDE)」となることに気づく。そう、鬼に唯一対抗できるのは「人間の内なる心の強さ」だったのだ。
撮影:堀川高志(kutowansstudio)
高本は仕事に向かうため、扉に手をかけ、開く。外の世界を久しぶりに見た高本の顔はどこか清々しく、その目は希望に溢れていた。
高本がこの物語上で経験したことは、非現実なようであるが、現実に投影しても共感できる部分は多い。彼の最後の訴え、「思いやりを持って人らしく生きよう」というメッセージは、劇団赤鬼が、酸いも甘いも様々なことを経験してきた25年間を経て、今の世の中に一番伝えたい想いでもあるように感じた。
配信画面(第二部)
第一部の演劇パートが終了すると、行澤の合図とともに閉じられていたコメント欄が開放された。すると「新しいお芝居のカタチ! 素敵でした!」「これで500円は安すぎる!」「初赤鬼、この企画だからこそ観ることができました」など、視聴していた方々のコメントがどどっと流れ込む。公演の余韻や感想が目で見えるコメントとして流れる様子を見ると、オンライン公演の醍醐味を改めて実感する。行澤がどんどん流れる視聴者からのコメントに返答している間に舞台上はライブ仕様にセットチェンジ。
3日間、日替わりでゲストを迎えてのライブコーナー、千秋楽の12日(日)の回は、過去にも、劇団赤鬼2018Xmas公演 『BLANK〜PERRYを待ちながら』という公演でもコラボレーションを行い、赤鬼と同じく今年で活動25周年を迎えた、和太鼓奏者の木村優一のパフォーマンス。
掛け声とともに大きな太鼓の音が鳴り響くと、そこは、先程までお芝居が行われていた場所と同じには思えないほど、荘厳な空気に包まれる。PCのスピーカーからでも伝わる低音の振動は熱気を含んでおり、聴いていると太鼓の音とともに鼓動も早まり、同時に体温が上がっていくのを感じるほど。
配信画面(第二部)
さらに「(太鼓を)叩く姿をこのアングルで観られるのは映像ならではですね」とコメントにもあったように、基本的に正面に背中を向けて太鼓を演奏する木村を、正面からはもちろん、別のカメラでは至近距離で、演奏中の表情や滴る汗を捉えており、普段では味わうことの出来ない、オンラインならではの臨場感を体験できた。時間にして10分弱であったが、呼吸をするのを忘れるほどのエネルギッシュな演奏を、最前列以上の距離感で観れる非常に贅沢な時間であった。
一部、二部を通して2時間半ほどの配信となったが、不思議と疲労感はなく、リラックスして観れていたことに終演後に気づいた。振り返ってみれば、お芝居を見ながら舞台上で起こることに「なんでや!」とツッコミを入れていたように思う。観劇しながら声を出して参加する。これも劇場では絶対に出来ない体験であり、オンライン公演の醍醐味だと思う。
また、本配信公演は500円という低価格販売されている。金額設定に関して、川浪は以前のインタビューで、劇団赤鬼が立ち上げ当初から掲げる「敷居は低く、間口は広く」という想いを表した金額設定で、老若男女に観てもらえるようにしたと語ってくれた。更に、今公演ではこれまで協賛として参加していた企業への恩返しとして、クラウドファンディングを設定し、各企業へバックできる仕組みを実施。お芝居本編中や、転換中のトークコーナーでも宣伝は欠かさない。このように劇団赤鬼の神戸に対する愛は計り知れない。(神戸愛に関しては、先日公開となった対談で語っていただいております)
集合写真(公演初日)
劇団赤鬼とライブハウス・チキンジョージ、神戸のエンタメを牽引する2大タッグが、世の中に提示した新しいチャレンジ、無観客配信公演『EDIH CU AHINO(エディ チュ アヒーノ)』。神戸の街で、長年エンタメを発信し続け、数え切れない人々に感動を与えてきた両者の底力は伊達じゃない。これまでのようにライブや演劇をライブハウスや、劇場で思い切り楽しめるようになるのはまだ先になるのかもしれないが、新しい可能性を見出し続ける限り、エンターテインメントの灯は消えることはない、そう感じさせる公演であった。
文=城本悠太 撮影=堀川高志(kutowansstudio)

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