吉田美奈子の名作中の名作
『FLAPPER』は
日本が誇る世界に誇るべき
有形文化遺産だ

サウンドと拮抗するヴォーカル力

さてさて、ここまで『FLAPPER』のサウンド面を解説し、ヴォーカリストのアルバムとは思えないほどだと形容したが、本作の最も特筆すべきは、そのサウンドと拮抗、もしくは凌駕するような歌が聴けるところだと思う。これだけバラエティーな楽曲が並ぶと、若干ヴォーカルパートが埋没するようなこともあるだろうし、前述した大貫妙子&山下達郎ようなコーラスが入ればそれも止むなしとなってもおかしくないかもしれないが、歌がどれもこれもしっかりと楽曲の芯となっている。ちゃんとヴォーカリストのアルバムなのである。

まず、それが分かりやすいのはM2「かたおもい」だろうか。矢野顕子作曲のナンバーで、と言うことは、矢野顕子らしい独特のメロディーラインなのだが、「かたおもい」はそれとはまた別のニュアンスが確実に出ていると思う。個人的にはどこかセクシーな印象がある。ただ、ずっとそうではなく、時折セクシーな表情が垣間見えるといった感じだ。それが楽曲全体に特有の高揚感を生んで、文字通りの“片思い”感を醸し出している気がする

M3「朝は君に」でのアウトロのギターはすごい迫力だと前述したけども、そこにヴォーカルが絡んでいるのだから、これもまた半端じゃない。そもそも「朝は君に」はかなりパンチの効いたソウルフルな歌声が聴けるのだが、そのテンションが尻上がりに上がっていき、ギターとタイマンを張っている──比喩は上手くないけれども、その歌声が決してサウンドに負けてないことは分かってほしい。それが、これもまたソウルフルなファンクM4「ケッペキにいさん」につながっていくのだから、さらにテンションが上がっていく感じ。かと思えば、オールドスタイルなM5「ラムはお好き?」ではシャレオツなヴォーカリゼーションを見せつつ、そのアウトロではしっかりとシャウトを効かせていたり、M6「夢で逢えたら」やM8「忘れかけてた季節へ」では、さりげなく下品にならない程度に“しゃくり”や“こぶし”を入れたりと、縦横無尽のヴォーカルパフォーマンスを見せる。それを貫禄を呼ぶと本人は否定するかもしれないが、ジャケ写の映るウインクする彼女の姿を見ると、只者ならぬ余裕を感じられるのは筆者だけではあるまい。

TEXT:帆苅智之

アルバム『FLAPPER』1976年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.愛は彼方
    • 2.かたおもい
    • 3.朝は君に
    • 4.ケッペキにいさん
    • 5.ラムはお好き?
    • 6.夢で逢えたら
    • 7.チョッカイ
    • 8.忘れかけてた季節へ
    • 9.ラスト・ステップ
    • 10.永遠に
『FLAPPER』('76)/吉田美奈子

OKMusic編集部

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