木村拓哉『Go with the Flow』収録曲
から魅力に迫る、音・声から生き様

<『Go with the Flow』収録曲コラム第3弾>

 木村拓哉にとって初のワンマンライブとなった『TAKUYA KIMURA Live Tour 2020 Go with the Flow』が映像化され、6月24日に発売された。同ライブでは、稲葉浩志森山直太朗ら豪華ミュージシャンが制作にかかわったアルバム『Go with the Flow』が引っ提げられた。「流れに乗って前に進む」という共通テーマが設けられたライブ、そしてアルバム。その収録曲にフォーカスすることで“歌手・木村拓哉”の今に迫りたい。前回は本作3曲目の「I wanna say I love you」を主題に挙げた。今回は「NEW START」、「ローリングストーン」、「Speaking to world」の3曲について触れてみたい。

「NEW START」

作詞:いしわたり淳治、作曲:水野良樹、編曲:TAKAROT

 ドキッとさせられる尖ったギターの導入から木村のボーカルが“道なき未知”へと疾走する。「NEW START」のストレートかつポップなロックサウンドは、アルバム2曲目「One and Only」でも感じられるように、木村の男らしいボーカルを存分に感じることができる。直球の音作りのギターサウンドと華々しいブラスアレンジは、木村の声と、木村自身と相性がピッタリだ。

 それは、彼自身がそういった人物だからではないかと考えられる。「普遍的なギターのサウンドのカッコよさ」は木村のビジュアル、スタイルとマッチするし、作曲を手掛けたいきものがかりの水野良樹によるポップな楽曲展開は、ドラマやバラエティーシーンで木村がみせる「老若男女に受け入れられるポップさ」とマッチする。そして、TAKAROTによる煌びやかなブラスアレンジは、木村の華のある存在感を一層際立たせている。

 楽曲面を紐解くと、伴奏を担う「コード進行」はJ-POP寄りというより、比較的海外のロックアプローチのテイストだ。しかし、各所のリズムの“キメ”が聴き手に広く受け入れやすいタイミングで施され、楽曲全体を聴きやすくさせているという特徴が見られる。

 作詞を手掛けたいしわたり淳治の歌詞に注目すると、どこまでも前向きな<さあ ここがNew Start! 君もNew Star! Go Now! 道なき未知を>という歌詞の一節、<時代を変えろ>というフレーズなど、頼もしく背中を押してくれる言葉がダイレクトに心に響く。

 そして、<Do do da da da・Do do da da da da>というリズミックなコーラスが絶妙に絡み、ストレートに「キムタクにそう言ってほしい」という期待に応えてくれるような、前向きでエネルギッシュなパワーを放っている。「One and Only」でも感じられるような華々しく男らしい、“歌手・木村拓哉”のこれからの“NEW START”という生き様を感じることができる。

「ローリングストーン」

作詞:御徒町凧、作曲:森山直太朗、編曲:小名川高弘

 ザ・ローリング・ストーンズを彷彿とさせるタイトルから「ストレートなロックンロールかな?」と思いきや、耳を包み込んでくるのは牧歌的なアコースティックバラードだ。<転がる石のように>という歌詞の一節から、あくまで憶測だが、「Like a Rolling Stone(転がる石のように)」という代表曲を持つボブ・ディランをモチーフとしたのかもしれない。真相はコンポーザー陣と木村のみぞ知る領域だろうが、楽曲のフォーキーな雰囲気はタイトルとベストマッチだ。

 「ローリングストーン」では、木村の歌声の生命力と力強さが胸に響く。木村の歌声には、人間の情に訴える成分が多分に含まれているように感じられる。アルバムのなかでも、アップテンポな楽曲もそうだが、こういったフォーキーな楽曲からもそれを感じさせるのは、キムタクのボーカリストとしての懐の深さがうかがえる。

 また、1番で聴ける純朴な雰囲気でそのまま進行する楽曲と感じさせつつも、1番のサビ明けからは、ドラムやオルガンやコーラス、グロッケンなどのパートが徐々に増えていき、右肩上がりにアンサンブルも木村のボーカルも盛り上がっていく点に、この楽曲の最たる魅力を感じる。そして締めはアコースティックギターと木村のボーカルでしっとりと着地する後味のよさ――、生命力とダイナミズムがみなぎる味わい深いこの楽曲は、この先、木村が発表する音楽が重ねられた後、1stアルバムの“隠れた名曲”という存在になるのではないかと感じさてくれる。

「Speaking to world」

作詞:前田甘露、作曲:Fredrik “Figge” Bostrom、佐原康太、編曲:佐原康太

 ここまで生音のアレンジが多かった本作だが、アルバム中盤でエレクトロアプローチを挟む。バラエティ豊かなアプローチと、“アルバム感”という流れを感じられる点は、CDアルバムに親しんできた世代にとっては嬉しいところだ。

 また、7曲目「ローリングストーン」終盤の柔らかい空気感から、この「Speaking to world」の清涼感あふれるサウンドに繋がれる流れもメリハリが感じられてクールだ。仮にアナログ盤で、7曲目までが「A面」、8曲目からが「B面」とした場合、「Speaking to world」はB面初曲にふさわしい、フレッシュなスタート感のインパクトがある。思わず、木村がステップを踏みながら歌う姿が脳内再生される。

 ロックな曲調、跳ねのビートの楽曲、バラードチューンでも、そして、こういった比較的キチッとしたリズムの楽曲にもフレキシブルに対応する木村のボーカリストとしての柔軟性と対応力は、SMAPの活動から俳優、バラエティーなど、幅広く活躍する彼のエンターティナーとしてのレンジの広さが歌手として表れているのではないだろうか。

 木村の魅力を存分に味わえる本作。アルバム中盤までの各曲に触れたが、いかがだったろうか。『Go with the Flow』中盤以降も、「流れに乗って前に進む」という共通テーマの“One and Onlyの歌手・木村拓哉”の魅力があふれんばかりに詰まっている。木村の“NEW START”が、初期衝動を感じさせる歌として、サウンドとして、存分に表わされている。【平吉賢治】

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