全国初、コロナ禍での野外有観客イベ
ント『たとえばボクが踊ったら、 pr
esents Chillax』開催ーー曇り空の隙
間から太陽が覗く自然の演出も生の醍
醐味

『たとえばボクが踊ったら、presents Chillax』2020.6.28(SUN)@服部緑地野外音楽堂
「早く生ライブ見たい! できれば野外で! そんな皆様に速報です! 大阪府における感染拡大防止に向けた取り組みを遵守し安全を確保し今月末、イチ早く野外で開催します!(してみます!) 」というメッセージが『たとえばボクが踊ったら、』のHPに現れたのは6月17日。イベント名は『たとえばボクが踊ったら、presents Chillax』。開催は6月28日(日)。告知からたった10日後だった。告知当日の19時にチケットが販売開始。大阪府の感染拡大防止ガイドラインに乗っとった上での有観客ライブということで、会場の服部緑地野外音楽堂のキャパ1,700人に対し、チケットは限定200枚。配信はなし。値段は4,600円、1ドリンク+ハンドジェル付という形で販売された。6月頭に開催が決まり、告知、チケット発売と、決定から開催当日まで1ヶ月未満。ものすごいスピードで準備が進められたのだ。
『たとえばボクが踊ったら、』は、2016年9月に「関西で魅力的なキモチいいフェスをしたい」という想いのもと、大阪・服部緑地野外音楽堂でスタートした、関西のコンサートプロモーター夢番地主催のイベント。新型コロナウイルスの影響で今まで当たり前だったライブができなくなり、夏の大型フェス開催中止の報せも舞い込む中、ライブハウスやイベンターは「この先一体どうすればよいのか」と頭を抱えたはずだ。そして夢番地がたどり着いた「ひとまずやってみよう」という答え。
様々なライブの在り方が模索される段階で、今回の決断はどれほどの勇気が必要だったろうか。根底にあったのはきっと「とにかく生でライブが見たい!」「何としても開催したい」という熱い想いだろう。その気持ちが今回も協力会社含め、人を動かした。そして、何としても安心安全を確保しなければならないシビアな状況で開催することができたのは、「お客さんがいかに気持ち良く過ごせるか」に気を配れる主催者側の細やかさがあるからだと思う(主催者の想いは前回のインタビューやライブレポを是非読んでほしい)。『Chillax』とは「Chill」と「Relax」を足した造語。出演者はMichael Kaneko、jizue、そしてDJにTAKU a.k.a K-CITY PRINCE from韻シスト。厳重な感染予防対策のもとで花開いた、新たなスタートの日をレポートしよう。
『たとえばボクが踊ったら、presents Chillax』
梅雨独特のじめっとした湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。天気は曇り。緑に囲まれた服部緑地公園では、マスクをした親子連れやカップルがキャッチボールやスケートボードを楽しんでいた。13時の開場を前に、入場口にはオープンを待つ人が。過去の『たとえばボクが踊ったら、』のTシャツを着ている人もちらほら。主催者の想いに応えたミュージックラバーが集まった。いつもなら良い意味で緩い雰囲気の本イベントだが、やはり今回は、どこか少しピリついた空気も感じる。
『たとえばボクが踊ったら、presents Chillax』
この日はとにかく万全の感染対策が施された。しっかりとソーシャルディスタンスを保った待機列を作り、並んでもらう(1mごとに設置されたPOPは手作り)。入場フローはこうだ。
『たとえばボクが踊ったら、presents Chillax』
まず、入場者全員が「大阪府コロナ追跡システム」と「夢番地ご来場者登録フォーム」への登録を行う。これは万が一感染者が発生した場合、登録者に通知が届き、行動変容を促すとともに、クラスター発生を早期発見できることで感染拡大を防ぐことができる仕組み。
『たとえばボクが踊ったら、presents Chillax』
そして、1人ずつ検温ブースにて非接触式体温計で検温〜追跡システムと来場者フォームの登録確認〜フット式のアルコール消毒(ドラムのハイハットスタンドを利用したもの!)〜来場者自らがチケットをもぎる、係員との接触なしのチケット確認〜ハンドジェル&ドリンク受け取りという一連の流れ。通常よりは時間がかかるが、これも感染を防ぐため。
『たとえばボクが踊ったら、presents Chillax』
会場に入ると、座席の両隣2席分に黄色いテープが張られている様子が目に飛び込んできた。ソーシャルディスタンスを保つため、人が座る席の前後左右が空席となるように配慮されていた。
『たとえばボクが踊ったら、presents Chillax』
友人や家族であっても2席分の距離を空ける。そしていつもなら自由席だが、今回は指定席。入場した人は各自座席を確認して座っていく。最前列の柵にもテープが張られ、ステージ前のフロアに入れないようになっていた。少し寂しくもあるが、仕方ない。
今回はフードブースはなしで、入り口にあるドリンクブースのみ。ステージにはバンドセットとDJセット。上からはイベントロゴの幕が吊られ、風に揺れている。モノクロカラーのシンプルな色合いだ。
TAKU a.k.a K-CITY PRINCE from韻シスト
開場から20分ほどでTAKUが登場。「皆さん楽しむ準備できてますか? ライブが始まるまでゆっくり楽しんでいってください」とDJをスタート。レゲエ中心のセレクトで、ゆらゆらと心地良い時間を創りだす。どこか緊張感のあった会場の空気がゆるみ、観客同士が2席向こうから乾杯する様子も見られた。
夢番地・大野氏
そして主催者・夢番地の大野氏がステージに登場。「我々4ヶ月ぶりの仕事でして、本当に楽しみにしておりました。今日は記念すべき全国で初めての野外イベントとなっていますので、本当に感謝しております。いろんな制限があって大変だとは思いますが、これからゆっくり来年に向けてしっかり人が増やしていけるようにしたい。まずは今日の1回目、楽しんでもらいたいと思います」と挨拶。そしていよいよライブがスタート。Michael Kanekoがステージへ呼び込まれる。
Michael Kaneko
アコギ片手にサングラス姿で登場したMichael Kaneko。大きな拍手で迎えられる。のびやかなアコギの音が会場を満たしていく。1曲目は「When We Were Young」。観客からは「待ってました!」というポジティブな空気。ときおり蝶々やトンボが目の前を通り過ぎていくのも野外の良さを感じる。
そしてエレキギターに持ち替え「Circles」へ。サンプラーも操りながら美しい声を響かせる。Michael Kaneko自身も2ヶ月ぶりのライブ。「いやあ、いいですねライブ。楽し〜! やっとお客さんの前で弾けて、めちゃくちゃ気持ち良いです」と満面の笑みで喜びを口にする。コロナ期間は「最初の2ヶ月はずっと家にいて、1人でインスタライブしながら家で飲んでいました」と話し、8月に1stフルアルバムがリリースになることをアナウンス。これには観客も大喜び。

Michael Kaneko

MCを経て「It Takes Two」からライブに戻る。やはり生演奏は音の純度が高い。暑くなってきた日差しや風とともに、生音を感じられるのが野外の醍醐味でもある。ステージとのやり取りを楽しみながら、オーディエンスは思い思いに音に身を任せる。
数曲を披露したところでjizueの片木希依(Pf)が呼び込まれる。「マイキー久しぶり〜!」と笑顔の片木とともに「Separate Seasons」を2人で披露。アコギに高音の鍵盤が重なることで、音にまろやかさを足され、Michael Kanekoの歌声を引き立てる。途中のセッションは最高にカッコ良く、当日に打ち合わせをしたとは思えないほど息がぴったりだった。
Michael Kaneko
片木が去り、最後に「Lost In This City」をプレイ。「めちゃくちゃ楽しかった! お客さんが目の前にいて反応があるのが1番嬉しい!」と心からの笑顔。演奏が終わると1番大きな拍手で見送られた。
2度目のTAKUのDJがスタート……というところで、ポツ、と手の甲に水の気配が。空を見上げるとパラパラと雨が降り始めた。「これは本格的に降るのかな」と思っていたら、主催者の大野氏が登場。「もうすぐ雨が降る予報になっております。おそらくjizueのライブまでには止む予定なので、それまでいい具合に遊んでおいてもらえたらと思います」と、芝生席を傘の使用OKに、雨具の用意がないオーディエンスのためにステージ後ろの屋根つき客席を開放。勿論、ソーシャルディスタンスは遵守、スタッフがテキパキと座席に誘導していた。大野氏の素早い判断と計らいにより、雨が強まる前にほとんど全員が雨の当たらない場所に避難することができた。さすが、土砂降りと台風に見舞われた過去をもつ本イベントである(昨年は快晴!)。
TAKU a.k.a K-CITY PRINCE from韻シスト
オーディエンスがほとんど目の前の席からいなくなってしまい、1人ステージに残されたTAKUは「僕が曲始めたらびっくりするぐらい降り始めて、びっくりしてますけども(笑)。引き続き楽しんでいきましょう!」と、R&BやHIPHOPの要素もありつつ、4月にリリースした韻シストのアルバム『RAIN』からも曲をプレイ。雨を眺めながらゆったりした時間を過ごしていた。
さきほどの言葉通り、さっきまでの雨が嘘のように晴れ渡る。続いてはライブが去年の11月以来、実に7ヶ月ぶりだというjizue。今回はサポートドラムにfox capture planの井上司を迎えての編成。メンバーも「やったるぞー!」と気合十分で「思い思いに、いい感じに楽しんでってください! よろしくお願いします!」と片木。
jizue
のっけから「grass」「trip」を立て続けにドロップ、一気に会場のテンションを上げ、迫力のある4人の生音を浴びる客席の喜びと、メンバーの音を放てる喜びが化学反応を起こして会場を包み込んでいく。続いて「atom」、「green lake」を披露。雨上がりの空気にぴったりの、瑞々しくてゆったりとした曲で会場をクールダウン。美しいピアノの旋律に湖の情景を思い浮かべる。そして変速・変拍子が特徴的な「swallow」へ。加速するビートとグルーヴは健在。演奏が7ヶ月ぶりとは思えない、jizueの魅力に会場全体が惹き込まれる。
途中、MCでギターの井上は、バンドが制作期間だったことから「正直ライブ決まって、個人的にやったー! 感はあまりなかったんです。でも久々にライブ映像を見ながら曲を練習したら、歓声に鳥肌立って号泣してしまって。俺、何よりもライブを求めててんなと思いました」と語った。
jizue
続いて片木が「イベンターの皆さんにとっても、今日ここに足を運んでくださったお客さんも多分すごく勇気がいったことじゃないかなと思う。こうして新しい音楽の一歩を踏み出せて本当に幸せだと思ってます。ありがとうございます」と述べると、山田(Ba.)が「夢番地は10年来ずっとお世話になっているイベンターさんで、信頼関係があるから僕らも出演できた。普段のライブはもっと賑やか。距離をとられて、安心安全の意味でもマスクの着用、大声を抑えて、そのルールの中で盛り上がってくださってる姿にグッときました。ありがとうございます」と、感謝の気持ちをそれぞれ語った。
最後に「rosso」を披露。これまで着席で見ていたオーディエンスが一斉に立ち上がる。10年以上のキャリアから放たれる音の厚みと演奏力の高さに大興奮。演奏が終わると大歓声に包まれた。
『たとえばボクが踊ったら、 presents Chillax』
アンコールは出演者全員でエリック・クラプトンの「Change The World」をプレイ。ロマンチックなラブソングだが、タイトルからはどこか今の状況にも通じるような気がしてしまう。セッションにはTAKUもギターで参加。Michael Kanekoのアコギがリードして曲が始まると、今まで曇っていた空の隙間から太陽が顔を出した。まるで今日の新しいスタートの日を祝福しているかのようだ。
『たとえばボクが踊ったら、 presents Chillax』
この、時折起こる神がかった自然の演出は、本当に生でしか体験することができない。これにはメンバーも感動した様子で、全員最高の笑顔を浮かべていた。セッションでは全員のソロパートをたっぷりと披露(なんと15分あったらしい)。単純に音楽って素晴らしい、と心から思わされた。客席からの大きな大きな拍手を受けて、ライブは大団円で幕を閉じた。
最後に大野氏が「今日は本当にありがとうございました! またどんどんライブをやっていきたいと思います。感染予防対策はダスキンレントオールさんの全面協力で、今後フェスもやっていただこうと思います!」と、挨拶。ゆっくりと拓ける有人観客ライブの第一歩。まさに、ここからスタート。夢番地の英断に心から賛辞を贈りたい。
『たとえばボクが踊ったら、 presents Chillax』
取材・文=ERIKUBOTA 撮影=渡邉一生

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