ENBUゼミナールのシネマプロジェクト
による最新作 映画『河童の女』 辻
野正樹×青野竜平×郷田明希インタビ
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映画『河童の女』が、2020年7月11日(土)より新宿K's cinema、7月18日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次ロードショーされる。本作は、大ヒットを記録し社会現象となった『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)などを輩出しているENBUゼミナール「シネマプロジェクト」の最新作で、監督は本作が長編映画デビューとなる辻野正樹。ワークショップオーディションで選ばれたキャストと、舞台・映像と幅広く活躍する近藤芳正をゲスト俳優に迎えて、民宿「川波」で働く青年(青野竜平)と、ひょんなことから民宿に住み込みで働くことになった女性(郷田明希)を中心に展開する今作について、監督の辻野、主演の青野と郷田の3人に話を聞いた。
《あらすじ》
柴田浩二(青野竜平)は、川辺の民宿で生まれ、今もそこで働きながら暮らしている。ある日、社長である父親(近藤芳正)が、見知らぬ女と出て行った。浩二は一人で民宿を続ける事となり、途方に暮れる。そんな中、東京から家出してきたという女(郷田明希)が現れ、住み込みで働く事に。美穂と名乗るその女に浩二は惹かれ、誰にも話した事の無い少年時代の河童にまつわる出来事を語る。このままずっと二人で民宿を続けていきたいと思う浩二だったが、美穂にはそれが出来ない理由があった。
音楽や演劇をやってきた経験が今作に結び付いた
――今作は、恋愛、ミステリー、コメディ、アクションなどといった様々な要素がバランスよく盛り込まれている作品だと思いました。そのあたり監督はどのように意識されていたのでしょうか。
辻野 意識的にいろんなものを混ぜようというつもりではやっていないですね。ただ、僕は今までもコメディ要素のある作品をずっとやってきて、それもほのぼのとしたコメディではなくてちょっと緊張感が漂っていて、何か事件が起きたり、どこか重たいものをユーモアを交えて描く、という感じがなんとなく自分の作風なのかなと思っています。今回も全体的にコメディタッチなんですが、やっぱり人間の重い部分とか悲しい部分とかも含まれていますね。
映画『河童の女』 辻野正樹
――辻野さんは映画監督になる以前には、ミュージシャンを目指されたり、劇団を旗揚げして演劇活動をされたりして来ました。今回長編映画デビューされるにあたり、これまでの経験がどのように活かされたと感じていらっしゃいますか。
辻野 僕は20代の時には音楽をずっとやっていたんですけど30歳ぐらいで挫折して、そこから脚本を書き始めて、主に演劇の活動をやっていました。さっき言った、ユーモアがあるんだけどちょっと毒みたいな要素もあって緊張感があったりする作風というのは、演劇をやっていく中で出来上がった自分のスタイルで、僕は今回が長編映画デビューですが、そこまでにたくさんの作品を作って積み上げてきたからこういうスタイルになったと思います。あと、今回の映画で音楽を担当してくださった桜井芳樹さんは僕の音楽活動時代にレコーディングに参加してくださった方なんです。その頃から映画音楽に対して「こういうものがいいな」という自分なりの思いがあったので、音楽をやっていた経験があるから今作の音楽に結びついたというのはあると思います。桜井さんとディスカッションして一緒に音楽を作っていくという作業は久しぶりだったので楽しかったですよ。
400人以上の応募者の中から2人を選んだ決め手とは?
――主演のお2人をオーディションで選んだ決め手のようなものは何かあったのでしょうか。
辻野 まず16人の俳優をオーディションで選びました。役によっては後から当て書きして膨らませて作っていったものもあるんですが、青野くん演じる浩二と郷田さん演じる美穂は最初の台本から主人公としてあった役なので、この役にはまる役者さんを探していました。青野くんは舞台を経験しているし芝居がしっかりしていたので、あとはもう持っている雰囲気で選びました。真面目に見えて多分すごい不器用なんだろうな、というイメージが湧いてきて、そこが役にはまるだろうなと思いましたね。郷田さんは、最初の台本では若い女の人の役が美穂しかいなかったんです。だからオーディションで若い女優さんは美穂の候補として選んでいくという感じでした。最初の書類審査で400人以上の応募が来たので、まずは写真とプロフィールだけ見て選んでいくしかなくて、その中で郷田さんは芝居の経験も少なかったですし、僕が抱いていた美穂のイメージはロングヘアだったので、ショートヘアの郷田さんはちょっと違うかなという感じがありました。でもこの人はなんか気になるな、と思って書類審査で選んで、オーディションで実際に会ってみたら、ロングヘアの人たちの中で逆に目立っていて、声も低くてちょっと異質で印象に残ったというのと、あとは郷田さんのエモーショナルな芝居がこの役に合うんじゃないかなと感じて、そうしたらもう郷田さん以外考えられなくなったんですよね。
映画『河童の女』(c)ENBUゼミナール
――青野さんと郷田さんは今回オーディションで選ばれたとき、まずどのような感想を抱かれましたか。
青野 このオーディションに応募するときに、監督が舞台出身でコメディをやっていたというのを知って、僕も舞台でコメディをやっているので、それもあって応募したところもありました。今の監督のお話しを聞いて、同じ舞台畑出身の方にそのように評価してもらえたのはとても嬉しいですね。
辻野 最初にオーディションで16人を選んだ段階では、誰がどの役というのを決めていなかったんです。その16人でワークショップを3回やって、その最終日に役を発表しました。
青野 16人の中に選ばれてこの作品に参加できることがまず嬉しかったので、どんな役でも精一杯努めようともちろん思っていましたが、最初の台本の中で年齢的に自分に合う役がかなり限られていたので、その中だと浩二役をやりたいな、という思いもちょっとあってワークショップに参加していました。だから、浩二に決まったときは正直嬉しかったですね。
映画『河童の女』 青野竜平
郷田 監督から「(オーディションのとき)他の人とは違う雰囲気でどこか野生っぽさを感じた」と言われました。「それは褒めてるのかな?」と不思議な気持ちになったんですけど(笑)。でも自分でも「ちょっと野生っぽい」と思うときもあるので、そういうところを見抜いてくれたのかな、と思います。私も青野さんと一緒で、オーディションに応募したときから、どんなに小さな役でもいいと思っていたので、美穂役に決まったときはすごく嬉しかったですけど、自分が美穂役になるとは全然想像していませんでした。多分全然キャラが違うな、と思っていたので。
舞台となった民宿「川波」の良さに助けられた
――物語の舞台となった民宿の「川波」ですが、埼玉県飯能市に実在する民宿なんですよね。周辺のロケーションも含めて非常に魅力的な場所だと思いました。川波について、何か特に印象に残っていることはありますか。
辻野 川波は本当に素晴らしかったですね。映画のオープニングシーンって非常に大事だと思っているんですが、実は撮影直前までオープニングをどうするかイメージがいまいち固まっていなかったんです。でも最初のシーンで川波の場所の面白さも含めて「こういう場所ですよ」というのを見せたいなと思いました。出来上がったオープニングは、ロビーで浩二のお父さん(近藤芳正)が爪を切っているところから始まって、次に浩二が厨房で料理をしていて、そこからバーベキュー場を通ってロビーに向かって、その後奥の部屋に行って窓のカーテンを開けるんですけど、そうすると窓から川が見えるっていうのがすごく良いんですよ。このシーンは特に川波の良さに助けられたなと思います。
映画『河童の女』(c)ENBUゼミナール
青野 クライマックスのシーンで出演者がほぼ全員集まってあの川の中で撮影したことが一番印象に残っています。川底の苔がすごくて歩くのが大変だったりとか、そういうことも含めて楽しかったんですが、撮影中に天気が変わったせいで途中からすごく寒くなってしまって、そうしたら休憩中に川波の方がお風呂を沸かしてくださったんです。川で濡れてしまった衣裳を脱いでお風呂に入って温まって、また撮影に臨むことができました。
郷田 私は泳ぎが苦手なんですけど、頭まで川の中に浸からなければいけないシーンがあったんです。そのときに寒さとかプレッシャーとかでちょっと具合が悪くなってしまって、休憩中に川波のロビーで一人で休んでいたら、川波はお父さんとお母さんと娘さんの3人で経営されているんですが、娘さんがそっと近づいてきて「大丈夫?無理しないでね」と優しい言葉をかけてくれたんです。それが本当に嬉しくて、私は何を甘えているんだろう、頑張ろう、とすごく気合いが入りました。
映画『河童の女』(c)ENBUゼミナール
改めて思う「映画」と「舞台」の違い
――監督はかつて劇団で活動されていましたし、青野さんも郷田さんもこれまで舞台を中心に活動されてきました。今作で改めて、何か映画と舞台の違いを感じることはありましたか。
辻野 撮影の時に限られた時間の中で判断しなきゃいけないというのが映画の大変なところなんですよね。だから舞台はお客さんの前で公演して見せている時のライブだと思うんですけど、映画は撮影しているときがライブみたいだな、と思いました。
映画『河童の女』(c)ENBUゼミナール
青野 舞台はある程度稽古期間があって、共演者と試行錯誤していく中で本番に向けて作っていくんですけど、映画はその場の瞬発力というか、監督が求めているものを超えていいものを出すための集中力が必要だなと思いました。完成した今作を見て思ったんですけど、あのシーンはちょっとうまくいかなかったんじゃないか、と思っていたところが映像で見てみたら意外に良かったりとか、逆に撮影のときはいい感じだったと思っていたところが映像で見るとなんとなく自分のイメージしていた感じとは違ったりとか、それが映画の面白い部分ですね。
郷田 舞台だと一回始まったら最後まで止まらずに行くけど、映画だと最初のシーンから順番に撮っていくわけではないので、これから撮るシーンの時系列とか、何が起きた後のシーンだということを理解してやらなきゃいけないというのがすごく難しいですね。あとは違う目線で撮るから同じ会話を二回するとか、そういうところも全然違いますし、でも言い方を変えれば舞台みたいに一回で終わりじゃないから、さっきちょっとダメだったな、と思っても次で切り替えてやれるという良さもあるなと思いました。
映画『河童の女』 郷田明希
――では最後に作品を楽しみにしている皆様へのメッセージをお願いします。
辻野 新型コロナウィルスの影響で長い自粛期間があって、映画を映画館で見られなかったのが僕自身すごくつらかったので、この作品を映画館で見て、ああ映画って本当に楽しいな、と思ってもらえたらいいですね。見た後に前向きになれるような感じの映画にはなったんじゃないかなと思いますので、ぜひ見て欲しいです。
青野 今こういう時期で、いろいろ大変な思いとかを抱えながら日々生きている中で、この映画もそういう思いみたいなものを抱えながら生きている人たちの群像劇だと思います。そういう人たちを応援するようなところもあるし、純粋に難しいこと抜きで楽しめる映画にもなっていると思うので、見てくださった方にとって息抜きになる作品になれたらなと思っています。
郷田 個性豊かな登場人物たちがいて、みんな変で完璧じゃなくて、でもそれでもいいんだよ、とそのまま受け入れてくれるような優しさがある作品だと思います。自分はこれでいいのかな、と思っている人にも、ぜひ見て頂ければと思います。
映画『河童の女』 写真左から青野竜平、辻野正樹、郷田明希

取材・文・撮影=久田絢子

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