Lucky Kilimanjaro 「エモい夏」では
なく「エモめの夏」――心の内で踊ら
せるバンドの真骨頂【SPICE×SONAR
TRAX コラム vol.8】

緊急事態宣言の最中、「家」と「心の内」というダブルミーニングが込められた星野源の「うちで踊ろう」がSNSを通じてジワジワと広がっていくのを見ながら、僕はLucky Kilimanjaroの「HOUSE」を思い出していた。
「ハウスミュージック」=「家ミュージック」という発想から生まれた〈BPM125〉の〈部屋で踊るダンスミュージック〉である「HOUSE」は、フロアで一体感を作り出すだけではなく、聴き手一人ひとりの何気ない日常に、山あり谷ありの人生に、心躍る瞬間を届けようとするバンドの姿勢を象徴する一曲であり、「うちで踊ろう」ともリンクする部分が確かにあったように思う(ちなみに、バンド編成でアレンジされた「うちで踊ろう(Potluck Mix)」のBPMも大体125くらい)。一時期は〈ためてた漫画にひたる SpotifyからLK NETFLIXでこもる〉という歌詞を地で行くような生活を送っていた人も多かったのでは。
5月に配信され、〈来たる夏を想うよ/未来は消えてないよ〉と歌った「光はわたしのなか」に続くニューシングル「エモめの夏」も、実にLKらしい一曲だ。「エモめ」という言葉が示す通り、アゲアゲのテンションというわけではなく、ファンクベースの引っ張るBPM115のダンストラックはほどよくチルな雰囲気も。コーラス前のブレイクや、DE DE MOUSEを連想させる間奏の声ネタ使いなど、印象的なアレンジを散りばめながら、それを2分半のポップソングに仕上げる熊木幸丸の職人的なセンスは今作でも光っている。
一方、歌詞では〈もう戻れない/ここはもう譲れない/あぁもう!落ち着かない〉と、嘘みたいな恋に落ちてしまった主人公の心の内を描いていて、もし彼らがロックバンドであれば、タイトルはストレートに「エモい夏」だったかもしれない。しかし、そこを「エモめの夏」とするあたりが、リスナーとしてはロックバンドを通過しつつ、その後にエレクトロポップを表現手段として選んだ、熊木らしい温度感の表れであるように思う。
“エモい”という言葉が現代の若者の世代意識を象徴する言葉になったのは、90年代育ちの自分からするとかなり不思議に感じる。そもそも「EMOTIONAL=感情的」が語源ではあるものの、かつての“EMO”は音楽のジャンルを表す言葉で、90年代のオルタナティブロック/ハードコアの発展形として、00年前後に最盛期を迎えた激情型のバンドに対し、僕らはかつて“エモい”という言葉を使っていた(一時期はポストロックとも並列されるジャンルだったことは、toeのようなバンドのライブを連想してもらえればわかるはず)。
それから20年近い年月が経ち、文脈が抜き取られ、若者言葉となったのは、“エモい”という語感のキャッチーさに加え、「SNSで何でも自由に発信できる」と言われる現代において、実際には発信したくてもできない多くの若者たちの心の内で、吐き出したくても吐き出せない感情がマグマのように煮えたぎっていることの反映だろう。そして、それをライトに表すために最適だったのが、“エモい”という言葉だったのではないかと思う。
Lucky Kilimanjaroというバンドは、2010年代における海外のトレンドだったエレクトロハウスやディスコファンクをフロア映えするエレクトロポップに昇華すると同時に、この“エモさ”を内包するバンドだったからこそ、多くのリスナーからの支持を得たのだと言える。それは「HOUSE」にしてもそうだし、〈良いから踊ろう 思いの向くまま/好きな自分を諦めたくないな〉と歌う「ひとりの夜を抜け」にしてもそうで、その真骨頂とも言うべきが「エモめの夏」なのである。フィルターを用いてジワジワと高揚感を生み出し、〈誰がなんと言おうと うるせぇで片がつく/今日からEasy and Go/愛してんぜ この夏を!〉と、心の内に秘めた「エモさ」を爆発させる瞬間は、この曲のハイライトだ。
3月にメジャーファーストアルバム『!magination』をリリースして、今年の夏はたくさんのフェスでオーディエンスを踊らせていたであろうことを思えば、Lucky Kilimanjaroにとっても今年の夏は何とも言葉にし難い、かなりエモめの夏になるだろう。しかし、彼らの楽曲は物理的に同じ空間をシェアしなくても、一人の夜を踊らせる力を間違いなく持っている。そんな夜をいくつも駆け抜けたその先で、たくさんのオーディエンスともう一度同じ空間をシェアしたとき、そこにはきっと新たな景色が浮かび上がるはずだ。

文=金子厚武

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