柳家三三が落語会『月例 三三独演』
を生配信 混じりっけなしの話芸で二
席を披露

柳家三三が2020年6月12日(金)に落語の独演会『月例 三三独演 ライブ配信』をオンラインで開催し、イープラス「Streaming+」で配信した。三三にとって初めての有料配信であり、後日手書きプログラムが届くという特典付きのスペシャル企画だ。多くのファンが視聴を楽しんだライブ配信をレポートする。
この日披露したのは、「転宅」と「笠碁」の2席。開始時間5分ほど前に、メールで届いた視聴用URLをクリックし、イープラスのパスワードとIDでログインすると、待機画面が表示された。BGMには生演奏の寄席太鼓がなっていた。
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
■お妾さんと盗人の「転宅」
一席目、三三は狸や狐、そして泥棒の話は縁起がいいとマクラをふり「転宅」へ。
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
お妾のお菊が旦那をもてなし、長屋の外までお見送りする。家に戻ると、盗人があがりこみ、食べ物に手をつけていた。盗人は食べ物に喉をつまらせながらお菊にスゴむが、盗人の間抜けさを見抜いたお菊は、落ち着いた様子で話をはぐらかしはじめる。さらに「私を女房にしておくれでないかい?」と言い寄ると、盗人は鼻の下をのばし、その申し出をうけるのだった……。
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
三三は、お菊の抜け目のなさと色っぽさを、眉毛の上下でコミカルに描く。その色仕掛けが下品にならず、可笑しさのベースに艶があるのは、三三の端正な言葉つきと身のこなしがあるからこそ。一方、盗人はまぬけで愚直。お菊との約束にうっとりしたり涙ぐんだり喜んだりと人間味に溢れている。幸せの絶頂でお菊にはめられていく姿は少し不憫でもあったが、やはり悪いのは泥棒の方。たっぷりと笑わされた。
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
■いち早く落語のオンライン配信へ
一席目の冒頭、三三は「高座にあがりお辞儀をしても拍手がならない光景に、すっかり慣れてしまいました」と笑った。三三が落語のライブ配信をしたのは今年の3月13日(金)、当初は『第156回 月例三三』がイイノホールで催される日だった。
『月例三三』は、二つ目時代の2005年5月から続く自主公演で、チケットは即日完売の人気の落語会だ。政府の要請により、劇場やホールでの公演中止の知らせが相次ぐ中、3月11日(水)に、156回目の『月例三三』も中止が知らされた。その知らせの数分後、YouTubeでのライブ配信が告知された。
いまでこそ若手からトップクラスまで、多くの噺家がオンラインで落語を配信している。しかし3月13日(金)時点では、多忙を極める第一線の人気落語家が、なかでも古風な生活をしていそうな柳家三三がYouTubeライブだなんて、想像もしなかった。
これをきっかけに三三は、さらりとオンラインに乗り出した。人が集まることを避けてほしいという要請に真摯に向き合い、最小限のスタッフと手作り感のある設えで、アーカイブは残さないスタイルのYouTubeチャンネル「三三のおすそわけ」で粛々と配信を重ねた。STAYHOMEを強いられる落語ファンたちに、3カ月にわたりリアルタイムの落語を届けつづけた。そんな三三がようやく試みた有料配信が、今回の『月例 三三独演 ライブ配信』だった。「自筆のハガキが届く」という、温かみある特典に手作り感がのこっており、なんとも三三らしい。
三三さんの手元にあるのが特典のハガキの見本 主催より提供
6月12日のライブ配信は、生演奏のお囃子ではじまった。その音の良さだけでもハッとさせられた。黒い背景のなか、緋色の高座と紫色の座布団が美しく照らされる、セット、ライティング、均整のとれたカメラのフレーミングまで、一切の無駄がない。YouTubeでは制限のある中でのミニマムな環境だったが、今回は、そぎ落とした結果のミニマムさだ。落語に集中しやすい環境が整っていた。色物さんとして、寄席囃子の長澤あやが季節の唄(端唄『潮来出島』、『からかさ』)を演奏。たおやかな空気を作り、独演会を二席目へとつないだ。
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
■大人げない大人の大喧嘩『笠碁』
2席目は『笠碁』。大店のご隠居さん二人は、幼なじみで囲碁仲間。碁会所に行くほどは強くなく、いつもふたりで碁を楽しんでいる。ある日「待った」をするしないで、もめはじめる。一人は子どもの頃からわがままで、もう一人は子どもの頃からの強情。待ってくれたら……待ちません!の攻防に、昔のお金の貸し借りの話まで引っぱり出して、喧嘩は大きくなるばかり。ついに「金輪際あなたと碁は打ちません!」、「その方が助かる。二度と迎えをよこさないでくれ!」と絶交してしまう。場面かわって、喧嘩中のそれぞれの家。長雨が続く中、お互いにとって唯一の碁敵を失ったふたりは、退屈でたまらず……。
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
前半は、いい大人の子供じみた喧嘩を、はやし立てるような心持ちで楽しんだ。しかし後半、三三が描くご隠居ふたりに愛らしさが加わると、「はやく仲直りしなよ!」と応援する気持ちにさせられる。
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
強情なご隠居が"偶然通りかかる"作戦を思いついた辺りから、三三は笑いのペースを加速させる。奥さんに「買い物」と言い伏せられてしまうクダリはグルーヴィーであり、笑いどころでもある。それでも作戦の成功を信じて疑わないご隠居のウキウキは、見るものの心も弾む。当時の感覚でもクラシカルな菅笠に両肩をおさめる身振りや、“さりげなく”目線を向けるイメトレでは、動きとビジュアルで笑いをとる。

『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
『月例 三三独演 ライブ配信』 主催より提供
待つ側のご隠居さんも退屈すぎてお小言を言ったり、菅笠姿の旧友の往復に一喜一憂したり、羊羹や碁盤をスタンバイしたり、喜怒哀楽を絡めて大忙しだ。三三は耳、目、心で楽しませ、笑いをつなぎ、ツンデレおじいちゃん二人のすれ違いを、じらすだけじらして盛り上げる。ついに敷居をまたぎ「水入らずでいきましょう!」でオチた時は、湧き上がる拍手喝采と追い出し太鼓が聞こえた気がして、迷わずディスプレイに拍手をおくった。同じ思いをした視聴者はたくさんいたはず。画面ごしの笑いと拍手が、全国から三三に届いたことを願うばかりだ。

次回7月16日(木)『月例三三 独演』
演者が1人、座布団の範囲内で表現できるという点で、落語は、他の多くの舞台表現よりもオンラインで配信しやすいコンテンツだ。演じる側の負担は計り知れないが、それを乗り越え、いまでは追いかけきれないほどの落語がオンライン配信されている。システム面だけでなく、観客の有無や(無観客でも)視線の置きば、スタッフの笑い声の有無など、演出面でも演者ごとに試行錯誤が見られ、時代が動いているのを感じられる時期でもある。
6月12日(金)の三三は、観客を入れず、スタッフの笑い声、背景、カメラのスイッチング、なんなら諸注意のアナウンス(色紙に筆文字で代用)も入れず、全国に笑いと温かさを届けた。たしかな話芸がなくては成立しないストイックなスタイルを成功させ、寄席ともホール落語とも劇場中継とも異なる、まじりっけなしの落語を楽しむ機会となった。
落語は生に限る。それはいうまでもない。しかし座席数に制限があり、全国にファンがいることを考えると、オンライン配信が今後の選択肢の一つとして残ることを期待したい。
7月16日(木)の『月例三三』も、オンラインで配信される予定だ。次回はOP・ED曲として、クロマニヨンズのギタリスト、真島昌利によるオリジナル楽曲も加わるのだとか。スペシャル感の増す『月例 三三オンライン配信』を7月も楽しみに待ちたい。

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