キタニタツヤ 細部までこだわった演
出・映像・パフォーマンスで魅了した
、初の生配信ライブ『Hug myself(i
nside)』をレポート

キタニタツヤ『Hug myself(inside)』

2020.6.26 渋谷CLUB QUATTRO
決して当初のスライドや代用ではなく、「配信ライブならでは」の認識の下、よりキタニタツヤの表現力や魅力、それらが深部や細部までも楽しめた一夜にまずは感謝したい。
会場全体を余すところなく利用し、登場導線、配信環境ならではの映える舞台演出や照明類、より集中力高く接することを前提にした細心の音響、SNSを通し視聴者との交流やライブへの参加等々……まさにこの日のライブは、無観客が故に実現し、遊べ、各曲がより力強く我々を抱きしめてくれるのを感じた。
キタニタツヤが初の無観客配信ライブ『Hug myself(inside)』を6月26日に行った。場所は、当初自身最大規模のワンマンを行う予定だった渋谷クラブクアトロ。コロナ禍でのリアルライブの中止の折り、急遽この事態ならではの趣向へと舵を切った。とはいえ、それらは当初のプランから刷新され、無観客ながらこの場所をどう使い、どのように自身を最大限に身近に伝えるか?が大変思慮されている内容に至った。結果それらはきっとリアルライブでは味わえなかったであろう光景やストーリーへと我々を辿り着かせてくれるものがあった。
この日は配信開始の1時間前。会場の楽屋からYouTubeで生配信された『キタニタツヤを解放せよ(outside)』を通し、視聴者とのチャットを使った交流も実施。「これまで以上に綿密なリハだった」と語るキタニ、佐藤ユウスケ(Dr)、秋好ゆうき(Gt)。ライブへの期待が更に膨らむ。他にもここでは視聴者からライブに挑む心境や気構え、メンバーへの質問やライブの楽しみ方の享受等々がリラックスした雰囲気のなか行われた。なかでも地方在住の為や年齢が低く、また毎度チケットが即完が故等、物理的にこれまでキタニのライブが体験できず、これが初体験だと語る喜びや感謝の数々も印象深い。
キタニタツヤ
開始定刻。「Stoned Child」のイントロループの登場SEの中、映し出されたキタニが居たのは会場の喫煙ルーム。通常はお客さんがたばこを吸う場所だ。そこから普段はお客さんの導線である5F会場へ。しかしそれ以上に驚いたのは入ってからであった。後方扉から入り正面のステージへ……と思いきや、そのまま秋好、佐藤が既にスタンバイしていたフロアへ向かう。そう、この日はいわゆるフロアライブの体を中心にライブは展開された。これまでメンバー各位が外側を向き描いていたトライアングルが、この日はみなが顔を見合わせるように内側に向けて。曲はそのまま「Stoned Child」へ。マイクスタンドをグッと掴み握り、そのわりには気楽な感じでキタニが歌い始める。続く「悪魔の踊り方」ではハンドマイクに持ち替え、たゆたうように歌うキタニがまるでサバトへと誘うようにグイグイと画面へとを惹き込みにかかる。
スリリングな曲は続く。「きっとこの命に意味は無かった」では、秋好のスモールクローンを活かしたギターと佐藤のリズムキープしつつも、アクセントたっぷりのドラムがオルタナな雰囲気を広げていく。メンバーの外側に配された大きな各色の蛍光灯が同曲の有した不穏さを更に増していく。
キタニタツヤ
キタニの背後に彼のシンボルマークが現れると、神々しい白色を基調としたバックのライトが「I DO NOT LOVE YOU.」と共にリスナーに向けて、この自分の悲しみや憎しみや苦しみに寄り添って共有して傍らに居て欲しいと心の手を伸ばす。プリセットしたコーラスも奥深さとふくよかさを与えた同曲。対してウェットなトーンの「花の香」ではトロピカルな音色にトラップミュージックが夏のこの時期同様、ややねっとりとした雰囲気をもって身体に絡みついてくる。ここでは明るいコーラスが柔らかく優しく、その歌われる情景的であり心情的な歌をさらに可視化させてくれた。
これらのように従来のリアルライブ以上に、自身以外の楽器や音、コーラスやハーモニーもよりくっきりと細部まで楽しめた。彼の楽曲の「実はかなり複雑で様々な趣向が凝らされている」そのメカニズムもよりダイレクトに感受でき、耳をより集中させて楽しむべく配慮のようにも感じた。
「夢遊病者は此岸にて」では、背後のシンボルもカラフルに輝き出し、ライトも多彩さを帯びていく。せっかく手に入れた光を手放さないと強く告げた際には、力強く頷く多くの視聴者の光景が浮かんだ。
ここでMC。「歌い終える毎のノーリアクションに早くも配信ライブの洗礼を受けた(笑)。ライブ中はコメントも見えないから不安(笑)」とキタニ。「こんな状況だからこそ新しいタイプのライブを楽しんでもらいたい」と心意を告げライブに戻る。
キタニタツヤ
中盤はキタニもベースを手にし、彼のベースプレイも際立つ曲が続いた。キタニのベースソロから秋好のギターソロへとリレーも印象深い「芥の部屋は錆色に沈む」がオルタナでスリリング、それでいてのダンサブルさで観る者を惹き込めば、インストSE「Yomi」を挟み、「君が夜の海に還るまで」は、LEDバーの檻の中、愛しい人の身体を朽ちていくのをぼんやりと眺め歌っているかのような、しばしの別れと再会の誓いが春の情景や雅やかさを通し歌を通し告げられる。また、海繋がりにしてこれまた春の訪れや桜の樹の下を感じさせる「波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。」の際には視聴者共々ライブがストレートに走り出していくのを見た。
キタニが視界から消える。ここからはランプや花瓶や花も配された同会場内の別部屋的なシチュエーションにて数曲が贈られた。ここではキタニの歌の上手さと声の深さを楽しむことができ、ソフトフォーカスやムーブしながらのカメラワークもこのような時ならではと感じた。
まずはキタニが椅子に座りアコギを用い、そして秋好の箱ものギターのウォームな爪弾きと共に贈られた「君のつづき」が優しく寄り添うように歌われ、「輪郭」ではキタニは変わらず座りながら歌うも、秋好と佐藤はフロア定位置にてプレイ。その際には上から一条の光の如く照らすライトと、それらに包まれていくかのような神々しい演出もたまらなかった。
キタニタツヤ
告知タイムの際には、8月26日にニューアルバム『DEMAGOG』がリリースされ、10月からは初の全国ワンマンツアーを行うとの発表が。その際は歓喜のレスもマックスを記録した。
ここで初めてステージにキタニが上がる。スクリーンをバックに自身をも通し映される各MVの中、「トリガーハッピー」ではロック的ダイナミズムと雄々しい呼応性と共に広がり、「Sad Girl」では、歌われる疎外感や空白感、満たされない感じがどこか「そんな奴らここに集え」と歌われているようにことさら響いた。
ラストスパートはライブ配信後にMVがプレミア公開された新曲「ハイドアンドシーク」を一足先に披露。かくれんぼをテーマに、適度な上昇観とスリリングさとブラックの要素を交えた楽曲であった。そして、最後に披露されたのは「クラブ・アンリアリティ」。同曲では事前に募っていた無数の感想のつぶやきがリンクして投影され、それらと歌うキタニとでライブが共創されていく様を見た。
キタニタツヤ
キタニタツヤ
ライブは終了もアンコールは無し。その後、再び場はYouTubeへと移り、視聴者の感想を交え、この日のライブが振り返られ、22時には前述の新曲「ハイドアンドシーク」のMV初公開をみなが共に楽しんだ。
この日の元々のライブタイトルは『Hug myself』。対バンライブの『Hugs』を、あえて単独で行うに際し、「自分VS自分」の意味も込めてつけたと過去のインタビューでキタニから訊いた。そういった意味では画面越しに視聴者が居ながらも、きっとリアル以上にHug myselfを感じ、逆に人恋しさや居るべき人、放つべき人への愛しさや尊さを感じながらのライブになったとも見受けられる。
振り返るとキタニの歌はHug myselfなものが多い気がする。諦念や疎外、孤独や自傷、だけどその向こうに確実に感じる人恋しさや愛を求めている自分。ひとりぼっちながら他の同種の人たちが映り、それが自身にも重なり、結果とてつもなく愛しく尊く感じる歌たち。そこに多くの人が共感し、彼のライブや作品に集い、同じ気持ちを分かち合ってきた。それは配信ライブだったとはいえ、この日も然りであった。
結果、演者も観者も各位一人をより味わう分、自身をギュっと愛しく抱きしめながら視聴した感もある、この日の配信ライブ。これからもキタニの歌は、作品に、ライブに、ひとりぼっちのあなたをギュっとハグしてくれる。そして、その抱きしめる力は今後ますます力強くなっていくことだろう。抱きしめられたら最後、もう逃げだせない。その魅力や魅惑、今後もご注意あれ。

文=池田スカオ和宏 撮影=後藤壮太郎

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