阪本順治監督

阪本順治監督

【インタビュー】映画『一度も撃って
ません』阪本順治監督「こういう時代
だからこそ石橋蓮司を見てほしい」

 ハードボイルドを気取る、売れない小説家の市川進には、伝説の殺し屋というもう一つの顔があった。だが、実は彼は一度も人を撃ったことはないのだ…。18年ぶりの映画主演となった石橋蓮司が、二つの顔を持つ主人公をコミカルかつ渋く演じる『一度も撃ってません』が7月3日から全国公開される。本作の阪本順治監督が、石橋の魅力や、撮影の裏話、映画に対する思いなどを語った。
-この映画は石橋蓮司さんの個性を生かした、コミカルかつハードボイルドなものになっています。その発端は、やはり「石橋蓮司ありき」だったのでしょうか。
 そうです。僕は次回作を作るときに、まず「誰とやりたいのか。誰にカメラを向けたいのか」を考えます。蓮司さんには、僕の映画にも何本か出演してもらっていましたが、監督と主役という関係で、がっつり組んだことはなかったし、「あの人の持つおかしみみたいなものに俺はまだ触れていない」という思いもありました。平たく言えば、「こういう時代だからこそ石橋蓮司を見てほしい」という思いがありました。
-石橋さんもそうですが、今回共演した大楠道代さん、岸部一徳さん、佐藤浩市さんは、原田芳雄さんの遺作になった『大鹿村騒動記』(11)にも出演していました。何か今回とのつながりはあったのでしょうか。
 つながりは確実にあります。それにとどめを刺したのは桃井(かおり)さんですけど。皆事あるごとに芳雄さんの家に集っていたメンバーで、江口洋介くんもそうです。ただ、仲間内でわいわいと映画を撮るということではなくて、このつながりを映画に生かしたいというのがありました。皆、それぞれ奏でる楽器は違いますが、蓮司さんを真ん中に、メインボーカリストにしてバンドを組むとどうなるんだろう、ということです。ジャズのフリーセッションのような感じですが、何か新しいものが生まれるのではないか、という期待があって、皆に声を掛けました。そんなつながりがあったからこそ、皆、手弁当でやってくれました。
-おなじみの俳優さんを、違う役柄で演出する醍醐味(だいごみ)や楽しみはありますか。
 本人たちも、連続物は別にして、一つ一つの映画を作り上げていくときに、以前と同じようなニュアンスのものをやりたいとは思わないはずです。常に、架空性の中で、自分はどう存在するのかを面白がるのが俳優さんの本質なので。互いに癖を知り合っているからこそ、逆に予想外のことが生まれる、という期待があります。
-今回は、どんな場面でそれを感じましたか。
 それはいろいろな場面で感じました。カメラをそれほど動かさず、ワンフラットで撮って長回しをしているところなどは、台本通りに演じていらっしゃるんですけど、互いにアドリブをかましているような気にさせられるところがありました。皆存在そのものがアドリブなんですが…(笑)。これは、その場の瞬発力で生まれるものです。何でそれが可能なのかと言えば、台本を読み込み、自分の役のことがよく分かっているからです。原田芳雄さんもそうでしたけど、役をどんどん整理していくと面白くなくなるんです。僕もそう思うので、あまりリハーサルをせず、そのときでないと生まれないものを切り取って映していこうと。それができる人たちだったので。
-今回の脚本は、松田優作さんの「探偵物語」や『遊戯』シリーズの丸山昇一さんでした。何か影響を感じる部分はありましたか。
 ハードボイルドをどう捉えるかにもよりますが、今回は蓮司さんとやるのであれば、軽妙にやってみたいというのがありました。蓮司さんが決めれば決めるほど、はたから見れば喜劇になっているという…。僕はコメディーと喜劇は違うものだと思っていて、喜劇はとても難しいと思います。コメディーの多くは、物語性やシチュエーションのおかしさで笑わせるもの。喜劇は登場する人たちのおかしみで笑ってもらうもの。そういう喜劇を担える、抜群の間を持った人が少なくなってきていると思います。僕らはそれを“遊び”と言いますが、最近は遊べない人たちが多くなってきましたから。
-丸山さんが、この映画のことを「いい年をしてばかをやっている男と女の話だ」と話していたそうですが。
 それは、ぶれないものを持っているという、ある種の頑固さのことですね。時代は変わっているのに、まだそれを貫き通そうとしていることが、若い人たちから見れば喜劇であるということです。
-それをかっこいいと感じるか、おかしいと思うかの、二通りが考えられますね。
 見終わった後で、そのどちらを持って帰るかはお客さんの判断です。今回は、ある種のカッコ良さとカッコ悪さが共存しているところを目指したわけですが、主人公の傍若無人ぶりや豪放磊落(らいらく)さに憧れる人もいれば、「俺は真面目に生きているのに、何をふざけているんだ」と思う人もいるかもしれません。それはどちらもありだと思います。
-それが表現できるのは、やはり石橋蓮司さんということになるわけですね。
 蓮司さんは、時代を読み取ったりする賢さや、今の社会に対する言葉もちゃんと持ってらっしゃいます。だからこそ、それを裏返しにしても、ちゃんとあの人の実人生が出てくるんです。蓮司さんは今年79歳ですが、まだまだお元気なんですから、主役として映画を担ってもらいたいという思いがありました。もう、共演していない人がいないぐらい、ありとあらゆる映画やドラマに出演されていて、蓮司さんが出ているからこそ生まれたシーンもたくさんあって。もう本当に“宝物”のような存在ですよ。今回は、僕にとっての宝物の人たちに集まってもらったので、それが結果的に観客の皆さんにとっても宝物のような映画になればいいかなあと思います。
-では、この映画をどんな人たちに見てもらいたいですか。
 この映画は、若い観客はもちろん、若い俳優さんにも見てもらいたいです。それで、年長者たちの遊び方や、映画を豊かにするための遊びはこういうこと、というのを知ってもらいたい。今は芝居がうまい若い俳優さんはたくさんいますし、役作りも真面目にストイックにしている。でも、その向こう側に、もう一つ見なければいけない風景があって、そこに到達した人たちの芝居を見てほしいと思います。
 今回も、妻夫木聡くんをはじめとする若手たちには、自分が主演でなくても、蓮司さんと芝居を交わすことへの期待値が相当あったと思います。たとえワンシーンでも、蓮司さんと一緒に過ごすことで生まれてくるものがあるという。そういう思いを持ってきたので、ゲストでも友情出演でもなくなってくる。普段以上に気張らないと蓮司さんに太刀打ちができないからです。でも、スターが入れ代わり立ち代わり現れるから、実は蓮司さんも僕も緊張して大変でした。
(取材・文・写真/田中雄二)

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