パリ・オペラ座バレエ・シネマ2020『
ミルピエ/ロビンズ/バランシン』~
今改めて感じるミルピエ時代のオペラ

パリ・オペラ座バレエ・シネマ2020の第3弾、『ミルピエ/ロビンズ/バランシン』の上映が東劇(東京・東銀座)で2020年6月26日から上映が始まった。今作は2014~2016年まで、パリ・オペラ座の芸術監督を務めたバンジャマン・ミルピエがセレクトした、自身のクリエイション『クリア、ラウド、ブライト、フォワード』、ジェローム・ロビンズ振付『作品19/ザ・ドリーマー』、ジョージ・バランシン振付『テーマとヴァリエーション』の3作品だ。アメリカのバレエはもちろん、20世紀のバレエに多大な影響を与えた振付家バランシン(1904~1983)、バランシンの後を継ぎニューヨーク・シティバレエ(NYCB)のバレエマスターとしても活躍したロビンズ(1918~1998)、ロビンズを師と仰ぎ、自身もNYCBのダンサーとして活躍したミルピエという、アメリカにゆかりのある3人の振付家の系譜ともいえる構成は、ミルピエが芸術監督を辞して数年を経た今改めて目にすると、パリ・オペラ座の歴史に改めてふれるような興味深いものが感じられる。

■ミルピエのドキュメンタリー映画でも取り上げられた、パリ・オペラ座のための新作
1作目の『クリア、ラウド、ブライト、フォワード』はミルピエがパリ・オペラ座の芸術監督に就任して最初に手掛けた、パリ・オペラ座のための作品だ。ミルピエがその創作過程とともに、階級制などバレエ界の常識にも疑問を投げかけたドキュメンタリー映画『ミルピエ パリ・オペラ座に挑んだ男』(2015年)で取り上げられてもいるので、ご覧になった者もあるだろう。
「映画『ブラック・スワン』の振付家」「女優のナタリー・ポートマンの夫」という、バレエ以外の話題で語られることの多かったミルピエの手腕や作品は、本国フランスはもとより、日本はもちろん世界中でも様々な評価があったが、階級にこだわらずコリフェやスジェなどの若手を多々起用したことは間違いなく新風であったろうし、その中には現在エトワールとして活躍しているレオノール・ボラック、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェといった名が連なる点は、やはり注目に値するだろう。本作の上映は、一陣のつむじ風のようなミルピエ旋風後、改めてミルピエの作品と対峙する機会ともいえる。

■ヴァイオリンの音色とともに幻想の中を漂うエイマン&アルビッソンのロビンズ
ロビンズはアメリカン・バレエ・シアターでダンサーとして活躍したほか、振付家としてはバレエ作品のほか『ウエストサイドストーリー』、『屋根の上のヴァイオリン弾き』などミュージカルの分野でも活躍している。アメリカのバレエ史は無論、舞台やミュージカルの分野でも欠かすことのできない人物ともいえよう。
2作目の『作品19/ザ・ドリーマー』はロビンズがミハイル・バリシニコフのために振り付けた作品で、マチアス・エイマンとアマンディーヌ・アルビッソンが白昼夢のような世界を踊る。プロコフィエフ『ヴァイオリン協奏曲第1番』の、上が下で下が上、手で触れたと思ったらその上に立っていた……というような、夢の霧の中を進んでいくような、音楽の中で漂うような、そんなエイマンの繊細な表現にはただただ、ため息が出る。そして夢の中でこそ存在感を放つようなアルビッソンのハーモニーもまた、ヴァイオリンの音色とともにひとつになって、実に印象的だ。ちなみにこのプロコフィエフの『ヴァイオリン協奏曲第1番』も、初演はパリ・オペラ座である。
『作品19/ザ・ドリーマー』

■パリ・オペラ座ならではのゴージャス感満載の『テーマとヴァリエーション』
3作目のバランシン『テーマとヴァリエーション』は1947年にアメリカン・バレエ・シアターで初演された作品。以後このパリ・オペラ座パリ・オペラ座パリ・オペラ座をはじめ、世界各国のバレエ団がレパートリーとして取り入れており、日本でも新国立劇場バレエ団や東京バレエ団などもしばしば上演している。日本でもよく知られたバランシン作品のひとつといえよう。
日本で目にするときは日本人らしい隙のないテクニックや繊細さが際立つが、パリ・オペラ座にかかるとやはりゴージャス。ローラ・エケとジョシュア・オファルトを中心に、一挙手一投足から宝石のしずくがはじけ飛ぶようなエレガントさ。ただただ、その「美」を心ゆくまで堪能したい。
『テーマとヴァリエーション』
文=西原朋未

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