ヨーロッパ企画・上田誠に聞く『ヨー
ロッパ企画の生配信』から見えてきた
もの~「やれなくなったことがある分
、今は新しいことを探る機会に」

新型コロナウイルスの影響で、劇場で公演を打つことが難しくなっている昨今。しかし「禍福は糾える縄の如し」(かふくはあざなえるなわのごとし)という言葉通り、WEB媒体を用いた演劇的な表現が様々な形で試され、その需要と可能性を飛躍的に伸ばした数ヶ月だったとも言えるだろう。その中で京都の劇団「ヨーロッパ企画」は、4月からYouTubeの公式チャンネルで「ヨーロッパ企画の生配信」を開始。1ヶ月ごとに10本程度のプログラムをライブで配信し、現在はシーズン3に突入中だ。劇団代表の上田誠に、あえてバラエティ風のプログラムにしたことや、ムロツヨシ&真鍋大度と組んだ「非同期テック部」の活動、今後の「WEB✕劇団」の可能性について、リモートでインタビューした。
上田誠。

■配信なら、ジャンルを越境している劇団の面白さを伝えやすい
──この取材の時点では、まさにシーズン3が始まった所ですが、ここまで続くと思ってましたか?
「シーズン」のように小出しにしてますけど、本当は僕らとしては、続ける前提で考えていきたいんです。でも「これをずっと続けます」と言うと、お客さんが安心してしまって、毎回見てくれなくなる恐れがありますし、何よりもメンバーが飽きそうで(笑)。そのためには「これで終わるかもしれない」という空気を、今は作っておこうかなと。まあでも、潮時はあるかもしれないですけどね。
──この生配信が始まったのは、当然コロナの影響で、予定がいろいろと飛んでしまったからでしょうが、今のような日替わりバラエティの形にしたのは?
まずこの状況になって、人がリアルに集まって何かをするということが、当分できないかもしれないなあと。そうなると、特に役者が暇になってしまうので、割と早くから「何かできることをしよう」と呼びかけあって、リモート会議を始めてました。そうしたら「それぞれがそれぞれの場所で考えていることを、リモートで何となく話しながら、今後何をしていくか考える」ということ自体が、結構楽しいなあと思えてきて。それで毎晩30分ずつ、集まれる人がZOOMで集まって、まずはワイワイ話している様子を生配信しよう……という流れになりました。
シーズン1の幕開けとなった「集まれる人集合! フレンチトーストを食べる会」より(4/20配信)。全員がお手製のフレンチトーストを食べながら近況を語り合った。
──ヨーロッパ企画なら、すぐにリモート演劇をやるのではないかと思ったのですが。
そういう話もあったんですけど、結構早い段階で、いろんな所がすでに始めてたじゃないですか? 僕の場合「せっかくなら、僕らしかやらないようなことをやろう」という風に考えることが多いんで。誰もやってなかったら、すぐに手を付けてたかもしれません。
──確かに劇団発信としては、珍しい形の配信……演劇をやりながらもTVやラジオの番組もやり、いろんなイベントも打っている、ヨーロッパ企画ならではと言える内容ですね。
あ、そうですそうです。演劇作品を発表する以外の表現の仕方を、たくさん持っていたというのは、強みだったと思います。本当なら動画サイトでの発信は、もっと早く踏み出したかったんですけど、普段の活動の中でそこに割く時間があまり持てなかったんです。だからようやく、探る機会ができたとも言えます。
──シーズン1の感触はいかがでしたか?
短期集中で何かを作るのではなく、長期的な取り組みになるだろうなあと思ってたので、まずシーズン1はメンバー同士が集まって、技術的なことも含めてやり方を探っていくという段階にしました。でも内容を日替わりにしてしまったので、同じ顔ぶれで過ごすということもなく、そうなると今日の反省を明日に活かすということができないんです(笑)。とはいえ、なるべくお互いの配信を見て、感想を言い合おうとは呼びかけてました。
シーズン2の「世界の終わりかけの小声フォークジャンボリー」より(5/21配信)。KBS京都等で放送中のラジオ番組「ヨーロッパ企画のブロードウェイラジオ!」から派生したアコースティックライブ。
──そしてシーズン2からは、小説家・森見登美彦さんや、お笑いコンビ・チョコレートプラネットさんなど、ゲストが豪華になってきました。
遠方に住んでたり、普段なかなかお会いできない方でも、リモートだとゲストに来てもらいやすいということがわかったんです。あとヨーロッパ企画って、映画とかお笑いとか、いろんなジャンルを越境した所にいるんですけど、その方々と演劇でご一緒しようとしたら、かなり腰を据えてやらないとダメで。でも生配信だったら、いろんなジャンルとのつながりを割と軽く、いい形で伝えやすいというのはあります。
──逆にその分、演劇関係者のゲストが少ないような気がするのですが……。
確かにそうですね(笑)。演劇の役者さんや演出家さんと語るみたいな企画も、もっとやってもいいかもしれない。
シーズン3の「暗い旅ポータルを見ていく旅2」より(6/11配信)。動画配信サイト「プープーテレビ」で公開中の「暗い旅ポータル」の傑作回を振り返った。

■「非同期テック部」の活動で、逆にアナログの強みを考える
──そのジャンルの越境で言うと、生配信でも2回登場した「非同期テック部」(5/13・6/4配信)の話は外せませんね。俳優のムロツヨシさん、メディアアーティストの真鍋大度さんと上田さんが、部活動のようなノリで短編映像を作るユニットですが、結成のきっかけは?
ムロさんから声がかかりました。ムロさんは活動的な人だから、この時期にやれることをいろいろ考えた中で、たまたまこの3人の呼吸が合ったんじゃないかと思います。真鍋さんから「こんな技術があるけど、何か使えないかな?」というお題をもらって、僕がシナリオを書いて演出して、ムロさんに生配信で演じてもらうという作品を、今まで2本作りました。
非同期テック部第1回作品『ムロツヨシショー、そこへ、着信、からの』より。
──真鍋さんのとんでもないハイテク技術を使って、日本屈指の理数系劇作家の上田さんが本を書いて、それを芸達者ぶりがすさまじいムロさんが演じるとか、もう無敵ですね。
しかも真鍋さんの場合、有り物のツールやガジェットを使うのではなく、このためのツールを開発するというポリシーでされていて。それを使いこなそうと思ったら、純粋な演劇の考え方みたいなことは、あまり通用しないんです。でも僕は割と制限フェチというか、制限の中で何かを考えるという趣向が大好きなんですよ。今ヨーロッパ企画がやってる「企画性コメディ」がまさにそうですけど、「こういう限定的な状況を設定した時に、最大限何ができるか?」という所が問われるという。
──たとえば「一つの画面上にムロさんを同時に何人も出して、かつ別々に動かせる技術ができました。これを使って何ができますか?」と。
そんな感じですね。真鍋さんは音楽のライブやMVには関わってますけど、自分の技術をドラマの中で機能させることはあまりされてこなかったそうで、新しいチャレンジだと言ってました。それとやっぱりデジタルっぽい方なんで、どちらかというとアナログなトーンを消すような手つきが本領かなと思うんですけど、ムロさんは超アナログでエモーショナルな人だし、僕もアナログっぽいトーンは好きなんです。考え方はデジタルなところもあるんですけど……。
非同期テック部第2回作品『第二回ムロツヨシショー』より。
──魂がアナログ、みたいな?
そうそう。その3人のバランスがあるから、より面白くなってるんじゃないですかね? ただテクノロジーを見せるだけだと、技術の祭典になっちゃうけど、そこに手作り感とか人肌の感じとか、アナログ的なものを掛け算すると、そのテックがより面白く見えてくるという。そこは3人とも、意識していると思います。だから非同期テック部をやることで、逆に「演劇でできる、アナログな面白さはどういうことだろう?」ということを、ますます考えるようになっていますね。
──ここ数ヶ月でいろんなハイテク技術が、急激に日常で活用されるようになっている中、逆にアナログのよさを見つめ直すようになっていると。
たとえば今回の配信も、ZOOMというデジタル的なコンテンツを使いながらも、手作りのフルーツパフェを持ち寄って食べる(5/11配信)とか、アコースティックギターのライブをする(5/21配信)とか、割とアナログな企画ばかりなんです。CGを見せ合うとか、そんな回があってもいいはずなのに。そこは「デジタルに寄り過ぎない」という、バランスが働いているのかなと思います。
『ムロツヨシショー、そこへ、着信、からの』参加メンバーが撮影裏話を語った「非同期テック部・部員トークスピンオフ ~アナログ俳優部はその日~」(5/13配信)

■「まあ、やるか」で何でもやるのが、ヨーロッパ企画の一番の良さ
──ではヨーロッパ企画ならではの配信スタイルが、かなり見えてきた感じですか?
いやー、配信の場合何をもって成功となるのかが未だにわからないので、まだまだ試行錯誤ですね。視聴数が多ければ成功なのかというと、必ずしもそうではない気もしますし。でもやっぱり、日々発見があるから楽しいです。「この企画は、生配信だとこういう盛り上がり方をするのか」「こんな可能性があったのか」とか。たとえば、角田(貴志)さんがイラストを描く所をただ映してた回(5/26配信)は、舞台でこれを面白く見せるのは難しいけど、生配信だったら面白みを伝えやすいなあと。僕はすごく、好きな回です。
「角田がイラストを描くのを見守る夜」より(5/26配信)。イラストレーターとしても活躍する角田貴志がイラストを描く様子をワイワイとウォッチング。
──個人的には『暗い旅』(注:ヨーロッパ企画のTV番組)でおなじみの、自宅で作ったピタゴラ装置を競う「イエゴラスイッチ」の回(5/12配信)が印象的でしたね。生配信だから失敗を編集できない分、TVよりも緊張感がありました。
あれはちょっと、壮絶な回でしたね。配信中はわざと厳しめのコメントをしてましたけど、普通一回では絶対成功しないんですよ、ああいうのって。大失敗してもおかしくなかったのに、みんな一回か二回で成功して、すごいことが起こってました。クオリティも高かったですし。でもあれは狙ってできるものではないから、あまり(今後の)参考にはならない(笑)。
──では、上田さん的に今後の大きな参考になった回は?
「大歳を王とし 3択ロワイヤル」(5/28配信)ですね。今のところ、あれが一番演劇的な回でした。リモートの世界で難しいのは、みんな基本的に自宅から発信してるというのもあって、すごく日常的な空間になるんです。それってトークライブみたいなことには向いてるんですけど、フィクションとか非日常をその空間に持ち込むのは、演劇とか映画の画作りに比べると、かなり考えて作らないといけないなあと。でもあの回は、大歳君の芝居が下手なりにも(笑)「王国」という世界観がちゃんとできてて、参加しながら「すごいなー」と思ってました。
「生イエゴラスイッチコンテストの旅」より(5/12配信)。酒井善史、藤谷理子、劇団スタッフの後藤円香が挑戦した。
──やはりヨーロッパ企画のリモート演劇は期待される所だと思いますが、その手がかりが見えたという所でしょうか。
いつかやりたいとは思いますけど、やっぱりまだ僕ら的には、ZOOMという新しい場所ができて、その中でコミュニケーションが取れるようになって、何か面白い企画の種を見つけられるようになったというのが、今の段階。そこに物語性をさらに付け足すのは、もう一個先というイメージがあります。でも大歳君が、かなりそのヒントをくれましたね。
──ちなみに上田さんの中で、他のメンバーに受け入れられるかどうかわからないけど、今後やってみたい企画はありますか?
どうですかね? でもそれで言うと、みんなの気が進まなくても「上田がそんなにしつこく言うからやるか」みたいな感じで実現することが、ヨーロッパ企画では多いんですよ。今上映中の『ドロステ(のはてで僕ら)』(注:ヨーロッパ企画初の長編映画。データ欄参照)も、最初はあの手法に誰も乗り気じゃなかったのを、だましだまし導いて(笑)。でもそれは、僕以外のメンバーやスタッフもそう。メンバーがやりたいことだから、僕がそんなに好きじゃなくてもやるってことが、やっぱりあるんです。そして「まあ、やるか」で走りだしたら、熱心にやるという。
「大歳を王とし 3択ロワイヤル」(5/28配信)より。劇団内の演劇ユニット「イエティ」の主宰・大歳倫弘が支配する“王国”で、メンバーたちが三択クイズに挑んだ。
── 一度乗っかったらめちゃくちゃスムーズだと。
そうそう。だからそこが結局、ヨーロッパ企画の一番いい所だと思います。「まあ、やるか」で、演劇も映画も、ゲームだって作れるし、生配信もやったりするという。全員にその柔軟さがあるというのは、実はすごいことだと思います。
──生配信もあれば、「ヨーロッパ企画のゲーム研究所」もあり、映画『ドロステのはてで僕ら』も上映中です。演劇がほとんどない世界が当分続いても、ヨーロッパ企画にはいろんな形で楽しませてもらえそうで、心強いですね。
そう思っていただけたら嬉しいです。『ドロステ』は本当にジワジワと上映館が増えてきていますし、生配信に関しても、まだいろいろ開拓できるはずなんで。今まで普通にやれていたことがやれなくなった分、これまで手薄になっていたことが新しくできる。今はそういう時間だと思って、劇団でやれることをさらに増やしていきたいと思います。
取材・文=吉永美和子

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