知って、作って、発見する ポーラ美
術館のオンラインコンテンツ『#おう
ちでポーラ美術館』【ネット DE アー
ト 第5館】

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく、博物館・美術館が、これからの社会におけるニュー・ノーマルに向けた対応に着手しています。エントランスでの検温や入館者数を制限するべく事前予約制、接触機会を低減するためのQRコードチケットの導入などがその例ですが、このような取り組みに先がけて、数多くの施設が積極的に取り組んだのが、オンラインコンテンツの積極的な配信でした。

オンラインで楽しめるアート情報をお伝えする連載コラム【ネット DE アート】。今回は、箱根にあるポーラ美術館がコレクションや展示を紹介するコンテンツ『#おうちでポーラ美術館』を紹介します。
『#おうちでポーラ美術館』サイトイメージ
#おうちでポーラ美術館
ポーラ美術館は、日本最大級の印象派コレクションをはじめとした絵画、彫刻、工芸品などを、日本のもの、西洋のものとあわせて約1万点を収蔵する美術館です。コレクションはもちろん、「箱根の自然と美術の共生」というコンセプトで造られた建物と、ブナやヒメシャラの林に囲まれたロケーションも魅力です。
そんなポーラ美術館の魅力とオンラインならではのアイデアが、『#おうちでポーラ美術館』に詰まっています。コンテンツは大きく分けて<みる><よむ><つくる><ポーラ美術館を知る>の4つ。<みる>から順に紹介します。
みる、ポーラ美術館
ここでは、過去の展覧会や、現在開催中の展覧会の紹介動画が公開されています。いずれも5分前後の動画で、各展覧会の概要やテーマが語られます。たとえば6月1日に開幕した、企画展『モネとマティス―もうひとつの楽園』の動画では、学芸員の近藤萌絵氏が、開催趣旨を次のように説明します。
「19世紀から20世紀にかけて、急激な近代化や度重なる戦争など混乱した社会状況のなか、「ここではないどこか」への憧れが、文学や美術のなかに表れます。画家のクロード・モネとアンリ・マティスは、庭や室内の空間を思うままに構成し、現実世界のなかにいわば『楽園』を創り出した点において深く通じ合う芸術家といえます」
モネマティス展予告ムービー
『モディリアーニを探して-アヴァンギャルドから古典主義へ』のガイドムービーでは、モディリアーニの人となり、画風、そして描かれた人物についても語られています。独特の曲線による人物の描き方はどこからきたのか。《ルニア・チェホフスカの肖像》のモデルであるルニアは、モディリアーニとどんな関係にあったのか。会場を巡りながら解説します。
《ルニア・チェホフスカの肖像》アメデオ・モディリアーニ 1917年 ポーラ美術館蔵
オンラインならではの切り口で鑑賞できるのが、世界的にも貴重な同館収蔵の化粧道具のコレクションです。たとえば《珊瑚象嵌化粧ケース》は、19世紀中ごろの旅行用の化粧ケース。珊瑚や金の飾りが細部まで贅沢に施された道具が、ケースの中にぴたりと収まる仕様です。動画では、道具の一つひとつが取り出されていく様を紹介。この化粧ケースが、鑑賞のためではなく使うために作られたものであると再認識できるコンテンツです。
珊瑚象嵌化粧ケース 19世紀中期 | Pola museum of art
よむ、ポーラ美術館
続いて紹介するのは、どのコンテンツも保存版としてブックマークしたくなる、<よむ>のセクションです。
<みる>でモディリアーニに興味を持ったなら、迷わずチェックしてほしいのが『マンガで知るモディリアーニ「勝手にモディリアーニ」』と、『エコール・ド・パリの画家たちが過ごしたパリ』。前者は漫画でポップに、後者はGoogleマップやストリートビューの活用で親しみやすく構成されており、モディリアーニの暮らした世界をより身近なものにしてくれます。
マンガで知るモディリアーニ「勝手にモディリアーニ」
「シュール」という言葉は日本語でも定着していますが、しかし、元来の意味を離れて使われていることをご存じでしょうか。『学ぶシュルレアリスム』に興味を持った方は、ぜひ<みる>のガイドムービーとセットでお楽しみください。フランスで文学からはじまったシュルレアリスムが、エルンストやダリらの絵画に展開し、日本画壇では独自に解釈され「シュール」になるまでの変遷を、学芸員が熱くテンポ良く紹介します。
#おうちでポーラ美術館 サイトイメージ
つくる、ポーラ美術館
<つくる>では、実際に手を動かして作品に親しみ、楽しむ提案もされています。いまや幅広い世代に親しまれるコンテンツ、ぬり絵。『#おうちでポーラ美術館』では、マティスとモネのぬり絵をダウンロードできます。オリジナルと同じ配色を目指すも良し、自分好みの色に塗るも良し。ぬり絵ではじめて気がつく、その絵画の魅力もあるのではないでしょうか。
クロード・モネ《睡蓮の池》 1899年 ぬり絵
話題のゲーム『あつまれ どうぶつの森』の世界に、ポーラ美術館の名画を取り込むことができます。印象派の絵画やモディリアーニなどヨーロッパの画家だけでなく、岸田劉生《麗子坐像》や黒田清輝《野辺》など日本の洋画家の作品も揃っています。クロード・モネ《睡蓮の池》やフィンセント・ファン・ゴッホ 《アザミの花》がプリントされたTシャツもリリースされているので、飾って、着て、あつ森を彩ってみましょう。
#あつ森でポーラ美術館
ポーラ美術館を知る
実際にポーラ美術館へ訪れたことがある方は、コレクションの質や量と同じくらい、ロケーションの素晴らしさに驚かれたはず。ガラスの天井や壁の向こうに樹々の揺れを感じながら、ほどよい自然光のアトリウムをエスカレーターで降りていく。深呼吸したくなる美術館です。2013年には20分ほどで周遊できる「森の遊歩道」も開設されました。<ポーラ美術館を知る>のイントロダクションムービーからも、その心地良さを感じていただけるはず。
ポーラ美術館 イントロダクションムービー 〜夏編〜
「名画でめぐる100年の旅」は、ポーラ美術館のコレクションから選りすぐりの100点で、約100年の絵画を辿るコンテンツです。Chapter1は「1860年代-1870年代 大自然を歩くー印象派前夜」。コローやブーダン、マネ、クールベ、シスレーが登場した時代から始まります。画面をスクロールしていくと、主題や芸術運動など20のテーマを追いながら時代が進み、Chapter20「1960年代 それぞれの宇宙ー描かれた幻想」までを通覧できます。ヨーロッパと日本の近代絵画が並んで紹介されることで、頭の中の情報が整理され、連動していく面白さがあります。
100の名画の中には、国立西洋美術館長・馬渕明子氏や大原美術館長・高階秀爾氏などといった美術業界の方々や、鎧塚俊彦氏や浅生ハルミン氏など各界の方々の“イチ推し”作品とコメントが添えられています。「増田セバスチャンさんはこれを選ぶんだ。なんでなんで?」と見ていくと、あっという間に時間が経ってしまうので、ご注意ください。
名画でめぐる100年の旅―「100点でめぐる100年の旅」展から サイトイメージ
最後に、普段見ることのない美術館の裏舞台をぜひご覧ください。学芸員さんの仕事というと、ギャラリートークでの知的で穏やかな印象のせいか、文系の方々が日々机に向かい、静かに資料をめくり研究に勤しむ姿を想像しませんか? このセクションの動画を見る限り、研究調査はサイエンス✕テクノロジーで、展示準備は体育会系。イメージが一新します!
Modern Beauty - Exhibition build time-lapse | Pola museum of art
以上、『#おうちでポーラ美術館』を紹介しました。
モディリアーニやシュルレアリスムなど、テーマを追いかけて<みる>、<よむ>、<つくる>のセクションを横断し、知識を深めることもできますし、セクションを一つずつ見ることで新たな発見もあるでしょう。個人的には『紙片の宇宙』展のガイドムービーで紹介された「芸術家による挿絵本」(リーヴル・ダルティスト)の世界が、発見でした。学芸員さんはその魅力を「物語や詩の言葉と響き合うように、紙の上に無限に広がるイメージの宇宙」と語ります。レオナール・フジタの《魅せられたる河》や、マルク・シャガールの《ダフニスとクロエ》が展示される機会を狙い、また箱根に行きたくなりました。
ポーラ美術館は、箱根の仙石原、森の中にある美術館です。空いた時間にサクっと……という場所ではありませんが、とっておきの時間を過ごしたいときにおすすめです。

文=塚田史香、写真=オフィシャル提供、サイト引用

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