3DVRや動画で絵画を体感 新しい美術
鑑賞を体験できる『ピーター・ドイグ
展』【ネット DE アート 第4館】

新型コロナウイルスの影響で人々が外出を控えていた昨今、多くの美術館や博物館がインターネット上で楽しむことのできるコンテンツを公開しています。これらはオンラインならではの多様な工夫が凝らされており、実際に会場へ足を運んで作品と対峙するときとはまた異なる、美術館巡りとは一味違った楽しみを与えてくれます。

2020年で最も注目すべき展覧会の一つでありながら、開幕からわずか3日で休館となってしまった東京国立近代美術館『ピーター・ドイグ展』の特設サイトでは、展示会場を3DVRで公開する映像のほか、音声ガイドを務める“女優・創作あーちすと”のんのインタビューや、会場から生中継したドイグ展特集番組を紹介しています。
6月12日(金)から再開し、10月11日(日)まで会期が延長されるという吉報も届いている本展覧会。来場がより楽しみになるコンテンツの魅力をお伝えします。

《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》 2000-02年、油彩・キャンバス、196×296cm、シカゴ美術館蔵 (c)Peter Doig. The Art Institute of Chicago , Gift of Nancy Lauter McDougal and Alfred L. McDougal, 2003. 433. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120

作品世界に没入できる、大判作品の迫力を3DVRで味わう醍醐味
ピーター・ドイグ展特設サイトの3DVR画像は、VRヘッドセットを使用して閲覧することで、作品が目の前にあるような迫力ある映像を楽しむことができます。大判で幻想性が高く、曖昧さと静謐さが共存する彼の作品は、映像世界に没入できる3DVRとは相性抜群。デバイスを装着して見てみると、絵画に漂う不明瞭な夢の世界に入り込んでいるような感覚に陥ります。映像中の距離感は作品にもよりますが、日本のスキーリゾートの広告写真を参照して描いたという《スキージャケット》や、頭を抱えて立ち尽くす人物が印象的な《エコー湖》などは比較的近くで見られるので、雪や水面・岩や大地などの輪郭が曖昧に溶け合っているさまが伝わってきます。
3DVR
本映像はヘッドセットをつけなくても十分に楽しめます。「3DSpaceの探索」モードは会場を実際に歩いているような臨場感があり、さまざまな角度や至近距離で閲覧することが可能。第一章・第二章の大判作品はもちろん、スタイリッシュなドローイングがずらりと並ぶ第三章の「スタジオフィルムクラブ」のゾーンなども、絵の持つ力が発散されていて見ごたえがあります。また、「フロアプランの表示」や「ドールハウスの表示」モードは、会場の見取り図や会場構造を立体的に見ることができ、普段あまり目にすることのない美術館の秘密を垣間見たような気持ちになれるでしょう。

3DVR 3DSpaceの探索

3DVR フロアプランの表示

3DVRの映像中は人影がなく、普段賑わっている美術館とは違う雰囲気が漂っており、まるで夜の美術館に入り込んだようなワクワク感を味わえます。映像内の静まり返った会場は、ドイグの作品が放つどこか不穏な印象とマッチしており、鑑賞者は創造的で刺激的で、なおかつ緊張感のあるヴァーチャル空間を存分に楽しむことができます。

必見の「ニコニコ美術館」では、会場の生中継動画を期間限定で配信
各美術館を紹介する「ニコニコ美術館」でも本展を特集。ドイグのキャリアについて、本展が足掛け5年かかっていることなど、展示にまつわる各種エピソードが充実しており、展覧会への興味がいっそう強まります。
ニコニコ美術館
ドイグの作品は、美しさや懐かしさといった見た瞬間に伝わってくる感覚的要素もありながら、現代アートならではの複雑な背景と、さまざまな国や地域で育ち、それぞれの文化に影響されながら活動してきたアーティスト特有の幅広い主題を持っています。この番組には、本展担当研究員の桝田倫広氏、企画課長の蔵屋美香氏(現在、横浜美術館館長)、アーティストの五月女哲平氏が出演。対話しながら解説を行うので、専門家のプロフェッショナルな説明や、創作を行う側の斬新なコメントなどの幅広い感想を得られます。この動画を通して見ることで、誰かの意見に共感することや、自分にはなかった視点や気づきを得ることができるでしょう。
音声ガイドの試聴も可能、来場への期待が高まるコンテンツがもりだくさん
特設サイトには、小説家の小野正嗣氏や『美術手帖』総編集長の岩渕貞哉氏による推薦コメントなども掲載されています。「なつかしいものに感じる得体の知れない不気味さ」(小野正嗣)や、「絵の中で自分を見失うような感覚」(岩渕貞哉)といった言葉に触れると、いったいどんなミステリアスな絵画なのか、実物を観たいという願望が強まります。章立てごとの作品の説明や作家のプロフィールなども分かりやすくまとまっており、作家や作品に近づく手がかりになります。
また、音声ガイドを務めるのんのインタビューも掲載。本展のナレーションにかける喜びや熱意、ドイグ展にかける期待などを読むことができるほか、音声ガイドの一部も試聴することができます。
音声ガイドの一部を試聴することもできる

開幕前から話題になっていた、2020年注目の展覧会『ピーター・ドイグ展』。長らくの臨時休館を経て、6月12日より再開されるとのことで嬉しい限りです。特設サイトで公開されているオンラインコンテンツを鑑賞する喜びは、実際に作品を観る喜びとは種類が異なっており、美術鑑賞の新しい可能性を示すように思います。一方で、絵肌や画材の質感や細かい表現を知るためには実物を見ることに勝るものはありません。サイトをチェックして情報を増やしたのち、実際に会場へ赴き作品と対峙すれば、心待ちにしていたぶん、さらに大きな感動がもたらされることでしょう。

文=中野昭子、画像=オフィシャルサイト引用

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