ひとり芝居に初挑戦の鈴木杏にインタ
ビュー~三好十郎作『殺意 ストリッ
プショウ』の魅力

<SPICE編集部より> 本記事は、2020年7月にシアタートラムで開催される『殺意 ストリップショウ』について、出演する鈴木杏さんにおこなったインタビューです。当取材は2月におこなわれましたが、取材の後、緊急事態宣言による公演会場の臨時閉館等の影響でチケット発売日が延期されていたため、本記事も掲載を見合わせておりました。しかしながら、緊急事態宣言が解除され、チケット一般発売日も6月21日に正式決定されたことを受け、改めてここに記事を掲載させていただく次第です。
昭和初期から戦後にわたり日本の近代劇を支えた劇作家・三好十郎が、1950年(昭和25年)に発表した女優のひとり芝居『殺意 ストリップショウ』。高級ナイトクラブのステージに立つひとりのダンサアによる、時に激しく時に哀しく切ないモノローグに体当たりで取り組むのは、これが初めてのひとり芝居への挑戦となる鈴木杏だ。演出を手がける栗山民也と鈴木は、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』(2016年、2019年)や『トロイ戦争は起こらない』(2017年)でも既にじっくり向き合ってきた、互いに信頼の厚い顔合わせとなる。そのヴィジュアル撮影の現場を訪ね、鈴木へのインタビューを敢行した。作品への想いや覚悟などをたっぷり、語ってもらった。
鈴木 杏
――この作品への出演のお話が最初に鈴木さんの耳に入った時は、どんな状況だったんでしょうか。栗山さんから直接、ご提案されたということですか?
最初は、そうだったと思います。舞台『ピアフ』を観に行った時だったから、1年半くらい前の話ですね。栗山さんがいきなり「杏、聞いた?」ってニヤニヤしながらおっしゃって。「え、なんですか?」って聞くと、「2020年の話だよ」って。「まだ聞いてないですけど、どんな作品ですか」って言うと、「大変なヤツだよ」とだけ言われて(笑)。そのあと正式に「こういう話が来ているよ」とマネージャーさんから聞かされることになるんですが、想像以上に“大変なヤツ”でした。
栗山さんとは、その前に『トロイ戦争は起こらない』(2017年)という作品をやっていたこともあって、きっとギリシャ悲劇とかああいう感じの作品なのかと思っていたんです。でもそうではなく、自分が想像した一万倍以上は大変なものだったのでビックリしました。まさか、今のタイミングで自分がひとり芝居をやるとは予想をしていなかったですし。だけど三好十郎さんの戯曲には自分の隠れた部分で実は憧れを抱いてもいたので、なんだか一気にいろいろなことが押し寄せてきた!という気持ちでした。ああ、情報処理がしきれない!みたいな。でも、自分が実際にできるのかどうかはさておきですけど(笑)、こんな幸運な機会、こんな大きなチャンスは滅多にいただけないなと思い、「やらせてください!」としか言えませんでした。
――ひとり芝居をやることを、想像したことはなかったんですか?
演劇をやり続けていたら、いつかそういう試練が来るかもしれないとは思っていたものの、ひとり芝居って、もうちょっと年齢を重ねたあとに挑むものかなと想像していたんです。人間としての年輪のようなものがもっと蓄積されて、立っているだけで物語になるみたいな年の重ね方をもし自分ができたら機会が来るのかもしれない、と。だからずいぶん遠くの、霧のようなものだったんです。それにしても、困りましたね、怖ろしいことを思いつかれちゃったというか(笑)。今は、ふざけて「栗山さんからの壮大なムチャぶり」とも言っているんですけど。
鈴木 杏
――だけど、演出が栗山さんだからこそ引き受けられたという気持ちもあるのでは。
ある意味、それに尽きる気もします。いろいろなことを教えてもらいながら、導いてもらいながら、になるはずです。それと栗山さんを独り占めできる機会というのも、そうないと思うので。
――確かに。まさに独り占めですね(笑)。
だから今回の稽古で一番楽しみなのが、三好十郎さんの戯曲と栗山さんを独り占めできることなんです。というかホント、楽しみながら稽古が出来たらいいんですけどね。きっと本番が始まったら、苦しいことばかりのようにも思えるので。
――舞台に立つのは、たったひとりだけですしね。
いかにも、逃げ場がどこにもない感じがします。
――台本を読んでみた時の感想はいかがだったでしょうか。
昨日も読んでいて思ったんですけど、やはりすごく面白い戯曲です。社会とか世界に対してのことも書かれているし、ひとりの女のことについても、また、人間とは?というすごく大きなことについても書かれている。いろいろな角度から生きることについて描かれている、本当に素晴らしい戯曲だなと思いました。読んでいてすごくワクワクするんです、言葉の並びだったり、リズムだったり、畳みかけるようなものだったり。いろいろな揺らぎもあって。そういう、すごい戯曲に出会った時の嬉しさと高揚と同時に、この膨大なセリフをどうやって覚えるんだとか、こんなに優れた戯曲を担える器が自分にはあるのかとか、読みながらもずっと光と影を行ったり来たりするような感覚が常にありました​。
――台本を読ませていただいて、この量のセリフをどうやって覚えるんだろう?と他人事ながら思いました。
そうですよね、私も今のところはまだ全然、覚えられる気がしないです(笑)。ひとり芝居の場合は、いつもと違うような気もするし。でもきっと、ことあるごとに「こういうことか!」と、さまざまなことが理解できていくんだろうなと思います。セリフを覚える作業に入ってから楽日までの間に、きっと何度も何度も「こういうことなのか!」と。
――稽古をしながら、日々いろいろなことが見えてくる。
そして、この作品に取り組むことを機に、自分の芝居に対しての向き合い方も変わりそうな予感がします。『殺意』前と『殺意』後で、自分の人生そのものが大きく変わりそうです。
鈴木 杏
――栗山さんからは、最初に声をかけられたあとには。
特に何か言われてはいないです。『殺意』という作品を知ったいきさつ、みたいな話は伺いましたけど。どうやら栗山さんの、やってみたいリストの中のひとつだったみたいなんです。風の噂では、そのリストってかなり膨大な量のものらしいんですけど。
――それを一演目、クリアしたいがために。
駆り出されました(笑)。だけど、責任重大だなとも思っています。栗山さんがやってみたかった戯曲を、任されるわけなので。
――その両肩にずっしりと。
本当に。少しずつ自分も年齢を重ねてきて、思い始めたことがあって。それは、いい戯曲はやり続けなきゃダメだということ。戯曲はやって遺す、上演して遺していくものだということがわかってきた気がしていて。もちろん読み物として本自体は買えるけれども、やはり舞台作品として上演して繋いでいくことが大事なんだなって。KERA✕CROSS(『フローズン・ビーチ』2019年)をやった時にも思ったんです、いい戯曲はやり続けられるべきだと。そして上演を成功させることで、また別の方に「こういう戯曲があったのか」と気づいてもらう。そうやって広めていくことも、役者にとって大事な仕事のひとつなのかもしれない。
――深く考察するのはまだまだこれからだとは思いますが、この美沙という主人公は現時点ではどういう人物で、どういう風に演じてみたいと思われていますか。
お芝居はいつもそういうものだとは思うんですけど、特にひとり芝居となると、もう正直に板(舞台)の上に立つしかないんじゃないかなと思っています。また、“ストリップショウ”という言葉がタイトルに入っていますが、ストリッパーが話すことでありつつ、これは心情のストリップ、生きざまのストリップだとも思うんですよね。この美沙という女が語っている後ろには、たぶん鈴木杏という人間の、今までのこと、今現在のことがストリップされていくはず。だからそういう意味では、そこから逃げずにいたいし、本当に心を裸にしていく覚悟はしています。でもその中にも、とても純粋だからこそ、転がっていく人生があるっていうことも感じていて。
――傷つくのも、彼女が純粋だからですものね。
これは、その純粋さのせいで世界とか時代に巻き込まれていった美沙という女と、徹男という男の話だと思うんです。さらに徹男の兄の山田先生も含め、ですけど。純粋なまま土臭いところに堕ちていくというか、大きな社会の流れに飲み込まれていく印象がすごく強くあるんです。でもそんな中でも毅然としたもの、あるちょっとした上品さも感じる。そういう土臭さと、すごく綺麗な部分との間で行ったり来たりができたらいいなと思っています。
鈴木 杏
――美沙というのは本当に、いろいろな面を出さなきゃいけない役ですね。
後半は特に、美沙自身がどんどんいろいろなことを発見していきますしね。ホント、ものすごく壮大なひとり語りの戯曲だなと思います。そして、とにかく熱量がすごい。
――そこに立ち向かうメンタルもより強くなきゃいけないのかなと思ったりしました。役に飲み込まれたら、かなりヘビーな思いをしそうで。
そうなんですけど、でもどこかでシンクロしていかなきゃ舞台には立てないと思うので。そこを、どうバランスを取っていくのか、私もまだ今はわからないですけど。
――役を演じていることで自分自身が影響されることは、あるほうですか?
そのキャラクターにもよりますけど、友人曰く、顔つきが変わったりすることもあるみたいです。あと、役の姿勢で長くいることになるせいか、身体が変わります。最近では『キレイ』で演じていた社長令嬢ダイダイカスミが、お嬢様っぽく両腕を曲げて一定の位置でキープしていることが多くて。そうしたら、ボディビルダーの人しかつかないような胸筋がついてしまったみたいで(笑)。カスミお嬢様として腕を上げていたから「これ“カスミ筋”だね!」って笑ったんですけど​。
――演じる役によって、筋肉がつくほど姿勢が変わるんですね。
姿勢もそうですけど、私の場合はその時によって食べたいなと思う食べ物が変わったりもします。やたらと中華が食べたくなったり、なぜかマシュマロが食べたくなったり。ふだん全然食べないのに、マシュマロなんて。『キレイ』の時はリンゴでした。リンゴをいつも丸かじりしていたので、いくちゃん(生田絵梨花)に大笑いされちゃいましたけど(笑)。
――美沙は、何を食べたくなるでしょうね。
何でしょうね。とりあえず、ものが食べられるような精神状態でいられるといいですけど(笑)。
鈴木 杏
――三好十郎作品に憧れていたとおっしゃっていましたが、たとえばどういうところに魅かれていたのでしょうか。
『浮標』という作品を拝見した時に、言葉の綺麗さと熱量と、なんだか青い炎のような、すごく綺麗なものを浴びた印象があったんです。すぐに『浮標』の戯曲を買って読んだりしていたので、あの言葉の美しさというものがずっと心に残っていて。
――稽古に取り組むにあたり、どんなことを目標にしたいですか。
まずは、本番を楽しめたらいいなと(笑)。ひとりで自分勝手に楽しむのではなくて。あと、ちょっと遊びの部分があるくらいの、余白みたいなものを持っておくことも目標かなという気がします。ちゃんとその日その日の客席の温度や、その日その日の自分の中での違いも感じたい。毎日、何かしら発見できることが一番、本番で楽しいことなので……。でもある程度の自信と、ある程度の安定がないと、発見することは難しいので、そのためにもまずはしっかりした土台を作りたいです​。
――栗山さんとは何度もご一緒されていますが、改めて栗山さんの演出の面白さとは。
いきなり「そこで寝っ転がってみて」とか、予想がつかない動きを言われたりすることがあるんです。「何歩か、後ろに下がりながら言ってみて」とか「ここからここまで移動してみて」とか。でも、その通りにやってみると、演じている役の気持ちの発見に繋がったりするので、それがすごく面白い。栗山さんって魔法使いみたいだなあって、いつも思っています(笑)。
――稽古場では、先生みたいな印象もあります。
そうですよね、先生とかお父さんみたいな感じ(笑)。安心して恥ずかしいところもみせられる。
――そして劇場がシアタートラムというのも、この戯曲にピッタリだなと思いました。
私としては、やっと、やっと立てる!という気持ちです。憧れの劇場だったので。まさか、ひとりで立つことになるとは予想していませんでしたけど(笑)。
――初めてなんですね。それもちょっと意外です。
観客としては何度も通っている劇場なんですけど、立つのは初めてなんです。だけど私には贅沢過ぎる環境だなとも思っていて。
――劇場も、独り占めですね。
シアタートラムも独り占めです(笑)。本当に、私なんかにもったいないという気持ちがすごく強いです。お客さん、ちゃんと来てくれるかなあと、それも心配です。だって、私ひとりを観たいと思ってくださるような奇特な方なんて、いらっしゃるんだろうか。
――もちろんたくさんいますし、ひとり芝居好きの方もきっと興味津々の作品だと思いますよ。では最後に、お客様に向けてお誘いメッセージをいただけますか。
これは、どんな方にとっても他人事ではない物語だと思いますし、時代背景に関する言葉はところどころ難しいかもしれないけれども、描かれているのはすごく身近な問題だったり、身近な感情だったり、身近な温度だったりすると思います。みなさんの心にスッと届く作品にしたいですし、とにかく戯曲としてはものすごく面白いです。なのであとは私の出来次第です(笑)。でも私と美沙、ひとりでふたりの人間が四苦八苦しながらも懸命に生きる姿が、目撃してくださった方の次の日の活力になれるように、捨て身の覚悟で挑みます。是非とも面白い演劇にしますので、みなさんどうぞ劇場に足をお運びください!
鈴木 杏
取材・文=田中里津子  写真撮影=荒川潤

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