INTERVIEW / Kroi 「なんかお洒落」
の先へ――濃密なグルーヴと新鮮なミ
クスチャー・スタイルで異彩を放つK
roi。彼らが提示する本質的なブラッ
ク・ミュージック

早耳なリスナーからはすでに高い評価を受け、メジャー・レーベル各社がライブに足を運ぶバンド・Kroi(クロイ)。
特に年明けからのライブはどれも、彼らが近いうち音楽シーンにとって大きな存在になるであろうことを予感させるステージで、「今このタイミングでKroiを観られたこと」を噛みしめるような観客の熱気が目に映るようだ。
今回はメンバーの一部が同居するシェアハウスに赴いて、音楽シーンに大きく打って出る前夜の彼らの音楽的ルーツ、バンドのスタンスなど、名刺代わりになるような基本情報を聞いた。
※本取材は東京都の外出自粛要請の発表前に実施しました。
Interview & Text by ヒラギノ游ゴ(https://twitter.com/1001second)
Photo by おおもりめぐ(https://www.instagram.com/meg_omori/)
[L→R:千葉大樹(Key.)、内田怜央(Vo. / Gt.)、長谷部悠生(Gt.)、関将典(Ba.)、益田英知(Dr.)]
各レーベルが争奪戦中
――結成してまだ2年目に入ったばかりですが、すでに都内のめぼしいライブハウスから軒並み声がかかって出演している印象です。
内田:そうですね、1回だけ「出させてください」って電話したことあるけど、ほかは全部呼ばれて出てますね。
関:でも、マジで何もしなかった期間があるんです。結成2ヶ月で『出れんの!?サマソニ!?』の最終審査までいって、「いけんじゃね!?」ってなってたんですけど落ちちゃって。それで一気に萎えて。
――(笑)。
関:調子こいてた分ダメージもでかかったんですよね。でも、萎えてるときにあるライブハウスから「出ませんか」って声かけてもらって、そこから「萎えてる場合じゃない」って火が付いてまじめに活動するようになって今に至る、って感じですね。
――ライブを始めてから割とすぐにレーベルの人が観にくるようになりましたよね。
千葉:ほぼ業界関係者しかいないライブあったよね?
内田:あったあった! 10人くらいほぼ全員レーベルの人だった。
――その中のどこかと一緒にやっていくのかどうかどうか、今後の展開を楽しみに待ってます。
最初に自分で選んだ音楽
――バンド名の通り、Kroiにはブラック・ミュージックとして括られるような音楽のエッセンスを強く感じますが、皆さんがどういう経緯を辿って今のようなスタイルに至ったのか知りたいです。
内田:おれは元々ドラマーなんです。小学生の頃レッスンに通ってて。そこで課題曲として出されたB’zが最初に刺さった音楽だと思います。
――B’z! だいぶ印象と違いますね。
内田:Shane Gaalaas(B’zのサポート・ドラマー)かっけえなってとこが始まりなんですよ。で、B’zを経由して中2でレッチリ(Red Hot Chili Peppers)を知って。
――B’zとレッチリって接点ありましたっけ……?
内田:「イチブトゼンブ」っていう曲をChad Smith(Red Hot Chili Peppersのドラマー)が叩いてたんですよ。レッチリっていろんなジャンルに影響を受けてできてるバンドだから、レッチリからヒップホップ、ファンクって広がって聴くようになっていった。「Higher Ground」も調べたらStevie Wonderのカバーだったりして、「ブラック・ミュージック、めっちゃおもろいな」って。
――内田さんのヴォーカリゼーションは無理やり矯正した感じがなく、ごく自然にブラック・ミュージックのタイム感でノっているように感じるんですが、今おっしゃったように縦ノリの癖が付く前にそういう音楽を聴き始めたのが理由かもしれません。
内田:それはあるかもしれないです。音階より先にリズムで音楽を聴くようになったので。跳ねたリズムがおもろいなと思えたのはドラムやってたからだと思います。
――なるほど。長谷部さんはいかがですか?
長谷部:最初に聴き始めたのは尾崎豊ですね。
――これまた意外ですね。
長谷部:最初はフォークでした。洋楽を聴くようになったのは映画音楽がきっかけです。『星の王子さま』って映画を好きになって、後からNile Rodgersって人が音楽監督らしいって知って調べたり。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にもChuck Berryの曲が使われてるし。
内田:おれはDaft PunkでNileを知って、そこから遡ってディグっていったな。
長谷部:世代的にはそういう人が多いよね。
――Nileにどっぷりだった頃はやっぱり、ピックはこう(親指と人差指で摘むように)持って?
長谷部:やりましたやりました。
内田:超逆アングル(裏拍が強調される弾き方)でね。
長谷部:で、ブラック・ミュージックにどっぷり入ったのは、高校生の頃ブルーノートにKool & the Gangが来て、それを観にいったのがきっかけです。
関:おれは小6の頃にエレファントカシマシとかウルフルズとか、男臭い感じのバンドを聴くようになったのが最初です。大学に入ってからレイジ(Rage Against the Machine)を入口にしてメタルにハマったんですけど、バイト先の楽器屋の店長からブラック・ミュージックを教えてもらって。レイジにも黒いノリを取り入れた曲があるので、「あれってこれか!」って。そこからどんどんブラック・ミュージックを掘っていきましたね。
益田:おれは小6でアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)を聴くようになったのが最初です。中学からOasisをきっかけにUKロックを聴き始めて、いろいろ聴いている中である日YouTubeのサジェストにJohnny Winterの「Key To The Highway」が出てきて、それを聴いてからはブルースにドハマりです。
益田:Johnny Winter以外のブルースマンだとLeroy Carrとか。ミシシッピにはミシシッピの、テキサスにはテキサスのよさがある。50年代のブルースなのかブギウギなのかわからないとこまで掘っていったり。……でも、Johnny Winter、みんなにも勧めたんですけど、そんなに刺さってないっぽくて。
内田:いやいやいや、おれらだって大好きだよ!(笑)。あなたが熱すぎるだけだから。あと、ドラマーでブルース好きって、ねえ。
――ですよね。ブルーズっていうと花形は基本ギターだから、おもしろいなと思ってました。
益田:ファイヤーバード(Johnny Winterの愛機として有名なギター)も持ってますよ。でも、確かにドラマーとして特に自分のプレイに活きてるってことはないですけど……。
一同:(笑)。
千葉:みんなの話を聞きながら初めて買ったCDを思い出してたんですけど、たぶんORANGE RANGEの「チャンピオーネ」かロードオブメジャーの「心絵」ですね。
内田:懐かしっ。
千葉:確か「チャンピオーネ」はワールドカップかなんかのタイアップ曲で、「心絵」もアニメの主題歌だったので、当時はほんと自発的に音楽を掘って聴いてなかったですね。だから、親父のカーステで流れてた音楽の影響はでかくて。山達(山下達郎)とMichael(Jackson)ばっかりなんですけど。でも、山達もMichaelもファンクやソウルに根ざした音楽を作っているので、自然と自分の周りにずっとブラック・ミュージックの要素はあったんですよね。
影響を受けたプレイヤー
――では、続いてもう少し掘り下げて、影響を受けたプレイヤーについて伺います。
内田:ラップの部分ではLauryn Hillですね。あと、R&Bっぽい歌い方でいうと、めちゃめちゃ意識してるってわけじゃないけどAl Green。あとはやっぱり、Anthony(Kiedis)にはたぶんかなり影響受けてると思う。
――レッチリが好きだって言うバンドマンはプロアマ問わずたくさんいるけど、バンド全体としてレッチリの影響を体現しているバンドってなかなかいないなと思います。
内田:「レッチリだな」ってバンドいないっすよね! 好きな人はいっぱいいるんだけど。
関:Flea好きなんだろうなってベーシストや、John(Frusciante)好きなんだろうなってギタリストはいるけど、バンド全体の音楽性としてってなるといないですね。
内田:そうそう! FleaとJohnばっかりで、Anthonyを昇華できてるバンドはいないよね。レッチリってどうしても楽器隊が注目されがちだけど、Anthonyはエンターテイナーとしてとんでもないものを持ってると思うんですよ。おれもラップの面ではだいぶAnthonyから受けた影響が色濃く出ていると思う。
関:うんうん。
長谷部:おれが影響受けてるギタリストは、最近だとCory Wong。リードとバッキングを一緒にやるスタイルですね。遡るとCornell Dupreeがああいうスタイルを最初にやったと思っていて、Cornellの教則本買って練習してた時期もあります。あと、ブルースがルーツにあるギタリストは好きですね。
――長谷部さんのギター、前々から不思議だなと思ってたんですよ。バッキングではこれぞファンクっていうカッティングをするけど、ギター・ソロはかなりブルーズっぽいリックで。両方好きなんですね。
長谷部:そうですね、本当に両方好き。
関:おれはJamiroquaiのStuart Zenderにかなり影響受けてます。フレージングとか、オクターブを多用するところとか。元々YouTubeにジャミロのコピー動画をよく上げてて、知らず知らず自分のプレイにも活きてきたみたいです。
それとはまったく別ベクトルですけど、アース(Earth, Wind & Fire)のVerdine Whiteも好きです。ああいうめちゃピッキングが強いベーシストにも憧れていて、独特のコンプ感は常に意識してます。あと、ステージングはレイジのTim Commerfordですね。フロントマンが縦横無尽にステージを動き回っていて、他のメンバーは定位置にどっしり構えている、あの感じがすきなんですよ。重たく立ってるというか。
――突っ立ってないですよね。動かずそこにいることに意味がある立ち方。
関:ですね。あのちゃんと定位置で仕事をしている感じ。
益田:Vinnie Colaiutaとか好きなんだけど、神業過ぎて全然参考にできてはないですね。Steve Jordanみたいな、バックビートがかっこよくて、周りが自然といきいき演奏できるようなスタイルは、けっこう影響受けてると思います。
千葉:おれはもう、ブギウギっていうスタイルをずっと続けてるんですよ。子供の頃、親に連れられてレ・フレールっていう兄弟でピアノを連弾するデュオのコンサートに行ったんですけど。あれブギウギなんですよ。その頃ヤマハ音楽教室にピアノ習いに行ってたんですけど、レ・フレール聴いた次の月に辞めて、それからずっと、小学校後半から中学生までかな、ずっと1人でブギウギ弾いてました。
――一気に覚醒したんですね、好きなもの見つけて。でも、その年頃の子供には高度なものだったのでは?
千葉:簡単ですよ。ブルースのスケールに少し足すとブギウギになるので。楽だから、すぐアドリブ弾けるようになるので楽しくて。型がしっかり決まってるから、その枠の中で遊んでる限り破綻しないというか。おれ、けっこうどの曲も何弾くか決まってないので、いつもライブでは好きに弾いてますね。
「邦楽のボトムアップ」について
――以前別の機会に「邦楽のボトムアップ」や「邦楽全体を盛り上げたい」という話をしていたと思うんですが、Kroiがネクスト・ステージに向かっている今、改めて詳しく伺えますか?
内田:そうっすね、なんていうか、今でこそ邦楽おもしろくなってきてると思うんですけど、学生の頃って「なんやこれ?」ってのが多かったよねってのはメンバー同士よく話すんですよ。
関:大変だったよね。
――いいと思えるバンドが少なくて、楽しめる音楽を見つけるのに苦労した、と。
関:薄っぺらいなって思っちゃうというか。今より少し上の世代で目立っていたバンドって、声に癖があるとか、歌詞の突飛さとか、わかりやすい真新しさが重視されている気がして。音楽的なバックボーンがなんなのかよくわからなくて入っていけなかったんですよね。
内田:そういう流れが一通り出尽くしたところで、黒いノリのバンドがいくつか出てきてくれて、そういう音楽がよくも悪くも「お洒落」なものって認知された。おれたちはこの流れをより先に進めるというか、より深いものを提示できるようになりたいなって思うんです。「なんかお洒落」で終わりそうなリスナーの感度を、本質のところに連れていけたらいいなって。
――なるほど。
内田:ただ、今ルーツのある音楽が上がってきてるのはとてもいいことだけど、逆にUSの真似で終わらないかってのは危惧してて。韓国の音楽は今世界で聴かれてるけど、邦楽だとようやく山達が何十年越しにコアなクラブ・シーンでヒットしたって状況。日本のシーンごと世界に注目されるのが理想なんだけど、単なるUSの真似で終わっちゃうと、わざわざ日本人がやってるのを聴く理由がないですよね。どうせ似たような音楽性なら、自分とこの人間がやってるの聴くわって。そうならないようにしたいってのはある。自分のルーツだし、日本っぽさは曲に落とし込まないとなって思います。
――それはどういった点ですか? Kroiの曲を聴いていると、例えば特にヨナ抜きを多用するようなところは感じないですが。
関:うーん、メロディ・ラインのベタさ、いなたさというか。
内田:あと、ヴァースとコーラスではなく「Bメロ」ってものがある曲の構成は日本ならではのものだと思うので、そこは大事にしてます。そういう日本人向けのキャッチーさもあり、音やフレージングが海外の要素っていうのが、ちょうどいい処理の仕方なのかなって。
――なるほど、曲の構成の部分ですね。そういえば、Kroiって大サビをちゃんとやりますよね。単に洋楽っぽくしようと思うと避けがちだと思うんですけど。
内田:それはもう、やりたくなっちゃうんだと思います。日本で生きてきて、街中で聴いてきた音楽から受ける影響ってやっぱりあって、染み付いたものだし。でも、やりたくなっちゃったけど「これは違う!」というのもあって、そこの見極めは最大限注意していたいですね。いい相乗効果が生まれる、気持ちいいものができるときはやっちゃえばいいけど、そうならないときもある。その部分は毎度悩み続けないと。いろいろ試行錯誤して、日本人ってことをレップできるようにしていきたいです。
関:極端なことを言えば、Chance The Rapperを聴くのと同じようにKroiも聴く、という状況を作りたいです。「日本人」っていう特別枠じゃなく。そういう選択肢に日本の音楽水準が上がるのを目指してます。
――自分たちKroi単体でなく、邦楽シーン全体でいこうとしてるんですね。
関:そうですね。おれらのやりたいことをクリアしていくためには、自ずと周りのバンドを引っ張れる存在にならざるを得ないというか。結成当初から海外進出はしたいって言ってるけど、そのためには前提として日本のトップにならないといけない。日本のシーンを味方につけて、「行ってこい!」って言ってもらえるようなバンドになりたいので。
――海外進出を視野に入れているということですが、丸々英語詞の曲はないですよね? その点どう考えているのか聞きたいです。
関:そういえばないですね。でも、海外行くから英語ってのは違うと思ってます。っていうのも、自分だって洋楽聴くとき一言一句わかるわけじゃない。それでも、歌詞はわからなくても音で「うおお!」ってなる体験はあるじゃないですか。
内田:そういう聴き方を向こうの人にもしてもらえたら、ってのは思うんだよね。言語関係なく音で「いい!」ってなる聴き方に英語圏の人たちが慣れたら、世界が相当おもろいことになる。それこそ今、韓国語の曲をUSの人が聴いてノってる状況が生まれていて、だんだん実現が近づいてると思うし。その流れを上手く掴んでいきたいですね。
【リリース情報】
『hub』配信アートワーク

『hub』CD版アートワーク

Kroi 『hub』
Release Date:2020.05.27 (Wed.)
Labbel:Kroi
Tracklist:
1. Mr. Foundation
2. Interlude
3. Bug
4. Network
5. Shincha
※CD:限定デザイン紙ジャケット仕様、インスト楽曲収録
■ 『hub』特設サイト(https://hub.kroi.net)
■ Kroi オフィシャル・サイト(https://kroi.net/)

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