『分島花音の倫敦philosophy』 第三
章 新型コロナウイルス状況下、3月の
ロンドンと帰国について

シンガーソングライター、チェリスト、作詞家、イラストレーターと多彩な才能を持つアーティスト、分島花音。彼女は今ロンドンに居る。ワーキングホリデーを取得して一年半の海外滞在中の分島が英国から今思うこと、感じること、伝えたいことを綴るコラム『分島花音の倫敦philosophy(哲学)』第三回目となる今回は新型コロナウイルスの影響下で、急遽一時帰国した分島が、現地の状況と今を語る。

春が来て、お花見もできぬまま今年の3分の1が過ぎようとしています。
このコラムでは変わらずロンドンでの出来事をお伝えしようと思っておりましたが、状況が急激に悪化し、3月の中旬頃には街も生活もガラッと変わってしまいました。
私は今、日本に一時帰国をしています。予定変更になってしまいますが、今回は3月に入ってからのイギリスの様子と、日本の現状との違いなどをお伝えしていきます。
私は3月の頭に仕事で10名ほどの日本人の方にお会いしました。アジアでコロナウイルスが流行り、アジア圏の人たちがヨーロッパで差別を受けているといった情報が出回っていた頃でしたので、渡英して来た皆さんは少し心配していた様子でしたが、まだロンドンはお店も開店しており、街も変わらず賑わっていましたし、私たちを乗せてくれたUber(タクシー)の運転手さんもとても親切にしてくれました。私がロンドンいいた間、あからさまな差別は受けませんでしたし、友達は日本の状況を心配してくれました。その時はロンドンの人たちも、渡英して来たみなさんもまだそこまでコロナウイルスを深刻に捉えていなかったように感じます。
その2日に後にカメラマンの友人とヘアメイクの友人3人で撮影も兼ねて中心部に出かけてみましたが、テートモダンも開館していて、中も連日とさほど変わらない人の量。レストランも開店していて、外を歩いている人の中にも観光客を見つけられました。
その2日後に以前から計画していたパリへ旅行に行きました。ユーロスターのチケットを購入した時よりもフランスはコロナウイルスの感染者も増えている様子だったので少し心配はしていましたが、美術館が開いているようだったので私の意識もそこまで深刻に捉えてはいませんでした。ユーロスターは夜明け前の早い便で、日本語を喋っている人も数人お見かけしましたし、パリ市内にも日本人が結構歩いていて、目的地ごとに必ず見かけるほど観光目的の日本人をたくさん見かけました。心配していた差別などもなく、私がお店に入りたどたどしいフランス語で伝えようとすると日本語で話しかけてくれる店員さんもいたくらいです。
パリ旅行にて 撮影・分島花音
そして帰国してから数日後、ロンドンでお手伝いをしていたレストランがお休みに入るという連絡をもらいました。ロックダウンより少し手前のことだったと思います。お客さんの数が減っていることもあり、その時は翌週まで様子を見るという感じの休業でしたが、事態が深刻化して来たことと、3月中旬にロックダウンになったことでお店はそのままお休みに。その時日本ではお花見をする人がいたり、飲み会をしている現場があるなどと聞いていたので、ロンドンとは随分温度差がある印象を受けました。
一方ロックダウンの始まったロンドンはスーパーと薬局以外は全てお店が閉まり、スーパーも商品が日に日に品薄になりガランとした商品棚がことの重大さを表していきます。普段より買い込んでいる様子の人もいて、レジには長蛇の列、その頃からトイレットペーパーが買えなくなるなどの状況になっていきます。
不要不急の外出は控えるということで、私も数日に1度食料を買いにいく程度で家にいる時間が長くなり、人に会えないことでだんだんと不安も強まって来ました。
私は今年に入ってからすでに帰国のチケットを買っていたので、帰国を早めようか検討していた時でした。語学学校が一緒だった留学生の友人から、学校が休校になってしまったので急遽帰国することにしたと連絡がありました。その頃にはイギリスにいる日本人留学生の多くが帰国を決めていた時期だったように思います。4月に入ったら帰国できるかも怪しくなってしまうと感じ、私も帰国日を早めることにしました。この時帰国の予定がなければ、そのままイギリスに残っていたかもしれません。
全ての荷物は持って帰れな買ったので、トランク1つでの一時帰国でした。日本に到着すると2週間、自宅かホテルで隔離生活をしなければなりません。滞在先を書いた紙を提出する為2時間ほど並びました。はじめは体温計など測るために並んでいるのかと思っていましたがそのようなこともなく、紙を提出するだけ。公共機関の乗り物は使用できないので私は自家用車で迎えに来てもらいましたが、到着ゲートを抜けると係員も見当たらないのでそのまま電車やバスを利用できてしまうような状況に少し驚きました。そして私の隔離期間中、日本国内も自粛要請で閉まるお店が増えたり、外出を控えるよう呼びかける著名人が増えたりと危機感が強まって来た印象です。
3月のロンドンの町並み 撮影:分島花音
またすぐ戻ってこられるだろうとあまり深く考えずに荷造りをしましたが、今はイギリスに戻れるのかすら危うくなっている状況です。ロックダウン中のロンドンはこれから春がやってくるという暖かな空気に包まれていました。いつのまにか庭に様々な花が咲き始め私の好きなスミレも、タンポポと共に地面を鮮やかに彩っていましたし、早咲きの桜は日本と同じように鮮やかな青空とのコントラストの中美しく花を揺らしていました。買い物に出るわずかな時間に閑静な住宅地を歩く度、目に見えている景色はこんなに穏やかなのに、今たくさんの人が苦しんで世界が大変な状況に陥っていることが信じられませんでした。
理由がどうであれ、せっかく皆さんに送り出してもらったのに滞在や計画が志半ばになってしまいそうなことを残念に思うと同時に申し訳なく感じています。ミュージシャンやライブハウス、エンタメ業界の今後が懸念されていますが、そのほかの職もそれぞれの問題を抱えて私の周りもいろんな形でこの状況に参っている人たちがいます。
ウイルスも脅威ですが、気持ちを病んでしまうことも恐ろしいことですし、周りにも少なからず影響を与えます。不安を抱えている人はどうかあまり思い詰めず、自分自身を労ってください。私も早くライブがしたいです。たくさんの人と関わって、音楽で楽しい空間を一緒に作りたい。イギリスも日本も関係なく、たくさんの人に自分の表現を体感してほしい。またそれができる時まで、皆さんの心身の健康を願うばかりです。
次回こそは気分を変えて、イギリスでのレコーディングの様子をお届けいたします。
文:分島花音

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