THE ORAL CIGARETTESが激動の世に掲
げる「ロックバンドが鳴らす音楽、鳴
らすべき音楽」

前作『Kisses and Kills』からおよそ2年弱、THE ORAL CIGARETTESの5thアルバム『SUCK MY WORLD』が完成した。これまで以上のインターバルを空けた前作からの期間、配信をメインにリリースしてきたいくつもの楽曲とそのMV、アートワーク等を通じて一つずつ入念に、慎重に表現を重ねることで張ってきた伏線の全てが帰結する大作だ。全15曲にも及ぶボリュームでありながらこだわり抜かれた1曲ごとのクオリティ、サウンドにおけるレンジの広さ、時代とも呼応した鋭敏なメッセージ。そして作品を貫くロックバンドとしての矜持――。あらゆる面でこれまでのオーラル像を粉砕・再定義するこの最新作はいかにして生まれたのか。奇しくも激動のタイミングで世に出ることとなった『SUCK MY WORLD』が描く世界とその魅力を語り尽くす。
――アルバム『SUCK MY WORLD』、僕個人の感想としては、今までで一番好きです。
山中拓也(Vo/Gt):やったぜ~!
一同:(笑)
――ここ最近は一曲単位で世に出しながらアルバムへと向かってきました。その間、どんな風に過ごしてどんなことを考えていましたか。
山中:自分の中では『Kisses and Kills』が終わって次ってなったときから、"こういうことをしていきたい"っていうのはあって……最初は僕の身に起きた、超スピリチュアルな話から始まったんですよ。だからメンバーに話すのもちょっと怖かったんですけど、去年の夏フェスでホテルで気絶して夢を見たことが大きくて。「一回ちょっと話聞いてくれへん?」ってみんなを集めて、「こうこうこういうことがあって、次のアルバムはこういうコンセプトで行きたくて」って、自分的には結構勇気を振り絞ってしゃべったら、意外とみんな「一緒にやろう」みたいに言ってくれて。そこから一丸となって進んで、自分も自信持ってスタートしましたね。
このところは結構ボリューム満タンでアルバムのことをやっていて。最終の詰めで、紙をどうするだとか特典をどういうふうに出していくかとか、そういうところ――今回のアルバムは、何故ここまでこういうジャケットの出し方をしているんだとか、色々と伏線を張りながらやってきたので、その最終の回収をわかりやすくみんなに伝えていくための、このアルバムを最大限に伝えるための作業をずっとやっている感じです。
鈴木重伸(Gt):最初、話してもらったタイミングでの受け取り方は、自分の中にない視点や価値観だったので、そこにすごく興味を持ててワクワクして。そこからシングルを打っていくにあたってジャケットだったりのアプローチだとかは、拓也の中でもう固まっていて、ビジョンが見えてるっていう意志の強さを感じたので、そこは任せたところが大きかったですね。
――そのビジョンに則って進んできた現時点では、各自どんなことを感じてますか。
あきらかにあきら(Ba):「やりたいこと」と「やれること」のバランスはすごく難しいんです。拓也のやりたいことを、僕らは絶対に一緒の気持ちでやりたいけど、でも技術的や物理的に無理だったりもするので、そこの落とし所みたいなのを……探してるわりには、めちゃめちゃやりがいはあります、という答えになるんですけど。すごくいろいろと試し試しやってるし、より分かりやすいように届けたいと思っているものを、ちゃんと届けられている自覚はある。でも最終的な答え合わせは結局、ライブで拓也の口から言うMCとかでちゃんと伝わったらいいなと思ってます。
――やはり、過去の作品とは向き合い方が違いましたか。
あきら:全然違います。今の規模になったからようやくできるくらい潔いことができたし、ファンとの関係性もより深く作れている上で、いろんな挑戦ができた。あんまり気を使わなくなったかもしれないですね、お客さんに対して。今までのオーラル像みたいなものをちゃんと壊せたアルバムになったと思います。
山中:俺から見て、メンバーはこのアルバムですごく音楽に貪欲になったなと思っていて。いろんな音楽を共有したし。これまでは俺の作る音楽じゃなくて他のアーティストが作る音楽、俺が今リアルに聴いてる音楽やアーティストが、次はこういう動きをしていくんじゃないか?みたいなことの共有はそこまでしてこなかった気がして。このアルバムを作ろうとする上では、音楽的な部分の知識を付けなきゃいけないことも圧倒的にあったから、今回のタームはすごく共有した記憶がある。
中西雅哉(Dr):僕はわりと制作の早い段階で拓也と作業する立場なので、普段からライブの楽屋だとかで、拓也が今どういうモードなのかとか、どういう曲を聴いているのかをわりと気にしながら生活をして、そこで自分なりにヒントを拾いつつ、自分でそういうジャンルの曲を探して聴いたりっていうのが、何年か前から生活リズムの中にあったんですけど。今回は拓也から明確に、メンバーのLINEにサブスクのリンクが飛んできたりとか、そういうことが結構あったから、そこで「これやったら俺が最近聴いてるこれもハマるかな」とか、すごく近道というか「これなら早いよね」という感覚があった。(今までは)そこをせずに来てたから、まぁ、それがあったからこそイメージだけから探す力とかも身についたんかなとも思いますけど、直接明確に共有することでブレの少ない作業ができたので、みんなの意識が向く点もすごく明確でしたね。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=高田梓
――このタイミングで、これまで以上に明確にイメージを共有するようになったというのは、何故だったんですか?
山中:このアルバムの1曲1曲が、絶対必要な知識みたいなものが求められる曲たちばっかりというか。この知識がないとこの曲を鳴らす意味ないよ、みんなの中にここの精神性をちゃんと入れといてねとか、そういう曲たちがすごく多かったんです。
『Kisses and Kills』までは未来の話をしてきたので、そこに対しては参考はいらないんですけど、今回は過去に戻っていく、根源をたどるっていう作業をするアルバムだったので、そこを知らずにやっちゃうと全く説得力を帯びてこないっていうのが一つと、あとは時代の流れもしっかり分かっておいてほしかった。なんで今俺がこういう提示の仕方をしようとしてるのかも、過去を掘ることでその知識を自分のものにした上でないと伝わらないし、アートワーク然りPV然り、音楽を奏でること一つを取っても、それが絶対的に必要になってくると思ったので。今ここではこういうものが流行っていますとか、こういう流れで来てるから次はこれが流行ると思うんだよね、みたいな話だとかもちゃんと共有しておかなきゃ、このアルバムは出来ないと思っていたのが一番デカい理由ですね。
――上っ面だけをなぞるわけにはいかなかったと。それもあってか、僕がこの作品をすごく好きなポイントは、音だけで言えばこれまでの作品で一番“ロックバンド的ではない”と言えるのに、とても“ロックな作品になっている”という点なんですよ。
山中:それはめちゃくちゃ嬉しい言葉ですね。音で言えばロックバンドから離れたけど、精神的な意味で一番ロックバンドに近づいてる感覚は、僕自身すごくあって。バンドでこれを鳴らすことに意味を見出すっていう、そこで発するメッセージ性だとか、作って行き方がちゃんとロックバンドできたっていうところが、一番デカくて。
サウンド面の共有の手前の根本みたいなところ――なんでこのサウンドをチョイスしたのかっていう、そもそものテーマの共有をしてからサウンド作りに励む流れがしっかりあったからこそ、薄っぺらいものにならなかったし、今回はちゃんとメンタルとしてロックバンドが鳴らす音楽、鳴らすべき音楽を、いろんなジャンルの曲で鳴らせた感覚なので。サウンドだけ取って聴くと、「なるほどね」「こういうのもこういうのもあってバラエティ豊富だね」ってなるんですけど、僕の中では一貫してロックバンドの意志みたいなものを見せれたなって思っているので……その言葉がこのインタビュー期間の中でも一番嬉しい言葉かもしれないです(笑)。
――この作品をロックたらしめているのは、歌っている内容や時代性……2020年に表現者が表現すべきことって何なんでしょうね?っていうところまでちゃんと盛り込んであるのも大きくて。それは、かつてロックバンドが負っていたのに、だんだんと無くしてしまっていたことでもある。制作中、そういうマインド面を何か言葉に表したりはしていたんですか。
山中:さっき言った、「根源に戻る」っていうのが合言葉だったんだと思います。全ての曲で、ちゃんと過去に対するリスペクトをどれだけ持てるか。でもそのままだったら2020年に鳴らす意味がないから、それをオーラルなりにどうアップデートするのか、昔のリスペクトしてる部分をどうやって今のリスナーに伝えていくのか。そういう部分をテーマとしてみんなで共有して、リハなりレコーディングをしました。
――それぞれの音楽ジャンルはどういう時代にどういう人達の中で興っていったんだっけ?みたいなことも。
山中:そうですね。最初はわかりやすく、ジャケットやPVでの服装とかそういうところから共有を始めて。たとえばポストパンク一つ取ってみたときに、どういう時代背景があったのかと、どういうバンドたちがそこにいて、どういう流れでポストパンクが生まれたのか、みたいなところをちゃんと調べるような空気をメンバー内で作るっていうことが、すごい大事だったなと思ってます。
鈴木:このアルバムはほんま、すごく勉強になって、純粋に楽しかったんですよ。できないことも結構あったし、知らないことも多かったけど、そこに対してあんまり後ろめたいネガティヴな、「わかんないから任せるわ」とか「あんまりやらないことやから受け付けません」みたいなことは全くなくて。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=高田梓
――なるほど。あとはこれまでの作品以上に、受け手にとって示唆に富んでいるとも思ったんですね。「俺らはこうだよ」っていう先の、動かそうとする意志。それは歌詞によるところも大きいかもしれませんが、そこもポイントとなっている作品かなと。
山中:そうですね。それも自分の中でテーマとして歌詞を書いていたところではあります。そもそも、俺らは「就活を蹴ってバンドやるんだから、売れなきゃ意味ない」「同じ大学のやつより稼いでなきゃ意味ない」っていう、すごく現実的な話をするところからTHE ORAL CIGARETTESを始めたから、フェスシーンもそうだし、自分たちのやりたいことと需要に応えることのバランスを上手くとりながらやってきたつもりで。
クラブシーンとかインディーズシーンには凄い実力を持ったアーティストはいっぱいいるにもかかわらず、やっぱりその音楽や精神性とかが一般に届いてなくて、日本という国の中では“規模感”が少なからず重要視されるんだなっていうのをすごく感じていて。じゃあ本当にやりたいこと……日本や世界を変えたりするバンドはどういうバンドなのか?って考えたときに、自分たちの中で一線、どこかまで目標を持たなきゃいけなかった。そこまで行ったときにはこういうメッセージを発信してもいいよね、っていう意識をしながらずっとやってきて、ようやく今こうしてアリーナツアーを回れるようになった先、どういう風に進んでいきますか?ってなったときに自分たちが発信するメッセージは、ちゃんと説得力を帯びてくるはずだから。本当に心の底でフツフツと溜めていたものを爆発させるタイミングは今だよねっていうのは、なんとなく今回のアルバムで感じていて、それが歌詞には表れているんだと思います。
――組んだころから、そのうち言いたいんだって秘めていたことと、2020年の今だから言いたいことって、重なることもあれば変わってくることもあると思うんですけど。
山中:かなりアップデートはされてると思います。あの頃の自分たちの……言い方は悪いですけど人間レベルと、何年間か人と関わらせてもらっていろんなお客さんの前でやらせてもらってきた今とでは、やっぱり考えることは全然変わってくると思うんですよ。ただ、何かに対してずっと不満を持っていたりだとか、世間や大人が嫌いだったあの頃の俺たちの気持ち、ロックバンドとして「それ、おかしいでしょ」ってなる部分の根底はずっと変わってない。時が進めば進むほどいろんな事象が出てきて、そこに対して思うことも増えていっているから、アップデートはされてるけど、「いつか絶対見返してやる」「変えてやるからな」っていう気持ちはずっと引きずってきた感じで。
鈴木:拓也の根本にある精神性みたいなものは、元をたどればこの事務所のオーディションでもMCの言葉であったりとか(笑)、そういう頃からずっとあるのは知っているし、自分自身そういうところがすごく好きなのはありますね。
中西:僕のイメージとしては、今までは楽曲によっていろんなものを身につけたりしながら、拓也の中にあるものをテーマに沿って歌詞にしていたのが、今回はそういうのを無くして一枚肌着を脱いだような感覚の歌詞が増えた印象があって。すごく自然体に近づいているというか、それをうまく書いたり歌えるようになっているのは楽曲の力も大きいかもなって思います。「この楽曲にこの歌詞を乗せたら絶対に伝わる」というのが明確に見えているからこそ……逆を言えば、そういう言葉を伝えるためにはこの楽曲が必要なんだ、っていう方向性から作った楽曲もあるのかな。だから聴いていても今まで以上にスッと入ってくる。
あきら:この規模になったバンドのフロントマンじゃないと書けない言葉が多いなっていうのは思っていて。この数年でバンドもそうですけど、拓也自身がいろんな景色を、プライベートも含め見てきただろうし、嫌な人もいっぱいいただろうし、その中で信じられる仲間も出会っただろうし。その確固たる信頼関係みたいなものを見つけたゆえに伝わる言葉とか、そこに僕はすごく感動したというか、この表現者がバンドにいてよかったなって思ったんですけど。で、ちゃんとバンド自身を壊してくれて新しく作り直せる度胸もある。だから未来が楽しみですし、すごい期待出来るアルバムやと思っていて。
――この先もまたどういう姿にもなっていけそうだな、というイメージも湧きますよね。
あきら:うん。そういうところが垣間見えるからロックバンドっぽいんじゃないかなって。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=高田梓
――曲ごとの話もしたいんですけど、まず収録曲数が多いですよね。10曲前後がスタンダードになりつつある中で、最初からこのくらいのイメージだったんですか。
山中:ボリューム感だけは読めてなかったんですけど、このアルバムを伝えるのに、なんとかキュッとして最小でこれでした(笑)。あとは次を見据えて作っているので、変に次へ延長したくなかったのもあります。次は次の段階のモードに入りたかったから、今置ける全てをここに置いておいて、全部をファンやリスナーに伝えた上で次のモードに入っていこうっていう、俺らなりのテンションの切り替えもあってこの曲数ですね。
それに1曲1曲もそうなんですけど、15曲を通して『SUCK MY WORLD』っていう映画を観てほしい感じなので、1曲2曲抜けるとすると、大事なところが抜けてて最後の話が意味わからないってなり得るなっていう。
――実際、ちゃんとストーリーを感じるし、ちゃんと“アルバム”ですよね。単曲でも聴ける時代で、今作の曲もかなりの割合で先行して出しているからこそ、アルバムとしてどういうものを作るかという意識も当然あった?
山中:アルバムはアルバム、シングルはシングルで全然違う位置にいる、というのは今までのアルバムもそうなんですけど。でも今までのシングルは、アルバムを見据えて作ってはいましたけど、シングルやリード曲自体がどうですか?っていうことの方が重要だったんです。でも今回はその曲単体の評価よりは、このアルバムに向けた必要要素を1個ずつわかりやすく提示していっていて、全てはこのアルバムのためだったっていう感覚が、今までと全然違うところだったなと。
こういう、ちょっと漠然としたり規模が大きいことを伝えるって、いきなり15曲の状態で提示されてもお客さんはビックリしちゃうし、「何言ってるかわかんないです」ってなる危険性もあるなって感じていたので、一曲一曲で伏線を張りながら、ちょっと説明しながら、アルバムに向けてゆっくり一緒に辿っていくことで、このアルバムがもう少しわかりやすくなるし、このアルバムを出す意味もちゃんと膨れ上がっていくんじゃないかなと。全部ここを目掛けてやってきた気がします。
――それだけにこちらとしては、このアルバムを取材するのは難しいんですよね。
山中:なるほど(笑)。
――これまでの配信等で提示してきて、このアルバムに集約されたことを、「それは結局何だったんですか」って聞いちゃうのは簡単なんですけど、それをしちゃあ意味がなくなっちゃうタイプの作品な気もするから。
山中:そうなんですよ。今回のタームで「Don’ t you think(feat.ロザリーナ)」の取材のときにも「Shine Holder」のときも、「すいません、まだ答えられないです」っていうことが多くて、それは本当に申し訳なかったなとは思っているんですけど。この『SUCK MY WORLD』はすごく慎重に伝えていかないと伝わらないことなので、そこで先走って「こうなんです」って言うことだけは避けたかったし、このアルバムを出してからのアリーナツアーが今の段階で最終的にたどり着く場所だと思うので、そこで「ああ、よかった」「なるほどね、大切な一枚になりました」って思ってもらうことが目的だったので。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=高田梓
――結局、どんなことを伝えているのかの核は聴いて感じてもらうしかないと思うので、このインタビューでもまだ「こういう作品です」と定義づけるつもりは無いんですけど、本当にこの15曲だからこそ描けた内容になっているのは間違いないと思います。それと中身に関してもう一つ、編曲でバンド外の人が関わっている曲がいくつかありますけど、このパターンは過去にもありましたっけ?
山中:いや、初めてこういうことをしました。頭の中のものを完全に再現できなくて中途半端になるくらいだったら、ちゃんとそこの畑の人に一緒にやってもらったほうが良いって。俺らって音楽専門の学校に通ってきたわけじゃないし、そこから肉体的にも精神的にも自分たちを研ぎ澄ませてきたバンドなので、そこで急にR&Bやファンクに手を出そうよってなったときに、ちょっと待てよと。自分ではある程度のところまでしかできへんかも、みたいな。
今まではそこを譲れへんかったし、なんとかしてやってやるっていう変なプライドでやってきましたけど、今回はフィーチャリングでロザリーナと一緒にやって、人と何かを作ることだったり……今回のアルバムで伝えてることの一つなんですけど、蹴落としあいの精神性みたいなところとかもそろそろ要らんなぁっていうのが、自分の考えの中に生まれてきた。誰かと何かを、最高の音楽を作ることの方が、ファンに対しての愛につながっていくんじゃないかなとか、日本の音楽シーンがもっと盛り上がっていくための重要な要素になるんじゃないかなとか、そういうことをすごく考え始めたので、今回のアルバムはそういう畑の人に頼んで「ここわからないんで、助けてもらって良いですか」っていう作業をやりました。プリプロから入ってもらって弾き方とか歌い方も一緒に考えて、俺らもすごい勉強になったし、捨ててもいいプライドみたいなのって絶対にあるなって感じたアルバムでした。
鈴木:最初話を持ちかけられたときは、どうなっていくかが分からなかったので不安もあったんですけど、実際にプリプロの段階で来てもらってやってみたら……「なるほど」と(笑)。結構パッションなタイプの人もいて。
山中:「Fantasy」は小堀ケネスさんが中心になって海外のサウンド・クリエイターみたいな人たちを集めて、一緒にやってくれたんですけど、ケネスさんはもともとR&B畑の人で――
鈴木:けっこうすごい人だっていうのを事前に聞かされてて、でも大量のお酒を持ちながらプリプロに来て、「飲みながらやるのが一番良いんだよ」って。僕の思っている“音楽業界のすごい人”の像と違いすぎた(笑)。本当に新鮮でしたし、案外、自分の感覚としても一個ずつ積み上げて作っていくよりはパッション的にやる方が楽しくも感じられて、自分の性格というか、こういうところも楽しめたんだっていうことにも気づかせてもらえましたね。技術的というより、言葉では説明できないですけど、普通に弾いてたらあんまり良くないなっていうものも、その人が横で楽しそうに踊っている状態で弾くと、案外良かったりとか。今まではクリックに合った正解をっていう風にやってきたりしましたけど、そもそものメンタル姿勢ってすごく関わってくるんだなっていうか。
――この曲はベースに関してもだいぶご機嫌ですけども。
あきら:ね(笑)。飲みながらやる楽しさを覚えました。やっぱり考えすぎてたらダメなときもあるんですよね。なんとなく出来てるなと思っていたことも、本職の人とやることで自分の甘さとかゆるさが目立って、「まだまだやれることあるやん」って前向きな感じで打ちのめされたりもしましたね。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=高田梓
――僕は他に「Hallelujah」、あとはラスト3曲の流れがすごく好きです。
山中:ありがとうございます。今言っていただいたのは肝ですね。「Hallelujah」と「Slowly but surely I go on」はこのアルバムで伝えたい一番のテーマの部分で重要になってくるので、最初はどっちを最後にするか結構悩んでました。(ラストの一つ前の)「The Given」は自分のメンタル面で一番肝になってる楽曲なんですけど、「Hallelujah」はそこまで自分を照らし合わせてないっていうか、たくさんの人に「わかってね」っていう規模が大きめの世界観で歌っている楽曲だったので、そこが最後になるよりは、それを問うた上で、自分の考えも踏まえて「今回のアルバムのテーマはこれですよ」の方が最後の締めくくりとしては良いし、あとはやっぱり決意みたいなところを最後に欲しいなっていうのもあって、結局「Slowly but surely I go on」が最後にくる流れになっていきましたね。
ーー「Hallelujah」で歌う内容って、それこそジョン・レノンの「Imagine」とか、そういうことじゃないですか。そこと通底する曲を、「The Given」で自分のことを歌ったあとにもう一度提示する「Slowly but surely I go on」がある、という流れになってる。
山中:うん、そうですね。
ーーそうすることで、いろいろなことを歌っていて毒を吐く部分もあるアルバムが、希望とか、そういうものが見える形で終わっていく。こういう世の中で歌いたいことが、そこに収束するわけですよね。
山中:めちゃめちゃ浅い言葉に聞こえるかもしれないですけど、いろいろ考えを巡らせた上で最終的に、すべての行動って愛なんじゃないかな、みたいなところにたどり着いたんですよね。それをしっかり伝えられるアルバムじゃないと意味ないなとも思ってたし、あとはこう、『Kisses and Kills』のツアーのタイミングで“破滅”みたいな方を強く描いたつもりなので、そこからの再生だとか死生観的なところもちゃんと語っていかないと、このアルバムは成り立たないなと思っていたのもある。
どれだけ自然が尊いものなのかとか、元々の根源をどんどん忘れている今の世界があるんじゃないか? 変な感情があるから戦争が起こったりするんじゃないか? そういうことを考えると、“Peace”の方に自分の考えも寄っていくというか。いろんな積み上げで要らないことが世界で起こってる事実が今あるから、「愛じゃない? Peaceじゃない?」って言葉だけ取ったらなんかすごく浅いんですけど、「いやでもそこだよ、実際」っていうところだな、今は。そういう感じがしてます。
――最初の方に言った、いまロックバンドに歌ってほしいことって、そういうことなんですよ。しかも、制作中には考えていなかったであろう事態がいま起きてしまっているから、余計に価値があるとも思う。そんな先行き不透明さもあるとはいえ、リリースからアリーナツアーに向けてどんなことを見せていきたいか、なども最後に訊いておきたいです。
あきら:新しいアルバムを出すのが2年ぶりなので、初披露のタイミングというのは感覚的にも久々でワクワクしてますし、このアルバムが出来上がって、テーマがすごくハッキリしている中で、拓也が表現したいことを五感でちゃんと表現できると思うし、全部をそこで持ち帰ってもらえるようにするので、ぜひ来てください。
中西:このアルバムを引っさげてのアリーナを待ち望んでいる方はすごくたくさんいて、延期になった対バンツアーも「チケットは払い戻さず待ってます」っていう声がすごく多いことに僕らも救われていたりする(※現在は振替公演/払い戻しに関して発表済み)。その中で、音楽って、自分が楽しいと思えたら楽しんで良いものなんだよ、そういう場所なんだよっていうことをあらためて、音楽を好きな人に届けたいなと思うので。まずは自分たちがそこへ向けて自信を持って提示できるメンタルと、準備をしていけたらなと思ってます。
鈴木:「こんなすごかったっけ」ってなってほしいなと思えるアルバムがあり、それを表現するアリーナがあって、僕としてはトライアスロンのゴール間近みたいな感じなので。もう一踏ん張りというのか、演奏隊もすごく大変な曲たちだけど、当日ちゃんと衝撃を受けるライブにできるように。次につなげるための、より驚かせるための準備期間だと思ってやっているので、そこは期待しててもらいたいなと思いますね。
山中:僕もやれることを祈ってますし……わかんないですけど、これだけ一生懸命にやってこのアルバムを作ったので、アリーナツアーができるようにしてくれるだろうな、と思ってるんですよ。それは人が、とかじゃなくて運命的なものとして。だからそこを信じて全力で進んで、「このバンドが日本にいて良かったな」ってアリーナに来たみんなが思ってくれるようなライブにしたいなと。お客さんは全然身構えるとかじゃなく、普通にエンタテインメントを観にくるつもりで良くて、僕らがそこにプラスアルファで「こんな感情も持ち帰ってね」っていうことを、いま組んでいってるので、楽しみにしてもらえたら嬉しいです。

取材・文=風間大洋 撮影=高田梓
THE ORAL CIGARETTES 撮影=高田梓

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