全作品が日本初公開! 61点の傑作と
共に西洋絵画の歴史をたどる 『ロン
ドン・ナショナル・ギャラリー展』鑑
賞レポート

英国が誇る美の殿堂、ロンドン・ナショナル・ギャラリー。約2,300点に及ぶ西洋絵画のコレクションから、選りすぐりの名品61点が来日する展覧会『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』(会期:開幕日未定〜2020年6月14日)が、国立西洋美術館にて開幕予定だ。
※開幕が延期となりました。開幕後も混雑対策のため鑑賞券の販売方法や展示室への入場方法が変更となる場合がございます。最新情報を展覧会公式サイトで必ずご確認ください。
会場エントランス
約200年の歴史を持つ同館は、これまで一度もイギリス国外で所蔵作品展を開催することがなかった。本展覧会は、館外ではじめて行われる大規模なコレクション展であり、出品作はすべて日本初公開となる。その中には、レンブラントやフェルメール、ルノワールにモネ、ゴッホなど巨匠たちの傑作も含まれる。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《劇場にて(初めてのお出かけ)》1876-77年
クロード・モネ《睡蓮の池》1899年

全7章からなる本展は、ルネサンスからポスト印象派にいたる作品を通して、「西洋絵画の教科書」とも言われるコレクションの特色を味わえる構成になっている。全作品が主役級の優品が集う会場より、本展の見どころをお伝えしよう。
本展出品の作品をモチーフにした衣装を着た、すみっコぐらしのキャラクターのてのりぬいぐるみ(税込990円) (c)2020 San-X Co., Ltd. All Rights Reserved.
コレクションの主軸となる珠玉のイタリア絵画
ロンドン・ナショナル・ギャラリーのコレクションは、多くのヨーロッパの美術館が王室の収集品をベースにしているのとは異なり、市民による寄贈や遺贈、資金提供によって築かれた。1824年に、銀行家アンガースタインが所有する38点のコレクションと邸宅を政府が買い取り、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが開館。1855年にイーストレイクが初代館長に就任すると、ヨーロッパ絵画史を網羅するコレクションの形成が、絵画の収集方針として定められた。
トマス・ローレンス《55歳頃のジョン・ジュリアス・アンガースタイン》1790年頃
第1章では、同館のコレクションの中核をなすイタリア・ルネサンス絵画を紹介する。遠近法を愛した画家ウッチェロの作品をはじめ、華やかな装飾が目を惹く《聖エミディウスを伴う受胎告知》、ダイナミックかつ躍動感のある構図で、神話の一場面を描いた《天の川の起源》など、特徴的な作品が続く。
パオロ・ウッチェロ《聖ゲオルギウスと竜》1470年頃
カルロ・クリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》1486年
ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ)《天の川の起源》1575年頃

作品を通して見る、イギリスによる絵画収集の歴史
英国による絵画収集史も、本展の見どころのひとつ。イギリスとヨーロッパ大陸の交流をキーワードに、西洋絵画の歴史をたどる章立てのなかでも、第2章と第4章、第5章では、イギリスが欧州絵画をどのように収集し受容したのか、作品を通じて楽しめる内容になっている。
第2章では、世界でも有数の17世紀オランダ絵画のコレクションを誇るロンドン・ナショナル・ギャラリーの所蔵作品を紹介。海洋国家として発展したオランダの文化は、イギリスと地理的にも近く、イギリス人にとって親しみやすいものだった。本章では、人気絶頂期にあった頃のレンブラントが描いた自画像や、日常を題材に風俗画を描いた画家フェルメールによる《ヴァージナルの前に座る若い女性》などが出品される。さらに、風景画や海洋画など、イギリスで人気の高いジャンルの絵画も併せて展示されている。
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《34歳の自画像》1640年
ヨハネス・フェルメール《ヴァージナルの前に座る若い女性》1670-72年頃
ウィレム・ファン・デ・フェルデ(子)《多くの小型船に囲まれて礼砲を放つオランダの帆船》1661年

第4章では、18世紀に上流階級の子息たちの間で流行した、「グランド・ツアー」に焦点をあてる。彼らは、修学の総仕上げとして、ヨーロッパ文明発祥の地であるイタリアを訪ね、絵葉書の代わりに名所やカーニバルの情景を描いた絵画を母国に持ち帰った。
ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ《人物のいるローマの廃墟》1730年頃
ポンペオ・ジローラモ・バトーニ《リチャード・ミルズの肖像》1759年頃
画家のバトーニは、イギリス人旅行客の御用達肖像画家として活躍。一方、都市風景画を確立させたヴェネツィアの画家カナレットの作品は、多くの旅行者に好まれたという。
カナレット(本名ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)《ヴェネツィア:大運河のレガッタ》1735年頃
カナレット(本名ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)《ヴェネツィア:大運河のレガッタ》(部分) 1735年頃

19世紀のはじめ、スペイン独立戦争にイギリスが参戦したことで、両国間の人や物資の移動が盛んになり、スペイン美術が英国で知られるようになった。イギリス人将校のウェリントン公爵は、同戦争でナポレオン軍を駆逐し、帰国する際に、ベラスケスの作品を含む多くのスペイン絵画を持ち帰った。
フランシスコ・デ・ゴヤ《ウェリントン公爵》1812-14年
第5章では、17世紀スペインの巨匠ベラスケスによる厨房画や、画家ムリーリョによる子どもをモチーフにした風俗画など、スペイン絵画の名品がそろう。
ディエゴ・ベラスケス《マルタとマリアの家のキリスト》1618年頃
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ《窓枠に身を乗り出した農民の少年》1675-80年頃
イギリス美術を代表する肖像画と風景画
第3章と第6章では、イギリス美術を代表する肖像画と風景画をそれぞれ展示する。欧州の中でも際立って肖像画を愛好したイギリスでは、17世紀にフランドルからやってきた画家ヴァン・ダイクがイギリス肖像画の分野で大きな役割を果たした。気品あふれる人物描写で王侯貴族の支持を得たヴァン・ダイクの作風は、イギリス人画家たちの規範となって受け継がれていく。
アンソニー・ヴァン・ダイク《レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー》1635年頃
第3章では、18世紀に悲劇女優として活躍し、レディ・マクベスの役で名を馳せたサラ・シドンズの肖像画をはじめ、18世紀イギリスを代表する肖像画家レノルズの作品が紹介されている。
トマス・ゲインズバラ《シドンズ夫人》1785年
ジョシュア・レノルズ《レディ・コーバーンと3人の息子》1773年 

18世紀以降の英国では、「絵のような(ピクチャレスク)」美を自然界に見出そうとする価値観が広まっていく。第6章は、17世紀のイタリアで制作された理想的風景画をもとに発展した、イギリス風景画の歴史を紐解いていく。多くのイギリス人を魅了したフランスの画家クロード・ロランによる詩情豊かな絵画や、「イングランドで描かれた最も素晴らしい風景画」と評されたゲインズバラによる《水飲み場》も見逃せない。
クロード・ロラン(本名クロード・ジュレ)《海港》1644年
トマス・ゲインズバラ《水飲み場》1777年以前

古代ギリシャの叙情詩『オデュッセイア』の一場面を描いた《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》は、印象派の先駆けとも言われた、19世紀最大の風景画家ターナーによる、光と大気の情景が印象的だ。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》1829年
ゴーガンの寝室に飾られたゴッホの《ひまわり》が初来日!
近代都市生活に目を向けて、時間や天候によって刻々と移り変わる一瞬の光を、カンヴァスに描き出した印象派。第7章では、モネやルノワール、ドガなど印象派の巨匠たちの作品と併せて、フランス新古典主義の画家アングルや、バルビゾン派を代表する画家コローの作品が集い、フランス近代絵画の優れたコレクションが集結する。
エドガー・ドガ《バレエの踊り子》1890-1900年頃
ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《アンジェリカを救うルッジェーロ》1819-39年

20世紀に入ると、英国の実業家コートールドが、印象派の作品収集のための資金をロンドン・ナショナル・ギャラリーに提供する。これによって同館はゴッホの《ひまわり》を手に入れた。1888年に描かれた本作は、パリから南仏に移り住んだゴッホが、画家ポール・ゴーガンとの共同生活をはじめるにあたり描かれた作品。ゴッホは生涯のうち、花瓶に生けられたひまわりの絵を7枚描いているが、最初の4枚が、ゴーガンを迎えるための“友情の証”として描かれた。
フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年
その中でも、ゴーガンの寝室を飾るために描き、自らサインを記したのはたった2枚。本作はそのうちの1枚となる。130年以上経ってもなお、画面から眩さを放つゴッホの《ひまわり》は、会場でじっくりと拝見したい。
『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』は、東京・国立西洋美術館で2020年6月14日まで、その後、大阪・国立国際美術館へ巡回予定。西洋絵画の歴史を、旅をするような気分でたどれる絶好の機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影=田中未来

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