固定観念が吹っ飛ぶ!国内ミュージカ
ル /ホーム・シアトリカル・ホーム
~自宅カンゲキ1-2-3 [vol.4]<ミュ
ージカル編> by 星葉亭二名

雨の日の自宅で、毎日の移動時間で、あるいは予定が変わり時間がぽっかり空いたとき。そんなすきま時間に手に取れる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品を、エンタメ界隈の人々が「3選」としてジャンル・テーマ別に語り尽くします!(SPICE編集部)
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[vol.4]<ミュージカル編>
「固定観念が吹っ飛ぶ!国内ミュージカル」​ by星葉亭二名(すたばていにめい)
【1】『シャーロックホームズ~アンダーソン家の秘密』
【2】劇団☆新感線​『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』
【3】『モーツァルト!』【井上芳雄ver.】
星葉亭二名(すたばていにめい)
「え~、一席のお付き合いを願います!」
こう言って語り出すのがいつもの癖だが、今回はミュージカルのコラムなのでやり辛い。申し遅れたが、私は「星葉亭二名(すたばていにめい)」として大学の落語研究会で活躍する“女流学生落語家”である! 全国大会準優勝や関東落研連合総長(凶暴なのは名前だけで、実態は学生親睦団体のリーダー)というイカツイ肩書きを持っているものの、普段は都内の美術大学で近現代美術史を研究する平凡な大学生であり、そして何より、生粋のミュージカルオタクだ。
そんな小娘が今回オススメするミュージカル映像ソフト「3選」は、あえて国内公演という切り口で精選した。
なぜなら、いまこれを読んでくださっている方の中には
「日本公演のミュージカルって海外公演に比べると、ちょっとね、ウ~ン…」と思っている方が、もしかすると、まさかとは思うが、1人くらい、ひょっとすると、いらっしゃるかもしれない…そんなアナタにこそ観ていただきたい作品があるからだ。きっといままでの固定観念が崩れる体験になること間違いなし! だまされたと思って手に取ってみてほしい。
星葉亭二名(すたばていにめい)

【1】『シャーロックホームズ~アンダーソン家の秘密』
『シャーロックホームズ〜アンダーソン家の秘密〜』(2014年)
最初に観ていただきたいのは韓国発のミュージカル『シャーロックホームズ~アンダーソン家の秘密』。韓国で「韓国ミュージカル大賞」「ザ・ミュージカル・アワーズ」を受賞した話題作を、森雪之丞が訳詞し、橋本さとしがシャーロックホームズ役を演じたことで人気を博した。
よくテレビで韓国ドラマを観ていると「財閥一族のイケメン兄弟がヒロインを取り合う」というような夢のシチュエーションに出くわすことがある。最初は「んなアホな!」と鼻で笑いながら見始めるのだが、後半に差し掛かるころには「え~!どっちを選べばいいの~!?」なんてすっかりヒロイン気分で没入してしまう…そんな体験があるのではないだろうか。
実はこのミュージカル、さすが韓国発だけあってこの没入感を味わえるのだ。「シャーロックホームズ」を題材に用いてロンドンを舞台に物語を展開する硬派ミステリーでありながら、韓国ドラマの胸キュン要素をふんだんに取り込んだ取っ付きやすい一面も兼ね備えている。
特に、今作のキーパーソンとして登場するアンダーソン家の双子・アダムとエリックはまさに韓国ドラマにおける“財閥一族のイケメン兄弟” であり、必見だ。兄のアダムはアンダーソングループの会長で、傍若無人なオレ様気質(ただし、ヒロインのルーシーと二人きりになると甘えたりして…きゃ~!ズルい!)。一方、エリックは兄の陰に隠れるようにして生きる気弱な小説家だ(優しくて誠実な非の打ち所がない好青年。これはこれで捨てがたい…!)。
この双子を一人二役で見事に演じ分けた浦井健治は、全く異なる二種類の歌声を自在に使い分ける俳優である。一つは低くてワイルド、この歌声を使ってアダムを演じる。もう一つはやや高めでソフト、こちらはエリックを演じる時の歌声だ(ちなみにこの歌声の使い分けは、同氏が『アルジャーノンに花束を』で演じたチャーリー・ゴードンの知能が変化する過程や、『デスノート THE MUSICAL』で演じた夜神月の裏表ある性格表現においても聴くことが出来る!)。とにかく、一曲の中でアダムとエリックがくるくると立ち替わるシーンは圧巻だ。私は一介の学生落語演者だが実は、このアダムとエリックのように鮮やかな登場人物の演じ分けが出来たらいいなぁ!なんて常々思っている。
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【2】劇団☆新感線『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』
『ZIPANG PUNK~五右衛門ロック3』(2013)
2作品目はメイド・イン・ジャパンのミュージカル『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』だ。中島かずきの痛快なストーリーを基に古田新太をはじめとする劇団☆新感線の俳優陣と豪華なゲストがド派手なアクション・歌・ダンスを交えて暴れ回る、ギャグマンガが現実世界に飛び出してきたような総合エンターテイメントだ。
この魅力を語るには、今回のコラムの冒頭で提示した“日本公演のミュージカルって海外公演に比べると、ちょっとね、ウ~ン問題”に立ち返る必要がある。私は日本語の構造にこの問題の核があるように思う。日本語は美しい言語だが、メロディーに乗せて歌うと英語に比べて聞き取り辛いのがネックだ。それゆえに、日本のミュージカルはハキハキと母音を意識したセリフ使いを余儀なくされてきた。しかし、非日常的なこの話し方に違和感を覚える日本人が多く、客を選ぶエンタメにならざるを得なかった…というわけである。
ところが、劇団☆新感線のミュージカルはこの日本語の聞き取り辛さを画期的な方法で解決した。なんと舞台上のLEDパネルに歌詞を流してしまったのだ。一見カラオケマシーンを意識したメタっぽいボケであるから、初めて見た時は「は?なんじゃこりゃ。」だったのだが、見れば見るほど、俳優が過度に活舌を意識しなくなったことでのびのび歌えており、とってもイイ感じである!!
そして、今回の作品にゲスト出演した三浦春馬はキレッキレのダンスと圧倒的な歌唱力でひときわ異彩を放っていた。現在、三浦春馬のミュージカルスターとしての地位は『キンキー・ブーツ』のドラァグクイーン・ローラ役を熱演したことで不動のものとなっているが、2013年当時中学生だった私が三浦春馬出演のミュージカルと聞いて思ったのは、これだ。
「タウンワークのCM、歌上手くて意外だったよね。」
ぶん殴ってやりたい。しかし、この作品でそれまでの三浦春馬に対する私の先入観は吹っ飛ばされた。もし、現在も同氏に対して2013年のミーハー中学生と同じぬる~いイメージをお持ちの方がいらっしゃるようであれば、是非この『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』をご覧になり、私同様に吹っ飛ばされていただきたい。
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【動画】GEKIxCINE Official ゲキxシネ「ZIPANG PUNK~五右衛門ロック3」<其の一・歴史絵巻> Goemon Rock 3 Teaser1

【3】『モーツァルト!』【井上芳雄ver.】
『「モーツァルト!」』【井上芳雄ver.】(2015年)
3作品目はウィーン・ミュージカル『モーツァルト!』だ。天才作曲家モーツァルトが辿った35年間の生涯を描いた作品である。主役・ヴォルフガングを2002年の初演から務めていたのは井上芳雄だけだったが、モーツァルトの享年35を同氏が迎えるという節目もあり、2015年が最後の出演となった。
というわけで、このDVDは現在では生で見ることのできない井上芳雄のヴォルフガングが収録された貴重な映像である。なお、ダブルキャストである山崎育三郎のバージョンが同時発売されているので、見比べるのもオススメだ(定年退職ルールが決まっているわけではないが、来年35才の山崎育三郎がもう生で観られなくなるのではないかと考えただけでヒヤヒヤする!)。
私がなぜ“井上芳雄ver.”と明記しているのか疑問に思った人もいるかもしれないが、
「おい山崎育三郎のファン、喧嘩しようぜ。」
というわけでは決してない!上記の通り私も彼の次回公演を心から楽しみにしている一人なので安心していただきたい。その上で、私が井上芳雄ver. を評価しているのは、35才の井上芳雄がライフワークともいえる作品で“最後の公演”を全うしようとする姿と、モーツァルトが太く短い生涯の最後に自身の力を振り絞ってレクイエムを書く姿が、見事に重なったからである。また、観客が「レジェンドの最後をしっかり見届けよう」と食い入るように見つめるその熱量までが、映像からひしひしと伝わってくる。そのようなゾーン空間を体験できる映像は、一見の価値があるのではないだろうか。
そして、この作品の見どころは主役・ヴォルフガングだけではない。ヴォルフガングを大衆文化の世界へと引き寄せる多彩な興行主・シカネーダーの存在だ。私は2015年公演を数回観劇したのだが、行く度にシカネーダーの登場シーンが少しずつ違っていて面白かった。このシカネーダー役を演じた吉野圭吾は、悲劇的な空気が充満する舞台を、アドリブによって瞬時にアップテンポで愉快なショーに切り替える職人的な俳優だ。これはプロの落語家がお客さんを自分の世界観に引き込むために、噺の本編に入る前の出だしに行う“マクラ”と呼ばれるフリートークに通じる芸である。前の演者が残した余韻をサクッと切り替えて残さない。そんな粋な心得をシカネーダーの登場シーンから感じ取ることができた。
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ここでは以上の3本しか紹介出来ないが、『シャーロックホームズ』には続編があり、『五右衛門ロック』はシリーズ化されている。また『モーツァルト!』鑑賞後は、同クリエイター(M.クンツェ&S.リーヴァイ)による『エリザベート』も必見だ。グッとくる作品に出逢えた暁には、是非その周りも掘り下げてみてほしい。
そして私が近頃思うのは、今回のコロナウイルスによる自粛要請期間、いつも素晴らしいミュージカル作品を作ってくれる最高なクリエイターたちを直に応援できる手段は、映像ソフトを購入して観ることしかないという事だ。こんな時代だが、何回でも楽しめる自宅観劇で一緒に演劇ロスを切り抜けよう。
文=星葉亭二名

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