埼玉じゃない自虐ネタもの映画から乃
木坂主演作まで、おうちで観られる配
信映画6選

動画配信サービスの充実により、家にいながら様々な映画やドラマを楽しめるようになった昨今。劇場で公開される新作映画を毎年400本以上鑑賞するほか、毎期のテレビドラマ、バラエティ番組、YouTuberの動画などあらゆるコンテンツを漁りまくる動画中毒なライター・田辺ユウキが、昨今の視聴スタイルの主流となった動画サービスをフル活用して、自宅で観ることができる映画をテーマ別にピックアップ。今回は、感情が高ぶった「エモーショナルな映画」と、タイトルやビジュアルなどパッと見で興味をそそる「ジャケ買い映画」をそれぞれ3本ずつ紹介。
●エモーショナルな映画●
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
Hulu /U-NEXTで配信中
詩壇のニュージェネレーション・最果タヒの原作を、監督が『舟を編む』の石井裕也、主演が石橋静河、池松壮亮で映画化した同作は、「人との出会いは未来への希望につながるかもしれない」という青臭くもロマンティックな物語だ。
東京を舞台に、社会に馴染めず生きづらさを抱える男女の姿を描いた、この青春映画。2016年に「日本死ね」が流行語となり、日常会話でもライトな感覚で「死」という言葉が使われるようになった昨今。劇中でも「何か俺にできることはあるか」と手を差し伸べる慎二(池松)に、美香(石橋)は「死ねばいいのに」と気持ちの侵入をばっさり遮断する。その意味を紐解くと、世の中に好機なんてほとんど転がっていないし、このまま生きていても大したことは起こらないと感づいていて、希望がなさすぎて絶望すら実感できない状況のなか、「お前にできることなんて、あるわけない」という疑いの表明である。
AKB48の流行曲「恋するフォーチュンクッキー」が流れるが、<未来はそんな悪くないよ Hey!Hey!Hey!>という一節が楽観的であることはみんな分かっているし、「頑張れ」と歌うストリートミュージシャンの存在も、その歌詞が実直すぎて嘘くさく聴こえてしまう。「死」だけではなく様々な言葉が薄く聞こえてしまい、何事もたやすくは信用できない空気感が描かれる。
それでも誰かと出会い、言葉を交わし合い、過ごす時間が長くなれば、もしかするとそういった疑いを乗り越えられるかもしれない。同作はその可能性を示している。趣味でもいい、不満でもいい。チューニングがぴったり合う相手が奇跡的に見つかれば、それはきっと運命(と信じた方がいい)。同作は、出会いこそが世の中への疑念を乗り越えるヒントであることを伝え、恋人、家族、友人との関係において「愛があれば何とかやっていけるかも」と未来像を抱かせてくれる。
『ホットギミック ガールミーツボーイ』
Netflixで配信中
『溺れるナイフ』などで知られる山戸結希監督が、堀未央奈、清水尋也、板垣瑞生、間宮祥太朗をメインキャストに配し、同名原作漫画を映画化。
同作のどういうところが心を揺さぶるのか。それは、自信を持てない主人公・初(堀)が、少しずつ自分の価値を見出していく心の成長劇であるという点だ。彼女をとりかこむのは、幼なじみの亮輝(清水)、モデルの梓(板垣)、兄の凌(間宮)という3人の男性。
初は序盤から、この男性たちに感情をぶんぶん振り回されていく。亮輝に対しては、弱みを握られて「奴隷」として扱われ、「俺にキスをしろ」と迫られてもまともに抵抗できずにくちびるを捧げる。序盤の駅のホームでのキスシーンは象徴的で、初は、背の高い亮輝に近づくために懸命に背伸びをする。この場面から察するに初はとにかく言われるがまま、流されるがまま。
また梓からは「かわいい」と絶賛されまくり、無垢な彼女にとっては「かわいい」の言葉が魔法のようになっていき、おかげで自信を持てるようになる。女の子にとって「かわいい」がどれだけパワーを与えるものなのか、山戸監督は思春期女子感情をリアルに映し出している。
ある程度、経験を重ねた大人から見れば、他人から影響を受けまくる初の姿はいかにも子どもじみていてイタいと感じるかもしれない。でも、感情が空白な若者はたくさんいるし(というかかつての時代にもたくさんいたはず)、そんな彼女ら/彼らにとって他人からの評価は、自分をかたち作るうえで掛け替えのないものである。
この映画が魅力的なのは、登場人物それぞれが、そうやって他人から価値を与えられるだけではなく、自分でつかみとっていくものなのだと気づいていく部分。「自分に価値があるなんてわからない」ともがいていた初が、自分らしい輝きに気づいていくところは、観ているこちら側も忘れかけていた大切なものを気付かされた感覚になる。台詞、映像編集のスピード感も相まって一気に感情を持っていかれる、まさにエモーショナルな映画。
『南瓜とマヨネーズ』
Amazon Primeで配信中
『素敵なダイナマイトスキャンダル』の冨永昌敬監督が、魚喃キリコの原作を映画化したラブストーリー。同棲生活が長いカップル、ツチダ(臼田あさ美)とせいいち(仲野太賀)。一緒にいることが空気のように当たり前になりすぎた、ふたり。そんなとき、ツチダの前に偶然現れる過去の恋人・ハギオ(オダギリジョー)。ツチダは、思いがけずハギオとの関係にのめりこんでしまうが……。
この映画のグッとくるポイントは、誰もが一度は「こういう経験をしたことがある」と苦い思い出が蘇るような、恋人に対する「情の引きずり」が描かれているところだ。長く付き合えば付き合うほど、愛より情が強くなることが多い。「恋愛対象に見えない」「あまり好きじゃないかも」という意識が出たとしても、スパッと別れを切り出せない。
なぜそうなるのか。それは悲しいことも楽しいことも一緒に経験しすぎているからで、ふんぎりがつかないのは当然のこと。同棲していたら尚更それは重く、過ごした歳月が「別れられなさ」を演出してくる。ツチダとせいいちは、一緒にいすぎて、別れることも結婚することもできなくなってしまった。
世界で一番大切な存在だけど、刺激的な恋愛相手ではないのだ。そのせいで将来に向かって前に進めなかったり、ついつい浮気をしてしまったり。それでも、それらがふたりなりの「これからも一緒にいるための優しさや思いやり」と分かると、余計に切なくなって込み上げるものがある。
三角関係の男女を演じた臼田、太賀、オダギリの芝居も抜群に素晴らしく、特に3人が鉢合わせをする部屋の場面の各演技は、恋愛映画の演技における常識をくつがえす。2010年代に関して言えば、『愛がなんだ』(2019年/今泉力哉監督)と並んで特筆すべきラブストーリー。
●ジャケ買い映画●
『パーティで女の子に話しかけるには』
Amazon Prime/U-NEXTで配信中
筆者は2017年の公開当時に鑑賞したけど、実はその年の外国映画年間ベストワンに挙げていた1作!
タイトルも印象に残るし(原作と一緒だけど)、ポスターに写るヒロインのエル・ファニングがおしゃれで可愛らしいし、男の子とヘッドホンをあて合って音楽を聴いているビジュアルもキャッチー。で、映画のオープニングも1970年代パンクにのせた疾走感溢れる青春映画調で、いかにも若者ウケしそう……ってところから急展開! いや、もはや何回スピンしたか分からなくなるくらい展開が変わっていく。
物語は、内気な主人公・エン(アレックス・シャープ)が偶然もぐりこんだパーティで、ひとりの美少女・ザン(エル・ファニング)と出会うところからはじまる。セックス・ピストルズなどの話で盛り上がって意気投合。一気にお互い惹かれ合っていくが、実はザンは異星人で「遠い惑星に帰らなくてはいけない」という。
「いきなりすぎるでしょ!」というくらい、ポップムービーからネオンでサイケなSFへ。エンと、ザンのファミリーであるエイリアンたちとのカルト色たっぷりの宇宙的な攻防など、どんどんヘンになっていく(笑)。
一方で、好きな人のためなら汚物でも愛せるという純愛心理や、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督らしいマイノリティの描き方、冒頭のロンドンパンクの背景にある労働者階級の存在、宇宙人との異文化交流を通して人種問題などを連想させ、メッセージ性がかなりある。
「ジャケ買い」という部分では、観てみたら「思っていたものと違う!」と絶対になるけれど、受け入れられる人にとっては究極的に好きになれるはず。
『劇場版 お前はまだグンマを知らない』
Huluで配信中
一目見ただけで興味をそそるタイトルで、これぞジャケ買い! テレビ放映でトレンド入りした『翔んで埼玉』や深田恭子土屋アンナ主演『下妻物語』と同系統のご当地パロディ映画で、『秘密のケンミンSHOW』的な知られざる県民性や田舎特有の自虐ネタのオンパレード。
「群馬」ではなく「グンマ」と表記しているように、一応フィクション&ファンタジーで、映画に出てくるエピソードもどこまでが本当でどこまで嘘なのか、他方の人間には判断がつけられない。でも、「向かい風が強すぎて、自転車通学の女子学生たちの太ももは筋肉でパンパン」や、「同じ名前の神社が多いから、目的地にたどり着かない」など、グンマならあり得るかもと思わせるエピソードばかり。
チバからの転校生である主人公・神月(間宮祥太朗)がグンマに関して無知すぎて、同級生から「グンマは歴代総理大臣の輩出ナンバーワン。呼び捨てをするなんてもってのほか」と叱責されるところも、「え、そうなんだ」と豆知識として頭に残る。
ヤンキー風の生徒が「日本国内で某有名アイスクリームの工場が唯一ある場所」と神月にいちいちレクチャーしてきたり、校内中にグンマが誇る全国トップの生産物名が掲示されていたり、まさにタイトルにあるように「お前はまだグンマを知らない」と指をさされている気分に。
ただ、決してくどくないのは、同じく関東の秘境である宿敵、トチギやイバラキとの抗争劇という『クローズZERO』や『TOKYO TRIBE』のような展開を盛り込むなど(全然ハードではないけど)、ストーリーに起伏を持たせているから。同級生がピンチに陥ったとき、神月が最大の武器を使って救うところもあまりにバカバカしくて笑える。
『テラスハウス クロージング・ドア』
Netflixで配信中
「ジャケ買い」という意味では、もっとも敬遠されそうな作品かもしれない! 恋愛バラエティ番組の映画化ってそもそも一般的には「なにそれ?」だろうし、先入観を持たれそう。そもそも筆者もこの『テラスハウス』シリーズは観ていなかったので予備知識も全然なかった。まさにパッと見のジャケ買い状態だったけど、話が壮絶すぎてびっくり。
テラハを観たことがない人でも、「恋愛をしたい男女が一つ屋根の下で暮らして関係を深めていく」という内容は何となく知っているはず。ドキュメンタリーとは言え「台本があるんじゃないの」と疑惑が多々あげられているけど、リアルかフェイクかは正直どうだっていい。これは映画なんだから、その画面に映し出されるものが面白ければOK。
で、そこに映る恋愛の数々が、とにかくややこしい! 劇中、基本的には男の子が女の子にいろいろとしてあげることが多いんだけど、例えばデートにしても、その日の女の子の格好を見てプランを再考するなど柔軟な対応が求められ、ちょっとでも選択を誤ればそれだけで評価がダダ下がり。
結局、恋愛はポイントレースであることがよく分かるし、男がどれだけ高得点を加算していっても、出演者の南海キャンディーズ・山里亮太曰く「ダメなものはダメ」という、これまでの努力は一体なんだったんだ的な結果もありえる。
これを観たら、とてもじゃないけど「恋愛って素敵」なんて全然思えない。現実には映画みたいな恋なんてありえない、といういろんなメタ的な意味を持たせた映画化作品。あー、恋愛ってめちゃくちゃ怖い!
文=田辺ユウキ

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