ストレイテナー・ホリエアツシが最新
シングルで詠う、「前を向いて生きる
ためにこれから歌っていくべきこと」
とは

「今だからわかること」「今だから言えること」を曲に込めたという、ストレイテナーのニューシングル「Graffiti」。「スパイラル」しかり「吉祥寺」しかり、キャリアを重ねるとともに獲得したり変化した視点が曲に反映されている点や、ロックバンドが奏でるポップソングとしての強度の高さは、近作と通じる部分を持つ。今作がそれらと一線を画すのは、その視点が過去の歩みではなく、あくまで今現在、そこから見据える未来へと向いており、それゆえによりリアリティと普遍性をもって聴き手に届いてくるという点だろう。自分自身と社会・世界とのつながりという、誰もが当事者でありながら、見失いがちでもある事柄を問う歌詞。ダンサブルでありながらオーガニックな風合いを織り込んだサウンド。この2020年に鳴らされるべくして鳴らされる、新たなアンセムについて、ホリエアツシに訊いた。
——『Blank Map』の制作時、他にも既に何曲かあるというお話でしたが、今作に収録された2曲はどうだったんですか。
そのうちの1曲が「Parody」ですね。「Graffiti」の方は現時点で最新の曲で、今年に入ってからアレンジして1月末くらいにレコーディングが終わりました。
——「Graffiti」は当初からシングルの想定だったんですか。
唯一シングルっぽい曲だったんです。「Parody」や他に作ってた曲が癖のある曲ばっかりで、それぞれ全然違うカラーなんだけど陰鬱な曲ばっかりだったんですよ。その反動でか急にポップなメロディが降りてきた。
——シングルの形態でのリリースは結構期間が空きましたよね。
シングルという形ではそうですね。リード曲で言えばまあ、「吉祥寺」とか「スパイラル」、「Braver」も。
——「Braver」は別としても、このところわりとポップ調の曲が表に出ているイメージが強かったですが、その裏で実は癖のある曲もたくさん作っていたと。そういうバイオリズムみたいなものがあるんですか?
あるんじゃないですかね? 『Blank Map』のときも実は、あの中に入っている「スパイラル」以外の4曲は、そのとき一番新しくできた曲なんですよね。既に「Parody」とかそれ以外の曲もあったにもかかわらず。「Graffiti」も、今作っている中で一番新しいものを録音したんです。
——ちょうどポップ期が来たというか。
そうそう。いや、ポップ期じゃなかったのに反動が来た、っていう感じですね。
——「The Future Is Now」以降、この最新曲に至るまで、アルバムやミニアルバムを挟みつつ2年以上経ちましたけど、その間で曲作りに対する考え方や方法論は、どう変わってきたんでしょうか。
今まで作ってこなかったような曲を作りたいなっていう意識があるので。自分らしさに真っ向から向き合うより、自分が作ったことのない曲、自分っぽくない曲を作りたいっていう。捻くれ者なので。で、『Future Soundtrack』もそういう曲の集まりだったりして——まあ、中にはいくつか真っ向勝負みたいな曲もあるんですけど——そこからさらに積み重ねていくと、自分っぽくない曲すらも自分っぽくなっていくというか。その時期に今はもう来ているのかもしれないですね。変わったことといえば。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=西槇太一
——いろんなタイプの曲を作れば作るほど、やったことのないテイストの曲も減るわけで。
そうですね。この「Graffiti」のポピュラリティみたいな部分は、今までの自分になかったものなのかなっていうことを思いながら作ってました。僕のメロディの癖で、素直な音階に着地させずに曖昧なところに逃がして、つなげていくような作り方をするんですけど、この曲は一行一行、フレーズ毎にメロディがちゃんと着地しているのが自分っぽくないかなって。
——言われてみればたしかに。だから言葉がよく入ってくるのかもしれないですね。
ああ。そうかもしれないですね、うん。
——そういう部分も含め、ここ最近のストレイテナーにとって、“ロックバンドがやるポピュラリティのある曲”という部分や、歌っている内容が“聴き手に伝わる”ということが、テーマの中にあったと思うんですけど、その一つの到達点といえる曲だなと感じました。
ああ、そうですね。「Graffiti」は今を歌っているから。『Future Soundtrack』では愛の形を色々と歌にしていて、『Blank Map』の「吉祥寺」は過去の自分たちとか、自分たちを取り巻く風景を描いていたんですけど、もういい加減、振り返るのはやめようかなと思って(笑)。前を見てメッセージを表そうと思ったときに、今だからわかることと、今だから言えることっていうのがキーになって、現実を受け入れた自分がより前に進んでいくために持つべき新しい価値観というか、新しい視点みたいなものを込めてますね。
——「今だからこそ」というのは言い換えれば「過去にはそうじゃなかった」ということであって。
過去に自分が正しいと思っていたことが、現実を受け入れていくうちにちょっとずつ変化していって。「これしか正しくない」「これ以外は全部必要ない」みたいに決めつけてきたことが、実はそうじゃなかったんだっていうことに、ちょっとずつ気づいていって、積み重なっていって。その都度新しい価値観が生まれてるっていうことが、今だから言えることなのかなと。
本当は、目指しても到達できなかったり、求めて手に入れられなかったものに対して、悲観的したり、絶望したりすると思うんですけど、そこで完全に諦めてしまわずに、だったら違うやり方で、とか……目指していた一つのゴールとはちょっと違うところに、もっと良いものがあるかもしれないとか、ちょっと視点を変えてみることが、自分にとっては生きていく上で必要なものなのかなって。それをみんなに伝えたいっていうわけじゃないですけど、自分自身が前を向いて生きるためにこれから歌っていくべきことを考えたら、そこに行き着いた、表現したいと思った。
段落ごとの最後の行がキーになってるんですけど、<本当も嘘も存在すると><必要以上に知りすぎたと><「孤独は自由の一部なの?」>、歌詞にするには諦念感というか、ネガティブなフレーズだけど、現実として受け止めて、新たな価値観で視点を変えればポジティヴに解釈できるかなと。
——最後にそれらを<受け入れよう>と歌われますからね。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=西槇太一
——サウンド面に関しては、曲が進むにしたがってだんだん音が増えていく構成で——それはいきなりストリングスが入ってきて盛り上がる、とかじゃなく「気づいたら盛り上がってる」みたいな感覚で、そこが印象的でした。
サビがサビっぽくないって言われたんですけど、確かにサビって力強さを出すために高い音階に行きがちなんだけど、この曲では主旋律は低く入って、上のコーラスで広がりを持たせることで、自然と包容感を感じさせられたらと思って。展開毎に場面を変えながらも、自然と広がって高揚していく風に仕上がったのかなって。
——この地声で歌える高さでサビが入ってくるのがすごく心地よくて、でも決してサビ感のない曲じゃない。
そうなんですよね。だからサビがサビっぽくないわけでもない。むしろずっと耳に残っていくんじゃないかなって思ってますけどね。
——サビからできたんですか?
別だった気がします。全部が別々であったものを合体させたような曲で、Aメロは元々このコード進行じゃなかった気がします。曲全体の流れは瞬間的に見えたんだけど、そこから見る角度を変えたり、別のコード進行を当ててみたり、自分の中でいろんな可能性を試してここに至った感じですね。普段、ギターを弾きながらメロディを作るので、コードとメロディが一体になって出来ていくから、メロディができた後に別のコード進行を乗せ変えることはあまりしないんですよね。リズムに関しては、四分のキックに跳ねるスネアのイメージがずっとありましたね。
——Bメロでダンダンと縦に刻んで、サビで跳ねますよね。
はい。Bメロはアレンジのときにわざといなたく。ダサくてもいいから、ロックなノリにしようって言って。だからBメロだけちょっと違う雰囲気なんです。
——すごく色々な音楽の要素を感じる曲で、特にアイリッシュっぽいフレーズが印象的に出てきますが、あれは何の音なんですか。
あれはシンセのフルートとストリングスをユニゾンで同時に鳴らしてます。ダンスミュージックの中でも、シンセらしい音よりも生楽器っぽいというか、アイリッシュフォークとか、民族音楽的なアプローチにしたいと思って。前作の「STNR Rock and Roll」では後半にブラスが入ってくるんですけど、これまでもブラスとかストリングスのコードで壮大さを出すことはあったけど、フルートの単音プレーズってストレイテナーとしては新しいかもと思って。
——そもそもバンドサウンドにフルートっていうこと自体、珍しいかもしれないですよね。
そうかも。ヨンシー(シガー・ロスのフロントマン)とかはめっちゃ使ってますけどね。作ってるときにヨンシーは全然思い浮かべてなかったけど、今思えばヨンシーのソロは全面的にこういうテイストだったりしますね。
——ライブハウスの、ロックバンド然としたところからやってきたテナーが、今こういう音楽と違和感なく交わっているのは面白いです。
間を飛ばすとね(笑)。色々と、たとえば「Discography」っていう曲をガッツリEDMっぽい音を探してリメイク、リミックスしたりとか、そういうことをやってきた中で、今はもうちょっとオーガニックな、踊れるんだけどオーガニックなサウンドの方がやってみたいかなって。ダンスって、DJがいてドンツクドンツク鳴っていてっていうだけじゃなくて、OAUとかがやっている音楽性もすごく踊れる。『New Acoustic Camp』に出してもらったりして思うのは、みんなが踊らされてるんじゃなくて自発的に踊ってるような空間が、やっぱり素敵だなって。そっちに惹かれていったのはありますね。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=西槇太一
——歌詞については先ほどもちょっと伺いましたけど、ホリエさん個人の物の見方の変化が映しだされたものでありながら、もっとスケールが大きい話にも捉えられると思ったんですよね。今の世間とか風潮……たとえば視野が広くなっているように見えて狭くなっているようなこととか、色々な事象に当てはまるなと。
うん。説教くさいですけどね(笑)。でも<君が君でいれば>っていうのは大きいかなと思います。君らしくっていうと在り来たりだけど、君は君なんだっていうのは、他の誰かの真似をしたってその誰かと同じ結果には決してならない。誰かと自分とは顔も違えば心も違う、出会ってきた人も経験や知識も。だから他の誰かの体験を自分も真似てやろうなんてのは無理な話で。君は君でしかないのだから、君ができる君にしかできないことがきっとある。……だからって人の話を聞かないっていうのは別だけど、結局は自分で体験して見極めていくしかない、周りの声に惑わされていたらどんどん視野が狭くなるばかりで。……この曲がそういうことを歌いたいわけじゃないんですけど、一つの理念ではあります。
——僕はやっぱり2番のAメロ、<世界は別の場所にあった>から<「孤独は自由の一部なの?」>までの言葉がすごく刺さりました。
なかなかですよね、これは。
——タイトルもこの中の「壁の絵」から来ていて。
うん。なんかね、自分が生きている世界なのに、どこかで壁を作ったり客観的に見ちゃって、「あ、自分もこの世界の一部なんだ」って気づいたときには遅くて、そのときには濁流に飲み込まれてると思うんですよね。……っていうのを経験していかないと気付けない。最後の<孤独は自由の一部>っていうのは、肯定も否定もしないので「一部」っていう言い方になるんですけど、「孤独=自由」っていう概念もあって。孤独っていうのは、良い意味では、自分を守るために孤独を選ぶことによって自由を得るっていうか……なんだろうな。
——いわゆる同調圧力みたいなものから解放された状態ともいえるから。
そうそうそう。そういう自尊の意味もあるし、その逆というか、悪い意味では、周りの世界に対して無関心でいる利己的な孤独。取り方によってなんですけどね。自由=自尊と取るか、自由=利己と取るかで、本当に自由と言えるのかどうなのか?っていうことを問う一行です。
——それこそいま起きているようないろんな出来事にも……
そうですね、繋がってくる。社会性が……まあ、そうなっちゃいますよ、そりゃあ。僕は昔からロックイズムとして風刺的な表現が根底にあって、元々結構そういうモチベーションで詞を書いていたから。近年は大部分を愛っていうテーマで書いた曲が増えてきたりとか、優しい気持ちを歌にしたいと思うようになってたけど……伊達にトム・ヨークの影響を受けてないっていう(笑)。
若い頃は世の中のことを何もわかってないけど、なんとなくアンチ・マジョリティな精神があって、「荒廃した世界の中で唯一ピュアなものとして音楽があって、それが唯一の希望だ」みたいなことばかり書いてたんですよ。それがどんどんリアルになってきて、自分が生きている世界と自分が繋がってるっていう実感とともに、自分が表現するものにも責任感を持ちたいって思った。言葉だったり描写するものがよりリアルになってきてるのはありますかね。
——ホリエさん自身も当事者感が増してきていると。
そうですね。だから自分自身にも「壁の絵みたいなものだった」っていう時代があるんですよね、やっぱり。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=西槇太一
——そしてもう一曲、すごいことになっているのがカップリングの「Parody」。前作の「Jam and Milk」のときにも「だいぶカオスですね」っていう話をしたんですが、上回ってきたのではないかと。
(笑)。「Jam and Milk」は途中で天邪鬼な展開があるけど、この曲は全編というか、全体的にそれが完成されてる。
——そうなんですよ。ヘヴィロックっぽく始まるけど、「あれ、コードはジャズだな」みたいな。で、ラップっぽい3連の歌メロが入ってくるし、最後にすごくメジャーコードの感じになるという。
そうそうそう。これは自分の中では結構前に作っていた曲で、ストレイテナーのメンバーでジャムっぽくアレンジしたら面白いんだろうなと思ってたけど、「何曲も同時進行でアレンジするってタイミングだとそれはなかなか面倒くさいな」って出しあぐねていた曲で。それでこのタイミングになったんですよ。
——なにせ要素が多いですからね。
シングルのタイミングだったら時間もかけれるなって思って、セッションみたいなノリで僕がピアノを弾き始めたら、全員がすんなりと曲に入ってくれたというか、一人一人が好きなことをやりながら、でも一つの方向に向かう空気がすぐに出せたので。イントロの部分は、ひなっちがAメロでこっそり弾いていたベースフレーズを、途中からOJがめちゃくちゃ歪んだギターでユニゾンし始めて、こうなったらもうリズムもマッチョな感じでラウドに叩いてみてってシンペイに言って、やってみたらミクスチャーみたいでその違和感が面白いかなとか、そういうアイディアもどんどん乗せていって。
——土台にあったのはこのジャズ感だったんですか。
そうです。僕がピアノで弾いてるコードのバッキングが元々あって。リズムとかもその世界観に沿ってるんだけど、そこをOJが「ギターはジャズっぽくしたくないなぁ」って言ってたりして——。
——みなさんの合わせ技でこうなっていったという。
それぞれがギリギリのところで曲を生かしているというか、遊んでいるんだけど壊れない絶妙なところに全員がいるっていう感じですかね。
——そしてこの2曲の他に映像もパッケージされて、日比谷野音ワンマン『Fessy』のライブ映像が収められてます。バンドがすごく忙しいタイミングでのライブでしたけど、今振り返るとどんな野音でした?
あれは本当にね、もう申し訳ないけど、自分たちは「良いライブをした」という実感が全然ない(笑)。企画の段階で、初の野音ワンマンだから野外フェスっぽく、アコースティックのストレイテナーとエレクトリックのストレイテナーの対バン形式みたいなイメージで2部構成にしたんですよね。アコースティックの方はもう何年もやってなかった曲もセットに入れてたりとか。
けど、その前後に『NANA-IRO ELECTRIC TOUR』、『Drawing A Map TOUR』があったし、夏フェスも9月の終わりまであったからずっとライブは続いていて、気持ちの切り替えができてなかったんですよね。しかもそのどのライブとも違った特別なものにしたくて、自分達に課すものが大きかったんだけど、その日になるまでここまでとは思わなかったですね(笑)。だから実感として「良いライブしたね」「初野音、やりきったね」みたいなことは全くないんですけど、お客さんのリアクションはめちゃくちゃ良くて、「ああ、よかったんだ」って(笑)。
実感がないとは言いつつ、あの日を特別なものにしたかったっていう思いは間違いないから、それが伝わっていたんだったらよかったし、これだけリアクションがよかったものを映像化できる、観れなかった人たちに楽しんでもらえるのはすごくいいなと思います。
——シングルリリース以降の動きは何か考えてますか。
また制作に入ろうかなと。まだこの2曲だけがあって、僕の中の膨大な量のデータをメンバーに伝えるところからなんですけど。
——デモ化したりはしないんですね。
しないですね。全部体当たりでいくんで。それを伝えるのが大変で……。
——どういうことですか(笑)。
曲をアレンジするときは、まず僕が生で、「こういう曲です」みたいに弾き語るんですけど。その現場ではまったく響いてないんですよ。ひと通り聴かせて「おお、めっちゃいいね!」みたいなのは無い。まあ、僕が弾き語り始めた瞬間から一人一人がどうアレンジしようか考えながら聴いてるからだとは思うんですけどね……考えてるんだとは思うけど、考えてるかどうかはわからない。リアクションが無いから(笑)。
——(笑)。気が早いですが次作も楽しみです。
頑張ります。

取材・文=風間大洋 撮影=西槇太一
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=西槇太一

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