たとえ世間の「正解」とは違っていた
としても、でも――。 この春デビュ
ーした18歳の新鋭・映秀。 人生初イ
ンタビュー

あなたは「ジェラfeat. 映秀。」というYouTubeチャンネルを知っているだろうか。「友人のジェラトーニくんが隣でくつろいでいる状態で様々な曲を歌う」という、ちょっと変わった体で繰り広げる弾き語りのカバー動画をアップし、総再生回数750万回越え・チャンネル登録者数も10万人を突破と話題を呼んでいた、その「歌っているほう」である「映秀。」(エイシュウ)が、この3月に3つのオリジナル曲を配信し、アーティストとしての活動をスタートさせた。現在18歳である彼は、作詞・作曲・アレンジ・トラックメイクを自身で手がけるのはもちろん、アートワークやミュージックビデオ等の制作もセルフプロデュースする全方位型。今回配信された彼の始まりを告げる3曲、「東京散歩」、「Sirius」、「Bad Beautiful Love」は、アーバンでオルタナティヴなR&Bやヒップホップを咀嚼した「ネオJ-POP」と言うべき端正な楽曲群であると同時に、特に「東京散歩」から聴こえてくる等身大の情熱と真っ直ぐなメッセージにフッと心を持っていかれる。この3曲とカバー楽曲のセレクトとの音楽的な幅も含め、これからどう花開いていくのかが楽しみな存在だ。

そもそもは声楽で藝大を目指していながら、ある出来事をきっかけにそのレールを外れ、自身の音楽を探求し始めたという映秀。は、一体どんな人なのか。高校を卒業し大学へと進学とする、その束の間の狭間に、彼の人生で初めてとなるインタビューを試みた。
——そもそも映秀。くんは今回作品をリリースするよりも前からYouTubeの「ジェラfeat. 映秀。」というアカウントでカバー動画を上げていて、それが話題になっていたわけですけど。
「ジェラfeat. 映秀。」は、本当に友達とふたりでただ遊んでる空間をみんなと共有してるっていう感覚のもので。そもそもあれを始めたのは僕のアイディアじゃなくて、彼に「それ絶対上げたほうがいいからやろうぜ!」って言われてやり始めたものなんですよね。
——その彼っていうのが、映秀。くんが歌ってる隣にずっと映ってるジェラくんってことだよね?
そうです。だから僕はあくまでフィーチャリングされてる側っていうか、呼ばれてる側なんです(笑)。
——なるほど(笑)。
でもその分、アーティストとしての映秀。っていうところは忘れて、気楽にというか、単純に楽しんでやれてるっていう。だからあれはほんとに、週に1回ふたりで遊ぶついでに動画も撮ってっていう感じでやってて、そうやって高校生が遊んでる感じをみんなも楽しんでくれてるのかなと思ってるんですけど。ただ、僕がやりたいことは何だろう?って考えた時に、やっぱり自分が思ってることを伝えたいから、それはカバーじゃないなと思って。だから高校卒業と共に「ジェラfeat. 映秀。」は一旦区切りをつけて映秀。としてやりたいなと思って、今に至ってる感じです。
——映秀。としては、2018年に「夜ル進ミ歩ク」という曲のMVをYouTubeにアップしたのが最初のアクションでしたよね。当時からアーティストとして自分の音楽を発表していきたいっていう明確なヴィジョンがあったんですか。
最初はただ楽しく音楽をやりたい、そこに自分の伝えたいメッセージをちょっと乗せたい、くらいの気持ちだったんですけど。でも、高校2年生のときにあるバンドのライブを観た時に、「僕もああなりたい」って思って。自分もみんなの背中を押してあげられるような、一歩踏み出すのを手伝ってあげられるような、そういう誰かのきっかけになる存在になれたらいいなって思うようになったんですよね。そのライブを観た時に、本当に自分の好きなこと、自分のやりたいことを貫き通してる姿が凄くカッコいいなって思って……僕は元々声楽を専攻してて、藝大に行こうと思ってたんですよ。けど、本当にやりたいことが何なのか?ってことはあんまり考えたことがなかったんですよね。ただ中学の時から男声合唱をやってて、高校の時には関東大会でソリストをやって先生にも褒められてっていう、ちょっと声楽が得意でそれで大学も行けそうだったから、じゃあその道に行ってみようかなっていう感じで(笑)。だからちょっと迷いはあったんですけど、そういう時期にそのライブを観て「あ、自分が本当にやりたいことは声楽じゃないな」と思っちゃって……それで藝大を目指すのをやめて、自分の音楽をやりながら大学受験をできるような形を探し始めたんですよね。で、無事に大学受験も終わって落ち着いたので「よし、いろいろ始めよう」と思って、今回の配信リリースに至ったんですけど。
——ちなみに大学受験の結果は……?
勉強は全っ然できないんですけど、AO入試で受かりました(笑)。
——おめでとうございます。そもそも、ご自分にとって「歌」は特別なものだなっていう感覚はあったんですか。
当時はそういう感覚はなかったですね。まぁ自分には才能があるっていう無駄な自信はあったんですよ。中学1年生のときに音楽の先生に褒められてから「俺、センスあるんじゃないか!?」って思っちゃって、そのまま特に何も考えずに続けてて(笑)。だから歌に対して特別な想いがあるとかってことはなかったんですけど、でも自分の本当にやりたいことはなんだろう?って思うようになってから、歌に関しては凄くいろいろ考えるようになりました。
映秀。
——では現時点の映秀。くんにとって、歌とはどんなものだと思います?
今の僕にとっての歌は「言語」だと思ってて。上手い歌を歌うつもりでやってるわけでは全然なくて、自分が思ってることを相手が汲み取りやすい形で届けるための言語であり、みんなとコミュニケーションをするための言語であるっていう……そんなふうに今は考えてますね。だから歌の上手さとか技術とかで勝負したくなくて、自分なりの使い方をして歌を歌いたいなって思ってるんですけど。
——「ジェラfeat. 映秀。」で上げているカバー動画はロックバンドの楽曲も多くセレクトされてますけど、声楽をやってるときにもバンドだったりロックだったりに興味があったんですか。
あ、実は声楽と並行して軽音楽部にも所属してて、バンドもやってるんですよね。それはほんと、友達に「バンドやろうぜ!」って言われて組んだバンドで。元々僕はロックとかがあんまり得意じゃなかったんですよ。なんかウルサイし、勝手な固定概念みたいなのがあって苦手だったんですけど、いざバンドを始めてみたら楽しくなって(笑)。ギターの歪んだ音とかもずっと汚い!と思って受け付けなかったのが、自分で鳴らしてみるとなんか全然違ったんですよ!(笑)
——(笑)。
それまで汚い!無理!とか思ってたのに、自分でジャーンと鳴らした瞬間に気持ちよくなっちゃったというか、凄くいいなと思っちゃって(笑)。そういう発見があったんで、そこからいろいろ挑戦してみようってなったところもありますね。
——声楽と並行してバンドもやっていながら、いざ自分の音楽を発表しようと思ったときにバンドではなくひとりで、しかも自分でトラックを作り、音楽的にもヒップホップやオルタナティヴR&B以降のポップス観を描くようなスタイルでやろうと思ったのは何故だったんですか?
今でもバンドはバンドで楽しいんですけど、それと映秀。ははっきり分けていて。というのは、どんな評価も全部自分で受け取って自分で返したいんですよ。他の人と一緒にやるとどうしても解釈がズレるじゃないですか。大勢になっちゃうとやっぱり考えてることも伝えたいこともバラけちゃうから、そこはひとりでやりたいなっていう気持ちは結構あって。だから「夜ル進ミ歩ク」のMVを作ったときも、自分で絵コンテみたいなのを書いて「ここはこうしたい」「こういう形にしてくれ」って言って作ったし。
——つまり、さっき自分にとって歌は言語だって言ってくれましたけど、音楽は自分の想いだったり考えだったりを表すためのものなんだ、だからこそひとりでやりたいんだっていう意識があった、と。
そうだと思います。けっこう感覚で動いちゃう人間なんではっきりと自覚してたわけじゃないけど、でも振り返ってみると、やっぱりそういう意識はあったような気がしますね。
映秀。
——この3月に、「東京散歩」、「Sirius」、「Bad Beautiful Love」という3曲を3週連続リリースという形で配信したわけですけど、この3曲は自分の中ではどんな位置づけなんですか?
「東京散歩」は去年の秋くらいから作ってた曲で、これは完全に僕の話、自分の紹介みたいな曲なんですけど。で、「Sirius」と「Bad Beautiful Love」はどっちも僕の話じゃない、物語で、こういうヒップホップ歌モノみたいなのをやってみたいな〜と思って1日で作った曲ですね。特に「Bad Beautiful Love」は完全に歌舞伎町を思い浮かべて書いてるんで、歌詞とかに深い意味を求められても何もないんですけど(笑)。
——はい(笑)。
基本的にジャンルにしても何にしても、あんまり固定された何かはないんですよ。だから別にヒップホップを凄く聴いてたわけでもないし、作るときも歌詞から作ったりリズムから作ったりメロディから作ったり、いろいろだし。ただそのときに自分が好きなもの、やりたいと思ったものを組み合わせて、そこに何か自分の想いを乗せられたらいいなっていう感覚で作ってるんですけど。
——「東京散歩」は、<白い線だけを歩くが「正解」/黒を踏んだら死んでしまう/子供の頃からずっとそうだった/ずっとずっとそう生きてきたんだ>というリリックから始まって、<敷かれたレールの上での競争/逸れたら負けだと先生は言った/物差しは唯一「成功失敗」/「この価値は一体何になるんだ」/自問自答を始めた夜 僕は一人>という言葉が歌われていますけど、世間一般の価値観で敷かれたレールを歩くことに対する違和感だったり、でも同時にそのレールを外れることへの怖さだったりは、小さい頃から抱えてたんですか。
うーん……まず、僕は勉強が本当にできないんですよ。周りからはずっと勉強しろ勉強しろって言われ続けてきて、でもしないままここまで来ちゃったんですけど(笑)。なんか、確かに勉強ができるのも凄いことだし必要な能力であることもわかってるんですけど、でも僕はそのフィールドでみんなと一緒のベクトルで勝負は全然できなくて。けど、それが正解と言われている世界だからやらなきゃいけないっていう、それが苦痛だったんですよね。
だってもしかしたら、この世界の基準が音楽だったら勉強なんてしなくてもいいかもしれないのに、たまたま今の世界の基準が勉強だから、勉強をしないとハズれたとか言われるし、先生にもお前はバカだとか言われ続けてきたし。そういうところが窮屈だなっていうのは、ずっと感じてましたね。
……ちょっと話が外れちゃうんですけど、AO入試で出した自分の研究テーマが不協和音についてなんですよ。僕も楽曲の中で不協和音を使ったりするんですけど、不協和音って、単体では汚いかもしれないけど、使い方によっては凄く綺麗になるんですよね。汚い中にも絶対に美しさはあるから、それを組み合わせによって見出していきたいなって思って。ただ、それだけだと大学側は受け入れてくれないだろうなと思ったんで、AO入試では「不協和音を研究することによって騒音問題の改善に繋げられるんじゃないか」、「キーンっていう騒音に何か別の音を当てて調和させたら美しくなるんじゃないか」っていう提示の仕方をしたんですけど。
で、それって僕自身もそうだと思ってて。欠けてる部分はあるかもしれないけど、でも見せ方・使い方によっては輝けると思ってるから。だからいわゆる世間の基準の中で一番を獲るために闘うんじゃなくて、僕は違う勝負の仕方をしたいっていう気持ちは自分の中に強くありますね。
映秀。
ーーさっき「Sirius」はフィクションだって言ってましたけど、この曲にも<小学校まで優等生けどそっからここまで劣等生/あの一等星目指してだっせい/かかげて今まで来たこの宣誓を>、<あの星を目指して/今を描いて今を謳う 自分自身信じて>というリリックがあって。これも、世間の基準ではなく自分を信じて一等星を目指すんだという、「東京散歩」で歌っていることと共通する部分があるなと思ったんですけど。
なるほど、確かにそういう解釈もできますね……あー、確かに(笑)。
——ご自分的には全然違いました?(笑)
「Sirius」はラッパーの男の子を主人公として設定して書いたんで、映秀。の話ではないんで。だからどちらかと言うと、みんなと同じフィールドの中で一番を獲るために頑張ってるんだけど、でも一番を目指して勝負してるって言うのが恥ずかしくて言えない、もしくは諦めてる、みたいな人が、この曲を聴いてちょっとやってみようかなって気持ちになったらいいなって思って書いてたんですけど……でも確かに、自分が目指してる道で一番をっていう解釈もできますねぇ。というか、そっちのほうがしっくり来ますね(笑)。
——(笑)。表現って、書き手が無意識であっても、潜在意識で思っていることが表出したりするものだから。つまり、この感覚は映秀。くんの中に軸としてある信念でありメッセージなんじゃないかなと思うんですけど。
やっぱり、やりたいことがあるのにやってない人とか、他人と自分を比べちゃう人とか、「成功失敗」ってワードに縛られてる人とかって自分の周りにもたくさんいると思うんですよ。本当はやりたいことがあるのに、でもそのレールは敷かれてないからそこには挑戦できないって諦めてる人とか。その人達の肩を押してあげたい、そのきっかけになりたいっていう気持ちがあって、それが今の自分の軸になってますね。それをなんか押し付けがましくやるのではなく、僕はこういうふうに思ってこうやって進んでますよーっていうのを見せることで伝えたいっていうか。
……この前、パニック障害で倒れた友達を駅で介抱してたら、あからさまに邪魔だって目で見られたり、おじさんに蹴られたりしたんですよ。しかもそれをTwitterで書いたら、「蹴ったヤツを捕まえて叩き潰せ」みたいなコメントが来たりして。それで、そういうことを言って欲しいわけじゃなくて、自分に何ができるのかってことを考えて欲しくてツイートしたんだって書いたんですけど……なんか、もしかしたら社会って僕が思い描いていたよりも窮屈な場所なのかなってことを感じて。そのときに初めて、自分の意見を言ったり歌を発信したりすることって怖いことなんだなと思ったし、その責任を感じたんですけど。でもそういう責任を受け止めた上で、たとえ自分の道が社会っていうものと異なっていたとしても、僕はこう思うっていうことを発信し続けたいし、自分の思う道を行きたいなって……それが僕の使命なんじゃないかってことはちょっと思ってますね。
そういうのもあって最近は自然と、誰かに寄り添う音楽じゃなくて、「僕はこう行ってるよ、だからみんなもこうしてみたらどうかな」っていう形の歌詞になってきてて。だから自分のことも隠さずに出していきたいし。18歳の僕がこうやって頑張ってるっていうのをちゃんと見せることで、私も頑張ってみようかなって思ってもらえるきっかけになるんじゃないかなって思うから。……今、「昨日とか明日じゃなくて、今を生きよう」っていうのが自分の中で凄く強くあるんですよ。
——「東京散歩」でまさに、<明日じゃなくて 今日を生きろ/未来じゃなくて 今を生きろ>と歌ってますよね。
はい。後ろも前も、考え始めたらマイナスになっちゃう人が多いと思うんですよ。時間に駆られちゃったり、未来の不安に押しつぶされたりしちゃう。もちろん明日のことを考えて希望を持って頑張ろう!って思える人はそれでいいと思うんですけど、僕の周りはそういう人は多くないから。僕も今そうなんですよ。一応いい大学に受かったし、お金も入ってきてるし安定もしてるんだけど、でもやっぱりいざ未来のことを考えたら不安だし。それこそ本当に音楽で食っていけるのか?っていうのも思うし……けど、だからこそそういうことを考えるのは一旦置いておいて、今の自分にできることは何だろう?って考えてそれを一生懸命やることで、今を生きたい。それが今の僕のテーマかなと思います。

取材・文=有泉智子(MUSICA) 
映秀。

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