鈴木聡(劇作・演出家)×笠井信輔(
フリーアナウンサー)がラッパ屋『コ
メンテーターズ』を語る〜「コメンテ
ーターには視聴者が共感する喜怒哀楽
が任されている」

社会におけるおじさんたちの悲哀を愛らしく、かわいらしく、また面白く。そんな現代の人情喜劇を描くラッパ屋の新作は『コメンテーターズ』だという。実はこのネタ、演劇愛でつながっている、おじさん二人の居酒屋での会話も一つのきっかけになっている。現在、闘病中の笠井信輔アナへの応援も込めて、2月中旬に30分のLINE電話会談が実現した。
笠井信輔
■ワイドショーのスタイルの変遷はこうだ
――昨年、鈴木さんが脚本・演出のミュージカルを観た後に飲みに行ったんですよね?
笠井 そう、そこでワイドショーのコメンテーターの話を書きたいと聞いたんです。もう鈴木さんの目のつけどころが素晴らしい!
鈴木 見てください、チラシ。
笠井 出たー。いいないいな、見たいなあ。ワイドショーの変遷をたどると、僕が駆け出しのころは“リポーターショー”だった。どんなリポーターを獲得するかが番組の人気を決めたんです。東海林のり子さんとかすごかった。そのころは事件現場に行き、リポーターがワンカットで延々2分間リポートして、それをカメラが収録してた。
鈴木 そういう時代がありましたね。
笠井 僕も事件の現場に行くと井戸端会議をしているおばちゃんたちがいるんです。
鈴木 そのおばちゃんたちはヤラセなの?
笠井 ワイドショーおばちゃんという、取材を受けたがっている方々が現場にいるんです。事情を知っている地元の人たちが。僕が話を聞こうとすると「東海林さんはいつくるの?」と聞かれるんです。「番組が違うので後からいらっしゃいます」と答えると「私たちは東海林さんを待っている」って(苦笑)。その時に痛感しましたね。笠井なら信頼して話せるという人間になろうと。当時はまだ一般家庭を訪ねてもとりあえずドアを開けてもらえたんですよ。でもバンバン取材拒否に合う。ところが社に帰ってテレビを見ると、僕の取材を断った人たちが東海林さんにはしゃべっているわけ。
鈴木 アハハハハ!
笠井 そういう時代があって、その後キャスター主流になるんですよ。ニュースも含めて誰が司会をするのかが大事になった。小倉智昭さん、みのもんたさんですよね。
鈴木 僕らが子供だったころの小川宏ショー、木島則夫ハプニングショーはその走り?
笠井 走りといえば走りですけど、当時はまだサロンショー的な番組でしたよね。
鈴木 あぁ、のどかで上品でした。
笠井 その中に突撃リポーターとして露木茂さんもいたんですよ。のどかな流れは午後にも続いていて「3時のあなた」「3時に会いましょう」がありました。
鈴木 「3時のあなた」は森光子さん、芳村真理さん、富士純子さんが司会をしていましたね。
――映画監督の伊丹十三さんもリポーターしてましたよね?
笠井 川崎敬三さんの「アフタヌーンショー」かな。
鈴木 伊丹さんは、永六輔さんらと「遠くへ行きたい」にも出ていて、文化人がテレビに進出する感じが新しかった。サブカルチャー的なものがテレビに入ってきたんだよね。
笠井 そうそう。伊丹さんの取材は視点が独特で、王道な感じではなかった。それを経て小倉さん、みのさん、沢田亜矢子さんなどの“キャスターショー”になるんですけど、その直前はしばらく局アナが司会をしてました。そのあたりはウイキペディアを見てください。
鈴木 ハハハ!
■コメンテーター増加のヒントはバラエティ番組のひな壇トーク
鈴木 キャスターにスポットが当たったのはいつごろから?
笠井 10年は経ってませんね。キャスターがいて、専門家がいて、ゲストにも意見を聞くという手法に変わっていった。リポーターショーの時代は自分の担当がなくてもリポーターがスタジオにずらっと座っていたんですよ。そこからリポーターがプレゼンターを務めるスタイルをつくったのは20年前の「とくダネ!」なんです。
鈴木 小倉さんが「じゃあ、笠井くんから」と振ると「やあ、今年のアカデミー賞は予想が外れました」なんてしゃべり出すやつね。
笠井 そうそう。それが大当たりして、各局が真似をし始めました。それで何が起きたかというと、今までリポーターが座っていた席にゲストを複数入れ始めた。参考になったスタイルは僕が考えるに、明石家さんまさんのトーク番組のひな壇ですよ。立って司会をするのは、さんまさん。ワイドショーで俺が主導権を握ってますという形で司会をするスタイルは、羽鳥慎一さん、宮根誠司さん、恵俊彰さんなどがそう。でも今、人気番組になるために大切な要因の一つは意見をしゃべっているコメンテーターの方なんです。
鈴木 確かに。
笠井 だから鈴木さんがコメンテーターを取り上げるのは、時代にマッチしている。
鈴木 なるほど!!!! 
笠井 これで前提は大丈夫、おしまいです。
鈴木 (苦笑)コメンテーターの人たちは話題を振られると短く、面白く、素早く意見を言わなきゃいけないでしょ。このコンプライアンスの時代、気を遣いつつ、でもウソっぽくならないように瞬時に言葉をチョイスする。それがすごいと思うんですよ。
笠井 はい、はい。
鈴木 僕がこのテーマを選んだ理由の一つですよ。僕は広告の仕事もやっているので、テレビというメディアが情報を単純化して、強くして発信することもわかっている。そうじゃないとマスに伝わらないから。コメンテーターの人たちもそこを十分わかった上で、言葉をセレクトしているからこそ世の中に対する影響力も大きいと思うんですよ。インターネットがいろんな可能性を提示している時代だけど、テレビの影響力は圧倒的に強いし、なんだかんだメディアの王様ですよ。ただどうしても繊細な思いがこぼれ落ちていくんです。もちろん作り手に悪意があるわけではなく、それぞれの立場で頑張った結果そうなっていく。
笠井 はい、はい。
鈴木 新作の主人公は、中央線沿いの飲み屋で言いたいことを言っていたおっさん。彼がひょんなことから本当のコメンテーターに抜擢されるんです。
笠井 それ、めっちゃ面白い。
鈴木 でももっとわかりやすく言ってくださいよ、もっと短く言ってくださいよって言われてどんどんテレビ的に加工されていく。それでおっさんは自分の中にあった中央線的な繊細さがなくなり、ツルツルになっていくのを感じるわけ。
笠井 もう脚本はできているんですか?
鈴木 まだです。今日の話も参考にします。
笠井 テレビから繊細がなくなっているという意見に対して正直に言うなら、情報番組にはいわゆる繊細さがそもそもないんですよ。
鈴木 わかる、わかる。
笠井 だいたい新番組が始まると「わかりやすく皆さんにお伝えします」と言う。それは繊細さを排除していくことなんです。まさに鈴木さんが言っていることと合致する。でもテレビから繊細さが失われているんじゃなく、情報番組の存在が大きくなっているので、テレビ自体がそう見えるんです。
鈴木 あれ、情報番組ってどういうこと? ワイドショーのこと?
笠井 今のワイドショーにかかわる人たちは過去への罪悪感からワイドショーとは言わないんです。
鈴木 へえ〜。
笠井 繊細さで言うと、今は感情よりも情報が繊細になっています。新型コロナウィルスも、そこまで詳しくやるんだ!というくらいでしょ。でもそこにエモーショナルな部分はそれほど盛り込まない。例えば震災の取材などでアナウンサーが泣いていると批判を受けたりします。
鈴木 あなた伝える役割でしょ、エモーショナルになってどうするんですかと。
笠井 そう。でも30年前はその泣きこそがみんなの心を動かしてたんです。
鈴木 そうだよね、泣きの小金治の桂小金治さんとかね。
笠井 まさに! そういう意味では僕は泣きたいときは泣くを貫き通してきた珍しいタイプの局アナ。ただ今の時代、求められているのは怒りの爆発なんです。
鈴木 梅沢富美男さんなんか上手だよね。
笠井 梅沢さんはとあるアンケートで好きなコメンテーターのナンバーワンです。でも同じアンケートで嫌いなコメンテーターのナンバーワンも、
鈴木 梅沢さん!
笠井 そこなんですよ。梅沢さんは炎上するけど、賛同者もいるということなんです。
鈴木 でもいいことでしょ、テレビ的には。
笠井 梅沢さんは芸能人なので、過激なことをしゃべっても視聴者は共感できる。一方、専門家の辛口コメンテーターで炎上している人もいます。それでも辛口はやめません。つまりコメンテーターが生きる道は、そういう考え方ができるのか!という独自の意見を持っていること。それがテレビ局的にもうれしいんですよ。
鈴木 単に当たり前のことじゃなくてね。
笠井 でも当たり前のことを言うコメンテーターも必要なんです。つまりひな壇に並んだコメンテーターには喜怒哀楽が任されている。常識的な人、専門的な人、弁護士、なんでも言っていい芸能人などの役割があるわけです。その中でも芸能人には思い切って発言してほしいとスタッフは期待していますよね。
■コメンテーターは自分の存在感をどう出すかの戦い
鈴木 ところでコメンテーターの人は、やっぱり自分の生き残り戦略みたいなものは考えているの?
笠井 してるしてる。コメンテーターの飲み会に行ったことがあるんですよ。
鈴木 え! 面白いね。
笠井 僕もコメンテーター的仕事をやっていましたから。そこでコメンテーターの皆さんに「笠井さんはしゃべりすぎ」って糾弾されたんです。
鈴木 ははは! 
笠井 「私たちがしゃべる前にしゃべらないでよ」って。「局の人なんだから、もう少し黙っていて」って。でも僕も一般的なことばかりではつまらないから、角度のあることをしゃべろうと思うわけです。
鈴木 小倉さん自身が角度入っているからね。笠井さんは割と常識的なことを言わなければいけない流れで振られますよね。
笠井 そこでコメンテーターの皆さんは言いたいことが先に言われちゃったら自分の中の別の引き出しを開いて、「今度はこのコメントで」と対処するわけですよ。ただそれがなくなった最後の人がやけくそになって過激なことを言うと炎上しちゃう。ある意味ではコメンテーターは自分の存在感をどう出すかの戦いなんです。
鈴木 厳しいよね。
笠井 厳しい。お試しで出演させてもらった場合、1回目は緊張しているから仕方がないけど、2回目もダメなら使われないなんてことも。そんな中で鈴木さんが書こうとしていることがリアルなのは、街角コメンテーターなんですよ。言いたいことを言うじゃないですか、普通のおじちゃん、おばちゃんが。
鈴木 今はいろんな人がよくしゃべるようになってきたもんね。
笠井 僕だって急にマイクを向けられて、こんなにいいコメント出せないよって思いますもん。それはTwitterなどの浸透もあるでしょうけど、コメンテーターが活躍している今、テレビを見ている視聴者が学んだんだと思うんです。
鈴木 コメンテーターから学んだんだ!!
笠井 でも冗談ではなくて、脅迫に負けまいと命をかけてしゃべっているコメンテーターもいます。かと言えばバカと言われ続ける人もいる。
鈴木 それも貫けば味になるし、むしろ信頼感も生まれてくるもんね。
笠井 そうなんですよ。
――笠井さん、もう制限時間です。鈴木さんに応援コメントをください。
笠井 まだまだしゃべれますよ(笑)。
――ダメ、ダメですよー(笑)。
笠井 えー、そうだなあ、ラッパ屋さんはいわゆる群像劇、いろんな人がいろんな立場でいろんなことを巻き起こすドラマに笑いと涙がある。素晴らしいんですよ。今回、鈴木さんがコメンテーターにいち早く目をつられたことに関しては期待しかありません。テレビで見ていておかしいな、変だなということをすべて注ぎ込んでぶちまけてほしいですね。一方で、じゃあ鈴木さんが得意としているハートウォーミングな部分を、このギスギスしたコメンテーターの世界で、
鈴木 あはは、ギスギスなんだ。
笠井 それをどんなふうに出してくるのか、そこにものすごく期待しています。
鈴木 ありがとうございます。目標をすごく明解にしていただきました。
笠井 もう楽しみでしょうがない! 僕もおっさんだもん。ラッパ屋のおっさん物が大好きだし、共感しちゃう。
鈴木 今回もおっさん物ですから。頑張ります。
取材・文・写真撮影(鈴木聡):いまいこういち

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