ヒップホップ発、新たなポップの地平
へと sankaraのニューEP『SOP UP』の
魅力に迫る

ラッパーのTossとシンガーのRyoからなる二人組・sankaraがセカンドEP『SOP UP』をリリースした。初めて外部からプロデューサーを迎え、3カ月連続でリリースしたシングル「Walking the river」「Train」「Callin」に加え、もとの巣に戻って作った新曲「KATASUMI」「I know」「Elevotor」の全6曲を収録。殻を破って外を向き視野を広げたからこそ、近しい仲間との化学反応にも新鮮味が生まれたのだろう。アーバンな洗練性、レイドバックしたムード、日常をソフトに彩るBGMとしての魅力、ときに誰かを鼓舞するポップミュージックとしての強度といった多面的な魅力は、土台が大きく持ち上がり、さらに高く広い空を見渡すように拡張。その象徴となる曲が、モデル/女優の内田理央が出演するミュージックビデオも話題の「Elevotor」だ。これまでのsankaraの魅力に核たる自信を得たからこそ、その枠の向こう側に踏み出し、新たな領域に到達したダンサブルな曲を始めとした今作を引っ提げ、sankaraはこの先どうなっていくのか。作品への手応えとともに、二人の現在地と未来について語ってもらった。
――まずは収録曲から、2019年の10月、11月、12月の3カ月連続でリリースしたシングル「Walking the river」「Train」「Callin」について、振り返っていただけますか?
Toss:すごく楽しかったです。でもちょっと悔しい気持ちもありました。それはネガティブなことではなくて、もっと認知されたい想いが更新されたというか。単純に「リリースお疲れ様!」みたいなムードにはまったくならなかったですね。
Ryo:それまでは、sankaraを結成する前からの仲間だった、いわば同じチームのプロデューサー/トラックメイカーと曲を作ってたんですけど、初めて外部からプロデューサーを迎えられたことは、すごくいい経験になりました。そのうえで思うことはTossと近いですね。多くの人たちに関わってもらえたおかげで、もっとやれんじゃないかって、悔しさとともに前向きになれた3カ月でしたね。
――「Walking The River」を手掛けたShin Sakiuraさんには、どのような印象を持ちましたか?
Toss:Shinくんは、SIRUPのサポートギタリストやDJ、ソロアーティストとしてもともと知っていて、すごく気になる存在でした。曲の作り方としては、まずShinくんからトラックが送られてきて、僕らがそれに言葉を乗せて返すやりとりを何回か繰り返したんですけど、最初の段階で、けっこう意外な曲がきたと思いました。
Ryo:おまかせって感じでリクエストしたんで、僕らがイメージするShinくんというか、もっとアーバンな曲が送られてくると思ってたんですけど、Shinくんなりにsankaraをしっかり咀嚼してくれたような、ハッピーな曲になっていて、予想外ではありましたけどすごく嬉しかったです。
――Shinさんはギタリストでもあるので、オーセンティックな音楽にも精通していますし、なおかつモダンなトラックメイクもできるアーティスト。その感性とsankaraのレイドバックした魅力がすごくマッチした曲だと思いました。
Ryo:僕らのポップな要素をしっかり汲みとってくれたうえでShinくん流にアレンジしてくれたんで、当初はシーンのこれからを担う若手アーティストとのチャレンジングな曲になると思っていたんですけど、すごく自然体でやれました。
Toss:こっちが一方的に想像を膨らませていたことに対する嬉しい誤算。さすがだと思いました。
――「Train」を手掛けられたSUNNY BOYさんとは、もともと繋がりがあったんですよね?
Toss:はい。SUNNY BOYは同い年で付き合いも長くて、特にRyoはふだんから仲がいいから、この曲もすごくリラックスして作れました。
Ryo:前からいつか一緒にやりたいとは言ってたんですけど、彼のほうが先にプロデューサーとして名前が売れて、なかなかいいタイミングがなくて……。ようやく実現できてよかったです。ほんと、いつものようにセッションする感じで、完パケまで2日でできました。
――sankara史上もっともモダンな曲になったと思うんですけど、どんなイメージをシェアしたうえで、SUNNY BOYさんがトラックを練っていったのですか?
Ryo:まさに、最近のヒップホップやK-POPがイメージにありました。前からやってみたかったんですよね。SUNNY BOYはその分野のプロフェッショナルであり、なおかつ僕らのこともよく理解してくれている。彼とやってこそもっともいい曲ができると思ったんで、方向性はすぐに決まりました。
――そして「Callin」はクラブを創成期から知るDJであり、プロデューサーであるDJ HASEBEさんとともに。
Toss:HASEBEさんの存在はずっと知っていましたし、正直、最初は緊張してたんですけど、好きにやらせてもらえて、一言で言うと感服しましたね。僕らにとってはレジェンド。そういう立場にいながら、後輩からも何か学ぼうとする姿勢を感じるんです。これぞカッコいい大人ですよ。トラックの素晴らしさだけでなく人間的にも強く惹かれました。だからこそ、HASEBEさんから提案してくれた、仲間や家族への”愛”という大きなテーマにも、気負うことなく向き合えたように思います。
――今回のタイトル『SOP UP』は“吸収する”という意味。この3曲で感じたことも大きかったように思います。
Toss:最初にRyoが“スポンジ”って言って……。
Ryo:もともと仲のよかったSUNNY BOYも含め、初めてのプロデューサーと組んで3カ月連続で曲を作ったことは、すごく大きな出来事だったんで、”吸収”というイメージが出てきた部分もあったんですけど、それにしても“スポンジ”はダサいって(笑)
Toss:でも意味合いはすごくいいと思ったんで、いろいろと言葉を探して『SOP UP』になりました。インプットすることはすごく大切で、それは生きている限りずっと続くこと。でも、sankaraがスタートした当初は、まず土台を作るために自分たちだけでやってきて、閉じていたわけではないんですけど、ちょっと吸収が足りていないようにも感じていたんです。そんなタイミングで、新しい事務所に入って初めてのプロデューサーと組ませてもらったり、ライブなどの露出や活動の幅も広くなったりしたことで、圧倒的に世界が広がりましたね。
――そのうえで、もとの制作チームに戻って作った新曲3曲にも、明らかな進化を感じました。土台全体が持ちあがって、より高くて広い景色が見えるような。
Ryo:底上げは常に必要で、とりわけアップデートしようとか思っていたわけではないんですけど、完成した曲や作品全体を聴いて湧いてきた自信は、今回特に大きいので、そうおっしゃってくれることはすごく嬉しいです。
Toss:Ryoが言うように、こうして活動している限り常に進化は求めつつも、自分たちから「アップデートしました!」みたいなテンションではないんです。それって聴いてくれた人たちが感じること。でも、ちょっと今までとは違う一面も見せられた自負はあるんで、同じく嬉しいです。
――“自信”は日々の鍛錬や高い意識があってこそつくもの。その根拠はなんですか?
Ryo:できあがった曲を聴いたときに、自分自身が踊っているかいないか。一人のsankaraリスナーとしてどう感じるかですね。そして僕は当事者でもあるんで、これまでよりいいパフォーマンスができていなければノレないじゃないですか。そういう感覚を“自信”という言葉に置き換えてます。
sankara『SOP UP』
――曲作りのプロセスに変化はありましたか?
Ryo:大きく変わったことはないですね。SUNNY BOYと作った時にも近いんですけど、昔から知ってる仲間だから、セッションというか、一つの部屋でいろいろと話し合ってもっともいいところを探りながら、1日1曲のペースで作業を進めていきました。
Toss:曲調について話し合っても、探り探りやるんで最終的に真逆になることもあります。そんな感じなんで、今までとは明らかに音楽的な幅は広がりましたけど、最初からそれを狙ったわけではないんです。でも、そうなったのは間違いなく出会いに恵まれて、いろんな経験を積んできたから。じゃあどの経験がどう活かされてるのか。それをうまく説明できなくて……。
――感覚はシェアできているうえで、あとはサイコロを振って出たとこ勝負みたいな?
Toss:“流動的ロジカル”って言葉がハマるような気がします。ベースとなる曲のイメージはなんとなくシェアしたうえで、「ここはラップでいってみたけど、歌のほうがいいんじゃないか」とか、現場で感じたことを言い合いながら組み替えていくんです。1曲17時間くらい、みんなで部屋に籠って作業してフラフラになって始発に乗って、その時点での達成感とかこの先のこととか、ちょっとエモい話になるみたいな。青春っぽいですよね(笑)
――「KATASUMI」はRyoさんの歌から入る曲。そのメロディがフックになるのかと思いきや1度しか出てこず、また異なるメロディラインがフックになります。こういう展開は今までになかったですよね?
Ryo:歌から入る曲はそんなに珍しくないんですけど、割合は増えましたし、前のEP『BUD』ではほぼフックしか歌ってなかったんで、確かに今までにはなかった展開ですね。でもこれも、ぜんぜん意図的なことではなくて、たまたまなんです。
Toss:そこに歌がハマっただけというか。展開としては珍しいんですけどそれは結果的なことで、だから、さっきも話したように“流動的ロジカル”なんですよね。一人ひとりがチームとしての自覚があって、曲のために動くことで作業中に予定が変わっていくんで、どんな曲ができても違和感はないんです。
――どんな曲になるかわからない状態でいい曲ができる。信頼関係の賜物ですね。
Toss:「KATASUMI」で言うと、小沢健治 featuring スチャダラパーの「今夜はブギーバック」のテイストを、2020年を意識してsankara流に解釈したらどうなるかって最初に話してたんですけど、僕らはリファレンスとなった曲のメロディや構成に倣って完成させることはまずないので、たいていぜんぜん違う曲になっちゃう。でも、遠からずな感じもしていて。だから“sankara流”っていうミッションは達成できてるんですよね。
――「I know」は現代的なジャズとR&B、ポップスが交差する点を感じる曲で、休譜や引き算的発想で入ってくるパーカッションが生むグルーヴもおもしろいですね。
Toss:ありがとうございます。僕がこの曲で特に好きなのはRyoのフック。一緒に聴いてきたカニエ・ウェストやファレル・ウィリアムスっぽい感じもあって。
Ryo:歌とラップのバランスが絶妙な曲だと思います。あと、スムースな曲なんですけど実はもっともメッセージ性が強いところもポイントですね。最初につけたタイトルは「Seigi」でしたから。
――「Seigi」とは“正義”ですか?
Ryo:はい。sankaraは全曲ノンフィクションであることを信条としているんですけど、そんななかで、今はネクストフェーズに入ろうとしている感触があって、だからこそ自分にとっての正義とは何のか、問い正すような曲になっています。
Toss:立ち位置ってすごく大事だと思うんです。それは”分相応”ということに対して、委縮するとか卑屈になるとかではなくて、今の僕らがいる場所から何を発信したら感じてもらえるのか。そこを履き違えると変なことになる。例えば、今の僕らが誰かを救いたいなんておこがましいじゃないですか。
――現段階でsankaraに救われている人もいるかもしれない。それについてはどうですか?
Ryo:結果的に誰かを救えていたなら、それはすごくいいことですし、もし、僕らに救われたくて手を差し出している人がいたとしたら、「いやいや、僕らはあなたを救うような人間じゃありません」って突き放すほど冷たい人間ではないので、じゃあどうアクションするべきか、ちゃんと考えたいですね。sankaraの音楽を聴いてくれた人たちの感情も吸収して、よりいい音楽を作っていきたい。そういう意味での『SOP UP』でもあります。
――では、世間から見ていわゆる“成功者”になれば、誰かを救うようなテーマの曲を作りますか?
Toss:たぶんそうなっても作らないとは思いますけど、実際になってみたいとわからないですね。でも、“成功”とか“メイクマネー”が立場的に上だとは思わないし、いい車に乗っていい服着てみたいなラグジュアリー感はもともとないし、もっと土着的なライフスタイルが好きだという根っこは、ずっと変わらないような気がします。
――そして作品のラストを飾る「Elevator」は、決定的なキラーチューンに触れたときの高揚感を覚えました。オルタナティブR&Bやディスコ、ハウスなどにアプローチしたサウンドで、BPMも110と、これまでのsankaraと比べると速くてダンサブルな要素が強くなっています。
Ryo:邦楽とか洋楽っぽいとか、そういう表現にはちょっと違和感があるんですけど、この曲は広く世界に発信できるんじゃないかと。確かに、今までのsankaraの枠を守ろうとしたらできなかったダンサブルな曲ですし、できあがった瞬間に「これはいける」と思いましたね。実はここまでアッパーになるとは思ってなかったんですけど(笑)
Toss:最初に話してたイメ―ジも、こんなに上げ系じゃなかったよね(笑)
――ナイトクラビングにも、爽やかな朝にも、広大な自然にも合う。sankaraの魅力は聴く人のさまざまなシチュエーションに溶け込むことだと思うんです。そういう意味でもさらに魅力を拡張する曲だと思いました。
Toss:僕は海が好きで、Ryoはハワイ育ち。でも二人とも、今はずっと東京にいてコンクリートの上で暮らしてる。たぶんそういうことが曲に反映されているんだと思います。めちゃくちゃ嬉しいです。
Ryo:しっかりビートがあってラップと歌もあるんで、「BGMを作ってます」みたいな感覚ではないんですけど、たくさんの人たちのBGMになれる曲を作りたいという想いもあって、だから嬉しいですね。
Toss:柔軟でいたいんですよね。自分に対してステレオタイプにならないほうがいいのかなって、こうして評価をいただくたびに感じます。
――ミュージックビデオには内田理央さんが登場します。個人的には映画『仮面病棟』を観たばかりで。ミステリー作品なので、このビデオでの表情とはまったく異なりますけど、あらためて素敵な方だと思いました。
Toss:僕らがよくイベントに呼んでもらっている、hotel koe tokyoに内田さんがいることに意味を感じます。koeは食やファッションや音楽などをクロスオーバーして、新しいライフスタイル提案する場所。僕らもその一部でありたいと思っていますし、そこに内田さんのような素晴らしいモデルであり女優である方に出ていただいたことで、僕らや誰かの生活に、さらに彩りが加わると思うんです。
Ryo:撮影監督がChilly Sourceクルーだったことも大きいですね。彼らはDJとしての動きもすごくカッコいいし、レーベルの所属アーティストも好きですし、僕らの音楽を聴いてくれたうえで、一つの目標に向かって協力してくれて、いい刺激をもらいました。
――この先の未来に向けて、セットは完了しましたね。
Ryo:今はとにかく、この作品を引っ提げての活動を頑張りたいです。まずはライブがしたくてたまりません。
Toss:今までの曲と新曲が混ざることで、また新たにやれることも見つかると思いますし、そういう流れを楽しみながら、しっかりネクストレベルを提示していきたいです。その結果「Elevator」みたいな曲がお茶の間で流れたら「あいつらやってんな」ってなると思うんですよね。
――sankaraのルーツはヒップホップ。90年代にスチャダラパーやEAST ENDがお茶の間に出てきた頃は、その文化も、ラップという表現手法も、なにもかもが大衆にとって新しく、“ポップ”の定義が上書きされた瞬間がそこにありました。そして今、ラップは完全にポピュラーな存在になり、いわゆる“J-POP”を構成する要素の一つになっています。それゆえの難しさもあると思うのですが、そこはどう感じていますか。
Ryo:僕らのルーツはヒップホップですけど、そこはJ-POPでもいいんです。今はいろんなスタイルが回りまわって混ざり合って、かつてのジャンルとかマナーで音楽を定義すること自体が難しくなってるじゃないですか。だから聴いてくれた人の思うそれぞれの感想でいいし、僕らはsankaraを広く届けるためのアプローチを考えていくだけですね。
Toss:sankaraを始めた頃は「これでテレビ出ようぜ」くらいのテンションだったんです。そこから、ラップはポピュラーだけどヒップホップカルチャーはそこと乖離してるんじゃないかとか、いろいろ考えたこともあったんですけど、今は何も考えずに「日本獲ったるぜ」とか真顔で言えてたあの頃が戻ってきたような感覚。僕らがヒップホップをレぺゼンするなんておこがましいとも思うし、でもラップがあってフックのある構成が、バラエティっぽくなるのは嫌。ちゃんと“言葉”があることは大切にし続けたい。そこでRyoみたいなヒップホップをわかってるシンガーがいることは心強いですし、これからもチームでいい曲を作って、広めていきたいです。
インタビュー/文:TAISHI IWAMI

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