【上田麗奈 インタビュー】
“ごめんね”じゃなく、
“ありがとう”で伝えたい
歌を好きになるよう
ちょっとずつ頑張る
どの曲も情感がたっぷり込められているし、“Empathy”には“共感”の他に“感情移入”という意味もあるので、感情移入して歌ったアルバムという意味でも通じると思いました。ヴォーカル録りで印象に残っている曲はありますか?
「いつか、また。」はリズムに少し早く乗ったり、声がヨレたりするのもありということだったので、歌うというよりも台詞をしゃべるような感覚でレコーディングに臨みました。一番身体に堪えたのは「aquarium」です。
体力を使ったということですか?
体力もそうですし、筋力も(笑)。レコーディングのあと、筋肉痛になりました。海の底から、水圧に抗って、もがいて、ようやく水面まで辿り着いて顔を出す…というようなイメージで歌わせていただいたんですが、本当にエネルギーを必要としました。
実際に水中にいるわけではないけど、そういう感覚になったということですか?
そうなるように、頑張りました。前傾姿勢になりつつ、でも水面に行きたいから、踏ん張りながらも上に伸びるような力み方で、レコーディングを続けました。そうやって体勢からもアプローチを掛けていたこともあって、「aquarium」では筋肉痛になったんじゃないかと思っています。逆にスッと静かに脱力するように歌った曲もありました。「旋律の糸」は肩を開いて顎も上がり気味で、“あぁ、もう何でもいいや〜”って椅子の背もたれに寄り掛かるみたいな感覚で、ス〜っと歌って、ス〜っと終わった感じでした。
そんな中、RIRIKOさんの作詞の「旋律の糸」は歌詞には《殺してく》や《痛いよ》など、印象の強いワードがたくさんあってインパクトがありますね。
全てを諦めようとするけれど、結局は諦められなかったという曲になっています。最後はコーラスがちょっとずつ近づいて来るのですが、それは現実に気持ちが引き戻されて我に返るといった様子をイメージしています。
上田さんは「Campanula」でも作詞されていますが、タイトルは花の名前ですね。
「“感謝”という花言葉を持った花はないかと調べてて、出てきたのがカンパニュラで。“ごめんね”じゃなく、“ありがとう”を伝えたいという気持ちを教えていただいた機会があって、それをもとに作っていきました。素朴なお花畑が広がるような、少し身近に感じられる曲になったらいいなと思って頑張りました。
アルバムにはインスト曲も2曲入っていますね。
「Falling」は「ティーカップ」の前に入っているのですが…「ティーカップ」はぐるぐると悩んで出口が見えないという歌なので、『不思議の国のアリス』のアリスみたいにぐるぐる回りながら落ちて、そのままティーカップに入っちゃうようなイメージです。「Another」は中盤までは新しいことをたくさんやらせていただいて、「aquarium」からは『RefRain』に通じる雰囲気や楽器が増えてくるので、“ここから雰囲気が変わるよ”というお知らせみたいな感じです。
ラストに収録されている「Walk on your side」は前作で歌詞を共作されていた松井洋平さんが作詞されていて、サビのメロディーは懐かしさを含んだキャッチーさがあって、切なさも感じられるポップな曲ですね。
本当に素敵な曲です。この曲は他の曲以上に、共感よりも理想に近いニュアンスが込もっています。少し精神年齢が上がって、温かみがある感じにしたいと思って制作を進めつつ、レコーディングでは“私もこういうふうになれたらいいな”という想いで歌わせていただきました。
“Empathy”というタイトルに掛けた質問になるのですが、人に共感してもらえなかったことって何かありますか?
昔は家に有機物があることが許せなくて。時間とともに変わっていくものが嫌いで、家に花や観葉植物などを絶対に置かなかったんです。食べ物があることすら嫌だったから、冷蔵庫は空っぽで、食事は外食、喉が渇いたら家の前の自販機で買って、その場で飲み切ってから家に戻るという生活を送っていた時期がありました。その話をすると、誰も共感してくれなくて。
でしょうね(笑)。
(笑)。今は猫2匹と一緒に暮らしているんですけど、うちに猫ちゃんがやって来てからは変わりましたね。両開きの大きい冷蔵庫を買って、おうちでご飯を食べるようになったし。何も置かない感じだった家に、猫ちゃんグッズなど物と色がどんどん増え、やっと人間らしい部屋になりました!
安心しました(笑)。そして、7月23日には初ライヴが決定しましたね。
…実は歌うことが苦手ということもあり、今は不安や緊張の方が大きいです。でも、“歌を好きになれるように頑張る”というのが『RefRain』の時からの想いですし、好きになりたいと思って、今回の『Empathy』も作りました。だから、ライヴも精いっぱい頑張りたいです。具体的なことはまだ決まっていませんが、ちょっとずつ進めていこうかと思っているところです。
取材:榑林史章