秋山黄色が見せる「ネット発」からの
逸脱

秋山黄色がアルバム『From DROPOUT』で
メジャーデビュー

宅録部屋出身のシンガーソングライター、秋山黄色。2018年の「出れんの!?サマソニ!?」を経て、翌2019年には「SUMMER SONIC」メインステージのひとつである”SONIC STAGE”に出演しました。同年初めには「Spotify Early Noise Artist」に、King Gnuや中村佳穂、ずっと真夜中でいいのに。らと共に選出されています。そんな彼が、ついに今年3月、アルバム『From DROPOUT』でメジャーデビューを果たすことが決定しました。実は個人的にも要所要所で彼の姿を見てきている手前、この快進撃には目頭が熱くなります。先述の「SUMMER SONIC」では昨年・一昨年と続けて見てきましたし、「VIVA LA ROCK 2019」では早起きを頑張ってCAVE STAGEへ滑り込みました。最近の彼の活躍ぶりを見ていると、いずれの出来事もはるか昔のことのように思えてきます。あまりに急速な成長でして、活動規模とハコのキャパシティが見合わなくなってるんですね。「単独公演のチケットが取れない」との声をよく聞くようになりました。

始まりの始まりである「やさぐれカイドー」のリリースから、まだ2年も経っていないわけですよ。
秋山黄色 – 「やさぐれカイドー」

で、巷では彼の音楽を語る時にほぼ必ず使われる言葉が「ネット発」や「デジタルリリースから台頭」等々なのですが、昨今はむしろそうでないアーティストのほうが少ないのではないでしょうか。何が言いたいかと申しますと、つまり「ネット発」である事実が、今や特別な意味を持たなくなっているのではないか?ということです。筆者の生業がダンスミュージックやクラブカルチャー周りなもので、尚更そう思えます。まぁ本人に聞いてみないと分からない話ではありますが、「ネット発」の事実を根拠に作家性を語るのが今はなかなか難しいのではなかろうかと。数ある選択肢の中のベストの方法論がインターネット、あるいは”それしかなかった”というのが、最も真実に近いような気がしてしまいます。

「ネット発」で括ってしまうと、かえって個性が見えなくなるアーティストも存在している実感があるのです。秋山黄色はまさにその好例。なぜならば、これまでネットを介して台頭してきたミュージシャン(たとえばボカロP)とは、明らかに異なる特性を持っているからです。主に歌詞に。いつぞやの『SCHOOL OF LOCK!』でサカナクションの山口一郎氏が、秋山黄色を紹介した際、引き合いに出されていたのはBUMP OF CHICKENでした。具体的にはどの部分がBUMP的であるかは語られるませんでしたが、この感覚は個人的にもすごく分かるんですね。
秋山黄色 – 「Drown in Twinkle」

『From DROPOUT』に収録される曲ではなくて恐縮ですが、秋山黄色の作家性が最も分かりやすく表出しているのがこの曲である気がするので、「Drown in Twinkle」を。

醜い子にも旅をさせて ちょっとの事で笑いたいよ 見えない人と旅をさせて 瞬いているんだ – 「Drown in Twinkle」

いわゆる”普通”の感覚を持ち合わせていない自覚があって、なおかつ努力をすれども”普通”からこぼれてしまう人が、この詞を読んで泣かないヤツなんていないわけです。”普通”から逸脱してしまった者に対する優しい目線こそ、彼が多くの「ネット発」系アーティストと一線を画するところだと思うのです。かつてのインターネット音楽は、歌詞の組み方は抽象的でありながら「消えちまえ」や「思い切り馬鹿にしよう」などの攻撃的なワードが散りばめられていたような印象があります。あの当時は、やはり「ネット発」である事実に意味がありました。ニコニコ動画に違法にアップロードした音楽がたちどころに削除され、いよいよ自分たちで音楽を作るしかなくなった時代に台頭した才能ですから、否が応でも反体制でパンキッシュな作家性を帯びます。YouTubeにアーティストの公式チャンネルが出現し始めたのはその後。

しかし現在は、ボカロ黎明期とは全く状況が違うわけで、「ネット発」のアーティストはその言葉の尺度で測れないほど多様性を極めました。秋山黄色は今の時代の寵児であります。BUMPをリファレンスにするのも、「けいおん!」や米津玄師に影響を受けるのも、すべて正当性があるのです。今回の『From DROPOUT』に収録されている楽曲群も、そのような価値観に裏打ちされて作られています。個人的に最も好きなのは「猿上がりシティーポップ」ですね。いやはや、既発曲なので彼のファンにとっては真新しさゼロなので申し訳ない。
秋山黄色 -「猿上がりシティーポップ」

地元が嫌いだって曲なんです。音楽やってると地元を大切にする節があるじゃないですか? でも、就職してなかったのでバカにされてきたんですよ。変な同調圧力もあって。“シティーポップ”には、自分の好きな街を探しに行こうって意味を込めています。 – 秋山黄色(公式HPのセルフライナーノーツより)

ね、逸脱してるでしょう? 周りが決める”普通”なんてF**kだよな。まったくよ。


■ 『From DROPOUT』
2020.03.04リリース
<アーティスト公式サイト>
https://www.akiyamakiro.com/

秋山黄色が見せる「ネット発」からの逸脱はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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