「心をほっこり温めるような作品に」
尾上右近『この声をきみに〜もう一つ
の物語〜』インタビュー

2017年にNHKドラマ10で放送された同名TVドラマが、スピンオフ作品『この声をきみに〜もう一つの物語〜』として舞台化される。ドラマ版では竹野内豊が演じた、朗読教室に通うちょっと気難しい男性を演じるのは尾上右近。歌舞伎俳優、さらには清元の太夫としても活躍する右近が、現代劇に掛ける思いとは?
役として、物語のメッセージを伝える
――今回の舞台出演が決まって、どのようなことを感じていますか?
現代劇はまだ経験が少ないので、一つひとつの作品との出会いをご縁だと思っています。この作品は朗読教室を舞台に人々のコミュニケーションを描いた物語で、僕自身、周囲とのコミュニケーションをとても大事にしているタイプです。なので、今回のお役や、作品のメッセージ性は、自分とリンクするものを強く感じて、ぜひ出演させていただきたいなと思いました。もともと僕はそういうご縁をすごく大切にしていて、つながりから影響を受けて、いい方向に向かうことがたくさんありました。いろいろなご縁に対し敏感に反応して、できる限りいい結果を出せるようにもがく、というのが僕のライフワークみたいなになっています。
尾上右近
――これまで現代劇の作品は『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~』(18年)、『ラヴ・レターズ』(17・19年)をご経験されて、歌舞伎の現場とここが違うな、と感じていることはありますか?
やはり演出家さんがいることでしょうか。僕がこうしたいああしたいと意思表示をすると、それに対して演出家さんがもっとこうした方がいいと導いてくださる。自分が思いもよらない方向に導いてもらうことがたくさんあって、大きな刺激を受けます。歌舞伎は基本的には演出家が不在の演劇で、お客さんや主演の人が演出家のような立場を担うところがあるので。お客さんの反応が一番の演出みたいなところもあるくらいですからね。現代劇のお稽古はたっぷりと1ヶ月あることが多いので1から創り上げる楽しさを感じますし、自分を客観的に見る力を鍛えさせてもらうような、そんな感覚が強いです。お稽古期間はすごく楽しみな時間ですね。
――お稽古は自分を客観的に見る時間、という意識が強いんですね。
そう思います。自分が主観的に走る情熱も大事だと思うんですけど、それとは別にどう見えているか、何を求められているかを客観的に考えることも大切ですよね。初めて出演した現代劇の『ウォーター・バイ〜』では、役というのは作品が伝えたいことを伝えるための一つのコマのような存在というか、役割という意味での役という側面を強く感じました。歌舞伎って役者自身を魅せるっていう一面が色濃いんです。もちろん役と役者自身が重なってくるっていうのは素敵なことだと思うのですが、役を通して作品の世界観を伝える、役者としての役割に改めて気付けたことは大きかったです。その経験を生かして、今回、現代の日本に生きる同世代の男性を演じることが出来たらいいですね。
尾上右近
――本作では、大学で数学を学んだ会社員でちょっと気難しい男性の役を演じられますね。
現代の日本に生きる人物を演じるのは、実は初めてなんですよ。いますよね、こういうコミュニケーションが苦手で、ちょっと人を遠ざけちゃうような人。僕はそういうちょっと不器用な感じの人も魅力的だなと思います。この作品は、コミュニケーションの重要性が大きなメッセージになっていて、コミュニケーションが苦手な人物が、その苦手をどのように克服していくかが描かれます。現代らしさも感じることができるだろうし、大切に演じたいですね。
――ドラマ版もご覧になったと伺いました。どのような感想をお持ちになりましたか?
登場人物たちの表現と感情の裏腹さを描いているところが面白いと思いました。その中で心の交流があって、人間の温かみに触れた時にとても優しい気持ちになる。ほっとする、ほんわかする、そんな物語です。劇中では朗読でつながっていく人々が描かれていて、そういう共通言語を持ったコミュニティの魅力も感じましたね。僕の場合は、歌舞伎の仲間と喋っている時は、やっぱりみんながある程度の共通認識を持っていて、気楽だなと思うんです。この物語のように共通のものを持ったコミュニティに、違う経緯を持った人が集まるっていうのは、社会の縮図のような一面もあって面白いです。
尾上右近
声で伝えるということ
――まさに声のプロである右近さんですが、朗読の魅力と声で演じる面白さを教えていただけますか?
やっぱり声っていうのをですね、一つの楽器だと私は考えるわけですよ(突然深くいい声で)。
一同:(笑)。
美空ひばりさんが相槌や普段喋っている声も一つのメロディーと考えていた、という話を伺ったことがあって、それはとても素敵なことだなと思ったんです。例えば「そうなんですね〜」って話すその音。それも一つの音楽として音程を意識していたという話を聞いて影響を受けました。歌舞伎のセリフでも独特の音程や節回しみたいなものがありますしね。清元をやっていても人間の感情が最も高まる、一番コミットする音程はどこなのかなと無意識に選んでいるところがあります。僕は普段の話し声も元気がない時こそ、明るく話すことを意識していて。大きく高い声で挨拶をすると気分が高まるし、音と気持ちって深くリンクしているところがあると思うので。美空ひばりさんが仰ったように、喋っている声にも音楽性があると思うんです。
尾上右近
――言葉も音楽とは面白いです!
「ありがとう」という一言も、音程によって「心から感謝している」という意味にも、「もう結構です」っていう意味にもなる。音程や声質、息の量とか色々なものが意味を作っているので、セリフにも大きく影響してくると思うんです。朗読だと、自分も音を聞きながら自身もその感情に移入しているところがある。声に出して読むことは、一つの音楽として捉えていますし、この舞台の朗読教室の様子を見て、そこには人間の体温が宿っていると感じてもらえたらうれしいですね。
――右近さんは朗読劇にご出演された経験もお持ちですが、お芝居で演じることと、朗読で演じることの違いは感じますか。
お芝居のセリフと朗読のセリフでは、感情の順番が違うと思います。自分の気持ちを伝えたいと思って、口から出た瞬間に気持ちが形になっていくのがお芝居のセリフ。その人の気持ちになって代読するのが朗読、といったところでしょうか。朗読だと、読みながら自分も同時に文字の意味を感受しながら共有しているんです。例えば、お母さんが子供の枕元で読み聞かせをしている時って、読みながら自分でも受け止めて、子供に伝えているじゃないですか。お芝居と朗読劇では、その点で伝え方が変わってきますね。
尾上右近
――歌舞伎、清元、現代劇、この夏にはミュージカルと、活躍の幅を広げられている姿が印象的です。右近さんが次々と新しいことに挑戦するエネルギーの源はどこにあるのでしょうか?
人、場所、作品、ありとあらゆるものとのご縁です。自分が選択したつもりでも、後から考えると縁によって選ばされていたと気付くこともありますしね。今の自分はありがたいことに選んでいただいて、やらせてもらっているという感覚がすごく強いので。選んでいただいたことに対して最大のパフォーマンスでお返ししたい、という気持ちが一番のモチベーションです。
――最後に読者にメッセージをお願いします。
現代の日本で、多くの人が感じているコミュニケーションの重要性、そしてそれがうまくいかなかった時のモヤモヤや寂しさに寄り添った作品だと思います。お客様の心をほっこり温めて、お返しするような舞台になると思いますし、そう感じていただけるように努めますので、ぜひ劇場に足をお運びください。
尾上右近
取材・文=永瀬夏海 撮影=荒川潤

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