LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS、AC
IDMAN・大木、noodlesが集った今年の
『貴ちゃんナイト』を振り返る

貴ちゃんナイト Vol.12 2020.2.8 下北沢CLUB251
開場するやいなや観客たちが次々に、主催の“貴ちゃん”ことラジオパーソナリティ・中村貴子に声をかけたり手紙を渡しにいく。そんな光景に始まり、ライブ中はもちろん、出演者のセレクトしたBGM(今年はLOW IQ 01)が楽しい転換中も、すべてのライブが終わった後にフロアで記念撮影を行ったりして最後の一人がライブハウスを出るまで、いや、深夜まで続いた打ち上げが終わるその時まで。音楽愛だらけの夜だった。今年も。
noodles 撮影=俵和彦
リスナー有志による自主イベントから始まり、今年で12回目を数える『貴ちゃんナイト』。近年は基本的にこの下北沢CLUB251をホームとして、彼女がいちリスナーとして観たい組み合わせにこだわって行われるスリーマンのライブである。毎年レポートでも触れてきているが、やはりこの組み合わせの妙は他に類を見ないもので、出演者のジャンルや世代、活躍するシーンもバラバラ。にもかかわらず、見終えたときに納得感と満足感がしっかり残る顔ぶれになっているのだから、音楽の現場に長年発信者として携わりながら、同時にいつまでも音楽リスナー、音楽ラヴァーとしてのピュアな視点を失わない貴ちゃんならではの慧眼には恐れ入る。
大木伸夫 撮影=俵和彦
今回の組み合わせは、貴ちゃんとは20年以上の付き合いになるというnoodles、彼女がステージMCなどで関わるフェス『中津川ソーラー』とも関わりが深い大木伸夫(ACIDMAN)、意外にも接点が生まれたのはここ数年ながら、その音に衝撃を受けたというLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS。大木とLOW IQ 01(以下、イッチャン)は同じフェスなどに出ていたり、イッチャンのトリビュート盤『HELLO! LOW IQ 01』にACIDMANが参加していたりと、交流が目に見えるが、noodlesとはどうなのだろう?と思っていたら、イッチャン曰く、彼が「坊主で眉毛がなかった頃」にyokoと番組で共演したことがあるそうで、20年以上の時を経た再会の舞台だったらしい。
LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS 撮影=俵和彦
「音楽が好きで良かったと思える1日にしましょう!」
貴ちゃんの挨拶のあと、まずはnoodlesからステージに上がる。「よろしくお願いしまーす」と軽く手を上げながら笑みを浮かべるyoko。対照的に淡々とクールな佇まいのikuno。サポートを務めるドラマー・吉村由加が刻むタイトなミディアムビートの上へ、シンプルな8ビートのベースラインとパワーコードを刻むギターを乗せた「I’ ll be a sensitive band tomorrow」からライブはスタートした。ちょっと気だるげに響く独特のアクセントをつけた歌声が、究極にミニマルなロックナンバーによく似合い、オリジナルな色を付けていく。かと思えば、「warning you」のようなポップなメロディと合わされば、どこかスウェディッシュポップも彷彿とさせる爽やかな印象にもなる歌声だから不思議だ。
noodles 撮影=俵和彦
noodles 撮影=俵和彦
たくましいビートとザクザクと刻むギターに身体が踊りだす「Grease」、中低音域のボーカルが心地良く響く「Ruby ground」、シンセ的なシークエンスも交えてのダンサブルな「Metaltic Nocturne」。これぞスリーピースというべき、余剰を削ぎ落として研ぎ澄ませたサウンドを軸としながら、随所にいろんな表情をのぞかせる楽曲たちが楽しい。あっという間のラストナンバーはショート&ファストな「965」だった。デビュー当時はメロディック勢との対バンも多かったというエピソードをMCで明かしていたが、それも頷けるようなパンキッシュな一面を焼き付け、喝采を浴びたのだった。
noodles 撮影=俵和彦
二番手は大木伸夫。言わずと知れたACIDMANのフロントマンが、この日はアコースティックギターによる弾き語りでの出演だ。近年ではピンボーカルでストリングスとコラボしたりと、シンガーとしての覚醒ぶりがすさまじい上、元々は速弾きを得意とするギターキッズでもあった彼だけに、歌とギターで聴かせてくれるこの環境は持ってこい。一曲目は「FREE STAR」で、ブレス多めの穏やかな歌声とうっすらリヴァーヴを効かせたギター、曲の構成も若干アレンジしてのプレイが、あっという間に観衆の耳目を引きつける。一転して、曲間ではリラックスした空気かつ、あえて余韻を断つように脱線しながらのトークでも楽しませていくのが大木流だ。
大木伸夫 撮影=俵和彦
弦をパーカッシヴに叩きながら、アコギによく似合うボサノヴァ調のコードを爪弾いた「赤橙」に続いては、「歌い継いでいきたい曲」という曲紹介から、玉置浩二が作曲、ビートたけしが作詞/歌唱した「嘲笑」のカバーを。悠久の星々と人の生とを想起させる、大木にぴったりの曲だ。「この曲だけは自分のためにやりたい」と前置いてから、ループエフェクトを駆使してギターの音を多重に重ね、もはや重厚なギターインストとでも呼ぶべきイントロダクションから繋げた「世界が終わる夜」には、バンドでの演奏時と何ら変わりない熱量とエモーションが宿る。満場のクラップが弾んだ「Your Song」までの全5曲に、大木伸夫の音楽性も人間性も哲学も存分に込められていた。
大木伸夫 撮影=俵和彦
LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS 撮影=俵和彦
SEが鳴り出した時点から一斉に手拍子が発生し、フロアのいたるところから「0」と「1」を象ったハンドサインが掲げられる中、『貴ちゃんナイト Vol.12』のトリを務めるLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERSが登場した。「久しぶりの251、帰って来ました」「暴れろ!」イッチャンが叫ぶより早くオーディエンスが波打ち始め、「Delusions of Grandeur」からライブが始まった。ギターは前回のこのイベントのトリでもあったフルカワユタカ、ドラムはダゼこと山﨑聖之。それぞれにシーンを戦い抜いてきた猛者揃いのバンドは、斬れ味と重心の低さを両立した音をアグレッシヴな演奏で放ちながらも、リズムの変化やブレイクなどの展開は一切乱れることなくビシッと決まる。すごい。
LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS 撮影=俵和彦
LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS 撮影=俵和彦
実は先ごろ負った骨折が完治していなかったというイッチャンだったが、「イスを用意してたんだけど、関係ねえよ」と常に立ったまま……というか跳ねたり回ったりしながら、気迫のプレイを繰り広げる。最新作『TWENTY ONE』からスピード感満点の「Every Little Thing」や、フルカワのギターによるテーマパークの音楽みたいなイントロからの怒涛の展開が楽しい「Thorn in My Side」が披露されたほか、ソロ以降でも早20年を数える彼のキャリアから万遍なく選曲されたセットリスト。合間のMCでは饒舌を通り越して軽口やギャグも飛ばしまくるキャラクター。徹底的に陽性なパワーに満ちたパフォーマンス――。限りある時間のライブだが、盛り込まれた情報量と快楽性、そして興奮作用はズバ抜けてる。「もうちょっと飛ばしても大丈夫?」とフロアを挑発してからのラストスパートは、最新作からの「GO」、ソロ1作目『MASTER LOW』からの「Little Giant」、そしてSUPER STUPID時代の名曲「WHAT'S BORDERLESS?」と、時を遡るような3連投。カオティックな熱狂に包まれたフロアへと身を乗り出してベースを掲げる姿は、百戦錬磨のパンクヒーローそのものだった。
LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS 撮影=俵和彦
アンコールに応えて再び登場すると、イッチャンがアコギ、フルカワがエレキ、ボーカルにyokoを招いたセッションでTHE BLUE HEARTS「青空」を、続いてダゼと大木を呼び込んで、かつてACIDMANがカバーした「DISTANCE」を披露。本編よりリラックスした雰囲気で届けられる演奏や歌は言うことなしだったし、加えて、イッチャンが乱発するボケを一個一個丁寧に拾っていく大木の瞬発力も見所の一つだった。仕上げに「もうひと暴れ、よろしいでしょうか」と「T.O.A.S.T」を投下。普段の『貴ちゃんナイト』に比べればだいぶフィジカルな盛り上がりが生まれたライブだったが、終わってみればいつも通り、ピースフルな空気が場内には満ちていた。
LOW IQ 01 / yoko / フルカワユタカ 撮影=俵和彦
LOW IQ 01 / 大木伸夫 撮影=俵和彦
いわば究極の自己満足であるはずの”貴ちゃんの見たい組み合わせ”というコンセプトは、リスナーにとって未知の音楽との出会いの場となり、演者にとっても普段とは違うハコで違うメンツと音を鳴らす機会となっている。利害も忖度もない。信頼と愛で成り立って、回を重ねているイベント。キャリアは遠く及ばないが、好きが高じて仕事になった者の一人として断言できる。こんなにも理想的なカタチはそうそうない。

取材・文=風間大洋 撮影=俵和彦
貴ちゃんナイト Vol.12 撮影=俵和彦

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