井上芳雄「すごいメンバーで、演劇の
モンスターがいっぱいいる!」 シス
・カンパニー『桜の園』

ミュージカル界の不動のプリンスでありながら、ストレートプレイの話題作においても実績を残し、高い評価を得ている人気俳優、井上芳雄。この春に挑むのは翻訳劇の名作、チェーホフの『桜の園』だ。日本の演劇シーンを主導する劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)がチェーホフの四大戯曲を上演するシリーズ『KERA meets CHEKHOV』、その最終章にいよいよ初参戦。大竹しのぶ宮沢りえ、黒木華、杉咲花、山崎一、生瀬勝久らの豪華&巧者の共演陣とともに、チェーホフ✕KERAの化学反応で生まれる人間ドラマへと立ち向かう。いざ稽古突入! を前にした、今の心境に迫る!
——井上芳雄さんとチェーホフ……で思い出すのは、2007年に井上ひさしさんが書かれたチェーホフの評伝劇『ロマンス』にご出演されたことです。
はい、あれは僕がストレートプレイに挑み始めたばかりで、まだ右も左もわからない頃の舞台ですね。今思えば、はたして作品の本質を理解できていたのかどうか、あやしい気がします(笑)。当時は、この先自分がチェーホフの作品に挑むなんて思いもしていなかったし、舞台を観る機会もあまりなかったんです。ただ、著名な翻訳劇としてはシェイクスピアと両極を成すと思いますし、演劇に携わる者としては、いつかは経験してみたいと思っていました。今回は、舞台『陥没』(17年)でご一緒したKERAさんと、また舞台がやれたら……とずっと思っていたので、KERAさんの作品というだけでぜひやりたい! と。で、蓋を開けてみたらすごいメンバーで……、演劇のモンスターがいっぱいいる! みたいな(笑)。この機会を逃す手はないなと思いましたね。
井上芳雄
——本当に豪華な顔触れですよね。KERAさんによる上演台本を読まれた感想は?
KERAさんらしさが随所にある、すごく面白い『桜の園』になっていました。そのキャラクター、俳優だからこその機微が台詞に詰まっているのは、『陥没』の時にも感じていて。「台本の半分は、人を見ながらじゃないと書けない」とおっしゃっていましたからね。その意味では、チェーホフという原作がある上でKERAさんが作品を立ち上げる、この企画自体が面白いなと。『桜の園』ってこんなに面白い話なんだ! って気づかされましたね。
——“チェーホフ好き”の演劇ファンの気持ちがわかったと。
そう、初めてちょっと入口に立ったかなって感じはします(笑)。もともとブロードウェイ・ミュージカルが好きでこの世界に入って来た人間ですから、基本は華やかで楽しいものが好きなんですよ。でも、僕は井上ひさしさんやKERAさんの作品が大好きですし、そのお二人はチェーホフが好きで、多くの影響を受けている。そう考えると、僕も知らず知らずのうちにチェーホフの特徴といったものを演劇の中に見出しながら、楽しんできたと思うんですね。事件そのものが舞台上に見えるのではなく、それによって人々はどう変わったのかがドラマとして表れて、その一人ひとりの反応から世界が見えてくる。この『桜の園』も、話の中に全宇宙があると思いましたね。苦しい人生を経て今はお金持ちになった人、その逆の人……、登場人物たちのさまざまな人生の縮図が描かれるなか、当時のロシアの状況が浮かび上がってきて。一つの家の出来事から、生きていくってこういうことだな、自分たちも同じだな……と観客が共鳴する、そこが演劇のすごいところだなと思います。
——井上さんが演じるのは大学生のトロフィーモフ。新たな思想を打ち出す気概ある青年ながら、老成した風貌を揶揄されるなど、けっしてカッコいいキャラクターではないですよね。ご自身でもこれまでにない、新鮮な役どころなのでは?
そうですね。あまり笑われるような役はやってこなかったかな(笑)。でも、僕はどちらかというと、登場人物の中で彼が一番、知識があって勉強をして来ていること、学ぶことで可能性を勝ち取っていけるんだ! と、新しい時代に希望を見出しているところに心惹かれて、やりたいと思ったんですね。井上ひさし先生が宮沢賢治について書いた戯曲、『イーハトーボの劇列車』などにも通じるものがあるなと感じて。それと同時に、KERAさんによって味のある面白い人にも描かれているので、稽古でどんなふうに作っていけるか、とても楽しみです。
井上芳雄
——『陥没』でKERAさんとご一緒した時は、どんな発見がありましたか?
それまでなかなか接点がなかったので、恥ずかしながらKERAさんのことをあまりよく知らなかったんです。幸福なことに『陥没』を経験して、あ〜この人は本当にすごい人だな! と実感しましたね。素晴らしい才能の持ち主で、ずっと演劇をやり続けて、しかも同じことをやらずに挑戦を続けている。スタイリッシュだし、メチャクチャ面白い。それはやっぱり衝撃でした。それからKERAさんの作品は出来る限り観に行くようにしているし、ご本人とも「またぜひ一緒にやりたい」とお話しして。演劇界で、作品の質を更新し続けるというのは本当に奇跡に近いことじゃないかなと。しかも劇場や企画の大小に関わらず、自分がやりたいこと、自分が面白いと思うことをやっているのも素晴らしい。すごい勇気、信念だと思うし、側から見ていて信じられる人だなって。『陥没』で、KERAさんに魅了されましたね。
——そのKERAさんとの稽古がまた始まりますね。ストレートプレイの稽古場に入る時は、ミュージカル作品とは違った特別な緊張感があるのでしょうか。
そうですね、やっぱりお芝居をするって大変なことで、自分としては「ちょっとでも油断したら怪我をする」みたいな気持ちでやってますし(笑)。今回はとくにメンバーがすごいので、襟を正して入る……みたいなところがありますね。
——ミュージカル界では“プリンス”だけど、ストレートプレイの現場では……!?
う〜ん、今回の役と同じく、万年学生みたいに「勉強させてもらいます!」って感じかな。でも本当はミュージカルでも、年々そういう気持ちになってはいるんです。必要に迫られて“座長”といった顔をしてやってますけど(笑)、やればやるほど、わかっていることなんて一個もないなって思い知らされますし。でも、あえてそういう経験をしたいなと思いますね。年々、お芝居って本当にひとりでは何もできないんだなって痛感します。緊張したり不安なのは、自分でなんとかしなきゃいけないと思うからなんですよね。そこはもう開き直って、周りの方の力をお借りする。そうして初めて演劇は成立すると思うし、今回はこの上ないメンバーですからね。たくさん力を借りられる自分でありたいなと思います。
——今回の挑戦では、ファンの皆さんが意外な驚きを味わうかもしれませんね。
僕のことを見続けてくださっているミュージカルファンの方々も、きっとそろそろ「あ、この人はいろいろなことをやりたいんだな」と思ってくださっているのではないかと(笑)。奇をてらうわけではないけど、「こんなこともやるんだ。面白そうなことをやっているな」と思っていただけたら嬉しいですね。トロフィーモフは最後まで希望を語る役なので、僕自身も希望を持って臨みたいと思います。
井上芳雄
ヘアメイク:川端富生 スタイリング:吉田ナオキ
インタビュー・文=上野紀子 撮影=園田昭彦

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