反田恭平、リサイタル・ツアーのテー
マは「祈り」 務川慧悟との2台ピア
ノほか2020年の構想を語る

2019年、反田恭平は自らの会社「NEXUS」を設立し、新しいレーベル「NOVA Records」を立ち上げ、コンサートのプロデュースやCDのリリースを始めた。また、「MLMナショナル管弦楽団」を創設。彼らと初めてのツアーを行った。ソリストとしては、ベルリン・ドイツ交響楽団やワルシャワ国立フィルと共演。ワルシャワのショパン音楽院に留学して3年目となる2020年も、日本国内でのリサイタル・ツアー、務川慧悟との2台ピアノのコンサート、MLMナショナル管弦楽団とのツアーなどが予定されている。
――まず、3~4月のリサイタル・ツアーについて話していただけますか?
テーマは「祈り」です。自然災害が目立った近年、自分が家でピアノを弾いていても、祈りだったり、願いだったり、そういう思いが募り、それをテーマにしてみようと思いました。
僕が非常に好きでたまに弾いているリストの「詩的で宗教的な調べ」から「葬送」。そしてスクリャービンのピアノ・ソナタ第3番。なかでも第3楽章は、彼が何かを訴えていたのではないかと思える、すごく琴線に触れるところのある音楽です。ロシアに留学していたときにレッスンで何度もみていただいて怒られたりして、喜怒哀楽の詰まった曲でもあります。ショパンは、2019年のツアーでソナタ第3番を弾いたので、第2番も弾かなければと思っていました。表題が「葬送」。第3楽章の葬送行進曲から作曲されて、第1、第2、第4楽章にそのモチーフが使われていますが、なぜ彼がこの曲を書いたのかを調べているうちに、テーマが祈りや願いであることが見えてきたので、今回のリサイタルにぴったりだと思いました。ちょっと暗い曲が続くので、そこから何かに変わる曲として、「英雄ポロネーズ」を入れました。少し期間的に短めなので、リゲティの作品にも挑戦し、ショパンのスケルツォなどを弾くことも考えています。
反田恭平
暗い曲が目立っていますが、暗さのなかにある明るさをみなさんと是非共有したいと思っています。それが、クラシック音楽を聴いていて琴線に触れる何かのきっかけだと思うんです。大きな音よりも、厳かで静かな音の方が、ほろりと涙が出たりするものです。
――昨年(2019年)ポーランドで、ショパンの時代のフォルテピアノを弾いたそうですね。
夏にポーランドで人生初のマスタークラスに参加して、その期間中、ショパン・インスティトゥート(研究所)にあるショパンが生きていた時代の本物のフォルテピアノに触らせてもらえる機会がありました。5日間くらい触り、当時のプレイエル社のピアノのペダルの仕組みや音量のマックスと最低音を肌で感じることができました。楽器の残響がチェンバロとピアノの中間くらいで、程良い感じで音たちが衰退していくのです。だからその楽器でショパンのペダルの指示通りで弾くとちょうどいい。また、プレイエルのピアノは鍵盤が軽く、力を入れなくてもフォルテが出ます。パレチニ先生には「今の楽器と当時の楽器の違いを頭に入れて弾くように」とよくいわれます。フォルテピアノがほしくなりました。
ショパンの時代の楽器を触って以降、ショパンを弾くときはその音のイメージしかしなくなりました。ノクターンとかは特にそうです。2019年のツアーと今年2020年のツアーではショパンの弾き方が違うと思います。
それからマスタークラスでは、クシシュトフ・ヤブウォンスキやケヴィン・ケナーら錚々たる方々のレッスンを受けましたが、ポーランド人が描くショパン像は基本的に、同じ方向性であるということが確認できました。「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」と「英雄ポロネーズ」ではリズム、背景、色彩が違うことにポーランドで初めて気づきました。「ポロネーズ」は“ポロネーズ” だと思い込んでいたので。​
反田恭平
――2台ピアノのコンサートをする務川慧悟さんは、先頃のロン=ティボー国際コンクールで第2位に入賞しましたね。
務川くんとは、2019年には中部地方をまわりましたが、2020年は東北と東京で演奏会をします。ツアーの前に二人でCDも作ります。
彼が7年間パリに住んでいるので、フランスもの(サン=サーンスの「死の舞踏」とラヴェルの「スペイン狂詩曲」)は彼がプリモ(第1)で、僕がセコンド(第2)を弾きます。逆にラフマニノフの組曲第2番では僕がプリモを弾きます。シューベルトの「創作主題による8つの変奏曲」は、アルゲリッチとバレンボイムも弾いている曲ですが、二人で「一緒に弾きたいね」と言っていて、すんなりと決まりました。僕がプリモを弾きます。
務川くんと僕とは、はたから見れば、水と油のようですが、2台ピアノの演奏では、縦がぴったりと合います。僕が経験したなかでは彼が一番合う。これは不思議です。また、音楽の方向性も一緒で、「こうやって弾くのね」「こういう考えもあるけど?」とお互い指で示してあげて、言葉は要りません。ロン=ティボー・コンクールでは現地(パリ)まで応援に聴きに行きました。彼のフランス音楽は絶品です。彼は詩的な人で、彼の音色はある種、朗読を聴いているような感じがします。
――『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2019』では、ふたりで作った高校生のための合唱曲を披露されました。
僕は曲を書くのにすごく時間がかかったのに、彼に曲を渡したら、すぐに詩を書いてくれました。今度は逆でやってみようかなと思っています(笑)。
反田恭平
――昨年2019年にデビューしたMLMナショナル管弦楽団、今年はどのようになりますか?
オーケストラの中心メンバーは基本的にはデビュー時の16人と同じ顔触れです。まず、これだけのソリストが昨年同様に揃うのは奇跡に近いことです。
東京では2020年7月8日(水)から10日(金)までコンサートをひらきます。8日(水)のマラソン・コンサートでは、彼らに、無伴奏だったり、トリオだったり、いろいろな形で自分を表現してもらいます。彼らが弾きたい曲で、ピアノの要望があれば、反田か務川が弾きます。メンバーの顔がわかるようなマラソン・コンサートが作れれば…と思うと同時に、もっとメンバーのことを知ってもらいたいと思いました。
また、キッズに向けたコンサートをやりたいと思っていましたので、9日(木)は、昼の部は0歳から入場可能、夜の部は4歳から入場可能にして、また、僕が25歳なので25歳以下の人に聴きやすい方法を考えています。そしてMLMメンバー16人のほかに、フル編成に向け、新たにメンバーを加えてショパンのピアノ協奏曲第1番を弾きます。2019年10月にワルシャワ国立フィルとショパンの協奏曲を弾いて、オーケストラがポジティヴで、とても勉強になりました。心の底からこの曲をもう一度勉強し直したいと思い、その旨をMLMのメンバーに伝えました。
さらにもう一つのメインピースとして、ハイドン作曲の交響曲第45番「告別」を指揮します。このメンバーならではのハーモニー、気持ち、そして音楽をお届けできたら嬉しいです。なぜなら僕たちはMLM(音楽を愛する青年たち)ナショナル管ですからね。そのほか、ベートーヴェン・イヤーということもあり、7月中旬から下旬にかけては大阪と四国でベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番をメインにツアーをします。ベートーヴェンの第2番は、2019年に演奏したモーツァルトの第17番と同じオーケストラの編成で演奏できるのです。千秋楽が終わって、「とても楽しかったね」とメンバーと話していたので、メンバー間の団結力を上げようと思い、同じ編成のベートーヴェンの第2番にしました。
もう1、2年すれば、メンバーが協奏曲のソリストになることも想定しています。そして2021年以降は、メンバーを増やすことも考えています。僕らの活動に共鳴してくれるアーティストが集まるといいですね!

反田恭平

――反田さんにとって、2020年はどのような年になりそうですか? たとえば、コンクールとか?
今年は自宅に防音室も買いました。24時間弾ける環境は初めてなので楽しみです。24時間音楽漬け。とはいえともかく健康第一ですね。
2019年は初めてづくしでしたが、今年はそれを生かす年にしたいです。そして何事にも集中する年にしたいと思います。将来的には、「自然」、「子どもたち」、「純クラシック」をキーワードに、フェスティバルを作りたいと思っています。できれば、南の方で。
2021年2月には、佐渡(裕)さんとトーンキュンストラー管弦楽団と共演して、ウィーンデビューします。ウィーン楽友協会ホールで弾けるのがすごくうれしいです。彼らとは日本ツアーもします。それから、2021年からは、指揮の勉強もちゃんとしていきたいですね。
取材・文=山田治生 撮影=安西美樹

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