川口レイジはミレニアム世代のポップ
・スターに成り得るか

第60回グラミー賞最優秀レコード賞にノミネートされた「Despacito」のソング・ライターである、Marty Jamesにも認められセッションを重ねたセンスは、まぎれもなくほんものだった。川口レイジのメジャー・ファースト・シングル「I’m a slave for you」が熱い。色気もパワーも繊細さも併せ持つ多面的なヴォーカルと、強靭且つビッグ・スケールなグルーヴ。その圧倒的なパフォーマンス力と創造性はさらにビルドアップされ、次世代ポップ・スターの座を真っすぐに射止めるであろう予感が溢れ出している。今回のインタヴューでは、あらためて彼が音楽を始めたきっかけから、Martyと出会ったLAでの話まで遡って掘り下げ、その魅力の秘密を紐解いた。


Photo_Keiichi Ito
Text_Taishi Iwami

今は、ロックがどうとかヒップホップが
どうとかではなくて、それぞれが好きな
ことをするのがトレンド、みたいな流れ
になってきたと思うんです

――まず、音楽を演奏したり作曲したりするようになったきっかけを教えてもらえますか?

16歳の時に親父の遺品からクラシック・ギターを見つけたことと、高校の選択授業で音楽を受けたことがきっかけです。最初は、どこからどんな音が出るかとか、チューニングとか、よくわからないまま家で弾いてたんですけど、同じくらいの時期に、授業でマンドリン、マンドラで弦楽三重奏をやることになって、くじ引きでギターの担当になってから、ギターの構造や弾き方を学びました。

――それ以前から音楽は好きだったんですか?

歌うことも聴くことも好きでしたけど、積極的に音楽に触れるタイプではなかったです。ギターを弾き始めた頃も、何かを表現したいとか、誰かみたいになりたいとか、そういうモチベーションではなく、“ギターを弾く行為”にはまったような感覚で。

――そして、動画サイトでご自身の演奏を配信するようになりますが、その頃から心境に変化が出てきた。

いえ、その段階でもまだ特には。当時のネット配信は、黎明期というか、今のように、世の中に自分の存在をアピールするためのポピュラーな手段ではなかったように思います。家に籠っている人たちが繋がれるコミュニケーションの場として、配信を始めました。曲も作るようになるんですけど、友達がやってることを見て、「へえ、曲って自分で作れるんだ」くらいのテンションでした。

――そこから音楽の道を志し、上京するに至った経緯を教えていただけますか?

ストリートに出ていったことが転機になりました。今までは緩くやってたところから、いざ人前に立って演奏するとなった時はさすがに緊張して、気が引き締まりましたね。そこから練習を重ねて場にも慣れてきて、技術的にも不自由さが減っていくことと比例して、観てくれる人が増えてきたことで、上京したいと思うようになりました。

――レコード会社の担当者から声がかかったのもその頃ですか?

はい。でも即契約してリリースをするとか、そういう話ではなく、田舎を離れて東京で活動してもおもしろいんじゃないかと思えた、きっかけの一つでした。

――しばらくは音楽とは別の仕事で生計を立てていたのですか?

バイトして、バイトして、とにかくバイトして音楽、みたいな生活で、いつしか社会に打ちのめされて、音楽をやることにも生きていくことに対しても、完全に自信を失ってしまいました。
――なぜそこまで打ちのめされたのですか?

コンクリート・ジャングルの世界に圧倒されたんです。僕は田舎の山間部育ちなんですけど、みんな都会の人みたいに予定が詰まっているわけでもないし、キャリアを重ねて大きくなってみたいな、上昇志向があるわけでもない。「朝だ。起きなきゃ」、「昼だ。楽しいな」、「夜だ。寝なきゃ」みたいな。全員がそういうわけじゃないにせよ、基本的にやることは決まってるんです。お隣さんも離れてるから、人に迷惑をかけちゃいけないとか、考えることもなかったから、もう生きていけないなって。そしてアイデアも出なくなって曲も書けなくなりました。それでも、たまたまいい曲はできるんです。でも、その状態を持続できるメンタルも技量もない。

――そんなどん底から、よく抜け出せましたね。

ストリートの頃から僕のことを気にかけてくれていたレコード会社の担当者が、「LAで現地のミュージシャンとセッションしながら曲を作れる機会があるけどどう?」って。すぐにパスポートを取りに行って、初の海外で初のセッション、初の本格的な現場。そこで音楽的に覚醒した感覚がありました。

――LAのどこに動かされたのですか?

そこはLAだから日本だから、というわけではないように思うんですけど、家で材料から買ってきて見よう見まねで必死になって作ってた頃よりもぜんぜんいい製品が、生産ライン乗ってあっという間にできる瞬間を初めて見た、みたいな。ほんとうに衝撃的でした。

――もし先に日本の制作現場を経験していたら、同じことを感じていたと思いますか?

それはもうできない経験なので、何とも言えませんけど、日本に戻ってきて感じたアメリカとの違いはあります。どちらの国も、僕の感じていることがすべてではなく、一括りにできるものではないことが前提ですが、基本的に日本の人は細かくて真面目。とにかく細部まで納得いくまでやりたいから、もう集中力は限界なのに体に鞭打って粘る。それはいいことでもある反面、ネガティヴに作用することもあると思うんです。あまりパーソナルなこだわりに突っ込みすぎると、ほかのものを受け入れるときに邪魔になってしまう。それに対して向こうはけっこう大味。多少の違和感があったとしても、「よければいいいじゃん」とか「そのへんでやめとこうよ」って、ある意味でのいい加減さが、クリエイティヴに繋がることって、往々にしてあると思うんです。

――そこで第60回グラミー賞最優秀レコード賞にノミネートされた「Despacito」のソング・ライターである、Marty Jamesとも出会って、現時点での川口さんの代表曲「R.O.C.K.M.E. ft. Marty James (Dave Aude Remix)」が生まれた。

ざっくり言うとそうですね。Martyも、その”一緒にセッションができるミュージシャン”のなかの一人で、僕のデモを聴いてOKを出してくれたんです。
――日々にうちのめされていたバイト時代から一転して、世界を賑わせたアーティストとの共作。すごいですね。

出会ってしまえば、共作しかすることがないんです。むしろ一席設けて話すほうが、ハードルが高いんじゃないですかね。

――実際に作ってみて、いかがでしたか?

「R.O.C.K.M.E.」は、彼に圧倒されたまま終わったセッションでした。冷蔵庫くらい体の大きな人が、2時間くらい遅刻してきて、エネルギッシュにでもワッとやって、予定より巻いて帰るみたいな。ちょうど「Despacito」がグラミーにノミネートされた時期で、その話をマシンガンのようにされて「すげえ」とか言ってる間にできちゃって。完全に相手のペースに飲み込まれたセッションで、「やられた」と思いました。
――アメリカのポップ・シーンとリンクするサウンドになっていますが、川口さんが、そういった音楽に興味を持つようになったのはいつ頃からですか?

LAに行ったタイミングですね。もっとも印象が強かったのはPost Malone。その曲やサウンドのすごさに「おお!アメリカだなあ!」って。ここまでで話したように、何もかもが初めての体験だったので、ほかに比べる対象がなくてうまく言葉にはできないんですけど、今までって、メロディと歌詞しか聴こえてなかったなと。

――Post Maloneの登場は、ロックやヒップホップといった言葉では割り切れない、激動の10年代に、新しい何かが生まれた瞬間の一つでした。

今は、ロックがどうとかヒップホップがどうとかではなくて、それぞれが好きなことをするのがトレンド、みたいな流れになってきたと思うんです。僕自身も、既存のジャンルを指して「〇〇をやるぞ」とは思いませんし、いろんな要素を分け隔てなく自分なりに採り入れていきたいと思っています。

無気力な状態でも、「世の中にはまだ美
しいものがあるんだな」って、思っても
らいたいんです。

――では、昨年7月にリリースした「R.O.C.K.M.E. ft. Marty James (Dave Aude Remix)」も収録されているEP『Departure』は、そのミクスチャー感覚において、どのようなイメージがありましたか?

和と洋、東京メイドとUSメイドをどう折衷するか。なおかつメジャーからのデビューEPだったので、挨拶代わりじゃないですけど、僕らしいヴァリエーションをしっかり見せられるように選曲していきました。

――ここでおっしゃる和と洋とは、どういう意味ですか?

日本は、僕自身が日本のことしか知らなかったときもそうでしたけど、歌のメロディと歌詞の締める割合が大きくて、そこに物語がないウケにくい。向こうは、音に身をゆだねてノリつつ、フックのあるリリックがあるとみんなで一緒に歌うみたいな。

――物語を想起させる歌心と、音のグルーヴを、どちらも強度を保ったまま共存させることは、なかなか難しいと思うんです。

そうですね。「どっちかだろ」って、そこが二分される部分はあると思います。僕も、両立なんてそんな美味しいことできるわけないと思ってたんですけど、いろんな曲を作っていくうちに、案外いけることもわかってきました。今はそこを意識的に追求してる最中ですね。

――それはそのまま、今回のニュー・シングル「I’m a slave for you」の魅力にも繋がると感じています。それにしても強烈なタイトルですね。

この曲は、ドラマ「この男は人生最大の過ちです」のために書き下ろしたんです。原作も読んだんですけど、とにかく強い言葉のオン・オンパレードで、展開もすごいし、その印象に負けない曲にしたくて、サビの頭とタイトルにその言葉を入れました。

――サウンドのイメージについても聞かせてもらえますか?

そこはRyosuke ”Dr.R” Sakaiさんに、”鋭角的なサウンド”とか”中毒性のある感じ”とか、そういう指標でお任せしつつ、「そのシンベ(シンセベース)いいですね」とか「そのリズムいいですね」とか、いろいろ話しながらイメ―ジを広げていくことと並行して、メロディと歌詞を書いていきました。

――どの曲も、ビートメイクと歌を同時進行で作っていくのですか?

そうですね。時間がもったいないし、そのほうがよりセッション感も出るし、生きてる感じするんですよね。ビート・メイカーも、僕のメロをオンタイムで聴いくことでこそ、湧いてくるイメージもあると思いますし。

――さきほどのPost Maloneの話にも通じることですが、ポップ・シーンの流れとの同時代性は、どのくらい意識していますか?

今の段階では、最新と言うよりは、ちょっと前って感覚ですね。2017年とか2018年あたり。LAに行った時に受けた強烈な印象が反映された曲が多いと思います。

――今後はどうなっていくのでしょう。

僕はけっこうミーハーなタイプ。それって、自分の軸がないってことなのかもしれなけど、ぜんぜんそんな感覚はなくて。明確に言葉にはできないんですけど、確実に何か持っているような気がするんです。だからこそどこにでもいけるし、染まれると思っているので、枠を決めずにいろんなことを楽しんでやりたいです。

――今はどんな音楽に興味がありますか?

例えばLauvみたいな感じもいいなって。

――Lauvのサウンドは、これまでの川口さんの曲と比べるとソフトで曲調も平坦ですよね。

今はそのほうが合うんじゃないかとか、ミーハーだから好きになったらすぐに思っちゃうんですよ。

――ご自身の音楽と対社会については、どう考えていますか?

そこはまり力を入れすぎないように、ある種の脱力感があったほうがいいなって。と言うのも、僕ら”ミレニアム世代”って、この先世の中がどうなるのかなんてわからないけど、明るくは見えてなくて、人生に目標や夢も持てないまま毎日を生きる、ただしんどい世代。それくらい無気力な状態でも、「世の中にはまだ美しいものがあるんだな」って、思ってもらいたいんです。でも、ライヴではみんなで飛ぶくらい、熱く盛り上がりたいですね。

――3月27日には渋谷TSUTAYA O-nestで初のワンマン・ライヴがあります。

あまり「〇〇なライヴにするぞ」って決めすぎるのではなく、かなり余白を残して締めるところは締めようかと。お客さんがいることで余白が埋まる、当日完成する”ライヴ”のハラハラ感を、僕自身も楽しみたいと思ってます。

<リリース情報>

02.12 release
川口レイジ 1st single
「I’m a slave for you」

初回生産限定盤 [CD+DVD] BVCL1055-6 1,600円(tax out)
通常盤 [CD] BVCL1057 1,300円(tax out)

[CD]
1.「I’m a slave for you」(ドラマ「この男は人生最大の過ちです」主題歌)
co-writing Yui Mugino, Ryosuke”Dr.R”Sakai
2.「STOP」(ドラマ「この男は人生最大の過ちです」エンディングテーマ)
co-writing Carlos K.
3.「MOVIE」
co-writing Iain Farquharson, Jeff Miyahara, Jez Ashurst
4.「Be mine」
co-writing Avena Savage, Junichi Hoshino
5. 「I’m a slave for you」(instrumental)

[DVD]
1. I’m a slave for you – music video
2. I’m a slave for you – behind the scene
3. Like I do [the scene]
4. Summers Still Burning [the scene]
5. falling down [the scene]


川口レイジ
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川口レイジはミレニアム世代のポップ・スターに成り得るかはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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