生駒里奈『モマの火星探検記』再演に
挑むことで発見した自身の変化と新た
な意気込みーー「怖さは必要、でも不
安がる必要はない」

きこえますか? このこえがーー。2月7日(金)より元乃木坂46、生駒里奈が俳優の矢崎広とダブル主演する舞台『モマの火星探検記』の大阪公演が開幕する。本作は宇宙飛行士・毛利衛原作の同名児童文学と、劇団「少年社中」の舞台『ハイレゾ』を融合して生まれたもの。人類史上初めて火星に到達した主人公の少年「モマ」の冒険と、宇宙を夢見て仲間とロケット作りに熱中する少女「ユーリ」の物語が絡み合いながら展開する。「宇宙とは何か?」の神秘に触れる、夢や希望、ロマン溢れる壮大な宇宙ファンタジーだ。2012年初演、2017年再演を経て3度目の上演となる今回。前回公演よりユーリ役を担うのが生駒里奈だ。すでに東京公演を終えた彼女に、続く大阪公演への意気込みと役への思いを訊いた。
生駒里奈 撮影=福家信哉
●どうしたらユーリらしくなるのかなと、すごく考えました●
ーー1月に上演された東京公演では、無事に全20ステージを完走されました。
実年齢より10歳も若い中学生を演じるのはすごくパワーが必要なので大変でした。演じながらだんだん気が遠くなって、記憶が飛んじゃうくらい(笑)。矢崎さんをはじめ、全員がそれほどまでに研ぎ澄ませて、毎日演じていましたね。
ーー前回以上にパワフルなステージというのが伝わってきます。
東京の20ステージって、2017年に東京と大阪で上演した公演回数よりも多いんですよね。そもそも前回の私は若かった(笑)。一生懸命だけでやっていた分、見えなかった景色があったので。それは私が大人になったということでもあるんですけど。単純に、赤ちゃんがいっぱい走り回って遊ぶのと、大人が明日疲れると分かって遊ぶのとでは、同じ遊ぶでも違うじゃないですか。
ーー赤ちゃんから大人に、2年半で急成長ですね。
そうですね(笑)。前回は技術が追い付かず、役の気持ちをそこまで深く読み込めていなかったところもありました。でも、そこから何本か舞台に出させて頂いたことで、色んなお仕事に対しても、より深く読み解けるようになってきました。いま出せるものが大きくなった分、消費もすごくなっている気がします。それがこの2年半の中で、自分に起こった変化なのかなと。
ーー初めて出演した2017年公演は、まだ乃木坂46に在籍中でした。
前回は皆さんに必死についていくだけで、精一杯でした。全身全霊で挑んでも太刀打ちできなくて、これが自分の力で戦っている人たちの世界なんだなと。とにかく負けたくないし、「振り落とされないように」という気持ちでやっていました。それにあの頃は、自分の存在が迷惑になっちゃう機会が多くて。
ーーそれはどういう?
人に頼るということを素直にできなかった時期でもあったので……。だけど、そういうことも分け隔てなく仲良くなれたのはこのカンパニーだったんです。お芝居を通して人の素晴らしさや優しさ、温かさをダイレクトに感じることができたので、自分にとってはユーリという存在に、救われた部分もありました。
ーー生駒さんにとって転機となる作品だったんですね。少年社中の楽屋では、炊き出しがあるそうですね。
ご飯を炊いてくださっています。「おはようございます!」って楽屋に入って、稽古着に着替えたら、みんなで同じ釜の飯を食べる。そういう風に毎日過ごしているから、自然と仲も深まっていくんです。スタッフさんが、おかずも作ってくれるんですよ。それがまた美味しくて。毎日お茶碗にモリモリお米をよそって食べていました(笑)。
生駒里奈 撮影=福家信哉
ーー24歳の今、作品と向き合われて新たな発見はありましたか。
ユーリは、お父さんやお母さんの考えだったり気持ちまで汲み取ってしまう繊細な子なんです。だから、逆に読み解き過ぎないように、ストップをかけていました。演じていて思うのは、「なぜユーリにお父さんはいないのか」。気にはなるけど、お母さんがかたくなにその話をしないのは、言えない理由があると幼い頃から知っていたので。だから聞かないし、そういう気遣いや母親に対する優しさがある子なんだなと。それでも、宇宙飛行士に惹かれたのは、お父さんの血が関係してるんでしょうし。そういう繋がりをどう意識せず、自然にお客様に感じ取って貰えるか。見終わった後に、「あの場面でユーリはこういってたな」と、思い出して貰えたら良いなとか、そんなふうにお芝居的なことを考えられるようになりました。
ーー今回ユーリを演じる上で、一番大切にしたことは?
ただ元気とパワーだけで押し切らないことですね。裏設定ですが、前回12歳としていたユーリを、今回は14歳の設定にしています。前回が等身大のユーリなら、今回はリアル中学生かな。説明が難しいんですけど(笑)。14、15歳の頃って、一番多感な時期じゃないですか。ひとつの物事を引きずって、トラウマになっちゃうような年代。それを表現するにはどうするか。本当にリアルな中学生を演じようって稽古場でみんなで話していて出たのが、分かりやすくスクールカーストで言ったら「ユーリは「陰キャ」だよね」と。
ーー「ピン!」ときましたか。
最初は「ん?」とはなりました(笑)。たまたまロケットを見つけるシーンがあって、それが後々お父さんに繋がってくるんですけど。最初は興味だけで「ロケット作ろうよ!」と言って、周囲を巻き込む勢いとカリスマ性を発揮するところが、実は陰キャっぽさを出せている気がします。あと、キャラクターとしては、例えば「自分の趣味の話になると早口になる」というのがあるのですが、「陰キャ」要素ばかり取り入れすぎると、大人っぽくもなっちゃうしなと思って、前回の元気なユーリを引っ張ってきてミックスしたり。何回も削ぎ落としては付け足して。どうしたらユーリらしくなるのかなと、すごく考えました。
●「憧れという名の力」が、いまの私の原動力です●
生駒里奈 撮影=福家信哉
ーーダブル主演を務める矢崎広さんは、どんな存在ですか。
尊敬する先輩ですね。前回は、自分のことで精一杯でしたし、お互い人見知りが出ていたので、あまりお話できませんでした。だけど今回は、宇宙飛行士チームのお稽古を見てお話する機会も増えて。色々なアドバイスも的確ですし、自分に自信が持てるような言葉を掛けてくださるんです。やっぱりそういう先輩ってついていきたくなるじゃないですか(笑)。お芝居に関してはまだまだなので、学ばせていただきたいです。
ーー女の子2人、男の子3人の「子どもチーム」は一部メンバーチェンジがありました。女の子メンバー「オカルト」は前回同様、劇団員の加藤良子さんです。
オカルトとユーリには、男子には言ってない女子だけの暗号みたいなものがあって。こんな(ガォっと爪を立てるような手の)ポーズがあるのですが、これでバイバイって意味なんです(笑)。きっと仲の良い中学生にはそういう所あるよねと話してて。オカルトは、そういう親友みたいなポジションです。「子どもチーム」というのも、中学生はまだギリギリ男女でグループが組める年代なので、よくありますよね。私も実際に親友の女の子と、他に男の子を交えたオタクな感じのグループがありました。皆で親友の家に集まってテレビゲームしたり。それに似てるなと。
ーー「ホイップ」も前回に引き続き、竹内尚文さんです。
本作のグッズでキャラクターカードがあるんですけど、そこでのホイップは「転校生」という設定が書かれているそうです。それを元に皆で話し合った時に、きっとホイップは、新しい風を吹かせてくれる存在なんじゃないかなと。チームの中ではロケットを組み立てる人なので、「あれ新しく家から持ってきたよ」と言ってそうとか。あとホイップが劇中で名前を言うシーンが、微妙にカッコよくてダサい時があって。そこがとてつもなく面白い。本当に中学生のダサいところを上手く突いてくるので、さすがだなと(笑)。
ーー「ハカセ」には、新たに赤澤燈さん。少年社中の公演『トゥーランドット』でも共演されました。
『トゥーランドット』ではあまり絡めなかったので、今回、いっしょにお芝居ができて嬉しいです。今回のユーリとハカセはガチで友達なのだろうなという感じ。それは、ともるん(赤澤)が出してくれたものに対して、素直に応えていたらできた関係性で。最後にハカセとユーリが場面を動かす大事なシーンがあるのですが、そこはもっと深めて面白くしていきいたいねというのは二人で話していて。本番が始まってから、最も変わったシーンがハカセとの関係かなと思います。
ーー「チキン」は、初共演となる諸星翔希さんです。
チキンはお母さんが大好きな、いわゆるマザコンのような役。チキンのお陰で5人の友情が分かりやすく伝わるというか。凄く上手いんですよ。ナヨナヨしている感じも面白くて。私も今頑張っている途中なので同世代の方の頑張りはすごく励みになります。劇中でチキンとユーリが目を合わせて言葉を交わすシーンがあって。公演を重ねる度に、どんどん目だけで役の気持ちが伝わるし、それを客席に飛ばせるところまで広がってきた感覚があって。諸星さんもいっしょにお芝居していて、面白い役者さんの一人です。
生駒里奈 撮影=福家信哉
ーーすごく充実感をもって稽古に取り組まれたようですね。
そうですね。子どもチームは本当に、チームワークが素晴らしくて。お互いに頼り頼られつつ、本当にロケットを飛ばしていますね(笑)。
ーー劇中で生駒さんご自身が、心動かされるシーンや台詞は?
前回はおじさんにもらった「やりたいと思ったことをやればいいんだ」という台詞だったのですが、今回はタケミツ船長の台詞「憧れという名の力」が私の心の原動力です。憧れがないと人類は進化しなかったんですって。それは毛利衛さんが原作で触れられていることで、そうだよなと。何かをやりたいという憧れがないと、人は成長しない。いつまでも憧れを持ち続けていいんだ、それが人間なんだなと思えた好きな台詞です。
ーー再演が続く、この作品が愛される理由とは?
一番は「夢を見ていい!」と言ってくれるところ。よく若い子から「緊張をほぐすにはどうすればいいですか?」「失敗しないためにはどうすればいいですか?」と質問されることが多いのですが、とても勿体ないと思っていて。夢をつかむためには、失敗しないとつかめない。それが、24年生きてきた私が実感を持って言えることです。私も元々はそのタイプでした。でもこの作品を観ていただければ、そういう不安もなくなると思うのでぜひ観て欲しいです。
ーー少し将来に対して「怖さ」を抱えているような方の、助けになるような作品だと。
「怖い」という感情は、絶対に必要なものだから人間に備わっているのだと思います。怖さは必要ですが、不安がる必要はなくて。若い人には、そういうことを分かりやすく払拭してくれるのがこの作品だよと伝えたいです。20、30、40代の方には、夢を叶えた後も、色んなことを思いながら旅を続けているのが大人なんだなということが感じられると思う。共演の小須田康人さんが58歳なので、50、60代も含めて、本当に幅広い世代の方に必ず刺さる作品だと思います。
●スパイスやメインの小麦粉、食紅にもなりたい●
ーー劇団、少年社中主宰で本作の脚色・演出を担当された毛利亘宏さんは、この作品をライフワークにしたいそうですね。生駒さんも同じ気持ちですか?
毛利さんの夢を叶えたいなと思いますし、ユーリ役に関しては、私じゃない人がやった方がいいときもあると思う。でもできることなら、他の色んな役だったり、何らかの形でこの作品には携わっていきたいですね。
ーーまた、少年社中の舞台『トゥーランドット』で共演した大ベテランの藤木孝さんには「声」がチャームポイントだと気づかせて貰えたとか。
少年社中の舞台を通して出会った方々に、自分の武器を教えて貰うことがあって。その中で藤木さんは声を褒めてくださって、そこから長所を伸ばそうと頑張れました。尊敬できる人に言われたら、それは本当だから。「嘘だ~」とかいって、ひねくれてちゃいけないなと(笑)。
ーーもともとは……。
超ひねくれがちでした(笑)。例えば、可愛いねと言われても「嘘だ~」と思う。だけど今は、「自分の身体を使って芝居をしていく」と決めたので、素直に長所として伸ばしていこうと思えるようになりました。関わってくださった皆さんのお陰です。
ーー2020年はどんな年にしたいですか。
今年も変わらず「認められる役者になりたい」と思っています。私の考えでは、役者さんは作品を作る上での「材料」なので、必要とされる材料としてスパイスにもなりたいし、メインの小麦粉や、色をつける食紅にもなりたい。必ず調味料として入れる材料になりたいですね。
生駒里奈 撮影=福家信哉
ーーちなみに、お料理はされるのですか?
最近まったくしていません! イチゴばっかり食べてます。洗ってパクッっとして、ゴミ袋にヘタをポイッと。楽してます(笑)。
ーーハハハ(笑)。2月に迫った大阪公演に向けて、また美味しいものを食べて頑張らなきゃですね。
大阪公演楽しみです! 美味しいものがいっぱいあるから。粉もの、炭水化物が大好きなので。昔うどんすきに連れて行ってもらったことがあって、それがめちゃくちゃ美味しかったんです。生きた海老をそのまま鍋に突っ込んで食べたのがもう美味しくて(笑)。あとイカ焼きも好きだし。りくろーおじさんのチーズケーキも買って帰ります。
ーー食事以外の息抜きはありますか。
台本読むと漫画が読めなくなったので、漫画が読めていないんですよね。今は『ポケットモンスター ソード』をやってます。ゆっくりじっくりやってやっとクリアしたので、これからしっかり図鑑を埋めていこうと思います(笑)。あとはYouTubeで犬の散歩動画を見たりして、頭を空っぽにすることで、本番では切り替えてパワー全開で頑張っています。
ーー最後に、大阪公演へ向けた意気込みを。
前回観てくださった方も来てくださるかなと、ちょっと期待して楽しみに待っています(笑)。前回観ていただいた方には、パワーアップした姿をお見せしたいですし、初めて観る方には、心洗われる瞬間になって欲しい。明日も頑張ろうと思える、そんな2時間を必ずお届けするので、ぜひ期待して待っていてください!

生駒里奈 撮影=福家信哉

取材・文=石橋法子 撮影=福家信哉

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