日本劇作家協会東海支部の名物イベン
ト【劇王】を原点回帰して開催~「世
代交流は演劇で」

主に愛知・岐阜・三重に在住する劇作家約30名が在籍し、今や全国各地に波及して同様の大会が催されるようになった【劇王】や、【俳優A賞】、【ミノカモ学生演劇祭】など独自の企画を次々と生み出し、〈日本劇作家協会〉の支部としては、所属人数・勢いともに最大勢力を誇る東海支部。
その代名詞とも言える【劇王】は、〈日本劇作家協会東海支部〉と会場である「長久手市文化の家」(以下、文化の家)が協力して立ち上げた短編演劇の連続上演イベントだ。「上演時間20分、役者3人以内、数分で舞台転換可能」という制約のもと、東海支部員や招聘作家が書き下ろした戯曲を何本か上演し、観客とゲスト審査員の投票によって優勝者【劇王】を決定するもので、発案者の佃典彦(二代目東海支部長)によるお手製のチャンピオンベルトと劇作家の名誉のみをかけて繰り広げられる、熱き闘いなのだ。
2003年の第1回からほぼ毎年開催されてきたが、10回目を迎えた2013年の『劇王X~天下統一大会~』をもって一旦終了。東海支部イベントとしては、2014年以降も『劇本』や『劇闘』とスタイルを変えながら毎年行われるも、【劇王】は開催されないまま数年が過ぎ、2017年にようやく『劇王Ⅺ~アジア大会~』として復活した。ただし、この時は全国各地の予選を通過した9チームに、韓国・シンガポール・香港の海外3チーム、そして第9代劇王の平塚直隆が参戦。当時支部長でもあった平塚が東海支部員のメンツを賭けて再び【劇王】の座に輝いたが、【劇王】本来の姿である東海支部員が中心の闘いではなかった。
『劇王Ⅺ〜アジア大会〜』2017年9月上演より。自身も出演し、劇王の座を防衛した、平塚直隆 作・演出『救急車を呼びました』
『劇王Ⅺ〜アジア大会〜』2017年9月上演より。2位の北海道代表/上田龍成(星くずロンリネス)作・演出『言いにくいコトは、、』
【歴代の劇王】
2003年『劇王』/初代劇王:杉本明朗『仇討ち』
2004年『劇王II』/第2代劇王:品川浩幸『元パパ』
2005年『劇王III』/第3代劇王:品川浩幸『三日月ビュー』
2007年『劇王IV』/第4代劇王:柴幸男『反復かつ連続』
2008年『劇王V』/第5代劇王:鹿目由紀『不惑と窓枠の行方』
2009年『劇王VI』/第6代劇王:鹿目由紀『信号の虫』
2010年『劇王VII』/第7代劇王:鹿目由紀『借り物と協奏』
2011年『劇王VIII』/第8代劇王:鹿目由紀『溝』
2012年『劇王IX』/第9代劇王:平塚直隆『鹿』
2013年『劇王X~天下統一大会~』/劇天:柴幸男『つくりばなし』
2017年『劇王Ⅺ~アジア大会~』/劇王アジアチャンピオン・第11代劇王:平塚直隆『救急車を呼びました』
そして『劇王Ⅺ~アジア大会~』から約2年半、来る2月8日(土)・9日(日)に『劇王2020 〜人生を変える20分〜』と冠して行う今回の【劇王】は、原点に立ち返りつつ、新たな試みも取り入れたイベントになるという。原点回帰に至った経緯や2日間に渡るイベント全般について、現東海支部長で“劇帝”の称号も持つ鹿目由紀(第5代~第8代まで4年連続で【劇王】に輝き、劇帝に)、同支部員で【劇王】参戦者の鏡味富美子、文化の家スタッフの齋藤あいの3者に話を聞いた。

左から・鏡味富美子、鹿目由紀

── 7年ぶりに本来の【劇王】スタイルで開催されるそうですが、なぜ原点に立ち返ることになったのでしょうか。
鹿目 もともと持っている根本的な志を見直した感じなんですね。10回やってアジア大会もやって、その蓄積がいい感じにはあったし、もちろんお客さんも増えて広がった部分もあったんですけど、そこである程度積み上がっちゃったというか、こういうものであろう、みたいな型が決まっちゃった感じがあったんです。東海地区にはこんな作家がいますよ、と紹介したり、その作品をちょっとずつ観られるイベントがあれば…というつもりで当時支部長だった佃さんが始めたんですけど、 それがだんだん、各地の新人戯曲賞作家とか外部の参加者も招きだした4回目あたりから外に向いてる感じになっていった。
それで原点である、東海地区にこんな劇作家がいますよ、ということを発表する場がほしいな、と思ったんです。それと、10回の間に【劇王】のコアなファンはできたんですけど、さらにいろんな年代の人がもっと見に来てくれるようにしたい。高校生や中学生にも観てもらいたいし、それが次世代の演劇人になっていったらいいだろう、という話になって。
── 確かにこれまで学生の観客は、それほど多くはないですものね。
鹿目 結構芝居観てます、みたいな大人の方が多いですね。文化の家・事務局長の籾山(勝人)さんが、「世代交流は演劇で」ってポソッと言ったんですよ。「謎解きはディナーのあとで」みたいに、なんだかお洒落な感じで(笑)。あ、それ!と思って今回のテーマにしました。
── 今回は、Aプログラム4人とBプログラム4人で、招聘のお2人を除くと東海支部員は6人参戦することになりますが、参加者はどのように決めたんですか?
鹿目 東海支部にはだいぶいろんな人が入ったので、16人が戯曲を提出して、合評会をやって投票で6名が決まりました。招聘のお2人については、まず札幌から《教文短編演劇祭2019》のチャンピオンをお呼びしようと思ったら、関戸哲也さん(名古屋で活動している〈空宙空地〉に所属、劇作家・演出家・俳優)だったんですよ。ごまのはえさんは、《OMS戯曲賞》も受賞されているし(現時点で《第64回岸田國士戯曲賞》の最終候補作にもノミネート)、もともとは審査員をお願いしようと声を掛けたんですけど、「審査員よりも出場したい」と仰ったので、じゃあ出ていただこうと。
── 7年経って、東海支部の出場者の顔ぶれもだいぶ変わりましたね。
鹿目 東海支部に新しく入った田村優太さんと山口敦史さんが合評会で通って出場しますし、女性作家の鏡味富美子さんと長谷川彩さんがいて、中堅どころの天野順一朗くんと斜田章大くんもいて、いいメンバーが揃ったな、という感じがしてます。【劇王】のやり方は一切変わっていないんですけど、今回はこれまで出たことも観たこともない人もいて、そういう人達が新しく作っていくので雰囲気は変わるんじゃないかな、という気がします。本来なら前回の劇王の平塚さんが挑戦者と決勝巴戦で闘うはずなんですけど、出られないので、今回の決戦はAプロとBプロの勝者と審査員の特別推薦で勝ち上がった1人による巴戦になります。
── 鏡味さんは『劇王VII』から『劇王IX』まで3年連続で出場されて、今回久しぶりに参戦されますが、意気込みなどは?
鏡味 今回のメンバーで今まで【劇王】に出たことがあるのは私だけなんですよね。作家も役者も最年長で大人気もなくという感じですけど、毛色の変わったものをやれるかな、と思っています。最初から入馬券さんと内藤美佐子さんへの当て書きで書いたので、「合評会で落ちるかもしれないけど、本番のスケジュールを空けておいてください。でも合評会で落ちたらごめんなさい」とお願いしたら、お二方とも「いいよ」と言ってくださったので、ちょっとドキドキしながら合評会に挑んだんですけど、無事通ったのであぁ良かったなと思いました。
── 経験者もいて、新しい顔ぶれもたくさん揃って、一旦お休みして他のイベントを挟んで期間をおいたことも良かったかもしれませんね。
鹿目 本当にそうなんですよ。前回のアジア大会で気づいたことも多くて、やっぱり【劇王】は、東海地区の中でまず良いと思う人が出なければいけない、という気持ちが強くなりました。
── 【劇王】スタイルが全国各地に波及していろいろな形で開催されるにつけ、元祖のアイデンティティを保つことも重要ですものね。
鹿目 そうなんです。他の地区では劇団名で出場しているところもあるんですけど、劇作家の大会なので、やっぱり劇作家の名前を売りたいという気持ちが強い。元祖の【劇王】は、劇作家のためのコンペなんですよね。
── 審査員は、過去にも何度かお越しいただいている鴻上尚史さんと、当初予定されていた流山児祥さんから日澤雄介さん(〈劇団チョコレートケーキ〉主宰、演出家・俳優)に変更になりましたが、日澤さんにお願いした経緯というのは?
鹿目 流山児さんがご都合でお越しいただけなくなったので、流山児さんが理事長を務める〈日本演出者協会〉から誰か呼びたいな、と思った時にちょうど忘年会があったんですよ。そこで、なんとなく来てくださったらいいな、と思っていた日澤さん(〈日本演出者協会〉常務理事)にお声掛けしたら快くOKをいただいたので、あぁ良かったと思って。
── 日澤さんは一度、文化の家にいらしていますよね。
齋藤 はい、劇団チョコレートケーキの『治天の君』でいらしてますね。
── 【劇王】は初めてご覧になると思うので、私たち観客としても新たな視点からご意見が聞けるのは楽しみです。新企画の「げきたまご」は、どんな内容なんでしょうか。
鹿目 さっきもお話した、中高生を巻き込みたい、【劇王】がこういうものだと知ってもらいたい、という思いがあって企画したもので、【劇王】方式で一緒に芝居を創ってみようと中学生から22歳までの人たちを募集して、8人集まりました。私がメインでやってるんですけど、最初の回に、みんなが今一番気になっていることを取材したら、いろいろな意見が出たんですよ。それを総合して芝居を何本創るか、というところで迷ったんですけど、3人の芝居と5人の芝居、各20分の短編劇を2本書いて、私が演出もして発表します。
── これまでも演劇に関わってきた方が多いんですか?
鹿目 いえ、全然やったことがない子もいます。演劇部の子もいるんですけど、高校まで野球部で、演劇をやってみたい気持ちになって応募したっていう人も。
── 面白そうな企画ですね。
鹿目 いろいろ迷ったんですよ。ホンを書いてもらうのもアリかな、と思ったんですけど、時間が無かったので、彼らに取材をして、とにかくそれをまとめるっていう。私自身も久しぶりに【劇王】方式でお芝居を創るのでガチでやろうとしていて、結構しっかり取り組んでます。発表公演は2日目の【劇王】決勝巴戦の前で、鴻上さんと日澤さんに感想もいただくので、ちょっと下手なものは創れないな、と思って。だから気合が入ってるんです(笑)。
── 鴻上さんも日澤さんも、審査する気満々でいらっしゃるでしょうしね。
鹿目 そうそう。だから少なくとも、「これなら【劇王】に出場してても良かったよね」みたいなことになったらいいぐらいには創ろうと。そうやって決勝巴戦の前に、みんなに脅しをかけるつもりで(笑)。
── 参加者8人に今気になっていることを語ってもらって、それを2作にまとめた、ということですよね。
鹿目 3人芝居は女の子3人なんですけど、自分の今日の体調とかを記録するアプリを使うことで精神の安定を保つ人がいたり、自分がやれたことをツィッターで「偉い!」ってつぶやいて自分を鼓舞する人がいたり。あと、「自分には基準点があるはずなのに人の話を聞くとそれがズレるんです。だから基準点って何か考えてるんです」という人もいて、わかるなぁと思って。それで1本はその3人を一緒にしようと思って書いてみました。
みんなの話を聞いていたら言いたいことがいっぱいあるみたいで、めちゃくちゃ話すんですよ。今話したいことそんなにあるの? って。そういえば、そういえば、そういえば…みたいな感じで出てくる。人の話を聞きたいっていうよりも、自分の話がとにかくしたいんだなって思って、5人芝居の方は、誰かが今気になってることを言うんだけど、「あ~なるほど。そんなことよりね…」って、どんどん話が続いていくものにしました。兄弟の話ですけど、だんだん大きな兄弟喧嘩になっていくっていう(笑)。
とにかく話を聞いていて面白かったんですよ。いろんな世代のいろんな気になることがあって。女の子の気になることと男の子の気になることの差も大きくて、「今日もよく生きられた、偉いね」って言ってる女の子がいる一方で、やたら都市伝説を話す男の子がいたり、全然違うな、と(笑)。『劇王2020』の新しくなったものの何かを表すような企画だと思うので、とにかく頑張ってやりたいと思います。
── この「げきたまご」は、今後も続けていくご予定なんですか?
鹿目 続けたいですよね。
齋藤 続けていきたいですね。若い人にどんどん参加していただきたいです。
── あとは【第5回俳優A賞】の発表と授賞式ですね。
鹿目 今回はこのイベントに合わせて出来ることになったので良かったです。
鏡味 嬉しいですね。新年会での発表(第3回と第4回は「ナビロフト」で行われた東海支部の新年会イベントの中で発表)も悪くなかったんですけど、大きい舞台の方が。
── ノミネートされた方も受賞者も、より晴れがましい気持ちになりますよね。
鹿目 これもぜひ、多くの方に見に来てもらいたいですね。
齋藤 ぜひ若い方にも観に来てほしいということで、今回は学校関係にもチラシをたくさんお配りして、愛知県下のほぼ全部の高校演劇部にも送っているんです。チケット料金も学生さんは半額で、全公演通し券でも2,000円とお安いので、中・高・大学生に観ていただけるとすごくいいなと思っています。
── 他に何かアピールされたい点などはありますか?
齋藤 せっかく文化の家の中でやっていただくので、観た方が気軽に感想などをシェアできる座談会のようなことが出来たらいいな、と考えています。8日(土)の俳優A賞授賞式の後やBプロの後とかに、「どの作品に投票しました?」とか「なんで入れたんですか?」みたいに、批評とかではなくてざっくばらんに感想をただ言って、お茶でも飲みながら楽しんでいただければと。
── アフターサロンみたいな感じで。
齋藤 そうです。最初はなかなか参加しづらいかもしれませんけど、「良かったらどうぞ」とお客さんを引っ張って(笑)。アトリウムのあたりで出来たらいいかなと。
鹿目 いいですね、それ。楽しそう!
齋藤 「世代交流は演劇で」がテーマなので。
鹿目 まさに。感想を言い合える場があるのはいいですね。
齋藤 特に【劇王】は1プログラムで4本上演されるので、言いやすい企画だなと思って。SNSで直前の告知になると思いますけど、興味のある方は文化の家のツイッターを覗いていただきたいです。
鹿目 それからもうひとつ付け加えておきたいのは、【劇王】に出場したことで力量がついた人たちがいたわけですよね。例えば、私は【劇王】に出たからいろいろ考えることが増えて、やりたいことも増えてきたっていう感じもしたし、それは平塚さんとか刈馬(カオス)さん、渡山(博崇)さんもそうだと思うんですよ。若い劇作家にもそういう風になっていって欲しい、という気持ちがあります。
── 鹿目さんが4年連続で【劇王】の座に輝いた時の、毎回ものすごく戦略的な手法で挑まれていた姿勢に刺激された劇作家も多かったと思うんですよね。
鹿目 そうですね(笑)。結構いろんなことを考えて出なきゃいけない大会で、年を追うごとに絶対に防衛しなきゃいけない気持ちやプレッシャーがあって、毎回、もう死にそう、吐きそう! みたいな感じでやっていたので、あれで成長できたところがあると思います。それとそうなってみて初めて、もうこういう創り方はやらない方がいい、つまり、もっと伸び伸びと好きなように創るフィールドに戻るべき、ということに気づけたことも、おかげさまで、という感じなんです。
尚、イベント内のどこかで、今期で東海支部長を退く鹿目由紀から、新支部長の発表も行う予定とか。元祖【劇王】の久々の復活にして、立ち向かうチャンピオン不在の大会となる今回。誰が新たな【劇王】に座につくのかまったく予想もつかない状況の中、勝敗に影響する1票を投じる楽しさも味わいに、いざ長久手の地へ!

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