大泉洋×小池栄子が太宰治の未完の遺
作に挑む 映画『グッドバイ~嘘から
はじまる人生喜劇~』成島出監督イン
タビュー

2020年2月14日(金)より、映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』が全国ロードショーされる。原作は、太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」をケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が独自の視点で完成させた戯曲『グッドバイ』で、2015年の舞台上演時、第23回読売演劇大賞において最優秀作品賞をはじめ、KERAが優秀演出家賞、永井キヌ子役の小池栄子が最優秀女優賞を受賞するなど高い評価を得た。
映画版でも舞台版と同じく、小池栄子が金にがめついが実は美貌の持ち主というパワフルな女性・キヌ子役を務め、優柔不断だがなぜかモテる編集者・田島周二役の大泉洋と“人生喜劇”を繰り広げる。
【動画】2.14(金)公開『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』本予告

監督は『八日目の蟬』で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した成島出。人物像をじっくりと描くその手腕により、どのような映画版『グッドバイ』が誕生したのだろうか。成島監督に話を聞いた。
《あらすじ》
戦後の混乱から復興へ向かう昭和のニッポン。闇稼業で小金を稼いでいた文芸誌編集長の田島周二は、優柔不断なくせに、なぜか女にはめっぽうモテる。気づけば何人もの愛人を抱え、ほとほと困っていた。そろそろまっとうに生きようと、愛人たちと別れる決心をしたものの、別れを切り出すのは至難の業。一計を案じた田島は、金にがめつく大食いの担ぎ屋・キヌ子に「嘘(にせ)の妻を演じてくれ」と頼み込む。そう、キヌ子は泥だらけの顔を洗えば誰もが振り返る女だったのだ!男は女と別れるため、女は金のため―。こうして、水と油のような二人による“嘘(にせ)夫婦”の企みが始まった。
■太宰・KERA・小池栄子 3つの興味で舞台を見に行った
――2015年に上演された舞台版をご覧になって今回の映画化を思いついたそうですが、特にどのあたりに魅力を感じられたのでしょうか。
僕は元々、太宰とKERAさんのファンなんです。太宰の未完の小説のその後を、KERAさんがどういう風に創ったんだろう、という興味がありましたし、僕の映画の常連でもある小池栄子ちゃんがキヌ子をどう演じているのか、という興味もありました。太宰・KERAさん・栄子ちゃん、と3つの興味で見に行ったら、これが賞をいろいろ獲るだけのことはあって、圧巻だったんです。非常に面白くて、観客もみんな大爆笑していました。以前から「栄子ちゃん主役の映画を撮りたいね」という話は本人としていて、この作品はいけるんじゃないか、と思ってそこから映画化の企画が転がり出しました。
映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』
――舞台版に出演していた小池さんがそのまま同じ役、というのはなかなか珍しいパターンだなと思いましたが、小池さん主役の映画ということで始まった企画だったのですね。確かに小池さんのキヌ子はハマり役でした。
彼女はものすごく努力家で、舞台女優としてもどんどん成長していますよね。キヌ子の演技は迫力とチャーミングさが同居している役で、これが例えば迫力だけだったら、舞台だからこそ発揮できる役柄になってしまうんですが、いい具合に両方あるキャラクターだったから映画のヒロインになるかな、と思ったんです。
――その小池さんの相手役を務めるのが大泉洋さんです。小池さんと大泉さんの2人の相性は監督からご覧になっていかがでしたか。
しょっちゅう2人で笑っていて、いい雰囲気でしたよ。映画の撮影現場で出演俳優は、控室とかで待機して呼ばれたら出てくる、というのが多いのですが、2人はずっと現場にいて、チームの一員としてスタッフともよい関係を築いてくれました。スタッフたちも「この2人のためならがんばろう」という気持ちになれたと思います。そういうことも含めて2人には感謝しています​。
映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』成島出監督
■大泉洋は「日本のジャック・レモン」
――大泉さんが田島役にキャスティングされたことで、舞台版よりもさらにコメディ色が強くなったように感じましたし、田島のキャラクターも舞台版の「色男」な感じよりも「愛らしさ」が前面に出ていたと思います。
舞台って、演劇や歌舞伎もそうですけど、やっぱり二枚目の物だな、と感じています。映画の場合は、寅さんだったりとか、喜劇俳優は決して二枚目とは限らないんです。舞台版で田島役を演じていた仲村トオルさんはかっこいいし、スタイルもいいし、スーツも似合うし、まさに二枚目で舞台版にぴったりでしたよね。映画版にあたっては、僕はジャック・レモン的な喜劇俳優で撮りたいな、と思いました。いわゆる喜劇映画というものがどんどん減っている中で、大泉くんは「日本のジャック・レモン」という感じがあって、彼がこの役をやったら面白いことになるんじゃないかなと思ってオファーをしました。
大泉くんは、緊張しないで見られると言うか、リラックスして見られると言うか、それは彼の独特なキャラクターですよね。見る人に何かを強引に押し付けてこない。そこが田島という役に合っているのではないでしょうか。
――そのほかのキャストも皆さん魅力的でした。舞台版では医者の大櫛加代役だった緒川たまきさんが別の役でご出演されていますね。原作や舞台版では美容師となっている青木保子を花屋さんに設定変更した映画版オリジナルの役で、驚きの見せ場もありました。
緒川さんとは今回初めてご一緒したのですが、KERAさんの舞台ではよく拝見していました。独特のお芝居をされる方で、それを生かすためにも他の人にはできないような役をやって欲しいと思い、薄幸の花屋さんというオリジナルの役をお願いしました。“見せ場”のシーンも映画オリジナルですが、体を張って頑張ってくれました。
『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』出演者たち
■もし太宰が最後まで書いていたらどうなっていたか?
――太宰の原作は、2人目の愛人に別れを告げに行く前で未完のままになっています。そしてKERAさんはそこからハッピーエンドの『グッドバイ』として書き上げました。実際に太宰がこの先をどう展開させようとしたのか今となってはわかりませんが、もし太宰が最後まで書いたらどうなっていたか、監督はどうお考えになりますか。
やっぱりハッピーエンドだったんじゃないかな。だって前半のあのタッチからいってそれまでの太宰と違うし、だからハッピーエンドのものを遺して心中しようとしていたんじゃないかな、それがちょっと早まっちゃったのかな、と思いますね。死を意識した中で、逆にすごく明るくて力の抜けた笑えるものを書いて「グッドバイ」、というのが太宰流の洒落というか、おしゃれというか……。「最後に「人間失格」みたいなものをもう一回書いたってナンセンスでしょ」ってルパン(※銀座にある老舗のバーで、太宰をはじめ文豪たちが多く通っていた)で飲みながら言ってそうな感じがしますけどね。
――最初のシーンにルパンが登場するなど、監督の太宰愛が伝わって来る部分が随所にありました。
太宰のことは、若い頃から大好きですから。田島の設定も、女兄弟の多い末っ子とか、どうしようもない甘ったれとか、 実家は田舎だけどちょっとお金があるとか、太宰に寄せました。人間には色々な面があると思っていて、太宰本人にも「人間失格」のようなシリアスな面もあるけれど、この作品の田島のように周囲がほっとけないような茶目っ気とユーモアと、ハラハラさせる感じがあったんだと思います。
――この映画は2月14日公開ですが、ちょうど公開前の1月~2月に生瀬勝久さんの演出で舞台版も上演されます。ぜひ多くの方に、舞台版と映画版の両方を見比べて楽しんでいただきたいですね。
まず舞台版が本当に面白くて、映画版は映画版でちょっと切り口を変えて、映画ならではの面白さが出ていると思います。特に後半はオリジナルの展開になっていて、着地する意味みたいなところは一緒なんですが、舞台版と映画版とそれぞれに楽しんでもらえると思いますね。
僕の好きなビリー・ワイルダーの有名な話で、シナリオを作るときに必ず「この映画にしゃれたエンディングは用意されているのかい?」と言うんですね。別にハッピーエンドじゃなくてもよくて、しゃれたエンディングを用意するんだ、というのがワイルダーの考え方なんです。僕もそういうのがいいな、目指したいなと思いました。だから「しゃれたエンディングはあるのかい?」と聞かれたら「はい、あります」と答えられるような作品になっていると思います。
映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』成島出監督
取材・文・撮影=久田絢子

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