獅童、勘九郎、七之助が赤坂大歌舞伎
で挑む『怪談 牡丹燈籠』製作発表記
者会見レポート

中村勘九郎、中村七之助、中村獅童が、2020年5月5日(火・祝)~5月24日(日)にかけてTBS赤坂ACTシアターで上演される「赤坂大歌舞伎」に出演する。演目は『怪談 牡丹燈籠』。今公演の作・演出は、源孝志。
「赤坂大歌舞伎」は、2008年9月、十八代目中村勘三郎の声かけにより始まった。今公演は、3年ぶり6回目の開催となる。公演に先駆けて、1月28日、都内で制作発表記者会見が行われた。会見には、勘九郎、七之助、獅童、源と、TBSテレビ常務取締役の菅井龍夫氏、松竹株式会社の安孫子正氏が出席し、赤坂大歌舞伎への思いや、新作として上演される『怪談牡丹灯籠』(以下、牡丹燈籠)の見どころを語った。
■配役 ※1月28日現在
黒川孝助:勘九郎
萩原新三郎:勘九郎
お露:七之助
伴蔵: 獅童
伴蔵女房お峰:七之助
宮野辺源次郎:獅童
お国:七之助
令和の時代の、新たな牡丹燈籠を
菅井氏は、冒頭の挨拶の中で「2008年に赤坂ACTシアターのオープニング(こけら落とし)シリーズとしてはじまりました。オリンピックイヤーのスタートを切る素晴らしい公演になるのでは」と、期待と期待を語った。
安孫子氏は、落語家・三遊亭圓朝の傑作『牡丹燈籠』が、明治に発表されるとすぐに、三代目河竹新七(幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎狂言の作者)によって、歌舞伎化された歴史を振り返る。
「それ以来昭和になるまで、歌舞伎で『牡丹燈籠』と言えば、新七さんの書かれたものでした。戦後になり、大西信行先生が、杉村春子さんのいた文学座のために『牡丹燈籠』を書かれました。これが大変な傑作。今では『牡丹燈籠』と言えば、大西先生のお名前が、まずあがってきます。同じ原作でも、時代時代により作り方は違います。令和の時代を迎え、源先生の視点で、新しい『牡丹燈籠』を上演できるのは素晴らしいことです。この公演が成果をなし、今後『牡丹灯籠』といえばこの作品、となれば」と語った。
「新たな挑戦と、歌舞伎のカッコ良さを」源孝志
演出の源は、歌舞伎の作・演出はこれが初めてとなる。しかしNHKプレミアムドラマ『令和元年版 怪談牡丹燈籠』(全4話)では七之助と、NHKスペシャルプレミアムドラマ『スローな武士にしてくれ』では、獅童と作品づくりをしてきた。
「3年前に、蓬莱竜太くんの赤坂大歌舞伎『夢幻恋双紙~赤目の転生~』を観た時、ここまで新しいことができ、それを違和感もなくやっている。新しいトライができるものなのだと、良い印象を受けました。今回、ある意味挑戦的な演出をとも思いますが、同時に、伝統的な歌舞伎の格好良さや、世話物の細かい感情表現もちゃんと含まれている『牡丹灯籠』にしようと思いました。歌舞伎ファンの方にも、若い演劇ファンの方にもたくさんみていただけたら」
源孝志
「気心知れた仲間との芝居作り」中村獅童
7年ぶりの赤坂大歌舞伎出演となる、中村獅童。
「歌舞伎の『牡丹燈籠』には、まだ出演したことがないので、はじめての『牡丹燈籠』で楽しみです。皆で意見をぶつけながら、楽しい作品になるのではと思っています」「気心知れた仲間と芝居をつくれることに、今から、夢が膨らみます。源監督とは『スローな武士にしてくれ』で共演しました。『牡丹燈籠』は、歌舞伎ファンの中でも人気の演目ですが。今の時代の新たな牡丹燈籠になるのではと思っております」
中村獅童
演じるのは、宮野辺源次郎と伴蔵の2役。2人の個性の違いについては、「ただの放蕩野郎と、ただの小悪党」と回答し会場の笑いを誘う。
「新しいものを作る時は、稽古の流れにより、キャラクターが変わることもあります。あまり決めつけず、台本をもらったら読んで、自分なりに工夫して、作っていきたいと思います」「歌舞伎には、酷い人やどうしようもない人がたくさん出てきます。それでもお客様が『これはしょうがない』と思ったり、殺人鬼であっても『かわいそう』と思えたりする。歌舞伎がもつ、不思議な魅力だと思います」。
「愛憎劇の中に美しさ」勘九郎
中村勘九郎は、3年ぶりに赤坂での歌舞伎に、「嬉しく思います」と笑顔をみせる。
「父が亡くなってしまった時、翌年の赤坂大歌舞伎はすでに、決まっていました。でも『もう赤坂大歌舞伎はできない』と思っていたんです。その年に、獅童さん、七之助と3人でやらせていただきました。その後が続くか心配でしたが、3年前に蓬莱さんを招き新作をつくりました。赤坂大歌舞伎は、色々な方向に行けると確信した公演でした。そして今回は、源さんが加わってくださいます。ドロドロした愛憎劇の中に、美しさがある舞台になると思いますので、ご期待ください」
中村勘九郎
勘九郎は、黒川孝助と萩原新三郎の2役を勤める。
「萩原新三郎は、映像で七之助がやっていた役です。仕事もせず、親の遺産で暮らす浪人です。今でいうニートですね。お露という、絶世の美女と出会ってしまったばっかりに、運命の歯車が狂っていきます。お露が惹かれるだけの魅力を、出していきたいです。映像では、七之助が演じていた役なので、彼の新三郎を参考に演じたいです(会場、笑)」
もう1役の「孝助」は、大西信行の『牡丹燈籠』には登場しないが、勘九郎は立川志の輔の落語会をきっかけに、存在を知ったという。
「『牡丹燈籠』は怪談だけでなく、男女の因果因縁、敵討ち、親との関係や子弟の関係師弟の関係も。その辺りがどう膨らんでいくか。お客様に楽しんでいただける役にしていきたいです」
「三者三様、演じがいある」七之助
昨年5月、ドラマ版で新三郎を演じた七之助。
「映像のお仕事の撮影で、源監督とご一緒させていただきました。ドラマの台本を読ませていただいた時、今まで知っていた歌舞伎の『牡丹燈籠』より、深いところまで描いた素晴らしい作品だと感じました。世間話程度に『これを歌舞伎にしたら面白いですよ、いつかしましょうよ』なんて、お話をしたところ、わずか1年で新作の歌舞伎として上演されることになり、びっくりしています。このスピーディーさを力とし、勢いのある作品を皆で作り上げていきたいです」
中村七之助
七之助は、お露、伴蔵の女房お峰、お国の3役を勤める。
「お国と源次郎は、大西先生版ではただの臆病者として描かれていました。お国の寂しさや、悪女は悪女でも、生きるための一生懸命さが見られたり、源次郎と出会ってしまったばっかりに単純ではなくなる。そういった心の揺れが見どころだと思います。お露は、父親に対する反発、お国への嫌悪を抱く、潔癖な女性ですね。新三郎と出会い、人生をそこに賭け、焦がれ死にをして幽霊になってまで会いに行く力があります。そしてお峰は、お国、お露とは別の次元で、生きることに一生懸命で勢いのある、ちょっとファニーで可愛らしい女性。三者三様、すべて違うので演じがいがあります。早替りになると思いますので、ビジュアル的にも楽しんでもらえるのではないでしょうか」
また早替りについては、歌舞伎版で、お峰とお露(幽霊)の早替りをしたことを振り返った。
「お露がきて、お峰は怖がって押し入れの中に隠れ、お露になり百両を落として……。死に物狂いでした。プロジェクションマッピングのようなデジタル技術がこれだけある時代に、歌舞伎の早替りは、ただ走って、早く着替えて、出る。手品ではなく肉体労働です(会場、笑)。でもそこにお客様も感動してくださるのだと思います。今回の作品も、肉体をバリバリつかって一生懸命やりたいです」
(左から)中村七之助、中村勘九郎、中村獅童
怖いものなしの三人で挑む、新しい牡丹燈籠
ーーどのような作品にしていきたいですか?
源:歌舞伎として皆さんが観たいと思われているところは、そのまま残し、エッジを立てるイメージです。掘り下げていくよりも、そういうものを見せられて、ギクッとするような筋立てや台詞を書いていきたいです。
ーー七之助さんは、役者として、そして一人の男性として、「お露」という女性をどう思われますか?
七之助:役者としてみると、お露は、歌舞伎の女形に多く見られる、典型的な女方思考なので共感できます。長年、歌舞伎の世界で修行を積んでおりますので、お露のように突拍子もなく好きになってしまうんだな、という娘役としては典型的な心持ちだと思います。
(一個人として)本音でいえば、なかなか怖いですよね。焦がれ死にをするって……(会場、笑)。僕の中では、心不全か何かですかね。それくらいまで人を好きになってしまう。面白いのは、幽霊になってまで会いにいった新三郎は、それにより死に追いやられてしまう。
ただ、ドラマの時の脚本で僕が一番好きだったのは、新三郎自らがお露に「殺してください」とお願いするところなんです。歌舞伎版の新三郎の最後は、もっとアホなのでみっともない(笑)。源監督の新三郎は、「あなたがいなければ、私もこの世の中にいる意味がない」と決断し、自らお札をはがして死んでしまいます。怖いなと思いますが、あの二人は、他からどういわれようと幸せだったと思います。それは、最後は辛い思いもしますが、お国と源次郎にも言えることではないかと思います。
中村七之助
ーー源さんは、本作でどのような「挑戦」をお考えですか?
源:今の話を聞いていて、どういう焦がれ死に方をさせようか、と。誰もみたことはありませんから。中村七之助さんの焦がれ死に方をね、楽しみにしていただければ(笑)。
小倉で見た平成中村座の演目『お祭り』で、登場したところで「待ってました!」と声がかかり、それに対し「待っていたとはありがてえ」など、客席とのやり取りも面白いとおもいました。
源孝志
ーー皆さんにとって赤坂歌舞伎は、どのような劇場ですか?
獅童:若いお客様にも観やすく、分かりやすい演目が多いですね。若い世代の方に、歌舞伎に馴染んでいただき、20年後、30年後も、ともに年をとっていただけるよう、今の世代の方に観てほしいという思いがありますので、今回もそれに向けて良い作品だと思います。歌舞伎好きの往年のファンの方にも楽しんでいただけるかと。皆様の胸に届くような熱い熱いお芝居をしたいと思っています。
中村獅童
七之助:舞台を裏で支える方々の熱い思いが、半端ないです。僕らの感じる「面白いな」を、ビビッドに感じて、スピーディーに形にしてくれる。裏の方がこんなに一生懸命やってくれるなら、僕らもやってやろうと。それが赤坂歌舞伎の、一番の強みではないかと思います。
勘九郎:初めてACTシアターに出させていただいた時に、不思議と歌舞伎にあった空間だなと感じました。そして、父がやるはずだった赤坂大歌舞伎を、この3人で勤めさせていただくことになった時、何をしようかと。そこで遺してくれた『怪談乳房榎』を行いました。これがきっかけとなり、ニューヨーク公演や凱旋公演が決まりました。(父・勘三郎がいなくなった後に)コクーン歌舞伎も平成中村座もやりましたが、一番喜んでくれてるのが赤坂歌舞伎の『怪談乳房榎』なんじゃないのかな、と漠然とですが、思いました。この3人ならば怖いものなしですから、楽しい作品ができるのではないでしょうか。赤坂大歌舞伎の新たな思い出を作りたいと思います。
会見の最後には、赤坂の芸妓さん方から花束が贈られた。今公演は歌舞伎としては、ややイレギュラーな開演時間(11:00、13:00、15:30、17:30)となる。前後に赤坂の町を楽しむことも視野に入れ、芝居見物を満喫してはいかがだろうか。獅童、勘九郎、七之助が新たに創る『怪談 牡丹燈籠』は、5月5日から24日まで、TBS赤坂ACTシアターでの上演。
赤坂の芸妓さんとともに

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