おぼんろ『メル・リルルの花火』末原
拓馬インタビュー~ホリプロインター
ナショナルと初タッグへ

末原拓馬が主宰を務める、劇団おぼんろ。劇場に1歩入ると、ひとたび絵本に迷い込んだような心持ちになる圧倒的な世界観は、末原が丁寧に紡ぐ物語とそれらを体現する劇団員によって作られている。大人のための寓話を描き出す演出は、劇場を選ばない。結成から14年、廃工場や屋形船、特設テントなどあらゆる場所で公演を打ち、4000人近くを動員する劇団へと変化を遂げた。来る4月17日(金)より新宿FACEで上演される新作『メル・リルルの花火』は、世界に通用するスぺシャリストの創出を目指す、ホリプロインターナショナルとの初タッグ公演となる。新たな出会いを味方につけて、また一つ物語を紡ぐ末原に、おぼんろのこれまでの軌跡や本公演についての話を聞いた。
◼︎日々からふと顔を出す、物語の芽。今一番感じていることを言葉で紡ぐ
——今(取材当時)まさに絶賛執筆中ということですが、今作『メル・リルルの花火』はどういったところから着想を得ているのでしょうか?
基本的には、その時に1番強く思っていることを童話のような形で表現するのがおぼんろのスタイルなんです。今回の物語のモチーフは、この1年くらいずっと感じている、人間や今の世界に対する想い。そういうものを少しずつ物語に込めているところです。端的に言うと、人の持つ攻撃性や、その攻撃が生んでしまうものは何なのだろうということ。敵対する種族と種族のお話なんですけど、その中でどういう形にしていくかを模索しているところです。
——なるほど。「平和」というのも1つのキーワードになりそうでしょうか?
そうですね。「どうやったら人って幸せに生きていけるのかな」ということは、僕自身がずっと考えていることなので。その文脈の中で“今思うこと”を込めるという感じ。人間ってすごく攻撃的なもので、悪いことをした人がいます、となったら、たちまち方々から石が投げられるじゃないですか。今の時代は、そこかしこでそういうことが起こっている状態というか……。
——SNSの普及で人と人におけるコミュニケーションツールも増え、より目に付きやすい形になってもいますよね。
そう。いじめっ子だった人がいじめられっ子になる瞬間っていうのは、昔から何度か学校でも見てきたけれど、今も同じようなことを目撃しているんですよね。力を持っていた人の状況が転覆したときに、一気に批判が集中するみたいなこともあるじゃないですか。でも、僕が生きている上で思うのは、何が正義であろうとも、「人に石を投げる」ってとても怖い行為だよねっていうこと。そういうことがすごく嫌で悲しいと思っているんです。
——確かにそうですよね。
政治的なことをやりたいわけではないんだけど、色んなものを自分でジャッジして生きていかなきゃいけない今という時代だからこそ、そういう問題とも向き合わなきゃと思っていて……。何が正義かって本当のところはわからない。そんな中で、人は自分の思う正義のためなら、他者に対してすごく残酷になりえてしまう現実があって。もちろん自分も含めて、そういう癖が僕たち人間にはあるのかなって考えさせられるんです。「もしかして今、俺もそういう癖で物を考えていたかも」とか自分の思考に立ち返ったり。そういう時に、物語がふっと顔を出すというか。
——おぼんろのファンタジックでありながらどこかリアルな瞬間を孕んでいる物語は、末原さんが日常的に感じていることが芽になって生まれているんですね。
そうですね。もっと細かく言うと、友達と今うまくいってないなとか。会えなくなって悲しいなとか。そういうことから、物語って生まれたりするんですよね。ファンタジー=創造の世界って勘違いされがちだけど、誰にでも起きていることが芽になっていたりする。逆に言うと、人の心が描かれていないものには興味が持てないんですよね。
幕間の物語『かげつみのツミ』より 撮影/MASA
◼︎ホリプロインターナショナルとの初タッグ。変わらないスタイルで世界へ
——今回は、おぼんろ結成14年目に送る第18回公演であり、ホリプロインターナショナルとの初タッグの作品となりますね。タッグを組むに至った経緯や、最初に話を聞いた時の心境はいかがでしたか?
不思議な言い方ですが、何より「気が合った」という感覚でしたね(笑)。「世界に向けて一緒に冒険をしてみよう」というお話自体がとても魅力的だったし、自分が描いていたことにもリンクしていました。何より、新しい出会いって素直に嬉しい。それだけで見たことのない絵になるじゃないですか。相手がどんなものを持っているから仲間だというよりも、相手がその人だから仲間になった。ホリプロさんとの出会いは、そういう感覚でした。「今のままのおぼんろさんがいいんです。それを広めたい」といったような言葉を最初の打ち合わせでかけてくださったことも心強かったです。
——末原さんは、路上での独り芝居で徐々に注目を集めながら、劇団おぼんろ主宰として10年以上物語を紡いでこられました。おぼんろのこれまでのキャリアを踏まえつつ今公演で大切にしたいことや、これを機に新たに挑戦してみたいことはありますか?
そうですね。路上で独り芝居をしていた時は拾ったゴミが美術になり、何にも持ってないなら、じゃあ言葉と動きだけで人を信じさせなきゃって。そこから始めて、結局それらが自分の持ち味になったと思っていて。だから、今回も「これがあるから使わせてもらおう」ということは起きてくるとは思うけど、最初の打ち合わせでお話したように基本的にはいつもと変わらない気持ちでやっていきたいと思います。
——なるほど。
ただ、「世界に発信していく」っていうことに関しては、ホリプロインターナショナルさんとだからできること。ちっちゃい声で喋るよりも大きな声で喋った方がたくさんの人に伝わるし、いいマイクがあるならそれを借りた方がもっと伝わる。そういうことなのかなって思っています。
◼︎路上で独り芝居をやっていた時に見えたもの。その景色が見える場所に居続けたい
——おぼんろ恒例のイイネ公演(観客が観劇後にチケットの値段を決める公演)も行うんですよね。いち観客として、すごく素敵な試みだと思っています。なんというか、観客を信じていらっしゃるんだなと感じるというか……。
「信じる」って言葉を言っていただいたんですけど、こちらとしても「ちゃんと払ってくれるんだ!」という喜びを毎回もらっているんですよね。誠実に伝えたら、対価と思ったものを出してくれる。そういうことは素直に嬉しいです。食べたことのないものの値段をこちらが決めているのが不思議という気持ちはずっと持っているし、イイネ公演は、路上でやっていたことから端を発している自分のやり方の1つなので。
—— 投げ銭スタイルの路上1人芝居ですね。
そうです。路上での経験は、今でも自分が成長した大きなきっかけだったと思っていて……。「全然伝えられてない」って思った時は本当に1円玉ばっかりだったんです。でも、だんだん10円玉、100円玉になって、ついにはお札が入るようになった。そういうことを繰り返しているうちに、「あ、あの瞬間だ!」と観客に伝わった瞬間がわかるようになって。「今、この瞬間にぐっと近づいた」というあの感覚。
——演者と観客だけが共有できる瞬間。演劇の醍醐味が詰まったエピソードです。
お金のない子どもたちも暇をつぶすように見てくれてたんですけど、終わる頃にはめちゃくちゃ興奮してくれて……。「よかったよお〜!」「お兄さん、何者なの!」ってお財布を出すんだけど、もちろん全然お金を持ってはないんですよね。そしたら、後ろにいたおばあさんが、「この子たちの分」ってお金を出してくれたりして……。
——子どもたちの素直で愛おしい反応も、おばあさんの行動もとても素敵ですね。
すごくいい体験でした。今の自分が持っている1000円と、18歳の頃の自分が持っていた1000円って等価じゃないし、1億円の中の1000円と、月々3000円の中の1000円もやっぱり違う。お金はもちろん公演を打ち続けるために必要なものだけど、本当に必要なのは、あの子どもたちやおばあさんと共有したこういう気持ちだって思っているし、そういうものが見える場所に居続けたいと思って、イイネ公演は毎回やっているんです。
—— 劇場に足を運んでお芝居を見るって、今の時代に残された数少ない能動的な行動だと思うんですけど、そこに値段をつけるというのはさらなる能動的な行為ですよね。
値段の設定で舞台の敷居が高くなるのは嫌だから、本当は全公演イイネでいいよって思ってるくらい。でも、さすがに予算が組めなさすぎるし、それじゃ本末転倒になりかねないっていうことで思いとどまってますね(笑)。一緒にやっている劇団員やスタッフもいるから。でも、いつかやってみたいです。全ステージ、イイネ公演。
◼︎新しい出会いへの高まり、劇団員への愛と感謝。1回きりの座組に運命を感じて
——今回のキャスティングについてもお聞かせください。座組全体のイメージはどんな風に決まったのでしょうか?
基本的にはフィーリングで決めました。「第一印象で決まる」ってよく言うんですけど、多分それは本当にあって、おおよそ心が決まる部分があるんですよね。すごいなあとか、怖いから一緒にやってみたいなあとか、好きだなあとか、いろんな形の直感があって。それをわりと信じています。
——おぼんろの確立された世界観を体現される劇団員の方の力も大きいのではないでしょうか。
それは本当に大きいですね。みんながいなかったら何にもできないし、何ならみんなのためにだからお話が考えられる。これまでも劇団員へのラブレターみたいな気持ちで役や物語が生まれたりしているし、みんなでいる幸せや強みが自分のモチベーションになっています。僕、嫌いな人を嫌いでいてしまうことよりも、好きな人をどうしても好きでいてしまうことへの方が業が深いというか……。だからこの人とやりたいと思ったら、ずっとその人とやるみたいなところが気質としてあるんですよね。もちろん劇団員ならではの面倒臭さもありますが(笑)。
——劇団員以外の方々の印象はいかがでしたか?
技術やテクニックといった水準はもちろん、田所あずさちゃんも黒沢ともよちゃんもすごく気持ちがいい人なんですよね。客演って言い方があんまり好きじゃないので、「今回はこの家族だよ」っていう気持ちでいたいです。まだそんなに深い仲ではないんだけど、これから築きあった上で、いいところもよくないところも見てみたいし、知りたいです。なんというか、会った瞬間に「いいな」って感じた人とはやっぱりうまくいくんです。なんでかな、僕の家が巫女さんの家系らしいんですけど、関係あるのかな(笑)。
—— そうなのですね! もしかしたら代々見えるものが……(笑)。
でも、物語を一緒にやるってものすごく繊細で難しくて、スピリチュアルなことですよね。だから、魂レベルで一緒に居られる人がいいというか。そうでないと嘘で話さなきゃいけなくなるし、自分は口が達者だから、すぐ嘘をつき始めてしまう。それがわかっているからこそ、そういう人たちとやりたいんです。いずれにしても、この冒険がしたい仲間じゃないと同じ港から旅に出ることはできないから。
——荒波に流される局面も、たどり着きたかった島がなかなか見えないこともありますもんね。
「そんなもの関係なくできるのがプロだろ」って言われるし、「あの人がどんな人かは知らなかったけど一緒に作り上げました」っていう素晴らしいお芝居もたくさんあると思います。でも、そういう技術は当たり前に培ってきてると思うし、逆に言えば、そこから先を使わずにやれるアート作品なんてアート風だと思うんです。誰のために、どんな人と、どうやって、何を使って作るのかということが分からないものは自分の家では出したくないと思っています。
——おぼんろのこれまでとこれからを乗せた新作『メル・リルルの花火』。これから本格的な稽古も始まっていきますね。
「遺作でいい」と思って作っています。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、そういう瞬間をいつも自分は探していて……。『メル・リルルの花火』という物語を書けたから、末原は生まれてきたんだねって言われればいいなって。そういうところまで、自分や周りに嘘をつかずにやりたい。ちょっと長めの公演と言っても、やっぱり短い。命がけで作ったものとしては、せいぜい何千人しか観られないってことに関しては、実は不服で……(笑)。だから、あくまで初演って思いたいですね。
—— 1度きりではなく、語り継がれる作品へということですね。楽しみにしています!
演劇は、映像と違ってその場にいた全員で共有できるものであり、お客さんが勝手に口ずさんでいいものだと思っています。お客さんによって尾ひれ背びれを付けていただくものだから。それを経て、繰り返しまた自分たちもやっていくだろうし、自分たちの手も離れていくだろうし。だから、自分のいいように持って帰ってもらって、辛い時には取り出してほしい。今だけじゃなくて、大事に大事にみなさんの中に残っていく作品になればと願って作りたいと思います。
【末原拓馬 profile】
1985年7月8日生まれ。劇団おぼんろ主宰、俳優、脚本家、演出家。演劇にとどまらず、絵本作家、イラストレーター、詩人、作曲家、作詞家としても活躍。路上での独り芝居から徐々に注目を浴び始め、CATプロデュース『HAMLET-ハムレット-』、NODA-MAP『ザ・キャラクター』、T Factory『愛情の内乱』など多くの舞台に出演。主宰劇団おぼんろの公演や自身の単独公演を基盤に活動。その他外部公演での脚本の提供や演出も行う。2020年2月には浪漫活劇譚「艷漢」への出演も控えている。
【おぼんろ profile】
2006年、早稲田大学在学中、末原拓馬を中心に結成。大人のための寓話を紡ぎ出すことを特徴とし、 その普遍性の高い物語と独特な舞台演出技法によって注目を集める。末原拓馬の路上独り芝居に端を発し、現在は4000人近くの動員力を持つ劇団へ。廃工場や屋形船、特設テントなどあらゆる形で劇場を追求するとともに、どんな場所でも360度を取り囲む立体的な上演スタイルで、絵本の中に迷い込んだような独特な世界観を確立させている。
写真/近郷美穂  取材・文/丘田ミイ子  ヘアメイク/Tomoko

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