島田歌穂×下條アトム×古川健インタ
ビュー~1972年の沖縄を描いた舞台、
トム・プロジェクト プロデュース『
沖縄世 うちなーゆ』

1972年の日本復帰直前の沖縄で復帰運動のリーダーとして活動する男とその家族や仲間を中心に、悲しい沖縄の歴史やそれでも力強く生きる人々の姿を描いた、トム・プロジェクト プロデュース『沖縄世 うちなーゆ』が、2020年1月25日(土)~2月2日(日)に池袋・東京芸術劇場シアターウエストにて上演される。
沖縄の平和のために戦った伝説の男と言われる瀬長亀次郎と、沖縄の独立を夢見て起業家としてその手腕を振るった照屋敏子という2人をモデルに、劇団チョコレートケーキの古川健が全く新しいフィクションとして描いた今作は、本土復帰を目指す運動家・島袋亀太郎を下條アトム、亀太郎の妻で沖縄の経済的自立を目指す実業家の俊子を島田歌穂が演じる。
この公演に向けての思いを、島田、下條、古川の3人に聞いた。
トム・プロジェクト『沖縄世 うちなーゆ』写真左から島田歌穂、古川健、下條アトム
沖縄においてこの50年近く、問題の本質は何も変わっていない
――まず古川さんにおうかがいしたいのですが、今回沖縄を舞台にした作品を書くことになった経緯を教えてください。
古川 僕はこれまでも何作かトム・プロジェクトのプロデュース公演で脚本を書いているのですが、毎回プロデューサーの岡田潔さんから「こういう話はどうか」と本が送られて来るんです。とはいえ、その本の通りにしてくれ、というオファーではなく、あくまでこれを一つの取っ掛かりとして書いて欲しい、ということなんですが。今回に関しては、佐古忠彦さんが書いた『「米軍が恐れた不屈の男」瀬長亀次郎の生涯』という本でした。沖縄についてはいつか書いてみたいと思っていたので、これはぜひやりたい、とすぐに決まりました。
――1972年の沖縄を舞台にした作品ということで、やはり当時の沖縄における社会的な問題が描かれているのですが、50年近く前の話のはずなのに現在の沖縄と重なる部分も多く感じ、決して昔話ではないな、と思いました。
古川 この作品を書くにあたって戦後沖縄史を改めて調べたのですが、結局この50年近く問題の本質は何も変わってないな、ということを感じました。この時代の問題を書くことがそのまま現在の問題に繋がるんだろうな、とは思っていて、だからことさらに現代化しようと意識したわけではないです。
――そうした問題が描かれる中、夫婦や親子の絆であったり、人情的な部分がしみじみ心に沁みるストーリー展開になっています。
古川 演劇の場合、やはり生身の人間の生きた感情が舞台上にないと絶対にお客さんの心には届かないと思うので、言いたいことを言うために人物を機能させるのではなくて、その時代を背負って、自分なりに物事を感じたり考えたりして生きていこうとする人間が舞台の上にいて欲しいという思いで書きました。
トム・プロジェクト『沖縄世 うちなーゆ』作者の古川健
現実だったらありえないことが出来るのがお芝居のすごいところ
――古川さんはこれまでも何度か稽古場に足を運ばれているそうですが、お稽古をご覧になってみていかがですか。
古川 僕は「このセリフはこう言う」というようなイメージをあまり持たずに書いているので、稽古場で皆さんがセリフを声に出しているところを見るとすごく新鮮です。
――下條さんと島田さんについてはいかがですか。
古川 自分の劇団でやっていると、どうしても同世代の人間と一緒にやることが多くなりますが、やはり芸歴の長いベテランの方って、まとっている空気感がそもそも違うので、そういう方々に自分のセリフを言っていただくというのは非常に幸せなことだと思っています。
――下條さんと島田さんは、沖縄を舞台にした今作について、まずどのような思いを抱きましたか。
島田 このお話しをいただいたとき、下條さんご出演で、古川さんの脚本、小笠原響さんの演出、ということを聞いただけですぐに「やります!」とお答えしました。その後、私の役は照屋敏子さんという方をモデルにしているとお聞きして、照屋さんに関する文献を読んだんですね。でも読めば読むほど「こんな人を自分ができるだろうか」って思ってしまって。しかも古川さんの脚本をいただいて読んだら、下條さんの役と私の役が夫婦として描かれているのにびっくりしました
下條 現実だったらありえないですからね。モデルとなった瀬長さんと照屋さんは全然ご夫婦でも何でもないわけですから。
島田 しかも2人とも目指しているのは平和な沖縄なんですが、片や祖国復帰、片や沖縄独立、と考え方が相反する夫婦なんです。でも、こういう、現実だったらありえないことが出来るのがお芝居のすごいところだな、と思いました。だから古川さんの脚本ならではの夫婦として生き生きと、深いところで繋がっている2人をどこまで表現できるのか、役者冥利に尽きる挑戦ですね。
トム・プロジェクト『沖縄世 うちなーゆ』島田歌穂
下條 僕はまず最初にどうしても自分の役を中心にして読んじゃうんですけど、この脚本の第一稿を読んだときに、ラストで感動してボロボロ泣いちゃったんですよ。二度目、三度目と読んだらセリフの量で泣きましたけど(笑)。政治家で沖縄のスターだったという素晴らしい人なんて、これはとても僕にはできません。ただ、人にものを伝える、気持ちや魂を伝えるという意味では、役者とも共通点があるんじゃないかと思ったんですね。そこに接点を見出して演じられるんじゃないかと。沖縄のことは、とても複雑で一言では言えないけれど、いろいろな出来事が起こる中でもたくましく生きている、ということを演じられればいいかな、と思います。脚本は文字で書かれていますから、そこにどうやって僕らが人間として息づかせるか、どう膨らませていくか、という作業を稽古場でしているところです。
舞台はライブ、人間の思いがダイレクトに伝わる
――下條さんからご覧になって、島田さんはどんな方ですか。
下條 歌穂さんは、本当にパーフェクトでスペシャルな方なんです。
島田 やめてください、ほめ殺しですよ(笑)。
下條 いやいや、本当に素敵な方なので僕は全然心配していないんです。心配していないというか、僕はもう人の心配どころじゃないです。自分のセリフで精いっぱいになっちゃってて。
島田 セリフの分量、すごいですからね。気が付いたら演説してる、ってくらい。
下條 舞台って何十年やっても、初日は舞台の袖で「もう帰りたいよ」って思うくらい追い込まれるんですよね。
島田 「なんでこんなことしてるんだろうな」とか思いますよね。
下條 役者はみんなそうですよ、舞台はライブですから。でも、そういうプレッシャーとかいろんなものも含めて、何か人間の思いがダイレクトに伝わるものがあるから、舞台ならではの素敵なものがあるな、と思いますね。
――では今度は、島田さんからご覧になった下條さんがどんな方か教えてください。
島田 2005年に『江利チエミ物語』というミュージカルでチエミさん役をやらせていただいたときに、下條さんがお父さん役だったんです。それが初共演で、再演・再々演までご一緒させていただきました。こんな大先輩でいらっしゃるのに、いつも穏やかに稽古場や現場を俯瞰して見てくださり、空気を和ませてみんなを包んでくださって、それが私にとってすごく安心感に繋がっていました。今回は親子ではなくて夫婦としてご一緒させていただくので、しっかり妻として見えるように頑張らなければと思っています。
下條 ほめ殺ししないでください(笑)。『江利チエミ物語』のときは、彼女の歌があまりに素敵で舞台上で何度も泣きました。
島田 ほらまたほめ殺し(笑)。
下條 いやいや本当に。一緒に出てて、泣いちゃうんだから。歌だけじゃなくて、役者としての才能をものすごく持っていて、だから今回出演していただけるのが本当にうれしいです。
トム・プロジェクト『沖縄世 うちなーゆ』下條アトム
沖縄のことを“他人事”じゃなくて“自分事”に
――では最後に、お一人ずつ公演に向けてのメッセージをお願いします。
古川 知っているようで知らない戦後史の沖縄だと思うので、あくまでこの作品はお芝居で作り物ですけど、かつてあったであろう沖縄の空気というものを劇場に感じに来ていただきたいと思います。
島田 これまで何度も沖縄には行っていて、私なりに沖縄のことを知ろうとしてきたつもりでしたが、まだまだ知らないことがこんなにたくさんあったということを、今回改めて突きつけられました。沖縄では、嬉しいときも悲しいときもみんなで歌い踊るという特別な文化がありますが、「こういうことがあったから、どんなときも歌い踊りみんなで励ましあってきたんだな」ということを改めて感じました。この作品を通じて、皆様に、もっと沖縄のことを知りたいな、と思っていただけるよう、大切に演じたいと思います。
下條 この作品に挑むにあたり、様々に沖縄に関することを吸収してきましたが、やっぱり沖縄の問題は本土の僕らにしてみれば“他人事”だったんじゃないか、と感じました。だからもっともっと“自分事”にしなきゃいけないんだな、と、役者以前に下條という一人の人間として思いました。見てくださる方にも “他人事”じゃなくて“自分事”に少しでも感じていただけたらうれしいな、と思います。
とにかく芝居って、正解がないですから、終わりがないんですよね。でも、お客様の拍手が救いになるところはあります。拍手のにおいというか雰囲気で僕ら「ああ、やっててよかったな」と思うんです。少しでも皆さんの心が動いてくれるような舞台にできればいいなと思っています。
トム・プロジェクト『沖縄世 うちなーゆ』写真左から島田歌穂、古川健、下條アトム
取材・文・撮影=久田絢子

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