詩森ろばインタビュー~アイヌをめぐ
る2つの事件を軸に描く人間ドラマ、
流山児★事務所『コタン虐殺』

流山児★事務所が創立35周年記念公演の第三弾として、詩森ろばの新作書き下ろし『コタン虐殺』を2020年2月1日(土)~9日(日)にザ・スズナリで上演する。
詩森は2016年に戦後の沖縄を舞台に、領土返還を巡るアメリカとの密約や沖縄ヤクザ抗争の実相をエンターテインメントとして描いた『OKINAWA1972』以来2度目の流山児★事務所への登場となる。自身の劇団「serial number」では昨年10月にコンドーム開発に取り組む人々を描いた作品『コンドーム0.01』を上演、また第43回日本アカデミー賞で6部門を受賞した昨年公開の映画『新聞記者』に脚本家として参加するなど、社会派劇作家として近年ますます高い評価を受けている詩森が今回描くのは、アイヌにまつわる物語だ。1974年に起きた白老町長襲撃事件、そして1669年に起きたシャクシャインの戦いという、アイヌをめぐる2つの出来事を主軸に描いた今作について詩森に話を聞いた。
流山児★事務所『コタン虐殺』
■アイヌについてはいつか書かなくちゃいけない、という思いがあった
――『OKINAWA1972』は沖縄を舞台にした作品でしたが、今回はアイヌの人々を描いた作品です。なぜアイヌを題材にしようと思われたのでしょうか。
私は東北の出身で、アイヌの歴史や文化に対する継続的な興味というか思い入れはずっと持っていました。でもお芝居にしたいかというと、そうかんたんにはやれないな、と考えていたように思います。『OKINAWA1972』をやっているときに、流山児★事務所の劇団員の方に「次はアイヌをやりたいよね」って言われたんです。それを聞いて「ああ、いつかはアイヌについて書きたいと思っていたな」って決意が固まるかんじがあったんです。それで今回のお話しをいただいたとき、最初は沖縄の芝居の第二弾という話だったのですが、どうしても今書きたいものがある、ということでアイヌのことを書かせていただくことにしました。
――この作品を書くにあたって現地取材に行かれたそうですが、特に印象に残っていることはありますか。
お会いしたアイヌの人たちは、私が想像していた以上に穏やかで優しいという印象でした。もちろん、アイヌの人と言ってもそれぞれ個別性があると思いますから、全員がそうだ、ということではないのですが、取材に行ったはずのわたしのほうがむしろお話しをいろいろ聞いてもらってしまったりして、その佇まいからたくさんのものをいただきました。アイヌの言葉で「チャレンケ」という「談合」とか「話し合い」といった意味の言葉があって、争いごとが起こったら話し合って落としどころを決める文化が元々あるんですね。 文字を持たない民族なのでなおさら言葉でコミュニケーションを取ることが重要で、「聞く」ということが非常に習慣というか伝統としてあるんだな、と感銘を受けました。
流山児★事務所『コタン虐殺』稽古場写真 ((c)横田敦史)
■差別の歴史と共に、アイヌ文化の豊かさや可能性も同時に描きたい
――脚本を拝読しました。1974年に起きた白老町長襲撃事件と1669年に起きたシャクシャインの戦いという、2つの出来事が同時進行で描かれていますが、なぜこの2つを取り上げたのでしょうか。
白老町長襲撃事件を描くことは最初から決めていて、組み合わせるものを最初は義経伝説にしようかと思っていたんです。つまりアイヌの地に倭人が入ってきたことで共同体が変わったり、影響されてしまうといった状況を書きたいな、と思っていたのですが、いろいろ調べていく中で、シャクシャインの戦いがいいんじゃないか、と思うようになりました。シャクシャインの戦いが起こるきっかけから結末までの流れが、今世界中で起こっている民族間の問題と重なるし、構造的にすごく現代性が強いんです。
――アイヌがこれまで受けてきた差別や偏見などの話も出て来ますが、そのあたりのことがあまり一般的には認知されていないのではないか、という気もします。詩森さんはどのように感じていらっしゃいますか。
アイヌの人たちがすごく差別されてきたということは子どもの頃から知っていました。私の出身地である東北も差別を受けてきた歴史がありますから、他人事ではないという思いもありましたし。とはいえ、一般的には知られていないんだな、という認識はもちろんありますね。「ゴールデンカムイ」という大ヒットしたマンガがありますが、アイヌのことを「悲惨な歴史を持つ、差別されてきた人」ということではなくて、非常によく調べた上でアイヌ文化はかっこいいという文脈で取り上げているマンガなので、アイヌの人たちもすごく喜んでいますし、私も素晴らしいなと思いながら読んでいます。ただ、差別の歴史があったということはあまり書かれていないので、もしかしたらそれを知らないままの人もいるのかもしれないとは思いました。現代ではなくなってしまった差別ならわざわざ書くこともないと思いますが、それが継続されていることが、昨今の政治家の発言からも明らかです。なので、今作では差別の歴史も書きつつ、アイヌ文化の豊かさとかこれからの可能性とかも同時に描けたらいいなと思っています。
流山児★事務所『コタン虐殺』稽古場写真 ((c)横田敦史)
■面白いと思ったことを丁寧に書けば社会性も出てくる
――そうした社会的な問題が織り込まれながら、非常に人間ドラマとして面白い作品になっていますよね。
シャクシャインの戦い自体が、その物語を追うだけで、人間味であるとか、アイヌの哲学であるとか、そうしたものが浮かび上がり、それだけでも一本の芝居として成立するくらいものすごく面白いんですよ。わたしは社会的なテーマを書きたいが故に演劇をやっているわけではありません。かといって社会的テーマがない作品には興味が持てないので、 私が興味を持ったことを丁寧に書けば社会性も出てくるようなテーマというか題材を常に探しているというのはあると思います。
――人によって社会的テーマの部分にどれくらい重きを置いて見るかという差異はあると思うのですが、とにかく舞台ならではのエンターテイメント作品として楽しめるものになりそうです。
自分で言うことじゃないかもしれませんが、そうなると思います。参加している役者さんたちの興奮度合いというか熱量も高いと感じているので、きっと演じている彼らもそう思ってくれているんじゃないかな、という気はします。演劇のいいところは、こうした社会的な問題に興味がない人も見に来るところで、そういう人たちが「凄く面白い演劇だった、でもどうやら差別とか自分の知らない歴史があるんだな」と興味を抱いてちょっと調べてみる、というような流れを作れたら、それはとても豊かなことですよね。
――鈴木光介さんが音楽と演奏で参加されるというのも非常に楽しみです。
私は今回初めてご一緒するんですけど、スタッフワークについては、こちらからオーダーを細かく出すより、「この素材でどう遊びますか?」と投げかけてどういうものを出してもらえるか見て、それを演出というかたちでまとめていくのがすごく好きなので、鈴木さんとなら面白いものができそうでワクワクしています。じっさいにここは歌にするかも、とト書きを書いたら、ほんと歌にしてくれて、それでそのシーンがグッと豊かになった。稽古場に基本的には毎日来て、すごくよく見て曲を作ってくれる。そういう面でも信頼のおける方ですね。
――鈴木さんは本番では舞台上で演奏されるのでしょうか?
そうです、生演奏なんです。アイヌは音楽を演奏しながら歌い踊る民族なので、生演奏でというのは絶対にやりたかったんです。 とはいえ鈴木さんの生演奏はちょっと驚く、そしてとても楽しいものなので、芝居を観る回と鈴木さんを見る回、2回必要になるかもしれませんね。
流山児★事務所『コタン虐殺』稽古場写真 ((c)横田敦史)
■流山児★事務所は最初に声をかけてくれた特別なカンパニー
――詩森さんからご覧になって、流山児★事務所はどういうカンパニーだと思われますか。
私はずっと自分の劇団でやっていて、外部で活動し始めるのが遅かったほうなんですが、一番最初に「うちでやるか!」と言ってくれたのが流山児祥さんでした。だから私にとって特別なカンパニーです。いろんな人をミックスしたり出会わせたりする場としての魅力や演劇的価値がすごくありますよね。
――流山児さんとは以前から交流があったのでしょうか。
出演者の繋がりなどで、私の劇団の公演を見に来て下さっていました。最初は「面白いけどうちでやるタイプじゃないな」と思っていたらしいのですが、東日本大震災以降に私の作風が変わってきて、それで「今なら詩森とやったら面白いんじゃないか」と思ってくれたみたいです。プロデューサーとして自分の目や足で探す方なので、知名度とか関係なく流山児さんに声をかけてもらったという人はきっと多いと思います。椿組の外波山文明さんとかもそういうプロデューサーさんですよね。お二人とも貴重な存在だし、プロデューサーとはかくあるべきだと思います。
――そんな流山児さん✕詩森さんの第二弾、非常に楽しみです。私が初めて参加した『OKINAWA1972』のときは「流山児★事務所に詩森って、大丈夫なの?」と心配されたり、絶対合わないだろうと言われたりしました。でも、流山児★事務所が持っていないピースを私が持っていて、私が持っていないピースを流山児★事務所が持っていて、お互いに相乗し合ったり面白がったりしながらやれるいい取り合わせなんじゃないかな、なんて自分では思っています。多分、ちょっと他にあまりないタイプの作品になりそうなので、面白くします!
【動画】『コタン虐殺』 CM
取材・文・撮影=久田絢子

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