米倉利紀

米倉利紀

【米倉利紀 インタビュー】
大きな始まりでもあり、
大きな区切りでもあるアルバム

日本で生まれ育っている以上、
J-POPや歌謡曲を避けられない

そこで言いますと、「merry-go-round」~「see EYE to EYE」というワールドワイドな最先端とも思えるカッコ良いナンバーから始まって、そこから歌メロが立ったJ-POPがあって、「elephant LOVE」のようなある種、実験的なサウンドもある。このバラエティーに富んだ感じはまさに米倉利紀というアーティストそのものといった印象ですよ。

ありがとうございます。音楽作りを28年間やってきた中、基本的な方向性は自分で決めてはいるのですが、先ほど申し上げたように、“どっちに向いても自分なんだな”という…それを“自信”と言うと自意識過剰な感じがして嫌なんですけど、今の自分にはきっと自信があります。そうした中で、「merry-go-round」や「see EYE to EYE」はディレクターとアルバムの打ち合わせをした時に…レコード会社のスタッフがあまり言わないこと、“曲構成に必ずAメロ、Bメロ、Cメロはいらないと思います”と言われたんです(笑)。

実際、「merry-go-round」や「see EYE to EYE」はそういう構成ではないですね。

そうなんですよ。それってどれだけ時代が変わっても、日本で音楽活動をする以上、レコード会社という組織からはなかなか出て来ない言葉であって。デビュー以来そんなことを言われたことがあまりなかった(笑)。これまでもそういう曲を書いてきてはいたんですけど、1曲目に持って来る感じではなかったんですね。

しかも、シングル曲などキャッチーな楽曲を2曲目に置くという不文律がある中、『pink ELEPHANT』では「merry-go-round」の次が「see EYE to EYE」ですからね。

余裕を持った状態でアルバムを作ることができたので、初めて聴く人もこれまで聴いてきた人にも新鮮に感じてもらえて、さらに“やっぱりここが落ち着けるんだな”と思ってもらえるものにしたいとは思ったんですね。1、2曲目の世界観で新しいサウンドを広げて、3曲目「LOVE GEAR」でJ-POPの世界に引き込んであげるという。僕はこの流れをとても気に入ってます。

そうなんですよ! 1、2曲目はとにかくカッコ良い始まり方で、3曲目で“やっぱりこれだよなぁ”という感じで、いい意味で落ち着くんですよね。

日本で生まれ育っている以上、僕たち作っている側も聴いている人たちも、J-POPや歌謡曲というものを避けることはできないと思うんです。洋楽がどれだけ好きでも、J-POPや韓流のものすごく美しいメロディーに心を打たれるのって、僕らの生き様なんだと思うんですよ。そこは米倉利紀として大事にしたいと思っていますね。“J-POPって何なの?”って言われたら、Aメロ、Bメロ、Cメロがあって…とか、そういう物理的な話はできても、歌心の話ってなかなかできないと思うんですよね。それを頑張らなくても自然にできるようにするのが僕たちの役割というか。

つまり、『pink ELEPHANT』は気持ちをよりフラットにして制作に臨めたアルバムとも言えるでしょうか?

そうですね。こうして取材をしてもらっていると詳しく話すことができるんですけど、実は“今回はどういうアルバムなんですか?”って訊かれたら、正直言って何も話すことがないんです(笑)。

それはプロモーション泣かせですね(笑)。

こうしてひとつひとつ砕いていってもらえると、想いを言葉にして伝えられるんですけどね。あんまり奇を衒ったり、計画したりして作ったアルバムではなく、サラッと作りました。

そうなんですね。とはいえ、聴いている側としてはそんな感じはなく、かなり練られている印象が強くて。例えば、5曲目「光芒」。ファルセットを多用したメロディーライン、サウンドを彩るストリングス、そして《波音と、雲間に射す陽の光が 水面を照らす舞台》といった歌詞、いずれもがまさしく光を表しているようで、素晴らしと思って聴かせてもらいましたよ。

ありがとうございます。「光芒」は僕が企画して組んでいったというよりも、ミュージシャン、エンジニアさんを含めてそこに集まった人たちがそれぞれの役割をしっかり果たせた一曲だと思っています。僕が曲と詞を書いて、アレンジャーの呉服隆一くんがプログラミングで作ってきたサウンドの土台があって、そこに参加してくれたミュージシャン…特にバイオリンのNAOTOさんがレコーディングスタジオで次から次へと音を重ねてくれたこと。プラモデルを作っていくような状態というか、“なるほど! ここでこうしてくっ付いているんだ!”とか“ここにこの小さい部品が来たんだ!” ということ。今回のアルバムの中で一番細かい作業だったかもしれないですね。

あと、7曲目「GOOD MORNING」。アッパーでファンキーなリズム、キラキラしたサウンドがまさしく“朝”という感じなんですが、Bメロでコーラスが重なっていますよね? あの部分は歌詞の《光と影、夢と現実》に呼応しているかのようで、すごくいいです。話を戻しますと、米倉さんは奇を衒ったり、計画したりして作ったアルバムではないとおっしゃいましたが、今例を挙げましたように、微に入り細に入り仕掛けがあると言いますか、細かいところにも行き届いた作品ではあると思いますよ。

それも去年から今年に掛けて…もっと言えば、デビューからの28年という年月があって、その上でのひとつの集大成というわけではないんですけど、今作は大きな始まりでもあり、大きな区切りでもあるアルバムかなとは思っているんですね。これで終わりということではないんですけど、すごくいい作品が作れたと自分でも思っています。それはどういうことかと言うと、目の前にドアがあったら、僕たちって何も考えずにドアノブを握って開けると思うんですよ。歩むべき道を知っているというか。その状態に近いんですね(笑)。「GOOD MORNING」のコーラスの構成に関しても、“アレンジで《光と影、夢と現実》を表現できたらいいな”っていうことは当然頭の中にはあったんですけど、心のままに入れていったらこうなったというか。

結果的にこうなったというような?

そうですね。電車を降りて駅から家までの道って、もう何年も住んでいたら何も考えなくても、次を右で次は左で…って分かるのと同じ感じですね。

それってある種、達人の域に入ったということではないですか? 2本の刀をダラリと下げた宮本武蔵の肖像画。あの感じがもっとも自然に斬れる姿だと聞いたことがありますけど、あれに近い感じというか(笑)。

ははははは。僕ね、ライヴでもそうなんです。ギリギリまで遊んでるんですよ(笑)。アーティストによっては1時間前くらいに楽屋に入って本番寸前まで出て来ない人とか、集中するためにさまざまな決まりごとでモチベーションを上げる人がいます。僕はギリギリまで普通。そのほうが自然体、ありのままでいられると言いますか。もちろん衣装にも着替えるし、メイクもします。同じくレコーディングもあんまり構えない。日常のひとつです。朝起きて、犬の散歩して、ジムに行って、そのままスタジオへ行って歌って帰ってくる…スタジオ作業も夕方には終わっちゃいます。

その辺はこれまでオリジナルアルバム23作品を作ってこられたキャリアの成せる業でもあるんでしょうね。

ただ、何事もそうですけど、やはり慣れてしまったらいいものはできないと思うんですね。そこは常に意識しています。24枚もアルバムを作ってくると、正直言って慣れてくることもあるんですよ。ルーティンになってくる。だけど、慣れるということと、それを心地良く感じることは、ギリギリのラインでまったく違うと思う。慣れで落ち着いてしまったら、つまらない作品作りになってしまうと思います。

OKMusic編集部

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