純矢ちとせインタビュー 京都・南座
での新感覚演劇、イマ―シブシアター
『サクラヒメ』でヒロインを演じる

NYで話題を集め、現在世界的に注目されている最新の演劇手法“イマーシブシアター”を用いた注目の作品、イマーシブシアター『サクラヒメ』~『桜姫東文章』より~が、2020年1月24日(金)~2月4日(火)京都・南座で上演される。
イマーシブシアターはこれまでの着席をして観る演劇ではなく、出演者と一緒に観客も物語に入り込み参加することができる新感覚の体験型演劇。日本最古の歴史を持つ劇場・南座で行われるイマーシブシアター『サクラヒメ』は、歌舞伎の『桜姫東文章』に材をとったオリジナルの新作で、1階の観客席を全て取りはらい、舞台面と同じ高さにすることができる南座の新機構“フラット化”を活用し、舞台と客席エリアを完全に一体化。その広い空間のいたるところで同時多発的に行われるパフォーマンスを、「都人(みやこびと)」となり手の届く距離で観劇できる新しい演劇体験が用意されている。また、2階、3階エリアから「雲上人(うんじょうびと)」として、作品の全てを俯瞰することもでき、観客が5人の男性からサクラヒメの運命の人を裁決(投票)する、5種類のマルチエンディングが用意され、観客一人ひとりが物語に没入し、物語の結末を決めることができる、“自分だけの物語”を体験する舞台となっている。
そんな、全く新しい舞台で、ヒロイン・サクラヒメを演じるのが元宝塚歌劇団宙組で、娘役スターとして活躍した純矢ちとせ。名取りである日舞の腕前はもちろんのこと、高い演技力で作品を引き締め、宝塚の舞台になくてはならない存在だった純矢の、これが退団後初めて取り組む本格的舞台作品になる。
その新たな挑戦をヒロイン・サクラヒメ役で務める純矢に、新たな舞台への意気込みと、宝塚時代の思い出を語ってもらった。
「私ですか?」の驚きではじまったサクラヒメ役
ーー宝塚を2019年7月に退団されて、約半年というところですが、時間の使い方などは変わりましたか?
ゆったりとは過ごせているかなと感じています。宝塚在団中、特に退団公演の間は分刻みで追われることが多かったので、それを思うと今はゆとりある生活をおくれている気がしています。
純矢ちとせ
ーーその中で、非常に新しい舞台『サクラヒメ』で、ヒロインのサクラヒメ役を勤められる訳ですが、まずサクラヒメ役を、とのお話を聞かれた時にはいかがでしたか?
「私ですか?」という気持ちで、本当にびっくりしました。京都の南座という歴史ある舞台でタイトルロールを演じさせて頂くということにまず驚いたのと、「ヒロイン」というワードをしばらく聞き慣れていなかったので!(笑)。
ーー宝塚でもヒロイン経験はおありになりましたが。
確かに演じたことはあるのですが、ここ数年は国を背負う女帝役ですとか、姑役ですとか、まぁ、どちらかと言うとヒロインをいじめる系の(笑)方が多かったので、「私がヒロインですか?」「今、なんて?」と(笑)。
ーー作品のアクセントになる重要な役柄を多く演じていらしたので、是非にということもこちらから見れば納得ですが、ご本人は戸惑われた?
そうです。嬉しさが追いかけてきたのは、驚きのずっと後からでした。
ーーまた、新装となった京都・南座の1階客席がフラットにもなるという、伝統ある劇場の新しさにも注目が集まる企画ですね。
私も観客として南座さんには伺っていたのですが、こんなことまで可能なように劇場が作られていることは全く知らなかったので、それにも驚きましたし、ワクワクしました。
ーーその斬新な舞台で繰り広げられる作品の印象についてはどうですか?
歌舞伎の題材である『桜姫東文章』の要素も取り入れながら、新しいものになっていて、古典と現代のお芝居との融合がとても魅力的な作品だなと思いました。またお客様の投票によって結末がどうなるかわからない、というのもライブ感が満載だなと感じます。
純矢ちとせ
ーー結末がどうなるかわからない、ということは、純矢さんはじめキャストの皆様は5パターンの結末を覚える?
そういうことなんです! ですから演者としてはそこは大変だなと思います(笑)。でも1階エリアのお客様にはご自身も共に舞台に立っている感覚を味わって頂けますし、色々な場所でキャストの皆さんがやっていることが全く違いますので、誰を中心にして物語を観るかによって、見え方が全く違います(と思います)。また2階、3階エリアのお客様には、自由に選んで俯瞰して頂ける楽しさもあって、色々な場所で何度ご覧頂いても面白いと思います。その上でお気に入りの結末に投票して頂けるので。​
ーーそのサクラヒメをめぐる5人の男性を演じるキャストの皆さんも、多彩な顔ぶれですね。
ポスターのビジュアル撮影は、それぞれ個別にスケジュールが組まれていたので、私も製作発表でほとんどの方と「はじめまして」だったんです。その緊張が強くある中で、フォトセッションの「キャストだけで」というパターンの撮影で一列に並ばせて頂いたら、もうどうしてよいのか! 自分の居方がわからなくて!(笑)
ーー素敵な男役さんには度々囲まれていらっしゃいましたけれども、「はじめまして」でしたらそうですよね。
本当に緊張しました! でも皆さんとてもお優しくて、温かい空気感を作ってくださったので、それに助けて頂けて嬉しかったです。安心してお稽古に臨める! と、今は感じることができています。
身が引き締まるというのはこういうことなのかと
ーー新しい刺激がたくさんあると思いますが、サクラヒメ役についてはいかがですか?
前世から背負ってきているものがあって、今を生きている人なんです。ですから、彼女が背負っているものをきちんと表現しつつ、「姫」ですけれども、か弱いばかりではなく凛とした芯の強さも持っているので、その部分も出していけたらなと思っています。
ーービジュアルの感想はどうですか?
上がお着物で、下がマーメイドドレスというお衣裳を着させて頂いたのは初めてで、和と洋の融合でこんなに素敵になるんだ! と思いました。お着物ももちろんですし、マーメイド型のドレスも何度も着たことがありましたが、それを合体させたところが凄いなと思って。古典をベースに新しいものを創るという作品の世界観が凝縮されている発想だと思いました。
純矢ちとせ
ーーいま、小さなお子さんが草履で歩けなかったり、着付けも大変ということで上はお着物、下はスカートという新しい浴衣をお召しになっているお嬢さんたちがたくさんいるので、親近感と同時に憧れも湧くでしょうしね。
そういう意味でも、プロフェッショナルな方達の発想が詰め込まれているんです。私自身は日本舞踊も踊らせて頂きますが、キャストの皆さんはそれぞれダンスも踊られたり、タップを踏まれる方もいらっしゃるので、古典なのかしら? 難しいものなの? というご心配は全くいりませんので、気楽に楽しんで頂けると思います。
ーー純矢さんは日舞も名取でいらっしゃいますから、それも大変楽しみですし、しかも南座で! ということですものね。
身の引き締まる思いというのはこういうことなのか! と思います。それだけに光栄であると同時にプレッシャーも大きいですが、頑張っていきたいです。
ーー先ほどもおっしゃったように、投票で結末が変わるので、5回観れば5パターン観られるという訳でもないので、できるだけ回数を観ないといけませんね。
ひと公演が約70分で終わるので観やすいと思いますし、初日以外は一日二公演、土日は三公演ありますので、たくさんご覧頂けたら。しかも、キャストがずっと出ていますので、約70分間、観たい人をずっと観ていられるので、色々な角度から観て楽しんで頂けると嬉しいです。​
人としての根本の部分を宝塚で学んで
ーーまだ宝塚を退団されて日の浅いところで逆に難しいかと思いますが、今、宝塚時代を振り返って、純矢さんにとって宝塚とはどんなところでしたか?
色々な意味で人として成長させて頂けた場所でした。芸事はもちろんなのですが、色々な先生や上級生の方から教えて頂いた舞台でのマナーですとか、人としての根本の部分を、たくさん学ぶことができました。そういう惜しみなく指導して頂ける宝塚歌劇団の一員として、17年間過ごすことができからこそ、今の私があるというのを強く感じます。
純矢ちとせ
ーーその中で、特に印象に残っているお役を挙げるとすると?
ひとつということでしたら、『エリザベート』のゾフィー皇太后でしょうか。私自身が宝塚に入る前から観ていた作品でしたし、私の在団中のモットーは「頂いたお役を精一杯務める」ということだったので、どのお役も懸命に務めて頑張ってきていて、こんな役がやりたいというような欲はあまりなかったんですね。でも宙組で『エリザベート』を上演すると決まった瞬間に、「ゾフィーがやりたい」と思えたんです。それは私にとって初めてのことで、しかも実際にそのお役をさせて頂けることになったのは本当に嬉しいことでした。しかも何度も何度も再演されている作品ですから、皆さんが曲もストーリーも全部ご存知という状態だと思いますし、私もそう思っていたのですが、いざ演じてみると「こんなに?」と思うほど日々発見があるんです。改めて本当に凄い作品だなと思いましたし、大きなやり甲斐を感じました。
ーー先ほどおっしゃいましたけれども、単なるヒロインをいじめる姑になってしまってはいけない役でもありますものね。実は彼女が言っていることが正しいという。
そうなんです! 全国のお母さん、お姑さん代表と言いますか(笑)「宮廷でただ一人の男」なので。そういう意味で言うと、ゾフィーだけでなく、本当に色々な国を背負っている役をさせて頂いたなと思います。女帝役が多かったのですが。
ーーそれだけの存在感をちゃんと舞台で発揮していらしたからこそだと思いますが、そんな純矢さんが今後やってみたいと思うことはありますか?
これとは定めていないのですが、きっとまだまだやっていないことがたくさんあると思いますので、色々なチャレンジはしていきたいですし、大好きな日舞もずっと続けていきたいです。
ーーでは引き続き様々な純矢さんが拝見できるということでとても楽しみですが、その第一歩であるイマ―シブシアター『サクラヒメ』を楽しみにしていらっしゃる方々にメッセージをお願いします。
「何度観ても楽しめる」という言葉がピッタリの作品になっていますので、多くの方に何度でもご覧頂けたらと思っています。そして私自身は宝塚退団後初めての舞台で、私の初めての経験が『サクラヒメ』に詰め込まれています。ひとつずつお稽古して消化して精一杯務めて参りますので、是非南座にいらして下さい!どうぞよろしくお願い致します。

純矢ちとせ

<プロフィール>
純矢ちとせ(じゅんや・ちとせ)
2003年宝塚月組公演『花の宝塚風土記/シニョール・ドン・ファン』で男役として初舞台。雪組に配属後2005年娘役に転向。バウホール公演『やらずの雨』で初ヒロイン役に抜擢。2008年宙組に組替え後、『逆転裁判2』でヒロインを演じたのをはじめ、『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』のジェシカ、『風と共に去りぬ』スカーレットIIとメイベル(役替わり)『白夜の誓い─グスタフIII世、誇り高き王の戦い』の女帝エカテリーナ・アレクセーエヴナ、『TOP HAT』のマッジ・ハードウィック、『エリザベート』皇太后ゾフィー、『天は赤い河のほとり』のナキアなど、数々の重要な役柄を格調高く演じた。2019年『オーシャンズ11』のクイーンダイアナ役を最後に惜しまれつつ宝塚歌劇を退団。今作品が退団後初の本格的な舞台作品となる。
取材・文=橘 涼香撮影=山本 れお

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