藤沢文翁ロングインタビュー 原作・
脚本・演出を手掛ける、朗読劇「REA
DING HIGH」新作公演や自身について
聞く

2020年2月7日(金)・8日(土)東京国際フォーラム ホールAにて、3.5次元音楽朗読劇ブランド「READING HIGH」の新作公演『El Galleon~エルガレオン~』が上演される。「READING HIGH」とは、藤沢文翁がソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)と立ち上げた、“3.5次元”のエンターテインメントを目指す音楽朗読劇のプロジェクトだ。
藤沢は劇作家、演出家、プロデューサーなどの活動をするなか、音楽朗読劇創作の第一人者とも称され、「READING HIGH」では原作・脚本・演出を担当し、多くのファンを魅了している。2017年に開始された本プロジェクトは、第一弾『Homunculus~ホムンクルス~』(2017年)、第二弾『HYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~』、第三弾『Chèvre Note~シェーヴルノート~』(2019年)と、豪華な声優陣と俳優が参加し行われてきた。チケット入手困難とも言われる人気シリーズ「READING HIGH」の最新作となるのが、今作『El Galleon~エルガレオン~』。どんな作品になるのか、藤沢に話しを聞くことができた。
ーーSPICEでインタビューをさせていただくのが初めてです。まず、藤沢さんが作られています“朗読劇”がどんなものなのか、お聞かせください。
僕は今年でちょうど朗読劇を始めて10周年になります。最初は山寺宏一さんとの出会いのなかで朗読劇というものを初めてやらせていただいたんです。そこで、日本の声優さんの技術の高さが自分の中に飛び込んできました。僕の舞台は、朗読劇といっても一切役者が動きません。だから、特殊効果として煙や炎、あるいは照明などを、本来なら役者の動線に被ってしまう場所に置くことができます。そして、置くことによって普段の舞台だったら見ることのできない舞台効果というものが期待できる。そこに特効だったり、生演奏も使うことができる。そういう従来なかった新しい視覚的効果を期待できるのがだんだん面白くなってきて、どんどん増やして今日に至っています。
ーー一般的な朗読劇と思って観に行くと驚くというか、音楽とのマッチングが高く、特殊効果によって、見えないものが見えてくるというような印象をすごく受けました。最初に「こういうふうにやったら面白いんじゃないかな」と思ったきっかけみたいなものは、声優さんとの出会いなんでしょうか。
そもそも僕が子供のころから落語が好きだったり、祖父が常磐津をやっていたりとか、もともと日本の想像力を使った話芸というものに興味があったというのがありました。それをさらに活性化させる手段として、何を足していけば面白くなるかなと。
ーーたしかに足し算ではありますね。
ただ、演出は足し算ばかりしていくと今度は脂ぎってしまうので、引き算もしながら要素を足していくという真逆のことをやってきました。たとえば音楽をド派手にする。特殊効果や照明をド派手にする。でも、これがてんこ盛りになってはいけなくて。演出がその場所で完結するのではなく、頭の中で全部が結びつくとその人だけの舞台が頭脳のなかで展開されるということがあるんです。これが僕の目指してきたことなんです。だから、目を閉じているだけでもダメだし、総合的にそれぞれの点と点を頭の中で浮かび上がらせてもらう、という感じだと思っています。
ーー今回の『El Galleon~エルガレオン~』ですが、どんな作品なのでしょうか。
SMEさんとのコラボレーションのなかで、今回の4作目が過去最大規模なんです。それがとても大きい気がします。今回は12人の音楽隊が入りますが、そこにソプラノ、メゾソプラノを合わせて歌手が6人登場するとか、あとは日本で演奏する人が少ないと言われているバグパイプが登場したり、音楽含めての面白さがあると思います。そしてやはり国際フォーラムホールAで上演することですね。お客様から発せられる“気”ってあるんですよ、しかも今回は5000人分。それを押し返すだけの舞台演出という面では、ちょっと派手な効果も考えています。あとは今回マルチエンディングという、それぞれ違ったエンディングがあったりとか、本当に様々な見どころがある物語です。それが全部相乗効果で合わさったときに前人未到なものができればと思っています。
ーーあらすじやキャラクターなどが発表されていますが、今作は海賊船のお話です。なぜ題材として19世紀の海賊船を選ばれたんでしょうか?
ちょっとマニアックな話になってしまいますが、今回の物語の舞台になっているのが、19世紀のナポレオン戦争。フランスとイギリスが雌雄を決して戦った時代。最強のナポレオン艦隊というものがイギリスに迫っていて、これで負けたらもうイギリスはフランスの領土になってしまう、という絶対絶命のピンチなんです。イギリスにはネルソンという、日本で言ったら坂本龍馬くらい人気のある英雄がいるのですが、このネルソンがそれを迎え撃つという19世紀最大の海戦が始まろうとしている。
ーー1805年のトラファルガー海戦ですね。
そのさなかに、100年前の海賊たちの幽霊船が登場するというのがメインストーリーになっているのですが、この100年前は大航海時代が終わり、新大陸をヨーロッパの人たちが植民地支配を始め、いろいろなものを貿易し始めている時代です。そこで、それを略奪する海賊たちというのが現れる。海賊黄金期というのはそんなに長くないですが、自由奔放に海賊たちが生きていた時代なんです。船乗りたちは海賊をどこかで恐れながら、その自由な生き方にあこがれがあった時代でもあるんです。
19世紀になると、航海法なんていうものもできて、海の上もだんだん規制が厳しくなってきて、すごく窮屈な時代になる。みんな寝物語に聞くのは昔の海賊たちの話なんです。だから、今回の登場人物、ネルソンとかナポレオン艦隊の人たちも、みんな海賊船の話。そして、海賊船にまつわる幽霊船の伝説を聞いて育った人たちの目の前に、彼らが来てしまったら? そういう設定です。
ーー音楽朗読劇「READING HIGH」では、前回公演の『Chèvre Note~シェーヴルノート~』がジャンヌ・ダルクを主人公にした15世紀の話で、今回は19世紀。実際の出来事やメジャーな題材をうまく本歌取りされて、換骨奪胎して作品を作られていると思うんですが。そういうところに関する難しさや面白さはあるんでしょうか?
歴史って勝者によって作られるので、実際に僕たちが今知っている歴史が本当だったかどうかはわからないという大前提があるんです。もちろん僕も歴史は好きですが、話を面白くするのであれば、多少は時代とか時代設定とかはずらしてもいいと思って書いています。
ーー面白さを優先する部分もある。
そっちのほうがロマンがあるのであれば、ですね。だから難しさは実はあまりなくて。本格歴史小説みたいなものを作るのであれば、年代がちょっとでもずれたら「残念、こいつここで生きていれば面白かったのに」とか、そこで苦しむでしょうけど、僕の場合はそこで苦しまないで「うん、生きていることにしよう」という(笑)。とくに今回は100年前に死んでいる人たちが蘇ってきていますから。そういうところでは逆に楽しさしかないですね。
ーー『READING HIGH』の面白さのなかで、村中俊之さんが作られる音楽の存在もあると思いますが、音楽と制作のマッチングとして、お話があって「ここでこういう音楽がほしいんだよ」という発注をされているんですか?
だいたいそうです。でも、書きながら村中さんに「テーマソングだけこのイメージで作っておいてくれない?」って頼んだりもします。そうすると、けっこうなスピードで曲が上がってくるので、今度はその曲を聴きながら書き上げていく。そして、書きあがったものに彼が全部音楽をつけてくれる。それが上がってくると僕のなかで物語のイメージが変わるので、その曲に合わせてカットしたりいろいろ調整してくというのがいつもの作り方です。
ーーでは、村中さんの曲に影響を受けている部分も。
あります。だから、いつも僕は音楽監督と名前を並べてもらっていますが、音楽監督との共作なんです。そういう面が他とは異質なのかなという気はします。
ーー改めて、村中さんの存在は藤沢さんから見てどういう方なのでしょうか。
さっきまで村中さんをほめまくっていたのに、自分をほめることになるんですけど(笑)。 僕は音楽監督を発掘するのが得意なんです。作曲ができるだけじゃダメで、いろいろな人をまとめあげる人望もなくてはいけない。なにより本番で起きるさまざまな事柄に対して、すぐ対応できるIQの高さも必要とされるんです。
ーー総合力が求められますね。
その点において村中さんは、台本を理解して曲を上げてくるという作曲家の才能もあるし、「今度これをやるから来てくれない?」と言って呼び出せるミュージシャンのレベルがものすごい。さらに言えば、本番中に彼はチェロを弾きながら、その場でみんなに指示を出しているんです。おそらく台本も暗記しながら、このセリフのこの場所にこのメロディを当てたら客が泣く、というのがわかっている。ただ、その尺が毎回役者さんの芝居によって変わるので、計算しながらみんなに指示を出している。さらに、自分も物語の世界に没頭して泣くという、特殊な人なんです(笑)。なかなかそういう人はいないというか。一長一短皆さんあるなかで、とってもバランスが取れている音楽監督だなと思います。
藤沢文翁
ーーお話を聞くと、とても愛をもって作品に接してらっしゃる感じですね。
そうですね。ただ、村中さんにだけじゃなくていつものメンバーというのがいて。照明の久保(良明)さんとか衣装の大戸(美貴)さんという方がいて。今回、舞台監督は諌山(喜由)さんという方。この方はX JAPANから始まって、ずっと日本の音楽界の舞台監督を支えられている方なんです。みなさん、僕を支えてくれるアーティストとしてリスペクトしていますし、みんなで作っている感覚があります。
ーーそのなかの大きい柱のひとつとして、声優さんがいると思いますが。今回でいうと、大塚明夫さん、中村悠一さん。梅原裕一郎さん、鳥海浩輔さん、蒼井翔太さん、高垣彩陽さん、諏訪部順一さんがいらっしゃいます。大塚さんが海賊船の船長というだけで絶対に観に行かなくてはと思ったんですが、今回のキャスティングに関してはどのようなイメージがありますか?
中村さんとしゃべっていて「大塚さんがトップで物語を作れたらカッコいいよね」という話になったんです。この世界の大ベテランがトップに立って、みんな今、実力がある若手で支えているような朗読劇が作れたらカッコいいよねという話をしていたときに、国際フォーラムでやると聞いて。だったら話も大きくしなきゃいけない。じゃあ大海原で海賊だな、明夫さん、海賊じゃないかと(笑)。もう、海賊以外ないでしょ、あの人は(笑)。
ーー同じように中村さん、梅原さん、蒼井さんや高垣さんたちは、大塚さんと比べると若手になるかと思いますが、その世代に対しての印象というのは?
層が本当に厚いなという気がします。だから今、若手の人がこれから先上がっていくのは大変だろうなって。大塚さんの世代の次に、今回は諏訪部さんとか鳥海さんがいて、そのちょっと下に中村さんたちがいて……という。個性的な声優さんたちがいる30代40代だなと感じます。
ーーそこから生まれてくるインスピレーションみたいなものもあったりするんですか?
はい。今回は全員あて書きで書かせていただいてます。蒼井翔太君なんか、王子様ですから(笑)。英国のジョージ王太子です。
ーー先ほど少しお話にも出ましたが、今回はマルチエンディングです。なぜ今回はこういう形態を選ばれたのでしょうか。
今回、テーマのなかに家族愛とか親子愛みたいなものが含まれる物語なんです。珍しいことなんですけど、僕のなかでラストシーンが3つ浮かんだんです。どれも捨てがたいので、どうしようかと思っているうちに、家族のエンディングというか終着点というのは、ひとつでなくてもいいのかなと思うようになったんです。スタッフに見せてみたら、3つとも泣けたと言ってくれて。これを煮詰めていって、お客さんがどのお話が好きかというのを決めてもらおうかなと。その方が思うベストのエンディングはその方に決めていただこうという思いで、3つのエンディングを作らせていただいてます。
ーー選ばなかったものを捨てるのではなく選んでもらおうというのは、藤沢さんの演出らしさも感じます。
SMEさんにもいろいろ自由にやらせていただいているので。新しい挑戦というか、進化し続けているうちの一つだと思っていただければ。
ーーできれば3つ見てほしいというのが理想ですよね。
本当はそうなんですけど。チケットが取れなかったり、その日、都合が悪かったりもあると思うので。もしも皆さんが熱望していただければ、別の媒体でまた見る機会とかもあったりするかもしれないので、そういう形でも楽しんでいただければ。
ーー藤沢さんご自身のお話もお聞きしたいのですが、もともとロンドンのほうで演劇を学ばれていらっしゃったとか。日本ではストレートプレイ、ミュージカル、そして2.5次元もかなりの数の舞台が上演されていますが、今の日本の演劇界を取り巻く現状について、藤沢さんはどのように考えられていますか。
日本だけではなく世界レベルでオリジナル作品が不足してきていると思います。だからこそ、そこを担う仕事がしたいなと思っています。オリジナル作品を作ってメディアミックスの展開をしたい、というのが僕の夢でもありますので。朗読劇がその場で上演されて終わり、その後、永遠に上演されないとかではなく、「これはアニメにしてみたい」「ゲームにしてみたい」「2.5次元にしてみたい」という展開のあるショールーム的なものになっていけばいいなと思っています。
もう少しビジネス的な話をすると、たとえばソニーさんが今度、プレイステーション5を作ります。ただ、その5を作るにあたって、5のソフトウェアを作るお金が日本にはなかったり、莫大なお金を使って作らなければいけなかったりする。となると、たくさんのスポンサーを募らなければいけない。それにはプロデューサーがついてくる。みんなでああだこうだ言わないとひとつの作品が作れないとなれば、時間も話もかかり、結局は安定したところに落ち着いてしまったりする。
ーー意見が出すぎて作品の角が取れてしまうという感じでしょうか。
そうですね、実はこれがオリジナル作品をなかなか作りづらくなっている理由のひとつであると思うんです。でも、朗読劇、たとえば今回の『El Galleon~エルガレオン~』ですと、今年の頭には「こんな話を作りましょう」と話したものが1年ちょっとで上演可能になった。こんな風に短期間でひとつの形にできる公演もあるということを、サンプルとしてお見せできると思うんです。そういう意味では、朗読劇というのはある意味、オリジナル作品を上演するための近道になっていくのではないかという気がします。
ーーこれからを担う演出家、声優、パフォーマーも含めて、何かアドバイスがあれば。
何でもそうなんですけど、子供の目をずっと持ち続けるということだと思うんです。ピカソの有名な言葉に、「ラファエロのように描くには4年かかったが、子どものように描くのには一生涯かかった」というのがあるんですが、日々の生活のなかで、全部が当たり前になってきてしまうんです。
例えば脚本家になりたいとなったときに、歴史を見返して「ここでこうなったらどうだろう?」とか、「ここでこう展開したらどうなるだろう?」とか。演技に関しても、初めて台本を読んだような、子供のような目で居続けるということは意外と難しいんです。それをやり続けている人とやり続けていない人がどれくらい成長しているかというと、10年後、ものすごい差ができていると思うんです。どんなものでも、「ああ、あれね」と思わずに、初めて見たものを大事にする。あるいは毎日生きているなかでも、初めて見るような目でものを見るということをずっと続けていくことが、結局、役者だろうと演出家だろうと脚本家だろうと大事なことだと思うんです。
ーーありがとうございます。最後にファンの方に一言をお願いします。
僕としては『El Galleon~エルガレオン~』が、これまでの集大成だとは思ってはいません。ですが、巨大劇場でやるということは、作り上げてきたなかで​ひとつの分岐点になるとは思います。マルチエンディングとかもそうですが、要は国際フォーラムという大劇場でやるにあたって、僕らの演出の熱量も上げていかなくてはいけない。そのぶつかり合いの熱量が今までのなかでも最高潮になるんじゃないかな。だから、演劇でもなくミュージカルでもなく、朗読劇でもなく、何かこう、フェスの熱量のなかにある物語みたいなものを観に来るような気持ちで。なるべくなら観る前日はお酒とかも飲まずに早寝して、体力をつけた状態で来て頂ければ(笑)。僕たちと、そして登場人物と同じ船に乗りに来ていただければ、という思いです。歴史的に朗読史というものがあれば、大きな分岐点になると思うので、その分岐点をぜひ目撃しに来ていただけたらなと思っています。

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