新国立劇場 2020/2021シーズンライン
アップ説明会<大野和士・オペラ部門
芸術監督編>~意欲的な3シーズン目

2020年1月9日、新国立劇場で 2020/2021 シーズンラインアップ説明会が開かれた。昨年ダンサーとしての引退公演をおこなった国際的なバレリーナ吉田都氏が舞踊部門の次期芸術監督として初めて登壇し、また、オペラ芸術監督の大野和士氏と演劇芸術監督の小川絵梨子氏は3シーズン目を迎える説明会となった。このレポートではオペラ部門の内容をお伝えする。
(撮影:長澤直子)
オペラ部門の 2020/2021シーズン ラインアップは以下の通り。〈新制作4演目、レパートリー6演目 合計10演目46公演〉2020年10月《夏の夜の夢》B.ブリテン作曲(新制作)
2020年11月《アルマゲドンの夢》藤倉大作曲(新制作、創作委嘱作品・世界初演)
2020年11月〜12月《こうもり》J.シュトラウスII世作曲
2021年1月〜2月《トスカ》G.プッチーニ作曲
2021年2月《フィガロの結婚》W.A.モーツァルト作曲
2021年3月 楽劇「ニューベルングの指環」第1日《ワルキューレ》R.ワーグナー作曲
2021年4月《夜鳴きうぐいす》《イオランタ》I.ストラヴィンスキー作曲、P.チャイコフスキー作曲(新制作)
2021年4月《ルチア》G.ドニゼッティ作曲
2021年5月《ドン・カルロ》G.ヴェルディ作曲
2021年7月《カルメン》G.ビゼー作曲(新制作)
(撮影:長澤直子)
大野芸術監督の3シーズン目は、日本人委嘱作品の世界初演、ダブルビル作品としてのロシア・オペラ、そして年3-4本の新制作、と就任時の約束にたがわない意欲的な内容となっている。
新制作の4演目から紹介しよう。シーズン幕開けとなるブリテン《夏の夜の夢》は、ブリュッセルのモネ劇場のプロダクションを新国立劇場が購入することによって実現する新制作。それに加えて、世界初演の藤倉大作曲の《アルマゲドンの夢》、ストラヴィンスキーとチャイコフスキーのダブルビル《夜鳴きうぐいす》《イオランタ》、そしてビゼー《カルメン》が新国立劇場で誕生する新制作となる。
(撮影:長澤直子)
ブリテンの《夏の夜の夢》は、20世紀の作品の中でも「底抜けに明るく、シェークスピア独特の変装劇があり、妖精による夢幻劇ありの素敵な一夜」としての雰囲気を持つ、「ブリテンのきめこまやかなオーケストレーションに彩られたキラキラしたオペラ」(大野氏)である。2004年にモネ劇場で初演されたマクヴィカー演出は、森を描いた美術が舞台から客席までの広がりを感じさせるプロダクション。英国の作曲家ブリテンということで、指揮にもイングリッシュ・ナショナル・オペラの音楽監督ブラビンスを起用する。妖精の王オーベロン役には日本を代表するカウンター・テナー藤木大地、ティターニアはスウェーデンの歌姫アヴェモ、その他の歌手達も演技が達者な若手を中心に起用する。
(撮影:長澤直子)
《紫苑物語》に続く日本人作曲家委嘱シリーズ第2弾は、ロンドン在住で、昨年映画『蜜蜂と遠雷』にも曲を提供して話題となった藤倉大の《アルマゲドンの夢》。大野芸術監督が藤倉氏に委嘱するときに「現代に関連した物語を」と要望し、SFの父と呼ばれる英国のH.G.ウェルズの短編小説『世界最終戦争の夢』(1901年)が原作に選ばれた。藤倉との仕事が多いハリー・ロスが台本を書いた英語の一幕オペラである。フル・オーケストラで合唱も入る一時間半ほどの曲。20世紀の初頭に書かれた原作は、時空を自在に行き来しながら、忍び寄る全体主義、そして科学技術の発展がもたらす大量殺戮への不安を鋭く描いたもの。ちなみに藤倉はすでに昨年の春にこのオペラの作曲を終えているという。
演出は2018年のザルツブルク音楽祭で《魔笛》を演出したリディア・シュタイアー。情熱のあふれる舞台と、現代的な問題意識の掘り起こし方に定評がある。タクトを取るのは芸術監督の大野自身。この世界初演は新国立劇場から世界に発信する重要な公演となるだろう。
次なる新制作はストラヴィンスキーの《夜鳴きうぐいす》とチャイコフスキー《イオランタ》というロシア・オペラの二本立て(ダブルビル)。《夜鳴きうぐいす》は大野芸術監督がかつてリヨン歌劇場などで指揮し世界的に高い評価を得たオペラでもある。今回は《イオランタ》との組み合わせで、今シーズンの幕開けを飾った《エウゲニ・オネーギン》を指揮したユルケヴィチが担当する。演出はギリシャ出身の巨匠コッコス。コッコスはこの新制作に先立ち、すでに新国立劇場オペラ研修所試演会で《イオランタ》を演出している。キャストでの注目は、新国立劇場の《ドン・パスクワーレ》で評判となったコロラトゥーラ・ソプラノのトロシャンが夜鳴きうぐいす役を、ヨーロッパ一流歌劇場に出演しているロシア出身のソプラノ歌手シウリーナがイオランタ役を歌うことだろう。
最後の新制作はビゼー《カルメン》。新国立劇場で昨年、空前絶後の巨大セットによる《トゥーランドット 》を演出したアレックス・オリエによる新演出。大野芸術監督の指揮でコンビが再び実現する。バルセロナ出身のオリエによる《カルメン》は、白熱の情熱の世界が展開する予定という。タイトルロールはエクサンプロヴァンス音楽祭他で同役を演じている、今最も輝いているフランスのメゾソプラノ歌手ドゥストラックが登場、他にもドン・ホセのアガザニアン、エスカミーリョのドゥハメル、ミカエラの砂川涼子など一流のキャストが出演する。
(撮影:長澤直子)
新制作は以上だが、レパートリー作品にも、指揮やキャストにフレッシュな顔ぶれが揃った。
年末はオペレッタの最高傑作《こうもり》。ウィーン宮廷歌手ツェドニック演出の舞台。指揮はイタリアを拠点に活躍するフランクリン、シュムッツハルト、ケスラーという優れた主役カップルに加えて、名歌手クルト・リドルがフロッシュ役で出演するのもオペラ・ファンには大きな魅力だ。
マダウ=ディアツ演出の《トスカ》は新国立劇場を代表するプロダクションの一つである。今回はイタリアの名匠カッレガーリの指揮、若手で活躍中のイゾットンのトスカ、そしてスター歌手メーリ、バリトンのソラーリなどが新国立劇場初登場となる。
ホモキ演出の《フィガロの結婚》も人気プロダクションだ。今回の出演はプリアンテ、ガンベローニ、モラーチェなどのイタリア人歌手たちと、臼木あい、脇園彩という日本人の若手スター歌手による混合キャスト。ベテラン指揮者ピドも新国立劇場初登場で、傑作アンサンブル・オペラをどのように統率してくれるのか楽しみである。
3月にはワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」から《ワルキューレ》が上演される。タクトは新国立劇場のオペラ前芸術監督の飯守泰次郎。フリードリヒ演出の舞台で歌うのはキルヒ、アンガー、シリンス、ストリッド、テオリン、藤村実穂子など、「これ以上のキャストは世界でもなかなかいない」という充実したメンバーだ。
ドニゼッティの《ルチア》を指揮するのはファーストネームに「希望」という意味の名前を持つイタリア人女性指揮者、スペランツァ・スカップッチ。すでにウィーン国立歌劇場他の多くの劇場で活躍し、王立ワロニー歌劇場の音楽監督を務める。日本でも東京・春・音楽祭などで活躍する指揮者だ。そしてルチア役には新国立劇場で《椿姫》のヴィオレッタ役を歌ったイリーナ・ルングが出演、大野監督によれば「狂乱の場をどう導くか」「指揮者と歌い手のかけひきも大きな聴きどころ」である。エドガルドをブラウンリーが歌うのも期待大。
《ドン・カルロ》を指揮するのは新国立劇場ではおなじみでヴェルディに定評のあるカリニャーニ。出演歌手はフィリッポ二世を歌うミケーレ・ペルトゥージ、ドン・カルロを歌うルチャーノ・ガンチ、エリザベッタを歌うマリーナ・コスタ=ジャクソンなどが新国立劇場初登場となる他、このオペラのキーパーソンであるロドリーゴを《紫苑物語》で高い評価を得たバリトン歌手高田智宏が歌うのも聴き逃せない。
現代のオペラ・シーンを反映した新制作、そしてバランスが取れた演目とキャストによる来シーズンは、どの公演もそれぞれ意義深いものになりそうである。
(左から)小川絵梨子、大野和士、吉田都 (撮影:長澤直子)
取材・文=井内美香  撮影=長澤直子

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