眉村ちあきインタビュー ポップに開
花した最新アルバムを通し、その斬新
すぎる創造性の原泉に迫る

2019年5月に1stアルバム『めじゃめじゃもんじゃ』でメジャーデビューを飾った“弾き語りトラックメイカー アイドル”(&「株式会社会社じゃないもん」社長) 眉村ちあき。『眉村ちあき3rdワンマンライブ~東京湾へダイビング!~』のファイナル公演を新木場STUDIO COASTで開催し、大型フェスにも出演。さらに地上波の音楽番組、NHK Eテレ『ビットワールド』にレギュラー出演するなど、活動の幅を確実に広げている彼女から、ニューアルバム『劇団オギャリズム』が届けられた。

ドープなヒップホップ系トラックと日常の切ない出来事を描いた歌詞がひとつになった「DEKI☆NAI」、しなやかなベースラインを軸にしたサウンドのなかでナンセンスな歌詞が広がる「おばあちゃんがサイドスロー」、未来を担う子供たちへの思いを綴った「チャーリー」などが収められた本作。斬新すぎる発想から生まれる歌、独創的なポップセンスに裏付けられたサウンドメイクを含め、ポップス・クリエイターとしての彼女の才能がさらに奔放に発揮された作品に仕上がっている。2020年2月からは全国ツアー『CHIAKI MAYUMURA 2nd Tour 劇団オギャリズム』がスタート。「早く1万人規模のライブをやりたい」と満面の笑顔で話す彼女に、眉村ちあきの“これまで”と“これから”について語ってもらった。
――SPICE初登場なので、これまでのキャリアについても聞きたいと思ってます。
よろしくお願いします! 昨日インフルエンザの予防接種して、今日は健康診断だったから、ボロボロですけど(笑)。
――健康診断、毎年やってるんですか?
いえ、今年からですね。自分の会社(眉村は「株式会社会社じゃないもん」の社長)の福利厚生で。会社にはおじさんもいるから、死んでほしくないなと思って。
――社員思いの社長ですね……。昨年5月にメジャーデビューして、フェスやテレビ番組の出演も増えました。飛躍の1年だったと思うのですが、眉村さんはどう思ってますか?
私としては、予想通りではなくて。予定ではもう武道館をやっていたはずなんですよ。メジャーデビューアルバム『めじゃめじゃもんじゃ』で、もっとやれるはずだったのになって悔しいです。新木場コーストのライブは楽しかったけど、ソールドアウトしなかったし。ライブは楽しいと思うんですけど、なんで売れないのか自分ではわからないですね……。そういえばこの前、スタッフさんが「いまはジャンプするための筋力作りの時期なんで」って電話で話しているのを盗み聞きしたんですよ(笑)。
――いまはブレイクに向けて力をためている時期だと。
そうみたいです。実際、着実にお客さんは増えてるので。ペースはだいぶ遅いですけどね。まわりの人には「遅くないし、むしろ早いから」と言われるんだけど、「は?」ってなります(笑)。生き急いでるとも言われるけど、生き急がなくなったら終わりだと思ってるので。
――そういう考え方は、活動を始めたときから変わってないんですか?
そうですね、たぶん。最初は「BoAさんやレディー・ガガさんみたいになりたい」と思ってたんですよ。いまもそうなんだけど、強い女になって、世界を駆け巡りたいなって。BoAさんもレディー・ガガさんも、ずっと一人でやってるじゃないですか。そこにも憧れるし、「カッコいい!」って感じです。
――BoAさんを知ったきっかけは何だったんですか?
ライブ映像とドキュメント映像ですね。韓国から日本に来て、日本語もよくわからない状態でデビューして、いろいろ葛藤とかもあって、ホームシックになったり。「大変だったんだな」と思ったし、それを乗り越えて、いまは世界中で人気じゃないですか。その精神力だったり、生き様がカッコいいなと思って、「私もステージに立つ人になりたい」って。そこからですね、音楽をやるようになったのは。高校3年のときだったんですけど、それまで音楽にはあんまり興味がなかったんですよ。アーティストの名前も、少女時代くらいしか知らなかったし。
――レディー・ガガはどんなところが好きなんですか?
やっぱりライブですね。天井から降りてくる演出があって、「やばい!私もこれやりたい!」って。テイラー・スウィフトもそうですけど、向こうの人たちって、演出がすごいじゃないですか。テイラーなんて、30人くらいのダンサーが天井から降りてきて、横からも30人くらい出てきて、テイラーがどこにいるかわからなくなったりして(笑)。そういうことって、アリーナクラスじゃないと出来ないじゃないですか。「アリーナの規模だったら、火も水も使える」って言われてるから、早くそうなりたいんですよね。
眉村ちあき 撮影=菊池貴裕
――やりたい演出を実現させるためにも売れないとダメだと。眉村さん、最初はアイドルグループに所属してたんですよね?
あ、そうです。気が合わなくてムリでした。老後になったら、またグループ組んでもいいですけど(笑)。
――どうして“ムリ”だったんですか?
“スタッフ、他のメンバー”VS“私”みたいになっちゃったんですよ。ワガママ言ってたわけではなくて、「こうしたらどう?」って提案しても全否定だったんです。「普通に考えて、それは無理」とか言われて、「普通じゃないことやらないと、普通のままだよ」と思って。全然わかってもらえなかったですね。ただ、私もずっとそこにいるつもりはなかったので……あと、スタッフさんの行動とかもイヤだったんです。車で移動してるときに、ドアを開けて、コーヒーを道に捨てたりするんですよ。そういうことも耐えられなくて、やめようと思って。いまになって思うと、その経験があってよかったですけどね。簡単に人を信じちゃいけないと思うようになったし、礼儀正しくしなくちゃダメだなと思えたので。アイドルグループに入ってなかったら、もっとヘラヘラしてたかもしれないなって。
――会社を立ち上げたのも、大人に頼らず、一人で活動するためだったんですか?
最初はどこかの事務所に入ろうかなと思ってたんですけど、「うちの事務所に来ない?」って言われて話を聞きにいくと、お酒を飲まされそうになったりして。「事務所って危ないところだな」と思ったし、「会社作ったら?」って言ってくれるおじさんもいたから、だったら作っちゃおうって。自分の会社だったら、怖い思いもしないですからね。
――メジャーデビュー以降は、関わるスタッフの数も増えたと思いますが、関係性はどうですか?
みんないい人なんですよ! だまそうとする人がいないし(笑)、対バン相手もいい人ばかりで。こういう活動を続けている人たち、メジャーで仕事をしている人たちは、ちゃんとしてるんだなって。どっちも見れて良かったですね。“動員1”みたいなドロドロのシーンも経験したし、メジャーでしっかり仕事をしている人たちの世界も見れて、運が良かったなと。
――対バンライブで、いろんなアーティストとの関りも増えてますからね。
そうなんです。最近、DEZERTさんと対バンさせてもらったんですけど、すごく面白かったです。客層がまったく違うじゃないですか。
――DEZERTはビジュアル系ですからね。
(出演順は)私が最初だったんですけど、DEZERTさんのファンの方が前のほうに陣取っていて、私のファンのおじさんたちは後ろに追いやられてて。「わ、追いやられてる」って笑いそうになったんですけど(笑)、そういう状況って燃えるんですよね、逆に。絶対に私に興味ない人ばかりだし、DEZERTさんのファンのみなさんはきっと「女の子と対バンしてほしくない」と思っていて。実際、すごく睨まれたりしたんですけど、「絶対に盛り上げてやる!」ってがんばって。結局、ライブはすごく盛り上がったし、特典会にもDEZERTのファンの女の子がたくさん並んでくれたんです。「対バンしてほしくなかったけど、思ってたのと違って楽しかった」って言ってもらえたりして、嬉しかったですね。
――アウェイが得意というか、好きなんでしょうね。
そうかも。新木場コーストの次の日、日本保育園協会のパーティでライブやったんですよ。知り合いに「出てくれない?」ってお願いされたんですけど、日本中の園長さんが集まっている会で、名刺交換とか乾杯とかしてて、ライブを観るような雰囲気じゃなかったんです。そのときも「燃えるぜ!」ってなって、がんばってライブやったら、すごく拍手してくれて、アンコールももらえて。興味のない人たちを振り向かせるのが好きだし、それが出来ると自信になるんですよね。
眉村ちあき 撮影=菊池貴裕
――現在は“弾き語りトラックメイカー アイドル”を掲げていますが、トラックメイクはどうやって学んだんですか?
ピアノが弾けるおじさんに「無料の音楽ソフトを使ってみたら?」って、GarageBandを教えてもらったんです。アイドルグループをやめたとき、これからは一人で作らなくちゃいけないと思ってたので。
――作家に作ってもらうという考えは最初からなかったんですね。
そういう“業者”がいるって知らなかったんですよ。他のグループも自分たちで作ってると勝手に思ってて、対バンするたびに「めっちゃ上手い! 上には上がいるな。もっとがんばらないと」って。1年くらいたって、(楽曲制作の)プロの業者がいると知って、「いんのかーい!」ってなったけど(笑)。その頃は自分で作れるようになってたから、まあ、いいかって。「誰かと作ってみたいな」と思うこともありますけどね。私、ピアノ弾けないから、自在にピアノが弾ける人と一緒に作ってみたいなとか。
――アレンジを誰かに任せるとかは?
この前、そのことをスタッフさんに聞いてみたんですよ。そしたら、「これくらいの料金で、期間は3週間くらいですね」と言われて。そんなにかかるなら、自分でやったほうが早いなって。私、1曲作るのに1日から3日くらいなんですよ。3週間もかかかったことないし、その間に飽きちゃうと思うんですよね。私、すぐ飽きるんで(笑)。
――では、アルバム『劇団オギャリズム』について。前作「めじゃめじゃもんじゃ」からわずか8か月のインタバーバルですが、本当にいい曲が揃ってますね。
嬉しい! やった!
――トラックメイクもソングライティングもさらに進化していて。自分でも成長してるなって思いません?
ちょっとだけ良くなったかな。「ペース、おそっ」と思うけど(笑)。ちょっとだけ曲を作るときの意識が変わったんですよ。前まではライブ会場に来てくれる人たち、顔が見える人たちのことだけを考えて作ってたんだけど、今回はYouTubeの画面の向こうにいる人たちのことも意識していて。あと、売れてる人たちはライブでやるより先に、MVを発表することが多いじゃないですか。私はガマンできなくてすぐライブでやっちゃうんですけど、今回のアルバムはまだライブでやってない曲が入ってるんです。「タイムスリッパ―」と「チャーリー」なんですけど。
――どちらもメロディがしっかり立ってる曲ですね。
キャッチーなメロはずっと意識してるんですけどね。ちょっとだけ大衆ウケみたいなことも考えたかも。
――なるほど。アルバムの1曲目は「DEKI☆NAI」。ドープなヒップホップ系のトラックですが、これはどういう発想で作り始めたんですか?
え、どういう発想……? 「いい感じ!」だけですね(笑)。ピアノのフレーズを考えて、「この感じだったら、“ダッ、ツタッ”っていうリズムがいいな」と思うものを組み合わせて、「合う!」ってなって。あとは「このトラックだったら、グルーヴがいい感じの歌詞が良さそうだな」とか「ハモリをいっぱい入れてみよう」とか「ここでドラムを急に抜いたらどうなるかな?」とか、いろいろ試しながら。いつも大体、そんな感じですね。あ、でも、「夏のラーメンワルツ」は、歌詞とメロディが同時進行でした。3拍子の曲を作ってみようと思って、「夏のラーメンワルツ」というフレ―ズが浮かんできて(笑)。
――(笑)。「おばあちゃんがサイドスロー」「スクワットブンブン」など、曲名もすごく個性的で。
「おばあちゃんがサイドスロー」は、ラジオに出させてもらったときに、「ラジオネーム“おばあちゃんがサイドスロー”さんから質問が来てます」って言われて、「え、何それ? あなたの名前で曲を作ります!」って(笑)。「おばあちゃんがサイドスロー」をサビにして、ベースから作り始めました。「スクワットブンブン」は、ライブでスクワットしながら腕を回してたら、ファンの人から「曲にすれば?」って言われて。「EDMっぽいトラックで、“スクワットブンブン!”というサビはどうかな?」って言ったら、「いいね」ってなったから曲にしました。じつは女の子が健気に努力してる歌なんですよ。好きな男の人に「結婚するならキレイな人がいい」って言われて、自分では「お互いに安心できて、落ち着くほうが良くない?」と思いながらも、キレイになるためにスクワットするっていう。ライブでは楽しくスクワットしてるだけだから、歌詞の深さには気づいてもらえないんですけど(笑)。
――曲のアイデアが多彩ですよね、ホントに。普段の生活のなかで思い付くことも多そうですね。
そうですね。今日の健康診断で脈拍が70だったから、BPM70の曲を作ってみようかなとか。いま教習所に通ってるんですけど、この前、救護の授業があって。心臓マッサージは1分間に100から120回って言われて、BPM100から120を行ったり来たりする曲はどうかなって思ったり。たぶん一般受けする曲にはならないけど(笑)、ライブでやれば「なんじゃコレ」って楽しんでもらえると思うんですよね。
眉村ちあき 撮影=菊池貴裕
――個人的には「チャーリー」の歌詞が印象に残りました。子供に対する思いが溢れた楽曲ですが、この曲を書いたきっかけは?
私のライブ、子供も来てくれるんですよ。ライブ前に土を掘ってたりすると、子供が寄ってきて、一緒に掘ったり。
――土を掘る……って?
石を掘り出すのが好きなんです。なるべく深いところに埋まってる石がいいんですけど、掘ってると子供が興味を持って近づいてくるんですよね。道を歩いてて、子供がついて来ることもあるし。私、何か放ってるのかな?
――楽しいことが起きそうな気がするのかも。
(笑)。そういうとき、「すくすく大きくなってほしいな」って思うので、それを曲にしようと。「チャーリー」は前日まで違う歌詞だったんですけど、どうもしっくりこなくて、レコーディング当日に書き直したんです。トラックもイジったし、だいぶ違う曲になりましたね。前のバージョンはボーナストラック(「チャーリー (レコーディング前日までこれになる予定だった Version)」)にしてます。
――子供はもちろん、幅広い層のリスナーに届く曲だと思います。眉村さんのライブ、女の子も増えてますよね?
あ、増えましたね。「メイク何を使ってるのか、インスタにアップしてください」とか言われます。
――女の子のリスナーに良い影響を与えたい、みたいな気持ちもありますか?
あります。カッコ良く生きてほしいなと思うし、そのためにはまず、自分がもっと強い女にならないと。イヤなことがあってもプラス思考で乗り越えられるようになってきたし、ちょっとずつ力は付いてると思うんですけど、それを歌詞にして、弱ってる人がちょっとでも強い気持ちを持てるようになったらいいなって。そう言えば私、この前Twitterを乗っ取られたんですよ。パスワードを変えられて、ログインできなくなって。
――大変じゃないですか。
いろいろ調べて取り戻したんですけど、そのときに「他のiPhoneがログインしてます」ってなって、場所を調べたら千葉県の市川市だったんです。なので、そこでライブやろうと思って。ハッカーイベントじゃないけど(笑)、犯人は入場無料にして。そうやって行動に移せば、イヤなことも面白くできるかなと。
――すごい(笑)。そして『劇団オギャリズム』というタイトルについては?
曲が全部そろってから考えました。レコード会社の担当の方に「このタイトルって、劇団ひとりとバカリズムとおぎやはぎってこと?」と聞かれて、「え、違うけど」って(笑)。意味としては、いつもオギャオギャしてる赤ちゃんとか、子供の頃の心をなくさないで、遊び心を持ってやっていきたいというか。あと、劇団四季に入るのが夢だったから、自分で“劇団”って付ければ、それが叶う感じになるかなって。
――子供の心を持って、やりたいことをやる?
そうです。いつしか大人になって、何か理由がないとやらなくなったり、「これをしたいけど、〇〇だからやめよう」って思っちゃうじゃないですか。そうじゃなくて、「やりたい」っていう心だけで動きたいんですよね。私、『うちの3姉妹』のアニメが大好きで。19歳くらいのときにそれを観てたら、次女の女の子が箸で牛乳を混ぜてて、お母さんに「やめなさい」って叱られる場面があって、女の子が「え、なんで? だってしたいんだもん」って言ったんです。そのときに「そうか、したいからするんだ!」て何かがパリンってなったんですよね。それからですね、人に迷惑さえかけなければ、やりたいことをやろうと思うようになったのは。もちろん、それだけでは生きていけないんですけどね。ふだんの生活のなかで、やりたいことだけやるわけにもいかないし。でも、ライブのときだけは踊りたいから踊って、歌いから歌って、好きにしてほしいんですよね。とか言いながら、この前のライブで前のほうの3人を立たせてオタ芸をやらせちゃったんですけど(笑)。
――(笑)。アルバムリリース後のツアーでは、どんなことをやろうと思ってますか?
夜空に機関車を走らせたいんですよね。チャリで飛ぶのでもいいです、『E.T.』みたいに。
――それ、アリーナじゃないとムリですね……。
そうなんですよ。爆発とか滝修行もやってみたいんですけど、それもアリーナじゃないと出来ないので。なので早く1万人規模のライブをやれるようになりたいです。武道館とかでライブができれば、Mステも目と鼻の先だと思うので。
――ライブで滝修行、ぜひ観たいです。ちなみに眉村さん、最近気になってる音楽はありますか?
私、イヤホンすら持ってないくらい、ぜんぜん音楽を聴いてなかったんですよ。でも、先週Spotifyを入れて。なのでいまは洋楽をたくさん聴いてます!

取材・文=森朋之 撮影=菊池貴裕

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