神田松之丞インタビュー 特別展『江
戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職
人の技と心に宿る-』音声ガイドによ
せて

2020年2月8日(土)より、江戸東京博物館で特別展『江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-』が開催される。日本の伝統美術における名工達を取り上げ、“ものづくり”という視点から、日本人の暮らしに光をあてる展覧会だ。
本展覧会の音声ガイドでナビゲーターをつとめるのは神田松之丞。いまや“日本一チケットが取れない”の説明も不要の人気講談師だ。2020年2月11日には、講談界の大名跡「神田伯山」を、六代として襲名することでも注目を浴びている。そんな松之丞に、ナレーション収録後の感想を聞いた。本展覧会の印象は? 江戸東京博物館の魅力とは?
逆にニッポンを感じる、バルディ伯爵目線
──音声ガイドの収録を通し、展覧会にどのような印象を持たれましたか?
バルディ伯爵が日本で買い集め、自国に持ち帰ったものが、今回初めてお披露目されるという展覧会なんですよね。その背景は、キャッチーだと思います。今でも外国の方が、芸者、富士山、忍者を好んだり、日本人とは少し違った感性でものを見ることがあります。バルディ伯爵も当時の外国の人の目線で、日本を如実に感じられるものを集めていたと思うんです。この展覧会では“外国人からみた日本”という視点で、逆にニッポンを感じられるのではないでしょうか。
──気になる作品はありましたか?
資料を見た限りですと、寺子屋のミニチュア玩具ですね。小っちゃくて可愛い。子どもも大人も海外の人も、見たら「わ!すげえな!」と思う面白さは、伝統芸能の太神楽に近いですね。言語を超えたところの遊び心や技術、職人の魂、それからこれを作ったのは面白い人なのだろうなあとか。職人にまで思いを馳せられる奥行きも感じます。
──音声ガイドでは、展覧会のナビゲーターという立ち位置のナレーションを担当されるそうですね。
ナレーションと、本当にほんのちょっとですが講談のさわりをやらせていただきました。
──音声ガイドだからこそ意識することはありますか?
主役はあくまで展示物。そこを邪魔しちゃいけない。邪魔せず、はっきりゆっくり、大きな声で。聞いてパッとわかる口調や、音の間を意識しますね。僕は寄席演芸で育ったので(前座時代に)下手なりに太鼓を打っていました。そこでは三味線が主役なんですよね。三味線をきれいに聴かせるために、太鼓をどう打つか。それと似ています。
──松之丞さんは、2019年の冬に開催された『新北斎展』(森アーツセンターギャラリー)でも、音声ガイドのナビゲーターをつとめておられました。作品の時代や世界に引き込まれるような力を感じました。
もともと講釈には、字を読めない人に物語を聞いていただく、介錯の面もありました。ですから展覧会の解説という仕事は、我々講釈師にぴったりだろうなという意識があったんです。川や橋でも「ここを舞台にこんな物語があったんですよ」と聞くと、何でもないと思っていた川が急に魅力的に見えたり、価値を感じられたりってあると思うんです。講談は、背景を伝える商売なのかなとも思ったり。
北斎の展覧会の時は、北斎の人となりや背景、人生と作品の変遷を紹介し、「これってまさに講談だな」と思いました。今回もバルディ伯爵の人となりを強調して、彼が愛した作品を紹介しても良かったんじゃないですかね。ダメ出しするわけではないのですが、バルディ伯爵という侍文化に興味をもった珍しい外国人に僕は興味が湧いたので(笑)。
──講談師として伝統芸能に携わる中で、松之丞さんが「伝統の職人技」を感じることやものはありますか?
この展覧会で紹介されるものって、決して貴重なものばかりではないんですよね。きっと、当時は普通に庶民が使っていた、大衆のモノだと思うんです。そこで私が「現代の職人の大衆芸能だ」と感じるのは、林家正楽師匠の紙切りです。
客席の方からお題をもらい、即興で切る。その時々の流行のリクエストも多いですから、たとえばピカチュウだとかラグビーワールドカップといった、世間の流行に敏感でないとけません。それを30秒とかで切って、バッと開いてみせた時に「おお!」と思わせないといけない。
<闇夜のカラス>なんてお題を出され、どう表現されるのかと思ったら、カラスがくちばしに提灯を咥えていたりもして。この即興性と事前準備、技術の高さ、完成度、加えてウィットとユーモア。正楽師匠の寄席紙切りには、さりげないなかに物凄い技術が組み込まれているなと。今一番、職人技を感じます。
江戸東京博物館の特別展だからこそ
──展示をご覧いただけるのは来年の2月8日からですが(※インタビュー時は2019年12月)、ナレーション資料の印象から、ご期待のほどをお聞かせください。身近な方にもおすすめできそうでしょうか。
江戸東京博物館が好きなので、すすめられるでしょうね。この博物館には、伝統芸能に関わるほとんどの方が行ったことがあると思うんです。微細な展示から、実寸大の日本橋など大きな展示も揃っています。初めて行く方は圧倒されるでしょうし、何度も行っていると、自分の知識が深まるほどに楽しめる。
その江戸東京博物館の特別展示ですから。選択する人を信じるってありますよね。僕、大学生の頃に、池袋の映画館文芸坐(現・新文芸坐)の支配人を信用していたんです。よく分からない映画も、この人が良いと言うなら間違いないだろうと、文芸坐で流れる映画はだいたい観ていました。同じように江戸東京博物館さんを信頼しています。そこでやる特別展示ならば、観る価値のあるものだろうと思っています。
──江戸東京博物館では、定期的に落語や講談の会も開かれていますね。
一度も行ったことのない方は、特別展示だけでなく、常設展もまわると楽しい時間を過ごせるでしょうし、できれば落語や講談をやっている日に行っていただけると、より江戸文化を身近に感じていただけるかもしれません。今の時代、インターネットでも調べれば色々出てきます。4Kや8Kなど映像でも、作品を非常に細かいところまで観ることができ、西洋画なら油絵具のひびまでだって映し出せてしまう。それでもやっぱり展覧会に足を運べば、生の力というものがありますから。
──2019年は、師匠の神田松鯉先生は重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、他の講釈師への注目度も上がりました。1年を振り返りいかがでしょうか。
もう、くたくたでしたね(苦笑)。しかしこれは持ち回りでくる役まわりだなとも思いました。自分の意志ではどうにもならない。今年は休むことを目標にしていましたが、手帳に書いた<休み>の文字は、だいたいカミさんが横棒で消して、仕事が入っていきました(笑)。それは僕がやらざるを得ない仕事であることが多く、仕方がないんです。振り返れば、過去最高の700席をやり、テレビやラジオにも出させていただき……。相当バタバタした1年でしたが、一生懸命にやってその分成果は出たかなと思っています。
──充実した良い1年を過ごされたようですね。
「講談って最近ちょっとテレビで流行ってるよね」と知ってくださる方が少しでも増え、このジャンルをメジャーにすることにプラスの活動ができたなら、いい年だったなと思います。美術館での音声ガイドも、これをきっかけに、一節聞いたけれど講談って面白そう、講談を聞いてみよう、さらに寄席にいって落語も聞いてみようと、興味を広げるきっかけになればという思いがあります。

神田松之丞が音声ガイドのナビゲーターをつとめる、江戸東京博物館 特別展『江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-』は、2020年2月8日(土)より開催される。

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