ハルカミライの何たるかを刻みつけ、
広大なメッセがライブハウスとなった

A CRATER 2019.12.8 幕張メッセ ホール1
「ファイト!!」は5回やったし、「Tough to be a hugh」は4回やった。橋本学(Vo/Gt)がステージを降りた回数は数えきれなかったし、ほとんど全部の曲で大合唱が起こった。ハルカミライがバンド史上最大規模のワンマンとして、幕張メッセ展示場ホール1で開催したワンマンライブ『A CRATER』は、8,888人を収容する広大なフロアをライブハウスに変える一夜だった。
ハルカミライ 撮影=MASANORI FUJIKAWA
360°囲んだオールスタンディングのフロアの真ん中に円形のステージがひとつ。壁には、“HARUKAMIRAI IS ALWAYS AT THE LIVEHOUSE”(ハルカミライはいつもライブハウスにいる)の文字が書かれた巨大なフラッグが掲げられていた。定刻、照明の光が激しく明滅するなか、SEにのせて、メンバーがステージに登場。橋本は、ソールドアウトのフロアのいちばん後ろまで視線を投げかけるように目を細めた。「っしゃー、やってきたぜ、幕張!」。力強い叫び声と共にライブのオープニングを飾ったのは、ハルカミライがTHE NINTH APOLLOに所属して初めて全国流通盤を出した始まりのアルバム『センスオブワンダー』のオープニングでもある「君にしか」と「カントリーロード」だった。爆音にのせて、早速フロアから湧きあがるシンガロング。初の幕張に立つ気負いなどまったく感じさせず、全身で感情を爆発させながら絶唱する橋本に目を奪われていると、いつの間にか、関大地(Gt)がステージを降り、フロアのお客さんにまみれて演奏していた。「ファイト!!」では、橋本が、相棒・須藤俊(Ba)の肩に身を預けて歌い、ノンストップでつないだ「俺達が呼んでいる」では、小松謙太(Dr)のツービートが勢いよく暴れ出す。序盤から容赦ないスピード感。必死で食らいついていかないと、ふるい落とされそうだ。
ハルカミライ 撮影=MASANORI FUJIKAWA
<僕ら世界の真ん中>という歌い出しに、いま、この場所にいる喜びがぶわりとこみ上げる「春のテーマ」のあと、「今日は声を枯らして帰ってください」と叫んだ橋本。続く、「俺よ勇敢に行け」でも、フロアからはウォーウォーと雄たけびのようなシンガロングが巻き起こったが、「ゆめにみえきし」まで歌い終えたところで、「言っとくけど、全然、(声が)届いてないからな! 大合唱ー!」と、橋本はさらにフロアを焚きつけていく。「みんな発表しちゃっていいかな? 4日前から小松と一緒に住み始めましたー」(須藤)といった肩の力の抜けたトークも挟みつつ、「幸せになろうよ」の途中では、お客さんをひとりステージにあげて、「小松カモン!」と言わせる場面も。そこから、「決めたセットリストどおりにやるのもアレだから、とりあえず、『ファイト!!』」という流れで、この日2回目の「ファイト!!」を披露し、さらに「Tough to be a Hugh」を2回連続でやってしまう流れは、とにかく痛快だった。ハルカミライのライブに予定調和なんて言葉は存在しない。
ハルカミライ 撮影=MASANORI FUJIKAWA
序盤の暴れ馬みたいな勢いから一転、会場の空気が変わったのは、幻のような恋をロマンチックに歌い上げた「星世界航行曲」、続けて披露された「ウルトラマリン」と「Mayday」からだろう。広大な宇宙や、悠久の時の流れに比べれば、いま自分の心の大部分を埋め尽くす狂おしい感情もちっぽけで儚いものかもしれない。そういう切なさ、弱さ、人間臭さを、体まるごとぶつけて表現する橋本のボーカルの訴求力がすさまじかった。会場を真っ赤に染めた渾身のバラード「ラブソング」の頃には、それまでダイブしたり、拳をあげたり、その演奏に身を委ねていた会場のお客さんは微動だにせず立ち尽くしていた。この日の幕張メッセには、スクリーンやレーザーのような派手な演出はなかったが、ただ、関、須藤、小松が鳴らす音と、橋本の歌さえあれば、それで十分だった。
ハルカミライ 撮影=MASANORI FUJIKAWA
中盤、橋本がお客さんに「大学生か?」と問いかけ、「いまはいっぱい迷惑かけよ。あとで親孝行しよう。うちの母ちゃん、今日どっかにいるんだけど、けっこうな親孝行じゃない?(笑)」という橋本の言葉に、会場は温かい拍手に包まれた。こんな場面があると、いつものライブハウスのようではあるけれど、やっぱりこの日の幕張はバンドにとって特別なのだと改めて思う。そこから、「世界を終わらせて」や「君と僕にしか出来ない事がある」へと、ハルカミライというバンドの泥臭い生き様、あるいは強い絆で結ばれたお客さんとの関係が浮き彫りになるような曲が続いた。橋本がギターを弾き、アドリブのような歌にのせて、“すげえやつなんて山ほどいる、羨ましいことも腐るほどある、それでも、全部を超える”というようなことを歌ってから届けた「それいけステアーズ」のあと、「パレード」では、「いつもライブハウスでやってる俺らを見てるやつ。いつもと違うなと思うかもしれないけど。これな、バンドが強くなっていくための挑戦なんだ!」と、ライブハウスを主戦場とするバンドが“アリーナ”に立つ意味をまっすぐな言葉で伝えるワンシーンも印象的だった。
ハルカミライ 撮影=MASANORI FUJIKAWA
終盤にかけては、パートシャッフルで「ファイト!!」を2回も披露するという自由すぎる遊び心でもフロアを湧かせると(ちなみに、1回目は小松がボーカル、関がドラム、橋本がベース、須藤がギター。2回目は小松がボーカルなのは変わらず、橋本がドラム、関がベース、須藤がギターだ)、「宇宙飛行士」から、いよいよクライマックスに向けて、曲とともに語られる言葉も熱を帯びていった。ラスト2曲。「アストロビスタ」では、「バンド組んでよかった、音楽好きでよかった」と、幕張のステージだからこその想いを爆発させると、「八王子のライブハウスに嫌っていうほど出て、この曲を歌った。朝まで打ち上げをやって、八王子が地元になった。俺たち、八王子のハルカミライだ!」と叫んで突入したラストソングは「ヨーロービル、朝」だった。その曲の、<また目が覚めれば 新しい今日に出会えた>という終わりのフレーズを、“新しい「お前」に出会える”に変えて歌うと、橋本は「明日からもやってやろうぜ! 俺たちがハルカミライだ!」と絶叫。その熱い締めくくりに、ふと、彼らがバンド名に「ハルカミライ」(=遥か未来)を掲げる意味を噛みしめたくなった。何があっても、ありのままの自分をあきらめずに走り続けるハルカミライは、私たちを「遥か未来」へ導く光そのものなのだ。
ハルカミライ 撮影=小杉歩
橋本のアコースティックギターの弾き語りによる「これさえあればいい」からはじまったアンコールは、本編以上に自由だった。1曲を終えて、「じゃあ、ばいばい!」とおもむろにステージを降りようとする橋本に、フロアから「えー!?」と猛抗議する声が湧くと、「ワンモアだって(笑)」とメンバーを呼び込む。お客さんから寄せ書きのフラッグを受け取り、橋本が姉の結婚式のときに作った曲と紹介した「みどり」、さらに、この日5度目(!)の「ファイト!!」を披露したところで、終演……かと思いきや、再びステージに戻るメンバー。「終電とかあるやつ帰っていいよ、これ趣味だから(笑)」と言いつつ、そこから、「俺達が呼んでいる」にはじまり、「Tough to be a Hugh」「フュージョン」「エース」など、かれこれアンコールを6回ぐらい繰り返し、「社長に、“もう終わろう”って言われた(笑)」ということで、最後に、バンド編成による「これさえあればいい」で、ライブを締めくくった。
せーの!の声を合図に、最後に会場に響き渡ったのは、大切なものを胸に歩き続けるというシンプルなメッセージだ。この曲を最後に届けた意味を深読みすることを許されるならば、願わくば、その“これさえあればいい”のひとつが、ハルカミライであれば、そんなバンドの想いもあったのかもしれない。

取材・文=秦理絵
ハルカミライ 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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