新春にほっこりと和む、仁左衛門と玉
三郎の黄金コンビのシネマ歌舞伎『廓
文章 吉田屋』

2020年1月3日(金)から、新作シネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』の上映が始まる。大阪を舞台に、艶やかな男女の恋を描いた上方歌舞伎の代表作で、演じるのは片岡仁左衛門と坂東玉三郎の黄金コンビだ。2009年4月に東京・歌舞伎座で上演された本作を映画館で上映するにあたり、主人公の藤屋伊左衛門を演じた片岡仁左衛門は映像制作にも参加。さらに松嶋屋のお家芸でもある本作への思いや、夕霧を演じた玉三郎のインタビューなど、シネマ歌舞伎ならではの貴重な特別映像も盛り込まれている。このほど東京都内で行われた記者懇談会で、仁左衛門が本作への思いを語った。
■父から受け継いだ「伊左衛門」。現代に合わせ仁左衛門らしさも
上方歌舞伎は京都・大阪で生まれたもので、江戸歌舞伎が「荒事」といわれる豪快でダイナミック、様式美を強調した演技を特徴とするのに対し、上方歌舞伎は「和事」と呼ばれる柔弱な色男の恋愛描写など、艶のある風情と演技を特徴とする。この『廓文章 吉田屋』は、放蕩の末に勘当された藤屋の若旦那伊左衛門と夕霧との恋物語という、上方歌舞伎の代表作。すっかり落ちぶれて紙衣(かみこ)を纏った伊左衛門が、病に伏しているという恋人・夕霧(坂東玉三郎)の身を案じて、大坂新町の吉田屋へやってくる。しかし夕霧が別の座敷に出ていると知り機嫌を損ね、戻ってきた夕霧につらく当たり痴話喧嘩を始めてしまうのである。若旦那、いわばボンボンの伊左衛門と、手を焼きながらも思いを寄せる夕霧、その二人を見守る吉田屋の女房おきさ(片岡秀太郎)や吉田屋喜左衛門(片岡我當)ら、登場人物の人情味にも心が和む物語だ。
この主人公伊左衛門を仁左衛門は「父(十三世片岡仁左衛門)からはボンボンらしさをしっかり出すように、と教わった。私は現代に合うように、さらに幼さや母性本能を刺激するかわいらしさを加えています」という。
(c)松竹
■今でも夢に見る父の舞台
この『廓文章 吉田屋』は松嶋屋の家芸でもあり、伊左衛門は十三世片岡仁左衛門の当たり役と言われている。その伊左衛門を、仁左衛門が初めて演じたのは1972年の巡業公演のときだった。
「初役の時は大変でした。家の大事な演目であり、当時の私は荒い役が多く、柔らかい役をやったことはなかった。稽古を始めると、動きが父でなく、そこに伊左衛門がいる。もうそれだけでプレッシャーがかかるんです。とにかくヘタクソで(笑)、もっとああしよう、こうしようと思うんだけれど、でもできない。逃げ出したかったですね。初舞台で花道に出るときに、父の姿に背中を押されて行ったことは覚えていますが、あとは何がどうだったか(笑)」と当時を振り返る。
以後仁左衛門は歌舞伎座では1976年6月の新橋演舞場を皮切りに14公演を務めている。1998年、十五代目襲名の演目でも『廓文章 吉田屋』を演じたが、その稽古期間中に「夢で父が客席から出てきて、あかんあかんあかん!と(笑)。残っている父の映像を時折見ると、振り手の流れなど線がほんとうに美しい。あれができたら名人になれますね」。
Ⓒ松竹
■「芸を学ぶ環境が似ている」。黄金コンビの由来を披露
シネマ歌舞伎は特別映像もまた見どころの一つだが、今回はインタビューに夕霧を演じ、長年共演してきた坂東玉三郎も登場する。そのインタビューで仁左衛門と玉三郎、それぞれが喧嘩をした思い出を語っているのが実に微笑ましい。「芝居のことで喧嘩というか、言い合いをしたのは、玉三郎さんと(十八世)勘三郎さんくらい。でも玉三郎さんは言い合っても翌日はけろっとしているんです。20代の頃ですからもう今から50年も前ですよ(笑)」と振り返る。
聞けば父・十三世仁左衛門と、玉三郎の父である十四世守田勘弥は非常に仲が良く「ある意味、玉三郎さんとは兄弟のように扱っていただいていた」という。また家ごとに芝居の教え方が違うが、仁左衛門と玉三郎、それぞれの父は教え方も似ており「だから私と彼(玉三郎)も育った環境が似ているためか、芝居をしていてもツーカーで行けるところがあったんです」とも。2人が「黄金コンビ」と言われるのもなるほど、うなずけるエピソードだ。
Ⓒ松竹
本作の編集には仁左衛門自身も関わっており、その際には「カットの長さや角度、見え方などを提案しました。また役者としてここを観てほしい、またはこの人のここをちゃんと見せたいといったところもお話しました」と語る。ある意味「すべてが見どころ」といえる新作シネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』。特別映像ともども、日本の伝統芸能を伝える思いやこだわりも感じられる。仁左衛門も「お正月にふさわしい作品」という本作、上方歌舞伎を目にする貴重な機会でもある。ぜひ足を運んでいただき、ほっこりと和ましい、日本の正月を感じてみてはいかがだろう。
(c)松竹

■ヘアメイク:佐藤健行(Happ's.)
■スタイリスト:DAN
■衣裳:すべてDUNHILL お問い合わせ先:03-4335-1755
■文・取材:西原朋未来

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