雨のパレード福永浩平の漫画deトラン
ス vol.2『ピンポン』

自分の才能と向き合う物語『ピンポン』

こんにちは、雨のパレードのボーカル、福永浩平(ふくながこうへい)です。

前回の「雨のパレード福永浩平の漫画deトランス vol.1『鬼滅の刃』」に引き続き、今回も大好きな漫画を熱く語らせていただきます!
今回紹介するのは、映画化やアニメ化でも有名な『ピンポン』。幼い頃から「タムラ卓球場」という街の卓球場で一緒に卓球をやってきた「ペコ」こと星野裕(ほしの・ゆたか)と「スマイル」こと月本誠(つきもと・まこと)という2人の少年を軸にした物語です。

あらすじ 月本(通称・スマイル)と星野(通称・ペコ)とは幼馴染み。小学生時代に駅前の卓球場タムラでラケットを握っていた頃からの仲だ。天才肌の星野はいつも好き勝手やり放題。今日も部活をさぼっていた。先輩たちに「星野を部活に連れてこい」と命令される月本だったが…。 (小学館eコミックストアより引用)

作者は『鉄コン筋クリート』『青い春』『日本の兄弟』『ナンバーファイブ 吾』などの松本大洋(まつもと・たいよう)さん。僕、松本大洋さんの大ファンなんです! 2014年に渋谷のタワレコで開催された『ピンポン展』や2018年に南青山のTOBICHI2で開催された『松本大洋原画展とライブペインティングの5日間』など、時間があればイベントにも足を運んでいるくらい。
特に、原画展のことは強烈に記憶に残っていて。「松本大洋の世界に存在してほしい写真」を事前に1枚送り、選ばれると、松本大洋さんが会場の壁にその写真の絵を描いてくれるという企画があったんですよ。しかも20人くらいしか入れない小さい会場だったから、超至近距離で。初めてのナマ松本大洋さん……緊張しました。楽しみすぎてめっちゃくちゃ早く会場に行ったのを覚えています。画集、Tシャツ、ステッカーなどなどグッズも買いまくりました。帰り際に一言だけ挨拶したら、松本さん、返してくれて。あれは嬉しかったなあ……。

松本大洋さんのどこがそんなに好きなのか、改めて考えてみたんですが、「日常会話に命を感じるところ」だと思いました。

たとえば、ジブリ作品はごはんを食べるシーンがとても印象的ですよね。食事にリアリティを持たせることで視聴者を作品世界に引き込む、これが宮崎駿さんのこだわりだと聞いたことがあります。同じように、松本大洋さんの作品は日常会話のリアリティがすごくて、そのキャラクターの背景をしっかり感じさせる会話になっているんです。それゆえに読者はストーリーに入り込んでしまう。セリフのリアリティ、人間の心情や行動の描き方が本当にうまいんです。

そんな松本大洋作品のなかでも『ピンポン』は完璧な漫画。僕は、この漫画は自分の才能に向き合うキャラクターたちの物語だと思っています。

『ピンポン』との出会い

『ピンポン』を知ったのは、たしか小学生の時。ちょうど窪塚洋介さんと井浦新さん(当時はARATA)主演で実写映画化された頃でした。その数年後に原作者である松本大洋さんの漫画『鉄コン筋クリート』と出会い本格的にハマっていくんですが、『ピンポン』はあえてしばらく読まずに置いておいたんです。読んだのは、アニメ化が決まってからでした。

いや〜〜〜〜〜〜〜神漫画でしたね〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

すでに完結している作品ということもあり、今回はネタバレを避けずに語っていきます。

絶妙すぎる構成、セリフの素晴らしさ

もうね、登場するキャラクターの一人ひとりが本当に愛おしいんです。そして物語の作り方がめちゃくちゃうまい!!

たとえば、第8話から第11話までは、スマイルとバタフライジョー(小泉丈)の「試合」が描かれます。バタフライジョーというのはかつての呼び名で、現在は62歳(アニメ版では72歳)になった卓球部の顧問の先生のこと。なぜこの2人が試合をしているかというと、バタフライジョーはスマイルの才能に気付き、彼のコーチを名乗り出るんですよね。でもスマイルは強くなることに興味がない。突然熱血になった老人をうっとおしいとすら感じている。それでも小泉はスマイルの才能を引き出したい。そこで小泉がスマイルに試合を申し込むんです。

小泉「もしも、君が勝ったら私は君から手を引くよ。今後一切、干渉しない事を約束する」 スマイル「僕が負けたら?」 小泉「私の犬になってくれ。ワンワンワン。絶対服従してもらう」 (第8話「若者たち」)

本気になったバタフライジョーに最初は苦戦するも、やはり相手は老人。最後はスマイルが勝つわけですが、その時にスマイルはペコに向かって、

スマイル「僕、先に行くよ、ペコ」

そう、言うんです。

これ、単に部活の練習を終えて家に帰る際のセリフのようにさらっと描かれているんですけど、実は終盤にこのセリフと対になるシーンがあって。それが第52話の終わり。最後の戦いに向かうペコとスマイルのシーンなんですよね。

スマイル「遅いよ、ペコ」 ペコ「へへ…そう言ってくれるな。これでもすっ飛ばしてやって来たんよ」 (第52話「PM3:30~4:00」)

「僕、先に行くよ」のシーンから、スマイルとペコは別々のストーリーを生き始めます。スマイルは卓球の才能を一気に開花させ注目の存在になり、一方でペコは、その真逆の道を辿り、遠回りしながら、もう一度卓球の道を目指します。そしてようやくここで再会する。

スマイルは、自分のヒーローであるペコをずっと待ち続けていたんですね。強かったペコを、みんなの憧れであったペコを。

この8話と52話のセリフのつながり、こういう物語の構成とセリフの作り方が本当にめちゃくちゃうまい。「先に行くよ」と「すっ飛ばしてやって来た」の間には44話分の物語があり、その濃密さを知っているからこそ、僕たち読者はここで感動するんです!!!

福永的推しキャラ:アクマ(佐久間学)

さて、『ピンポン』はペコとスマイルを軸にして進んでいく物語ですが、僕がいちばん推したいのは実は主人公の2人ではなく、「アクマ」というニックネームで呼ばれるもうひとりの幼馴染、佐久間学(さくま・まなぶ)です。
自分の才能と向き合うこの物語において、ペコとスマイルだけでなく、中国からの留学生であるコン・ウェンガ(孔文革:チャイナ)や、王者・海王高校の部長であるドラゴン(風間竜一)など、みんなそれぞれ才能があり、その才能とどう付き合うか葛藤します。でも、アクマには才能がないんです。

アクマは少年の頃から、ずっと卓球のことだけを考えて生きてきました。名門・海王高校に入学し、顧問に入部を反対されても人の何倍も努力することでレギュラーの座をつかみます。「十やれと命ずれば百でも千でも続ける男」と認められるくらい努力する人間なんです。

そんなアクマが、最初のインターハイ予選でペコに勝つ。それなのに、アクマが目標にしていたドラゴンは自分を認めてくれないどころか、他校のスマイルばかり気にしている。だから彼はスマイルに対外試合を挑みます。でもスマイルはバタフライジョーの特訓を受けて才能が開花した後で、アクマは手も足も出ない。「何処で間違えた?」「一体、何に躓いた?」と自分のこれまでの人生を振り返り葛藤しながら、アクマは圧倒的な差をつけられて敗北してしまいます。

「卓球の事だけを考えて・・・卓球に全てを捧げてきたよ、なのにっ・・・」とアクマが言葉にしたことに対して、スマイルが「それはアクマに卓球の才能がないからだよ。」と言い放つシーンは強烈です。才能のなさを突きつけられた彼はその事実を受け入れるんですね。そしてペコの再生にとってもっとも重要な役割を担うようになります。

『ピンポン』は名言を選ぶのが非常に難しい漫画で、その原因のひとつが、主役ではないアクマが名言を量産しちゃってるところだと思うんです。たとえば、第26話の「何処見て歩きゃ、褒めてくれんだよ」なんかは、本当に最高のセリフだと思います。先ほど話した、スマイルとの対外試合からの帰り道、通りすがりのおじさんと肩がぶつかり「何処見て歩いてんだよ」と言われた瞬間、相手に殴りかかりながらアクマが吐いたセリフです。その場での怒りだけではなく、努力をしても報われなかった自分への葛藤がこの短い言葉には詰まっています。

雨のパレード福永浩平の漫画deトランス vol.2『ピンポン』はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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